気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
閑話 野郎会
その日、僕は学生時代の旧友達と飲み会をする事にした。
今日は、クロエ達が我が家で飲み会を開くらしいので、その間に男達で集まろうという事になったのだ。
場所は、ビッテンフェルト家で経営している酒場だ。
かつてクロエが酔っ払い、無差別破壊を繰り広げたあの酒場だ。
あの後、ビッテンフェルト家が買い取り、今は軍の人間の飲み会などによく利用される場所だ。
他の席は、軍人らしき客で賑わっていた。
「「「乾杯!」」」
ワインの入ったジョッキをぶつけ合い、乾杯する。
一気に中身を煽った。
まずは駆けつけ一杯だ。
「しっかし、こうやって集まるのは久し振りだよな」
ルクスが声をかけてくる。
「そうだね。みんな忙しいから、あんまり集まれないんだよね。王子とも、こうして会うのは久し振りですし」
この場には、長年行方不明になっていたリオン王子の姿もあった。
「もう王子ではないぞ。しかも、長年領地の経営を放棄してきた。今の私は貴族とも言えない、ただの男でしかない」
そう答える王子は、かつてと大きく風貌が変わっていた。
顔には無数の傷を負い、目つきは鋭い。
飲み会の席にあっても油断がなく、仕草の一つ一つに隙がない。
いつでも動けるように、周囲に気を配っている。
一切の甘さがない。
そんな印象を受ける。
体格も一回り大きくなっているように思えた。
服の上からでも、その体の筋肉量が増大している事がわかる。
行方不明の間何があったのかはわからないが、その年月が平穏でなかった事がうかがい知れた。
「でも、家族は守ったのでしょう? ただの男としてなら、それで十分じゃないですか」
そう言うと、リオン様は小さく微笑んだ。
同時に、彼の緊張が解れるのがわかった。
「そうですね。俺もそいつが大事だと思いますよ」
ティグリス先生が言う。
先生は元から白髪なので頭髪に齢を感じる事は無い。
けれど、その顔には皺が増えていた。
老境に差し掛かっている。
「見ず知らずの土地で家族を守り通すなんて、並大抵の事じゃないです。尊敬しますよ」
「あなたにそう言ってもらえると嬉しいな」
先生も、今は多くの家族と共にあるけれど。
かつてはたった一人で家族を守ってきた人だ。
リオン様の生き様に感じ入る事があったのだろう。
それは僕だって同じだ。
リオン様の事を尊敬する。
僕だって、一人の男として家族を守っていきたい。
けれど、僕はこの十五年間妻二人のそばにいる事ができなかった。
ヤタを守る事はできたけれど、それでも家族全員を支える事ができなかったのは心残りだ。
だから、僕はリオン様を尊敬する。
それは一人の男としてだけじゃなく、武人としてもだ。
今のリオン様は、昔とは比べ物にならないくらい強くなっている事だろう。
立ち居振る舞いだけでわかる。
見た目も、見るからに男の顔だ。
今の僕も成長して男らしい顔つきになったけれど、それでもまだ女性っぽいと言われる事がある。
そういう部分から見ても、王子を尊敬できた。
彼は、いつも僕の憧れだ。
それが今も変わらない事は少し嬉しかった。
「久し振りだな、リオン殿下」
「ヴァール王子か」
声をかけたのは、ヴァール王子だった。
「なかなか良い男になったじゃないか。昔に比べてずっといい」
「あなたは変わらないようだな」
「俺は完成されているからな。昔から。変わる所などないのさ」
この二人は、どことなく仲が悪い雰囲気がある。
というより、リオン王子が一方的に嫌っているのかな?
ヴァール王子はとても楽しそうだ。
「よく出て来れましたね」
僕は二人が険悪にならないよう、遮るように声をかけた。
彼は人質として軟禁中で、おいそれと出て来れないはずだ。
「なんだかんだと、国衛院にいろいろと貢献したからな。一日に、三時間程度なら自由に出てもいいようになったのだ」
そんなんでいいんだろうか?
