気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

神々の戦い編 エピローグ 死の運命を超えて

 気付けば私は、王都の広場にいた。
 広場には人々が行き交い、商店や食べ物屋の多く並ぶ広場は賑わいを見せていた。

 普段通り、それぞれの生活を営んでいる。
 そんな様子だ。
 そこには死の影などまったくない。

 平穏だけがそこにある。

 私はその光景をテラスの席から眺めた。

 目の前には、テーブルに置かれた空の皿がある。
 これは、カラスを待っている間に食べていた料理だ。

 私は自分の手の平を見て、体を見る。
 あの時のように、力が無尽蔵に湧き上がる感覚は無い。
 今の私は、神じゃなくなったのだろう。

「どういう事だ?」

 声をかけられる。
 そちらを見ると、カラスがいた。

 その顔に笑みはない。
 余裕はなく、真剣な表情だ。

「君の運命に、死が見えない。今までは、君の死が見えたのに。今、急に君の死が見えなくなった。こんな事は、ありえない……!」
「どういう事だと思う?」

 私は不敵に笑いかけた。



 それはこの時間から見て、数時間後の事になるだろう。

 カラスを倒した私だったが、カラスはアールネスの人間を滅ぼした。
 神になった私は時の概念から外れ、もうトキの力で過去へ戻る事もできなかった。

 もう、二度と家族の生きた時代には戻れない。
 もう、二度と家族と会えない。
 そう気付いた私は、絶望に沈んだ。

 そんな時だった。

「……何とかなるかもしれないよ」
「え?」

 トキの言葉に、私は顔をあげる。

「こんな事、やった事はないけれど……。まぁ、やってやれない事はないだろう」

 言いながら、トキはある方向を向いた。
 私も同じようにそちらへ向く。

 そこには、一人の女性の死体があった。

 それは、クロエ・ビッテンフェルト。
 私が捨てた、人間としての私の亡骸《なきがら》だった。

 トキは私の亡骸へ近付くと、触れる。

「この体は、人間のものだ。だから、僕の力が作用するはず……」

 トキが言うのと同時に私の意識が一瞬だけ途切れ、気付けば私の目の前にはトキの顔が大きく映し出された。

「え?」
「成功だね。君の身体を生きている時まで戻したんだ」

 つまり、私が死ぬ前。
 神になってしまう前だ。

「そんな事もできるの?」
「何分《なにぶん》初めての事だから、確実にできるかはわからなかったけれどね。ただ、思った通り人間に戻ったら神じゃなくなったね」

 トキは微笑みかけた。

 この力があれば、他の人達も……。

「でも、時を戻した所で、戻した分の時間が過ぎればまた死ぬけどね。一度決まった時の流れを変える事は基本的にできないから」
「そうなの?」

 それじゃあ、みんなを助けられない。
 それに、私だって時間が経てばまた神に戻ってしまうという事だ。

「あ、でも君の場合はどうなんだろう? 神の行動は時に縛られないから、死因が神の場合は時間が経っても死なないのかな? どう思う?」
「わかんねぇっす。でも、そうだったとして、何も解決しないんじゃ……」
「そうでもない。さっきも言った通り、神の行動は確定されない。王都の誰しもがカラスの力で死んだのなら、私の力で生き返らせる事ができるかもしれないからね」
「じゃあ、アールネスのみんなを生き返らせる事もできる?」
「できると思う。でもやらない。面倒だからね」

 せーへんのかい!

「僕の力でこの国の人々を蘇らせれるか。重要なのはそこじゃない。今の君は神じゃない。それが重要なんだ」
「え?」
「今の君なら、時の概念の中にある。神の権能も通用するはずだ」
「つまり?」
「君の意識を過去へ戻す。そうすれば、元通りだ」



 そして私は、過去へ戻った。
 トキを復活させ、カラスへ戦いを挑みに行く最中の事だ。

「どういう事だと思う?」

 私はカラスへ、不敵な笑みを向けた。

「……なるほど。死の見えない存在など、一つしかない。君は、神になったんだな?」

 カラスは、私を睨みつけた。

 ここで、戦う気か?
 緊張が走る。

「つまらないな……」

 しかし、カラスはそう呟いた。
 あっさりと踵《きびす》を返す。

「神が神の領分を侵すなら、罰する理由がないじゃないか」

 そのまま、私から離れていく。

 口振りからして、諦めてくれたんだろうか?

「いい退屈しのぎだと思ったのになぁ……。一年、無駄にした気分だよ」

 去り際になんか、ボソッと言いやがった。
 聞こえたぞ。
 クロエイヤーは地獄耳だ!

 とはいえ……。
 安堵した……。

 少し心配だったのだ。
 時間を遡った所で、カラスが同じ事をするなら意味がない、と。

 トキは大丈夫だろうと言ったが、それはこういう事だったのだろう。

 なら、これで解決かな……。

 ……帰るか。
 家族が待ってるだろうから。

 その後、夜になって。
 聖域で待っていたシュエット様がトキと共に屋敷へ帰ってきた。
 シュエット様から、聖域へ迎えに来なかった事を叱られた。

 そういえば、あの時はシュエット様とトキを聖域に待たせていたんだった。
 完全に忘れてたよ。

 トキと二人きりで長時間放置された事が余程嫌だったのか、その怒り様は大変凄まじかった。

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