気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

閑話 ゲーム大会 後編

 女神カラス。

 彼女のゲームの実力は神だけあって、高い水準にある。
 ジ・アバターを相手にした時ほどでないにしろ、彼女にも私は負け越してしまう。

 その上強キャラが好きで、ティグリス先生がお気に入りだ。
 今回の大会でもティグリス先生を使っている。

 そんなのが相手では、たとえ四天王とはいえひとたまりもないだろう。

 私の思った通り、女神カラスは並み居る強豪を蹴散らして順調に勝ち進んでいった。
 そして今、オルカくんが負けた。

 エミユちゃんほど悔しさを表に出さないが、いつもより難しい顔をしている。
 きっと内心では悔しいのだろう。

「あの、この「漆黒の翼」さん。もう全部見えている感じがしますね」

 チヅルちゃんが言う。

「そうだね。固め見せかけから、近付いて投げ。と、見せかけて相手の弱パンチを誘ってからの1フレーム強パンチ。
 相手の弱パンチ牽制がなかった時は、素直に投げる、と。
 前入れ強パンチの投げは外れると中段のちょっと遅いパンチに変形するから、見てからニュートラルの強パンチを入れてるって事だね」

 私は解説した。

 やっぱり、カラスの動体視力はすごいな。

 そしてそのまま決勝へ進み、ヤタと対決する事になった。

「奇しくも、決勝戦にあがったのはまたクロエ使いですね」
「そうだね」

 ヤタはクロエ使いだ。

 ティグリス先生は多くのキャラクターを相手に有利な立ち回りができる。
 ティグリス先生と互角以上に戦えるキャラクターは、イノス先輩、コンチュエリ、エミユちゃんのような投げキャラだ。
 互角ならばティグリス先生当人と同じくガードポイントを持つヤンくん、全体的に高性能なアードラーとイェラくらいだ。

 クロエは、互角と言えないが不利とも言えない性能になる。
 クロエはリーチの長さで、近強の1フレームパンチを打たせにくいという特徴がある。
 失敗すると隙があるので乱発はできないが、当身技も一応ある。
 ティグリス先生の持ち味の一つを生かしにくいため、他のキャラクターよりかは戦いやすいのだ。

 そして、この世界においてヤタ以上にクロエの扱いに長けた子はいないだろう。
 彼女はゲームが世に広まるよりも前にゲームに触れて、私を相手にクロエを使い続けているのだから。

 クロエの扱いに関しては、私以上である。
 彼女なら、カラスを相手にも十分に渡り合えるはずだ。

「試合が始まります」

 チヅルちゃんが告げる。

 二人の試合が始まった。

 カラスの戦い方は正攻法だ。
 飛び道具を確実に飛び道具当身技で取り、近付いて殴る。
 飛び道具が来なければ普通に近付いて殴る。

 実にティグリス先生らしい戦い方だ。

 だいたいのティグリス使いが同じ動きをする。
 というより、性能からしてそれしか戦い方がないとも言える。

 ティグリス先生最大の弱点は、その戦略性の乏しさだろう。
 まぁ、最大にして唯一のその戦法がべらぼーに強いのだから支障はないのだけれど……。

 対してヤタは、ティグリス先生に近付かせないよう飛び道具を控えてリーチの長い攻撃による牽制で応じている。
 ティグリス先生対策がばっちりできていた。

 けれど、そこはカラス。
 そこらの量産型ティグリス先生とは違う。
 キャラ性能に頼るだけじゃなく、揺さぶりも上手い。
 バックステップ読みのガンダッシュや、すかし下段も平然とやってのける。
 密着飛び道具にも反応して飛び道具当身を使いやがった。
 キャラクター性能も高い上に、プレイングも上手なのだからヤタはかなりきついだろう。

「さぁ、後がないヤタ。あと一本落としたら負けです。ここで、漆黒の翼が固有フィールドを張る!」

 ティグリス先生の固有フィールドは、全ての技にガードポイントがつくというものだ。

「これはヤタ、迂闊に攻撃が振れなくなりました。お、弱パンチ振ってから当身技で取る!」
「弱パンチをわざと見せて、ティグリスが強引にガードポイントを当てに来る事を読んでの当身だね」