人質の扱いって。
「アルディリア」
ヴォルフラムが僕を呼ぶ。
「改めて、お招きいただいた事を感謝するよ」
「楽しんでいってね」
「それはもちろん」
彼は、一番長い付き合いの友人だ。
今、王都でもっとも活躍している商人として有名だ。
というのも、クロエ達が作った「ゲーム筐体」なる遊具の販売に協力した事で、かなりの利益を出しているからだ。
この「ゲーム筐体」は今までにない遊具で、今や王都中の平民から貴族、果ては王族に到るまで誰もが夢中になっているのだ。
「奥様によろしく言っておいてください」
「うん。わかったよ」
「それに、ヴェルデイド様も」
ワインに口をつけていたムルシエラ先輩に、ヴォルフラムが声をかけた。
「あれは、殆どあの二人の発想ですけれどね」
先輩は笑顔を向ける。
この人も変わらないなぁ。
というより、歳を重ねて女性的魅力に磨きがかかったように思える。
先輩は宮廷魔術師であるが、外交官でもある。
外交では女性的な容姿の方が何かと便利で、だから女性的な魅力を磨いているそうだ。
自分の女性的な部分をどうにかしたい僕とは真逆の存在である。
「義兄上、この度はお誘いいただきありがとうございます」
レオパルドが挨拶してくれる。
彼はクロエの弟で、僕の義弟である。
彼はティグリス先生の娘さん、アルエットちゃんと結婚した。
そのアルエットちゃんが、クロエ達の集まりに参加しているそうなので今回呼んだのだ。
黒いツヤツヤの髪。
黒い瞳。
どちらもクロエと同じ色だ。
顔つきもどことなく似ているが、それ以上に義父上の方に似ているか。
「やぁ、レオ。元気そうだね」
「はい。……あの、姉上は元気でしょうか?」
「うん。全然変わらないよ。まるで、十五年の歳月があったなんて思えないくらいに、いつも通りに元気だよ」
「そうですか。でも、私はあまり姉上の事はよく知らないのですよね」
クロエが行方不明になったのは、まだレオパルドが幼い頃だ。
クロエの話は会う度によく出ていたが、あんまり憶えていないんだろう。
「また今度、遊びに来るといいよ」
「はい。そうさせていただきます」
「なぁ、アルディリア」
思い思いに酒や料理を楽しんでいると、ルクスが声をかけてくる。
「相変わらず、クロエは乳でかいけど色気がねぇよな!」
唐突に何言ってるの?
酔ってるんだろうか?
「こう、悩殺《のうさつ》っていうより、撲殺《ぼくさつ》って感じだよな!」
酔ってるんだな。
酔い覚ましに殴ってやろうか。
「で、もう一人の嫁《アードラー》さんはあれだろ? うちのイノスといい勝負だし。お前、好みが極端だよな」
別に、その部分の好みで選んだわけじゃないよ。
「それに比べて、マリノー。あれはもう、別次元の生命体だよな。パーフェクトだよ。いろんな部分がさぁ。そう思うだろ?」
声を潜めてルクスは言う。
流石にティグリス先生は怖いか。
「イノス先輩に言うよ?」
「冗談じゃねぇか」
ルクスは誤魔化すように笑った。
「アルエットは、どんな様子だ? 上手くやってるか?」
ふと、ティグリス先生とレオパルドの会話が耳に入る。
「はい。円満な関係だと思います」
「そうか……」
ティグリス先生は、レオパルドと話をしていた。
レオパルドはアルエットちゃんと結婚して、家を買ってそこで暮らしている。
ティグリス先生とは一緒に暮らしていない。
「職場も同じですからね」
レオパルドとアルエットちゃんは二人共教師をしている。
今、学校の闘技授業は男女に分かれているらしく、互いに男子と女子の教師をしているそうだ。
家庭科の授業も担当していて、それは二人で行なっているそうだ。
レオパルドがティグリス先生の所へ挨拶しにいった時は、流血沙汰の騒ぎに発展したそうだが……。
今は概ね上手くやれているようだ。
「なら、いいんだ。大事にしてやってくれ」
「はい」
話に参加できる雰囲気がじゃないな。
「水晶はこれ以上安くなりませんか?」
「これ以上は入力遅延が起こるからダメだ、とクロエさんが言っていましたよ」
次に、ムルシエラ先輩とヴォルフラムの話を聞く。
「そうですか……。欲をかいて品質を落とすべきではないですかねぇ」
「あの分野に関しては、クロエさんとチヅルさんの言う通りにするべきでしょうね。あれは、今までの技術に比べて、あまりにも異質過ぎます。口を出さない方がいいでしょう」
何か、難しい話をしているようだ。
仕事の話みたいだし、これも邪魔しちゃ悪いかな。
「暇そうだな。アルディリア」
「ヴァール王子」
声をかけられて応じる。
「暇なら、俺の話に付き合え」
「いいよ」
「オルカの事なんだが」
公然の秘密ではあるのだが、コンチュエリ先輩の息子であるオルカくんはこのヴァール王子の息子でもある。
「お前の目から見て、強くなっているか?」
「才能があって、飲み込みも早い子だからね。着実に強くなってるよ」
「当然だな」
ヴァール王子が満足そうに笑う。
「僕に聞くっていう事は、手合わせとかしないの?」
オルカくんはヴァール王子に勝つため、僕に稽古をつけてもらいにくる。
てっきり、しょっちゅう手合わせしているものと思っていたが。
この口ぶりだと、そんな事もないのかもしれない。
「まだ、足りぬと思っておるのだろう。無駄だと思う事はせぬ子だ。だから、自分がやれると思った時にしか来ないな」
「実際の相手と戦った方が相手の癖とか覚えられていいのに」
「嫌われているからな。あんまり会いたくないのだろう。会う時は、俺を叩きのめせると思った時だけだ。今の所は、返り討ちだが」
そういうものか。
「子供の話か?」
ルクスが参加してくる。
「最初はうちのエミユの方が強かったのに、あんたの息子の方が強くなってきてるみたいだな。そのせいか、イノスによく稽古つけてもらうようになったぜ」
「へぇ、そうなんだ」
確か、オルカくんもエミユちゃんも学園で最も強い四人の中に入っているんだっけ?
