気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

復讐者編 十七話 赤い閃光

 空から行方不明者を探し、地面へ降り立った時だった。

 私へ向けて、どこからともなく火球が放たれた。
 私は腕を振ってそれを叩き潰す。

 火球の飛んできた方向へ振り返る。
 すると、一人の少年が私へ向けて殴りかかって来ていた。

 その少年の髪の色は赤だ。

 グリフォン!

 彼は、カナリオとリオン王子の息子。
 グリフォンだ。

 拳をいなすと、私の後ろへ彼は着地した。
 グリフォンは着地してすぐさま振り返り、殴りかかってくる。

 放たれる拳を避ける。
 私の回避動作と同時に、背後から攻撃の気配がした。

 振り返ると、拳が目前に迫っていた。
 スウェーで避ける。

 相手を見ると、金髪碧眼の少年……。
 アクイラ王女……リーオーだ。

 見つけた。

 横移動して、二人に挟まれた位置から脱する。

 と、同時に二人とは別の位置から火球が放たれた。
 振り返り様の裏拳で火球を叩き潰す。

 見ると、そこにはキャナリィちゃんがいた。

 彼らは、三角形のフォーメーションで私を囲んでいた。

「お前は奴らの仲間だな」

 グリフォンくんが私に言う。

「違う」
「嘘を吐くな。僕は、黒い鎧の奴が国衛院の隊員を襲っていた所を見たんだ!」

 否定するが、リーオーが叫ぶ。

「こいつはちょっとキレやすいからこう言っているだけだが……。まぁどっちだろうが、疑わしい。間違いだったら悪いが、今の状況じゃああまり危険は冒したくないんでな。話はあんたをぶっとばして、そのマスクを剥ぎ取ってから聞かせてもらうぜ。それでも問題ないだろ?」

 グリフォンくんがリーオーに代わって続けた。

 仕方ないなぁ……。

「そちらがそのつもりなら、私も同じく叩きのめしてから話をするとしよう」

 お話、聞いてほしいだけなの。

「やれるかな?」

 グリフォンの言葉と同時に、三人が構えを取る。

「俺達は強いぜ?」

 知ってるよ。

 三人が、私への攻撃を開始した。

 リーオーはよくわからないけれど、この双子の強さは重々承知している。
 何せあの主人公《カナリオ》の血を引く半神的存在だ。
 ゲーム的に主人公だという事もあって、実際強い。

 例によって天才だ。
 将来的には、カナリオと同程度の強さになりそうだと私は思っている。

 でも、まだ未熟だ。
 一対一なら絶対に負けない。

 ただ、双子と同時に戦う場合は状況が変わってくる。
 下手をすれば、負ける事もあるだろう。

 この強化装甲の力があれば、負ける事などないとは思うけどね。
 でも、戦略的な話をすれば相手が私の力量を測りかねている今、速攻で無力化するべきだろう。

 グリフォンのジャブが私の顔を狙う。
 そのジャブを右手の平で受け止めた。

 まさか受け止められると思わなかったのか、表情が驚愕に染まる。
 そのまま手首を上向けに強く曲げる。

「ぐっ」

 その痛みから逃れるために、グリフォンくんは膝を折る。

 そんな私の背後から、リーオーが殴りかかってくる。
 ボクシングスタイルからのストレート。
 スウェー回避からの前蹴りを返す。

 蹴りはリーオーの右膝に当たり、体が前のめりになった。
 そうしてバランスが崩れた所で、左足を払って転倒させた。

「あっ」

 悲鳴を上げる。
 もろに女の子の声ですがな。

 恐れ多いが、倒れた所に背中を踏みつけて動きを封じた。

 キャナリィちゃんを見ると両手の平の間に火球を作り、その火球に力を集めているようだった。
 最大威力で放とうとしていたんだろう。

 でもさーせーないっ。
 チャージなどさせるものか。

 左手から魔力縄《クロエクロー》を射出し、キャナリィちゃんの腕に巻きつけた。

「きゃっ!」

 強く引くと、火球が手から零れ落ちた。
 地面に当たって燃え上がる。

 キャナリィちゃんをそのままこちらへ引き寄せると、その首に腕を回して動きを封じた。

 はい。
 状況終了。

「私の勝ちだ。話を聞いてもらおうか」
「おのれ……」

 リーオーくんが悔しそうに呻く。
 健気にも、脱出を試みようと足掻いている。
 ちょっとだけ強く踏みつけて動きを封じる。
 それでもまだ抵抗は続けているけど……。

「おとなしくしろ。どうやら、本当に敵じゃなさそうだ。こいつが敵だったら、俺達はとうに殺されている」

 グリフォンくんが言うと、リーオーは抵抗を止めた。

「……わかったよ」

 よし、これでアクイラ王女の件は完了だ。

 そう思い、一安心した時だった。

 濃い殺気がぶつけられた。
 その殺気はあまりにも強く、思わず三人を解放して飛び退くほどだった。

 すぐにでも、両手足をフリーにしなくてはならない。
 そうしなければ対応できない、そう咄嗟に思ってしまった。

 殺気を受けた方向を見ると、何かがこちらへ飛来していた。

 そう、飛来だ。

 赤い閃光……。
 形容するなら、その言葉が合うだろう。

 恐ろしく速い何かがこちらへ向けて、放たれていた。

 防御に上げた腕へ、痛みと骨が軋むほどの衝撃が走る。

 その時に、赤い閃光の正体を知る。
 赤は髪の色だ。

 カナリオだった。

 彼女が私へ飛び掛り、拳を放ったのだ。

 攻撃を防いだ私だったが、その威力は私を数メートル後ろへ退かせた。
 足元に魔力のスパイクを形成しても、足が石畳を滑るのをすぐに止められなかった。

 見ると、カナリオは三人の子供達の前に立ち塞がり、私へ向けて構えを取っていた。
 その後ろを見ると、リオン王子が子供達のそばへ駆け寄っているのが見える。

 王都に来ていたんだね。
 カナリオ……。
 リオン王子……。

「何がどうなっているのか、私にはよくわからない。けれど、あなたがこの子達を害するのなら……。私は、全力であなたを排除する」

 カナリオは言うと、どこからともなく取り出した天虎のマスクを被った。

「ガーッ!」

 一吠えし、構えを取った。

 誤解なんだけどな……。

 でも、本気で殴りあえる機会なんてそうそうない。

「いいだろう。かかってこい。お前の持てる全てを出してかかってこい」

 私は半身に構え、ステップを踏む。
 鼻を親指で弾き、手の平をクイクイと曲げて手招きした。

 正直、どうせならこの強化装甲を脱いで戦い所だけれど……。
 まだ、私にはやる事が残っているからね。

 何を使ってでも、勝たせてもらうよ。

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