気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

神々の戦い編 プロローグ 死に包まれた王都

 アールネス王都は死に支配されていた。

 そこに住まう人々は老若男女問わず、動く者はなく……。
 倒れ伏す人々は皆一様にその命の灯火を消していた。

 人々に目立った外傷は無い。
 その姿からは何故彼らが死んだのかわからないほどに、死に様は綺麗なものだった。

 そんな中、私は戦っていた。
 シュエット様の力をその身に宿らせて。

 相手は黒い帽子と黒衣の女性だった。
 さながら、大正時代の学徒のようないでたちである。
 その左腰には空の鞘がある。
 中身の刀は、右手に握られていた。

「まだやる気があるのかい?」

 相手の女性が言う。

「もう、君には何も残っていないというのに」

 言いながら、彼女は視線を私から離した。
 その先には、倒れる人物の姿がある。

 アルディリア……。

 彼はうつぶせに倒れ、事切れていた。

 また別の場所には、アードラーとイェラの姿もある。

 アードラーは、イェラを抱きかかえるような姿で動かなくなっていた。
 二人とももう……。
 二度と動く事はないだろう。

 言葉を交わす事も、笑顔を向けてくれる事さえも、もう叶わない。

「くっ……」

 その姿を見ると、心に痛みが走る。
 同時に、ふつふつと怒りが湧いた。

「うおおおおおおぉぉっ!」

 怒りに任せ、渾身の拳を放つ。
 だが、刀の腹で防がれた。
 難なく弾かれ――。

 袈裟懸けに肩から脇腹までが斬り裂かれた。

 太刀筋は、見えなかった。
 気付けば、血が散っていた。

「ぐっ」

 痛みに呻く。
 すぐに、斬りつけられた傷を白色《はくしょく》で治す。

「まぁ、その方が小生は長く楽しめる」

 笑みを浮かべて言う彼女。
 その笑顔が、さらに私の怒りを沸き立たせる。

 しかし、こいつはあまりにも強い。
 私も世界を巡って、かなり強くなったと思ったのに……。
 それでも、手も足も出ない。
 あらゆる攻撃が、通用しない。

 これが、女神というものなのか……。

 いや、旅の間に多くの女神と出会い、戦いもしてきた。
 だが、ここまでじゃない。

 この女神が、別格なんだ。

 その時だった。
 建物の上から、何かが相手の女へ向けて飛び掛った。
 飛び掛ったのは、ヤタだった。

 ヤタは拳を構え、殴りかかる。
 しかし、相手は難なくそれをかわす。
 腹部に肘打ちを当て、怯んだ所で背後に回り、後ろから腕で首を締め上げた。

「ぐぅっ」

 痛みに呻くヤタ。

「なるほど。この娘も、死の恐怖へ耐性があるようだ。君と同じだな」

 言いながら、彼女は私に笑いかけた。

「やめろ! ヤタを離せ!」
「これは罰だ。人の身でありながら、人の領分を越えた君への」

 嗜虐的な笑みと共に発せられた言葉。
 そして、ヤタの胸から刀の刃が突き出す。

「くは……」

 声ともつかない息が、ヤタの口から漏れた。

 刃が引き抜かれる。
 それと同時に、ヤタがうつ伏せに倒れた。

 這うようにして、私へ手を伸ばす。

「母……上……」

 ヤタの目から涙が流れ、地面へ落ちる。
 そして、そのまま動かなくなった。

「ゆっくりと味わうがいいよ。絶望と苦しみを。そして、死に抱かれるといい……。ふふふ」

 ヤタが……死んだ……。

 それを理解すると、力が抜けた。
 膝が折れ、その場で両手をついた。

「ヤタ……」

 涙が、零れ出てくる。

 本当に……。
 もう、私には何も残っていない……。

 絶望が私の心を包む。

 そんな時、私の体からシュエットが抜け出た。

「やはり、こうなったか……」

 顔を上げると、人と同じサイズのシュエットが立っている。
 彼女は、痛ましい表情でヤタを見ていた。
 その視線を黒衣の女へ向けた。

「無理じゃな。ワシらだけでは、奴に勝てぬ。死の女神……カラスには……」

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