気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

復讐者編 六話 実動試験

 黒の貴公子を装着した私は、魔法研究所を出た。
 今の私は、装着式高速機動装甲は足に装着している。

 軽いとは言ってもバイクなので、体に装着すれば重いと思っていたのだが……。
 違和感がない。

 これはバイクが軽いから、というだけじゃないだろう。
 強化装甲に内蔵された無色性柔軟繊維の効果に違いない。

 変形機構に無糸服の技術が応用されているらしく、装着式高速機動装甲の可動域も広い。
 そのため、動きを阻害される事もない。

 そして……。

 魔力を流すと、両足の横についたタイヤが下りて接地する。
 タイヤが回転を始めた。

 ギュイーンと(心の中で効果音を追加しながら)タイヤの駆動で移動する。

 これはすごい。
 全自動のローラースケートみたいだ。
 高速でターンしてみたり、その場で回転してみたり、いろいろと試してみる。

 こ、これは楽しい……!
 ターンピックが冴え渡る!
 むせる!

「「楽しんでいるようですね」」

 耳元にチヅルちゃんの声が聞こえて来た。
 今の声は、無線によるものだ。
 チヅルちゃんと先輩は研究室から私をモニターしており、無線でやりとりする事で私を支援してくれる予定だ。

「超楽しいよ」
「「それはいいんですが。モニター越しに見ると、景色がぐるぐる回って気持ち悪いです」」
「ごめん。もうやめるよ」
「「魔力の無駄遣いにもなるので、その事も念頭においてください」」

 タイヤを戻す。

「「クロエさん。さっきも話した通り、今からあなたには国衛院に向かってもらいます」」

 ムルシエラ先輩の声が言う。

「はい。情報収集と開放が目的ですね」

 メインの目的は、国衛院本部にいる相手の動きを探る事。
 しかし、場合によってはすでに相手がいない可能性もある。

 何せ、彼らの目的はアールネスにビッテンフェルトの恐怖を振り撒く事らしいから。
 ビッテンフェルトの恐怖とは、タイプビッテンフェルトの事を指すのだろう。
 なら、あの後の彼らは王都中に人員を散らばらせた可能性が高い。

 その場合は、単身で国衛院を解放する予定だ。

 私の最終目的は、タイプビッテンフェルト三十着全ての破壊、もしくは回収である。

 国衛院の解放はその足がかりだ。
 国衛院の機能が回復すれば、暴徒とサハスラータの影達によって混沌と化した王都の治安を整える一助となるだろう。

 王都のためにも、国衛院を解放する事は最優先で行なうべきなのだ。

「「その前にクロエさん。試してみて欲しい事があるんですが」」

 チヅルちゃんが言う。

「何?」
「「近くに二階建ての家屋がありますよね」」
「あるよ」
「「地上からジャンプして、屋根の上に乗れるか試してみてください」」
「ええ!?」

 流石にそれは無理だよ。
 これくらいの高さを一気に飛び乗るなんて事はできない。

「そんな非常識な! こんなの一回壁蹴りしなきゃ登れないよ」
「「いえ、壁蹴りで登れる事がそもそも非常識です」」
「チヅルちゃんもできるでしょう?」
「「信頼は嬉しいですが、できませんよ」」

 きっぱりと言い切られてしまった。

 ヤタは出来るんだけどな……。

「「私はヤタじゃありませんよ」」

 うお、チヅルちゃんにまで心を読まれた!?
 チヅルちゃん……最近ムルシエラ先輩と一緒に居すぎて似てきたんじゃないかな?

「「とにかく、試してみてください」」
「わかった」

 流石に無理だよ、と思いつつ返事をする。

 家屋に向き直る。
 でも、勢いをつけてジャンプして高さが足りなければ壁に激突してしまう。
 激突するだけならまだいいが、そのまま壁を突き破ってしまうかもしれない。
 それは家の人に申し訳ない。

 なので、とりあえず様子見で垂直跳びしてみる。

 ……余裕で屋根の上まで跳べた。

 そのまま、魔力縄《クロエクロー》を屋根へ引っ掛けて引き、屋根の上へ乗る。

「これは……」

 想像以上だ。
 この強化装甲は本当にすごい。

「できたよ」
「「ええ。確認しました。計算よりも高い跳躍ができたようです。じゃあ、次は高速機動装甲をバイク形態にして運転してみてください。国衛院まで、それで移動しましょう」」
「おっけー」

 私は屋根の上から地面へ降りる。
 魔力で操作すると、装甲が一度いくつかのパーツに別れ、合体してバイク形態に変形した。
 肩パッドみたいな部分のサイドから、埋め込まれていたハンドルが出てくる。
 シートに跨り、ハンドルを回す。

 バイクが走り出す。
 ガソリンで動くエンジンと違って、魔動エンジンはとても静かだ。

 それでもスピードは申し分ない。
 馬よりも速いんじゃないだろうか?