ちなみにその中でも一番強いのは僕の娘だ。
「稽古してない時も部屋で「小足が刺さる」とか「中段が見えない」とか言って、何かイメージトレーニングしてるぜ」
へぇ、勉強熱心なんだな。
ヤタも負けてはいないけれど。
「子供の話なら私も混ぜて欲しい」
リオン様が話に加わる。
「うちの子も学園に入学したんだが、上手く授業に追いついていけるか心配でな」
リオン様のお子さんは双子。
それも今まで旅暮らしで、中途入学という形で学園に入学した。
だから心配なのだろう。
「それは僕にはわかりませんけれど……。どうせなら、レオパルドに聞いてはどうでしょう? 彼は学園の教師ですし」
「それがいいな」
僕が提案すると、リオン様は頷いた。
「俺も聞こうか」
「俺も」
すると、ヴァール王子とルクスも賛同した。
レオパルドに、子供達の事について聞く事になった。
ティグリス先生とヴォルフラムくんもそれに参加し、そのまま飲み会は面談会のようになっていった。
そこから酔い潰れるまで、子供についての相談をしながら夜は過ぎていった。
今日は、クロエ達が我が家で飲み会を開くらしいので、その間に男達で集まろうという事になったのだ。
場所は、ビッテンフェルト家で経営している酒場だ。
かつてクロエが酔っ払い、無差別破壊を繰り広げたあの酒場だ。
あの後、ビッテンフェルト家が買い取り、今は軍の人間の飲み会などによく利用される場所だ。
他の席は、軍人らしき客で賑わっていた。
「「「乾杯!」」」
ワインの入ったジョッキをぶつけ合い、乾杯する。
一気に中身を煽った。
まずは駆けつけ一杯だ。
「しっかし、こうやって集まるのは久し振りだよな」
ルクスが声をかけてくる。
「そうだね。みんな忙しいから、あんまり集まれないんだよね。王子とも、こうして会うのは久し振りですし」
この場には、長年行方不明になっていたリオン王子の姿もあった。
「もう王子ではないぞ。しかも、長年領地の経営を放棄してきた。今の私は貴族とも言えない、ただの男でしかない」
そう答える王子は、かつてと大きく風貌が変わっていた。
顔には無数の傷を負い、目つきは鋭い。
飲み会の席にあっても油断がなく、仕草の一つ一つに隙がない。
いつでも動けるように、周囲に気を配っている。
一切の甘さがない。
そんな印象を受ける。
体格も一回り大きくなっているように思えた。
服の上からでも、その体の筋肉量が増大している事がわかる。
行方不明の間何があったのかはわからないが、その年月が平穏でなかった事がうかがい知れた。
「でも、家族は守ったのでしょう? ただの男としてなら、それで十分じゃないですか」
そう言うと、リオン様は小さく微笑んだ。
同時に、彼の緊張が解れるのがわかった。
「そうですね。俺もそいつが大事だと思いますよ」
ティグリス先生が言う。
先生は元から白髪なので頭髪に齢を感じる事は無い。
けれど、その顔には皺が増えていた。
老境に差し掛かっている。
「見ず知らずの土地で家族を守り通すなんて、並大抵の事じゃないです。尊敬しますよ」
「あなたにそう言ってもらえると嬉しいな」
先生も、今は多くの家族と共にあるけれど。
かつてはたった一人で家族を守ってきた人だ。
リオン様の生き様に感じ入る事があったのだろう。
それは僕だって同じだ。
リオン様の事を尊敬する。
僕だって、一人の男として家族を守っていきたい。
けれど、僕はこの十五年間妻二人のそばにいる事ができなかった。
ヤタを守る事はできたけれど、それでも家族全員を支える事ができなかったのは心残りだ。
だから、僕はリオン様を尊敬する。
それは一人の男としてだけじゃなく、武人としてもだ。
今のリオン様は、昔とは比べ物にならないくらい強くなっている事だろう。
立ち居振る舞いだけでわかる。
見た目も、見るからに男の顔だ。
今の僕も成長して男らしい顔つきになったけれど、それでもまだ女性っぽいと言われる事がある。
そういう部分から見ても、王子を尊敬できた。
彼は、いつも僕の憧れだ。
それが今も変わらない事は少し嬉しかった。
「久し振りだな、リオン殿下」
「ヴァール王子か」
声をかけたのは、ヴァール王子だった。
「なかなか良い男になったじゃないか。昔に比べてずっといい」
「あなたは変わらないようだな」
「俺は完成されているからな。昔から。変わる所などないのさ」
この二人は、どことなく仲が悪い雰囲気がある。
というより、リオン王子が一方的に嫌っているのかな?