 よし、流石はヤタ。
 まだ、勝ちの目はある。

 と思っていたら、牽制のキックを読んでの超必殺ブッパを受けてヤタがあっさり負けた。

 試合が終わり、ヤタは大きく息を吐いてうな垂れた。

 私はヤタに近付く。

「母上。負けてしまいました」
「ヤタは十分がんばったよ」
「ありがとうございます」

 帰ったら、プリンを作ってあげよう。

 そして、決勝で戦った二組の選手達がステージで並び立つ。
 優勝賞金の授与とエキシビションマッチのためだ。

「はい。ストームくん、優勝おめでとう。ブリザードちゃんも凄かったですね」

 チヅルちゃんがストームくんにトロフィーを渡し、二人に賞金の入った巾着を渡す。

「ありがとう」
「ありがとうございます」

 子供達は笑顔で受け取る。

「はい。漆黒の翼(笑)さん。ヤタさん。素敵な試合でした。特に、ヤタさんの動きが素晴しかった」

 私がカラスにトロフィーと賞金を渡し、ヤタに賞金を渡す。

「ありがとう。これで小生も帰る家ができそうだ」

 どっかで賃貸するの?

「あの、ありがとうございます」

 ヤタが頑張ったからだよ。
 お小遣いにしなさい。

 それから、私達はエキシビションマッチを行なった。
 まずは、チヅルちゃんとストームくんの試合が行なわれる。

 三本先取でお互い二本ずつ取り、最終戦までなだれ込んで何とかチヅルちゃんが勝った。
 とてつもない接戦だった。

「いやぁ、強いですねぇ。将来が楽しみですよ、はっはっは」

 と無理やり笑顔を作っていたが、頬には冷や汗が流れていた。

「危なかったね」
「本当に」

 でも、私もチヅルちゃんの事を言ってられないぞ。
 だって、相手はあのカラスなのだから。

 悔しいが、ゲームの腕ではカラスの方が格上だ。
 でも、ゲーム製作者という肩書きを背負って戦うのだからできれば勝ちたい所である。
 よし、がんばろう。

 私はヤタを選んで戦い、そしてチヅルちゃんと同じく最終戦へとなだれ込んだ。



 流石だ。
 クロエ・ビッテンフェルト。
 人の身で、よく小生と渡り合える。

 だが、所詮は人の身でしかない。

 最後に勝つのは、女神である小生だ。
 何故なら、すでに小生の勝ちは運命付けられているのだから。

 最初から、小生には君の運命が見えている。
 最後の一番、カラス召喚からの二択で投げを選択する事はすでに見えているのだよ。
 なら、小生は1フレームパンチで迎撃するのみ。

 それで小生の勝ちだ。
 ふふふ、君はゲームが始まった時から小生の手の平の上にあるのだ。

 なのに足掻く様は、滑稽でなんと楽しい事だろう。


 なんて事を今のカラスは考えているのだろう。

 なので、最後の一番はジ・アバターに任せた。
 最後の二択でジ・アバターは2強Kを選んだ。

「あれっ!?」

 驚いたって事は、やっぱり運命を読んでいたな?
 カラスはなんとか反応してガードしたが、動揺したらしく小足からのコンボを受けてピヨり、超必殺の生当てを受けて沈んだ。

「何! クロエ・ビッテンフェルト、君はまさか! あれを使ったのか!?」

 いちいちフルネームで呼ぶの止めろ。

 私は答えず、代わりにジ・アバターが観客に見えないようチラリと姿を現した。

「卑怯だぞ……!」

 運命を読むのは卑怯じゃないの?

「まぁ、勝ちは勝ちだよ」

 私はエキシビションに勝利し、カラスの悔しがる姿をみる事ができた。
 こうして、閉会の挨拶をして大会は幕を閉じた。



 試合が終わってからも、観客や選手達はしばらくゲームセンターに残っていた。
 今日は特別に、センター内のゲームを無料で遊べるようにしているので、全てのゲームが人で埋まっている。

 試合の展開などを話し合いながら、コンボや立ち回りの研究と実地での確認を行なっているようだ。

 そんな様を見て……。

 うん。
 いいな。

 と私は思った。

「お疲れ様です。クロエさん」
「お疲れ様です。母上」

 チヅルちゃんとヤタ、そしてエミユちゃんとオルカくんも揃っていた。

「クロエさん、やっぱすげぇな! あの馬鹿みたいに強い漆黒の翼って奴に勝っちまうんだから」
「そうですね。僕達じゃ、手も足も出なかったのに」

 エミユちゃんとオルカくんが私を賛美してくれる。

 ズルした身としては、ちょっと素直に受け取れない言葉だ。
 ……相手もズルしてたけど。

「あの、母上。私達は、もう少しここでゲームをしてから帰るつもりなんですけど」
「クロエさんもここでゲームしていくのか?」

 ヤタとエミユちゃんが訊ねてくる。

「そうしようかな、とは思ってる」

 会場内を見ると、子供の姿がちらほらと見られた。
 ストームくんとブリザードちゃんの姿もあった。
 どうやら仲良くなったらしく、二人で話し込んでいる。
 まだ外は明るいが、もしかしたら夜までいるつもりかもしれない。
 暗くなるまで子供が入り浸るのは帰りが怖いので、適切な時間で帰るよう促すべきかもしれない。

