気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
閑話 ヤタの
アドルフ・イングリットという少年がいる。
ちきしょーめー! とか。
大嫌いだ! とか声高に叫びそうな名前である。
演説と洗脳が得意そうだ。
苗字でわかる通り、ヴォルフラムくんの息子だ。
ヴォルフラムくんは私とアルディリアとアードラーが結婚した翌年に、アルディリアの紹介で知り合いの武家の子と結婚した。
名前は知らないが、父上の知り合いの家の子でもあるらしい。
結婚してすぐにアドルフくんが生まれ、歳はヤタの一歳下だ。
今現在、シュエット魔法学園では二年生である。
私もアドルフくんとは幼い頃から面識があった。
アルディリアとヴォルフラムくんが友達であるためたまに遊びに来ていたのだが、その時父親と一緒に当家へ遊びに来る事が多かった。
ヤタとアドルフくんは仲が良く、彼が来た時は私にべったりのヤタも離れて二人で遊んでいた。
それが少しばかり寂しかったのを憶えている。
あれから十五年。
アドルフくんは立派な青年に成長していた。
アドルフくんは私と同じぐらいの身長で、ヤタよりも身長は高かった。
その右目には眼帯をしている。
そして……。
「久し振りだな、ヤタ」
「貴様か……」
挨拶するアドルフくんに、ヤタは硬質な声で返した。
仁王立ちになり、表情も険しい。
アドルフくんに会うと、ヤタの様子がおかしくなる。
口調がおかしい。
態度もおかしい。
まるで、カナリオに対する私のようだ。
「何をしに来た?」
「親父の付き添いだ。商談が済めば、すぐに帰るさ」
アドルフくんはヴォルフラムくんについて我が家へ訪れた。
今日のヴォルフラムくんはアルディリアに個人的な要件があったらしく、今は二人応接室で話をしている。
「……茶ぐらいは出してやろう」
「構わない。すぐに帰るだろうからな」
「もてなしもできないとなれば、我が家の名折れとなる」
ヤタはアドルフくんにつんけんした態度のまま、リビングへ案内した。
子供の頃はこんな感じじゃなかったのに、どうしてこうなったんだろう?
ヤタは「仕方ないな」という様子でお茶を淹れに向かう。
そんなヤタを私は引き止める。
「私が淹れてこようか?」
「いえ、母上の手を煩わせるなんて……。これは、私がやります」
「ああ、そう……?」
にべもなく断られた。
ちょっと慌てた様子だ。
「淹れてきてやったぞ」
「ああ」
「茶菓子もあるぞ」
「ああ」
テーブル越しに、向かい合わせの形でソファに座る。
二人とも、それきり黙りこむ。
そんな二人を、私は少し離れた所からお茶を飲みながら眺めていた。
お茶はヤタが淹れてくれたものだ。
何だろう?
この空気。
しかし、アドルフくん。
いい声だな。
多分、プレイアブルキャラクターなんだろうな。
気だるげな感じで……。
かと思えば「粉砕! 玉砕! 大喝采!」とか猛々しく叫びだしそうな声だ。
「最近、調子はどうだ?」
ヤタが訊ねる。
「変わらんよ」
「そうか……」
会話が途切れた。
終わり?
「少しは愛想よくしたらだどうだ?」
ヤタが今の自分の事を棚上げしてそんな事を言った。
「そんなだから、人が寄ってこないんだ」
「お前こそ」
「我には友がいる」
「俺にだっているさ」
「そうなのか? 我は知らぬぞ」
「何でお前に言わなきゃならない?」
「ぬぅ……」
ヤタが唸る。
「とはいえ、その様子では女など寄ってくるまいな」
「そうでもないさ。むしろ、寄ってくるのは男より女の方が多い」
へぇ、モテるんだ。
カッコイイもんね。
眼帯とかして、厨二くさいし。
たまに封印した何かが暴れたりするんでしょう?
「何だと? 初耳だぞ」
「だから、何でお前に言わなきゃならない?」
「ぬぅ……」
ヤタが渋い顔で唸った。
ああ、わかっちゃったね。
母の勘がピンピン冴えてる。
多分、ヤタはアドルフくんの事が好きなんだ。
でも、素直になれなくてあんな態度になっているんだ。
ツンデレかっ!
もしかしてヤタは私の子じゃなくてアードラーの子じゃないのか?
いや、態度はもろカナリオに対する私だけど……。
じゃあ、もしかして私……。
カナリオの事を……。
ふん。
あんな虎のマスクを被ってガーガー言っている子なんて、なんとも思ってないんだからね!