ヴァール王子はとても楽しそうだ。
「よく出て来れましたね」
僕は二人が険悪にならないよう、遮るように声をかけた。
彼は人質として軟禁中で、おいそれと出て来れないはずだ。
「なんだかんだと、国衛院にいろいろと貢献したからな。一日に、三時間程度なら自由に出てもいいようになったのだ」
そんなんでいいんだろうか?
人質の扱いって。
「アルディリア」
ヴォルフラムが僕を呼ぶ。
「改めて、お招きいただいた事を感謝するよ」
「楽しんでいってね」
「それはもちろん」
彼は、一番長い付き合いの友人だ。
今、王都でもっとも活躍している商人として有名だ。
というのも、クロエ達が作った「ゲーム筐体」なる遊具の販売に協力した事で、かなりの利益を出しているからだ。
この「ゲーム筐体」は今までにない遊具で、今や王都中の平民から貴族、果ては王族に到るまで誰もが夢中になっているのだ。
「奥様によろしく言っておいてください」
「うん。わかったよ」
「それに、ヴェルデイド様も」
ワインに口をつけていたムルシエラ先輩に、ヴォルフラムが声をかけた。
「あれは、殆どあの二人の発想ですけれどね」
先輩は笑顔を向ける。
この人も変わらないなぁ。
というより、歳を重ねて女性的魅力に磨きがかかったように思える。
先輩は宮廷魔術師であるが、外交官でもある。
外交では女性的な容姿の方が何かと便利で、だから女性的な魅力を磨いているそうだ。
自分の女性的な部分をどうにかしたい僕とは真逆の存在である。
「義兄上、この度はお誘いいただきありがとうございます」
レオパルドが挨拶してくれる。
彼はクロエの弟で、僕の義弟である。
彼はティグリス先生の娘さん、アルエットちゃんと結婚した。
そのアルエットちゃんが、クロエ達の集まりに参加しているそうなので今回呼んだのだ。
黒いツヤツヤの髪。
黒い瞳。
どちらもクロエと同じ色だ。
顔つきもどことなく似ているが、それ以上に義父上の方に似ているか。
「やぁ、レオ。元気そうだね」
「はい。……あの、姉上は元気でしょうか?」
「うん。全然変わらないよ。まるで、十五年の歳月があったなんて思えないくらいに、いつも通りに元気だよ」
「そうですか。でも、私はあまり姉上の事はよく知らないのですよね」
クロエが行方不明になったのは、まだレオパルドが幼い頃だ。
クロエの話は会う度によく出ていたが、あんまり憶えていないんだろう。
「また今度、遊びに来るといいよ」
「はい。そうさせていただきます」
「なぁ、アルディリア」
思い思いに酒や料理を楽しんでいると、ルクスが声をかけてくる。
「相変わらず、クロエは乳でかいけど色気がねぇよな!」
唐突に何言ってるの?
酔ってるんだろうか?