 馬より、ずっとはやい!!

 私を乗せた高速機動装甲が、夜の王都を疾駆する。
 その夜気が頬に当たって気持ちいい。

 ふと、途中で一人の女性を囲む十人以上のチンピラ達の姿を確認した。
 女性は首筋にナイフを突きつけられ、震えていた。

 私はバイクに魔力を流し、形態変化を促す。
 一度二つに分かれた高速機動装甲が、さらにいくつかのパーツに別れ、無糸服と同じ原理で私の肩に装着される。
 装着された装甲は、私の肩と腕を守るプレートになった。

 バイクの勢いをそのままに飛び込み、魔力縄《クロエクロー》で女性に突きつけられたナイフを捉えた。
 引いてナイフを取り上げると、ナイフを持っていたチンピラへ跳び蹴りをかました。

 予想以上に力が入ったらしく、チンピラが勢い良く吹っ飛んで地面を転がった。

 女性を庇うように立つ。

「何だてめぇは?」

 他のチンピラ達が私に目を向ける。

「私はお前達に恐怖をもたらす漆黒の闇だ」

 チンピラ達に言う。

「「ぶふ、厨二っぽい」」

 チヅルちゃんの声。
 うるさい、笑うな。

「なんだこの声? 人間なのか?」

 実感は湧かないけれど、声が変わってるんだっけ。

「かまわねぇ! やっちまえ!」

 チンピラ達が襲い掛かってくる。

 殴りかかってきた相手の腕を掴む。

「ぎゃーっ!」

 まだ何もしていないのにその男が悲鳴を上げた。

「あれ?」
「「腕が握折れたんですよ」」

 チヅルちゃんに言われて見ると、確かに掴んだ腕が変なありえない角度に曲がっていた。

 ちょっと掴んだだけなのに……。

 思った以上に、力加減が難しいらしいな。
 さっき蹴り飛ばした相手は大丈夫だろうか?
 あとで調べておこう。

 私は握り潰した腕に白色をかけて、相手を殴り飛ばした。

 襲い掛かってくる相手に、攻撃が強くなりすぎないよう手加減しながら応戦していく。

「何て奴だ! 動きが速すぎて見えねぇ!」

 チンピラが叫ぶ。

 そうかなぁ?
 ちょっと動きにくくて辟易してるんだけど……。

 一人を残して、全員を地に伏せる。

「ひ、ひぃ! 来るな! 来るなぁ! バケモノッ!」

 残った一人は腰を抜かし、後ろ向きに這うようにして私から距離を取る。
 そんなチンピラの所まで歩いていく。
 襟首を両腕で掴んだ。

「夜が来るたびに思い出せ。夜の漆黒は、いつもお前達を見ているぞ……!」

 睨み付けて至近距離で凄むと、チンピラは怯えあがった。
 そんな彼の鼻っ柱に、頭突きをかました。
 チンピラが気を失う。

 さて、本来ならば関節を外して国衛院を呼ぶ所なんだけど……。
 今は意味がないな。
 むしろ、さらに敵を呼ぶ事になるかもしれない。

 振り返る。
 すると、壁にもたれかかり、怯えている女性の姿があった。

「この夜は物騒だ。気をつけなさい」
「は、はい。ありがとうございます」

 女性はお礼を言いながら、その場を去って行った。

「「クロエさん。案外ノリノリで役に入ってますよね」」

 チヅルちゃんが言う。

「素性がばれないと思うと、普段言えないような事もすんなり言えるもんだよ」
「「私達がその素性を知っているわけですが」」

 それもそうだ……。
 意識すると恥ずかしいな。

「「で、実戦はどうでした? 何か不具合などはありませんでしたか?」」

 先輩の声が訊ねてくる。

「力の加減が難しいですね。あと、ちょっと動き難《にく》い感じがします」

 多分、動作補助が働くからだろう。
 動きを阻害される感覚がある。

「その「黒の貴公子」にも、ビッテンフェルト流闘技の動作補助機能がついています。
 一応、クロエさんの動きを参照して作ったつもりだったのですが、実際のものと差異があったようです。
 でも、その差異も術式が修正するはず。
最初は動き難《にく》いかもしれませんが、着続けていれば強化装甲がクロエさんの動きを覚えて最適化し、生身ではできないような動きができるようになるでしょう」

 実戦を繰り返せば、だんだんと扱いやすくなるって事だね。

 なら、数をこなすしかないか。

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