気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

虎と虎編 十一話 潜入

 夜になって、私と先生は軍の兵舎へ向かう事にした。
 アルディリアとダストン将軍から話を聞くためだ。

 ルクスは国衛院に戻っている。
 さらに調査を続けてくれるそうだ。

 昼間の兵舎には兵士が大量に詰めている。
 けれど夜ならば、夜勤の軍人以外は帰っている事だろう。
 しかも、今は先生を探す事に兵を割いている可能性もある。

 そんな軍の兵舎なら、私と先生二人が忍び込む事は不可能じゃない。

 そして、その予想は的中した。

 あまり人がいない。
 これなら、何とかなりそうだ。

 軍の敷地内には、見張りのための物見やぐらが三つあった。
 私はその内の一つに一人で立っていた。
 足元には、見張りの兵士が二人倒れている。

 先生は別のやぐらで、同じように見張りを倒している事だろう。

 私はやぐらの一つを見る。
 互いに終わったら、そこで合流する予定なのだ。

 眺めていて、ふと思いつく。

 少し距離は遠いが……。
 届くだろうか?

 そう思いながら、最後のやぐらへ魔力縄《クロエクロー》を伸ばす。

 なんとか引っ掛かった。
 魔力縄を引き戻し、その力でやぐらへ向けて空中を加速する。

「おい、何だ! あれは!」

 兵士が私を見つけて叫んだのが聞こえた。

 やべぇ!

 そう思いつつ、叫んだ兵士へと引き戻しの勢いを利用した飛び蹴りをぶつける。
 もう一人いた見張りの兵士に組み付き、首を締め上げた。

 二人共、それで昏倒する。

 声を聞きつけて見つかったんじゃないだろうか?
 と不安に思っていたが、兵士達が集まってくる様子はなかった。
 聞かれなかったようだ。

 そこで少し待っていると、先生がはしごでやぐらへ上がってきた。

「早いな」
「ええ。ちょっとショートカットしたので」

 危なかったけど。

 横着はするものじゃないね。

 物見やぐらを無力化し、私と先生は兵舎の屋根へ移動した。
 これにも魔力縄を活用する。
 その後、屋根伝いにアルディリアの部屋まで向かった。

「この下です」

 言って、私は壁に張り付く。
 部屋の中をうかがった。

「誰もいません」

 できれば、ここでアルディリアに直接会いたかったが……。

「どうしましょう?」
「そうだなぁ……」
「いっそ、このまま忍び込んで、中から探しますか?」
「そうするか」

 先生が提案を聞き入れてくれて、私達は中から二人を探す事にする。

 万能ソナーで調べると一発でバレるので使えない。
 中へ侵入し、二人を探すには勘を含めた六感に頼るほかないだろう。

 私達は、兵舎の中から二人を探す。
 幸いだったのは、兵士の数が外と同様に少なかった事だ。

 おかげでスムーズに探索する事ができた。

 そして、ある部屋の前。

「まだ見つからないのか? 国衛院というものは、存外に使えないものだな」
「申し訳ありません。ダストン将軍」

 男性と女性の声だ。
 男性が怒鳴り、女性が謝っているようだった。

 ダストン将軍?
 それに、今の女性の声には聞き覚えがある。

「まぁまぁ、見つけられないのは軍も同じですから」

 また別の声が言う。
 こちらも聞いた事のある声だ。

 というより、これはアルディリアだろう。

「貴様が情報を流して、逃がしているのではないか? 奴は貴様の妻と共に逃げているようだからな」
「そのような事はしません」
「ふん。どうだかな」

 私は先生を見た。
 頷き合う。

 扉を開いて中へ踏み入った。

 部屋にいた三人が、一斉に私達の方を見る。

 最初に目についたのはアルディリアと太った男。
 この信じられないくらいに太った男が、ダストン将軍だろうか。
 軍人とは思えない身体つきだ。

 こんなのが戦場にいたら、悪目立ちして的にされそうである。
 そして、最後の一人。
 それはイノス先輩だった。

 アルディリアは栗色の軍服を着ていた。
 イノス先輩は国衛院の制服姿で、右手には杖を持っている。

「な、何だ! お前は! ……ティ、ティグリス!」
「ダストン……!」

 よほど恐ろしかったのか。
 先生が睨みつけると、ダストン将軍は怯えて顔を青ざめさせた。

「ひぃっ!」

 そんなダストン将軍を庇うように、アルディリアとイノス先輩が立ち塞がった。

「まさか、こんな所まで来るとは思わなかったよ」

 アルディリアが呆れたように言う。

「どうしても、話を聞きたかったんだよ。アルディリアと、そしてそこのダストン将軍に」
「なるほど。そこまでは読みきれなかったよ」

 アルディリアは呟くような声で言った。

「それに、先輩……」

 私はイノス先輩を見る。

 丁度いい。
 彼女からも、話を聞くべきだろう。

 けれど、彼女は何も答えなかった。
 代わりに、先輩はダストン将軍へ言葉をかける。

「ここは私達で対処します。将軍はお逃げください」
「わ、わかった! ここで食い止めろよ! 必ず、必ずだ!」

 ダストン将軍は怒鳴るように告げると、そのまま別の扉から外へ出て行った。
 それを見送り、イノス先輩が口を開く。

「すみませんが。今、将軍をお二方へ渡すわけには参りませんので」
「どういう事?」
「……」

 先輩は黙り込む。
 答えるつもりはないという事か。

「だったら、全力全開でぶつかってお話聞かせてもらおうかな」

 ぶっとばしてから話を聞く。
 十九歳で少女と言い張る魔法少女方式だ。

「アルディリアもそれでいいのかな?」
「……そうだね。僕の口からは言えない。僕は軍人だ。国のためであるならば、全力を尽くさなくちゃならない」

 面と向かって言葉を交わせば、彼は答えてくれると思っていた。
 でも、その期待は甘かったらしい。

「だからと言って、家族と国を天秤にかける事はしないけどね」

 それは、どっちの意味?
 どちらかを選ばされるとなれば、アルディリアはどちらを選ぶの?

「アルディリア将軍」
「うん。ここまでだね」

 イノス先輩が言うと、アルディリアは返した。

「さて、僕達としては殺人犯が目の前にいる以上、黙って見過ごすわけにはいかない。だから、わかるね?」
「先生は犯人じゃない。捕まえさせるわけにはいかないよ。私だって、真相が明らかになるまで捕まるつもりは無い」
「大人しく、捕まってはくれないんだね」
「そう。そちらが言葉を尽くさないなら、ぶつかり合うしかない」

 私は構えを取る。

「それも仕方ないね。なら、強引にいかせてもらうよ」

 アルディリアも構えを取った。

 同時に、先生と先輩も構えを取った。

 そうして静かに、戦いは始まった。

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