気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

閑話 女子力

「突然ですが、クロエさん。ポーズとってください」

 我が家へ遊びに来たチヅルちゃんが、唐突にそんな事を言った。

「え、うん」

 私は咄嗟にガチーンとポーズを取る。

「どう?」
「クロエさん……。普通の女の子は、ポーズをお願いした時にS字立ちなんてしません」

 S字立ち。
 主に巨大ロボットなどが取るカッコイイ立ち姿の事である。

「女の子というより、人妻だもん」
「人妻だってしませんよ。むしろ人妻の方がしませんよ」

 チヅルちゃんは、一つ「ふむ」と唸る。

「クロエさんには、あまり女子力が無さそうですね」
「女子力? あるよ、それくらい」

 グッと拳を握りしめて、ムキッと二の腕をアピールする。

「ほら」
「それは女子力じゃなくて、ただの力です」
「力は力だ。そこに種類なんてない。まして善悪の区別など……」
「私が言っているのはそんな大層なものじゃなくて、女子力です」

 うーん。
 誤魔化す事はできそうにない。
 いかんな、私の女子力の無さが露呈してしまった。

「女子力なんてなくてもいいよ」

 どうせみんな女子じゃなくなる。

「そうでもないですよ。女子力を磨いていれば、異世界転生した時に役立ちます」
「そう?」
「そうですよ。手作り化粧品やらお菓子やらを作る知識があれば、大もうけだってできたかもしれませんよ」

 異世界転生の定番だな。

「私だって物は作ったよ」
「それって、すぐに脱げる服ぐらいじゃないですか」

 その言い方は何かエッチだな。
 そう思うのは私だけ?

「そ、そうだけど。じゃあ、チヅルちゃんはどうなのさ?」
「私ですか? お小遣いを全てゲームに投資していた私に女子力が宿るわけないでしょ!」
「イエーイ!」

 私はチヅルちゃんとハイタッチした。
 心の友よ!

「で、どうしてそんな事を言い出したの?」
「いえ、エミユから女らしさについて訊かれまして。後輩から頼られたらなんとかしてあげたいじゃないですか」

 エミユちゃんから?
 彼女がそんな事を気にするとは思わなかった。

「好きな人でもできたの?」
「あまりにも貴族の令嬢らしからぬ様子に、イノスさんから注意されたそうです」
「ああ、そうなんだ」

 まぁ、そうかもしれない。
 貴族の子女として、いずれは誰かに嫁ぐ事もあるだろう。
 ルクスの所は一人娘だし、家を継がせるためにも特に必要だ。
 確かにエミユちゃんを今のままにしておくわけにはいかないか。

「訊かれたはいいんですけど、私も女子力なんてものがありませんからね。他に女子力がありそうな人に訊こうと思いまして」
「それで私に? 女子力がありそうだと思ってくれたんだね……」
「いえ、全然そんな物はないと思っていたんですが、言えば力になってくれそうな気がして」
「こいつぅ」

 素直すぎるぞっ。

「てへ」

 照れ笑いするチヅルちゃんの頬っぺたを私はつついた。

「女子力かぁ。そうだね。私にはないけど、確かにありそうな人は何人か知ってる」

 身近なところではアードラー。
 彼女は私の知る中で一番お洒落だ。
 元々リオン王子の婚約者だった事もあって、貴族子女としての教養や作法などを高いレベルで習得している。

 少なくとも、外面は誰よりも淑女然としている。
 中身はどちらかと言うと萌えキャラだけど。
 あ、女子力の話ならそっちの方がいいのか。

 あとはマリノーかな。
 アードラーとは対照的に、彼女は内面の女子力が高い。
 料理という女らしさの定番みたいな得意分野がある。
 あと、愛情が強い……。

「今度、エミユちゃんをここに呼びなよ。心当たりに声をかけとくから」
「はい。お願いします」

 こうして、女子力向上委員会の開催が決定した。



 チヅルちゃんが帰った後。
 なんとなく、たまたま家にいたアルディリアとヤタに声をかけた。

「ねぇ、二人共ポーズとって」
「え?」
「あ、はい」

 アルディリアとヤタはポーズを取った。

 アルディリアは右手を胸に、左手を腰の辺りへ投げ出すようなポーズ。
 ヤタは両拳で小さくガッツポーズをとって小首を傾げた。

 二人共、女子力が高い……。

 ヤタ。
 これが次代を担うビッテンフェルトの娘か……。
 ある種、私を超えた存在と言えるだろう。

 いや、真に恐るべきは我がビッテンフェルトの血に、戦闘力のみならず女子力まで加えたこのアルディリアという男の方か。

 どちらであれ、我がビッテンフェルト家は代を経るごとにその力を増していくのだ。

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