「こう、悩殺《のうさつ》っていうより、撲殺《ぼくさつ》って感じだよな!」
酔ってるんだな。
酔い覚ましに殴ってやろうか。
「で、もう一人の嫁《アードラー》さんはあれだろ? うちのイノスといい勝負だし。お前、好みが極端だよな」
別に、その部分の好みで選んだわけじゃないよ。
「それに比べて、マリノー。あれはもう、別次元の生命体だよな。パーフェクトだよ。いろんな部分がさぁ。そう思うだろ?」
声を潜めてルクスは言う。
流石にティグリス先生は怖いか。
「イノス先輩に言うよ?」
「冗談じゃねぇか」
ルクスは誤魔化すように笑った。
「アルエットは、どんな様子だ? 上手くやってるか?」
ふと、ティグリス先生とレオパルドの会話が耳に入る。
「はい。円満な関係だと思います」
「そうか……」
ティグリス先生は、レオパルドと話をしていた。
レオパルドはアルエットちゃんと結婚して、家を買ってそこで暮らしている。
ティグリス先生とは一緒に暮らしていない。
「職場も同じですからね」
レオパルドとアルエットちゃんは二人共教師をしている。
今、学校の闘技授業は男女に分かれているらしく、互いに男子と女子の教師をしているそうだ。
家庭科の授業も担当していて、それは二人で行なっているそうだ。
レオパルドがティグリス先生の所へ挨拶しにいった時は、流血沙汰の騒ぎに発展したそうだが……。
今は概ね上手くやれているようだ。
「なら、いいんだ。大事にしてやってくれ」
「はい」
話に参加できる雰囲気がじゃないな。
「水晶はこれ以上安くなりませんか?」
「これ以上は入力遅延が起こるからダメだ、とクロエさんが言っていましたよ」
次に、ムルシエラ先輩とヴォルフラムの話を聞く。
「そうですか……。欲をかいて品質を落とすべきではないですかねぇ」
「あの分野に関しては、クロエさんとチヅルさんの言う通りにするべきでしょうね。あれは、今までの技術に比べて、あまりにも異質過ぎます。口を出さない方がいいでしょう」
何か、難しい話をしているようだ。
仕事の話みたいだし、これも邪魔しちゃ悪いかな。
「暇そうだな。アルディリア」
「ヴァール王子」
声をかけられて応じる。
「暇なら、俺の話に付き合え」
「いいよ」
「オルカの事なんだが」
公然の秘密ではあるのだが、コンチュエリ先輩の息子であるオルカくんはこのヴァール王子の息子でもある。
「お前の目から見て、強くなっているか?」
「才能があって、飲み込みも早い子だからね。着実に強くなってるよ」
「当然だな」
ヴァール王子が満足そうに笑う。
「僕に聞くっていう事は、手合わせとかしないの?」
オルカくんはヴァール王子に勝つため、僕に稽古をつけてもらいにくる。
てっきり、しょっちゅう手合わせしているものと思っていたが。
この口ぶりだと、そんな事もないのかもしれない。
「まだ、足りぬと思っておるのだろう。無駄だと思う事はせぬ子だ。だから、自分がやれると思った時にしか来ないな」
「実際の相手と戦った方が相手の癖とか覚えられていいのに」
「嫌われているからな。あんまり会いたくないのだろう。会う時は、俺を叩きのめせると思った時だけだ。今の所は、返り討ちだが」
そういうものか。
「子供の話か?」
ルクスが参加してくる。
「最初はうちのエミユの方が強かったのに、あんたの息子の方が強くなってきてるみたいだな。そのせいか、イノスによく稽古つけてもらうようになったぜ」
「へぇ、そうなんだ」
確か、オルカくんもエミユちゃんも学園で最も強い四人の中に入っているんだっけ?
ちなみにその中でも一番強いのは僕の娘だ。
「稽古してない時も部屋で「小足が刺さる」とか「中段が見えない」とか言って、何かイメージトレーニングしてるぜ」
へぇ、勉強熱心なんだな。
ヤタも負けてはいないけれど。
「子供の話なら私も混ぜて欲しい」
リオン様が話に加わる。
「うちの子も学園に入学したんだが、上手く授業に追いついていけるか心配でな」
リオン様のお子さんは双子。
それも今まで旅暮らしで、中途入学という形で学園に入学した。
だから心配なのだろう。
「それは僕にはわかりませんけれど……。どうせなら、レオパルドに聞いてはどうでしょう? 彼は学園の教師ですし」
「それがいいな」
僕が提案すると、リオン様は頷いた。
「俺も聞こうか」
「俺も」
すると、ヴァール王子とルクスも賛同した。
レオパルドに、子供達の事について聞く事になった。
ティグリス先生とヴォルフラムくんもそれに参加し、そのまま飲み会は面談会のようになっていった。
そこから酔い潰れるまで、子供についての相談をしながら夜は過ぎていった。
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