 そう思って、残ろうとは思っていた。

「クロエ・ビッテンフェルト」

 呼ばれて振り返る。
 カラスがいた。

「残るというのなら、ゲームをするのだろう?」
「そうだけど」
「なら、もう一戦だ。次は正々堂々と、な」
「そっちがズルしないなら」

 私が不敵に笑むと、カラスも笑い返した。

「クロエさんとやる気なら、先にあたしを倒してからにしな」

 そう言ったのは、エミユちゃんだった。

「ほう。エミユ・アルマール。あれだけ酷くやられたというのに、まだ挑んでくる勇気があるとは……。面白い。いいだろう。相手をしてやる」

 二人は睨み合い、手頃な対戦台に並び始めた。

「先にとられてしまいましたか。僕も、戦いたかったのに」

 と、オルカくんが言いながら、二人の後を追った。

「行きますか?」

 ヤタに問われる。

「行くよ」

 答えて、私もその対戦台へ向かった。



 夜も近い時間。
 そろそろ子供達を帰した方がいいだろうと思い、辺りを見回す。
 すると、ストームくんとブリザードちゃんの姿がなかった。

 帰ったのかな?
 と思ったが、ちょっと気になったので辺りを探してみる。

「どこへ行くんだい?」

 それを見咎めたカラスが訊ねてくる。

「ちょっと気になった事があって」
「ふぅん。ならばついていこうじゃないか」

 来なくていいけど。

 ゲームセンター内を探したが、二人の姿はなかった。
 なので外へ出る。

 辺りを探し、そして路地にいる二人を見かけた。
 二人の前には、三人組の男達がいた。

「たかだかガキが、そんな大金もらうなんざ生意気なんだよ」
「さっさとその金を寄越しな」

 どうやら男達は、優勝賞金目当てのチンピラらしかった。

 そんな男達から、ブリザードちゃんを庇うようにストームくんは彼女の前に立っていた。

「でも、これはゲームの大会で勝ったからもらったんだ!」

 怯えながらも、ストームくんが反論する。
 男の一人が、ずいっとストームくんへ顔を近づける。

「ゲームの大会ってのはあれだろ? 一番強い奴を決めるもんなんだろ? だったら俺と勝負しようぜ。ゲームじゃなくて本物の殴り合いだけどな。それでお前に勝ったら、俺が一番強いって事になるだろう? そうすりゃ、その金も俺のものにして良いってわけだ。だろ?」
「そんな……っ」

 ストームくんが表情と体を強張らせた。

「ああ、そうか。そういう理屈か」

 私が声をかけると、男達がこちらに向いた。

「それが罷《まか》り通るって言うのなら――」
「小生達もその流儀に従ってやろうではないか」

 私が言うと、カラスが私の言葉の続きを紡いだ。

「何だ? テメェら?」

 男の一人が訊ねる。

「通りすがりのゲーム製作者だ」
「通りすがりの一プレイヤーだ」

 その後、二人で男達を蹴散らした。



「ありがとう」
「ありがとうございます」

 ストームくんとブリザードちゃんがお礼を言ってくれる。

「いやいや、大会主催者だからね。参加者に怪我人を出すわけにはいかないよ」

 しかし、大金を持って歩くのは危ないな。
 子供の部に限らず、大人の部に関しても優勝者にはアフターケアが必要かもしれない。

「そうだ。同じような事があっちゃいけないから、家まで送ってあげるよ」
「いいんですか?」
「うん。そろそろ暗くなるから、他の子供達もついでに送って行く事にするよ」

 集団下校ならぬ、集団下ゲームセンターだ。

「しかし、よく手伝ってくれたね」

 カラスに声をかける。

「楽しそうだったのでね」

 そんな所だと思った。

「何より、その子達には楽しませてもらった。二人の試合は、なかなかに胸が躍ったよ。楽しませてもらった駄賃みたいなものさ」
「そう」

 その後、ゲームセンターに来ていた子供達に声をかけて一人一人を家まで送っていった。

 あとでわかった事だが、ヤタもどこかのチンピラに声をかけられて、似たような理屈でお金を狙われたらしい。
 そして、哀れチンピラ達は四天王達のコンビネーションによってコテンパンにされてしまいましたとさ。

 やっぱり、大会後のアフターケアは今後の課題になりそうだ。

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