「まぁ、今は興味がないからな。付き合おうなんて事は考えないか」
「そうか……」
ヤタは態度を崩さないように心がけているようだが、明らかにホッとした様子だった。
うーん、知らなかったなぁ。
ヤタがアドルフくんにねぇ……。
アドルフくんはどう思ってるんだろう?
「お前こそ、どうなんだ? 男が寄ってくる事はないのか?」
「ふん、くだらん。……寄ってくるのは女の方が多い」
アドルフくんが帰った後。
「ねぇヤタ。アドルフくんの事好きだよね」
聞いてみていいのか少し迷ったが、ヤタにダイレクトアタックしてみた。
「……!」
すごく驚かれた。
隠し通せてると思ったの?
「何の事でしょう?」
あんな驚愕の表情をとっておいてなお、しらばっくれようとするヤタ。
「そう……」
まぁ、知られたくないんだろうな。
本人を前にしても素直になれなくて、面白おかしくなっているようだし。
なら、母親としてあまりその部分には触れない様にしておこうか。
「ねぇねぇ、アドルフくんはヤタの事どう思ってるんだろう?」
「わかりません」
「ヤタの胸を見て「おっぱいぷるんぷるん!」とか思ってるのかな?」
「私のアドルフはそんな事言いません!」
そう。
アドルフくんは「ヤタの」なんだ。
その後。
ヴォルフラムくんが帰ってから、アルディリアと話をした。
「ねぇ、アルディリア」
「何?」
「ヤタって、アドルフくんの事が好きだよね」
「そうだねぇ。昔から、好きみたいだね」
アルディリアも知っていたらしい。
「成長するにつれて、ちょっとおかしな事になっていってるみたいだけど」
アルディリアは苦笑する。
「まるで、君とは逆だね」
「どういう意味?」
「昔の君は、今のアドルフくんに対するヤタみたいだった。僕はそれが怖かった。でも、成長するにつれて段々態度が柔らかくなっていったでしょ?」
それは、私が前世の記憶を取り戻したからだ。
それまでの私は、アルディリアへ厳しい態度をとり続けていた。
そっか……。
ヤタがその時の私みたいだったって事は、もしかしてもう一人の私《クロエ》もアルディリアが好きで、それでも素直になれなかったって事なのかな?
「アドルフくんはヤタの事どう思ってるんだろう?」
「多分、両想いじゃないかな?」
「根拠は?」
「好きじゃなければ、そう頻繁に会いに来ないと思うけど」
結構、この家に来てるって事か。
父親の付き添いと称して。
「そうなんだ……。婚約者にしようとは思わなかったの?」
アルディリアはまた苦笑した。
「そこは、僕のわがままみたいなものかな。……昔、いろいろあったからさ。僕としては、婚約者っていう関係に縛られずに、想いを伝え合ってそういう関係になってほしいんだ」
そういう事か。
確かにいろいろあった。
アルディリアは私の婚約者だったけれど、私に気持ちを伝えるために婚約を解消した。
それで、まぁややこしい事になっちゃったんだよね。
ヤタには、そういう苦労をさせたくないんだろう。
なら、私もその気持ちを尊重しよう。
私も、可愛い娘の恋愛を黙って見守る事にしようか。
まぁ、私達のケースはレアだし、そうそうそんな事にはならないとも思うけどね。
そういえば、アドルフくんは変身とかするのかな?
私がアールネスを出るまでは、まだヴォルフラムくんも変身能力を取り戻せていなかった。
でも、今はどうなんだろう?
後日。
「ねぇ、チヅルちゃん」
「何ですか?」
「アドルフくんってプレイアブルキャラクターじゃないよね」
「今の所は違いますね」
そう。
チヅルちゃんの記憶によって再現されたヴィーナスファンタジアセカンドエクストリームにおいて、アドルフくんはプレイアブルキャラクターではないのだ。
でも、確かアドルフは高貴な狼という意味があったはず。
「獣の名前がついているという事は、もしかしたら次回作のキャラクターなのかもしれないね」
「夢が広がりますねー」
私達二人は、今やプレイ不可能であろうヴィーナスファンタジアの続編に想いを馳せた。
やってみたいなぁ……。
ちきしょーめー! とか。
大嫌いだ! とか声高に叫びそうな名前である。
演説と洗脳が得意そうだ。
苗字でわかる通り、ヴォルフラムくんの息子だ。
ヴォルフラムくんは私とアルディリアとアードラーが結婚した翌年に、アルディリアの紹介で知り合いの武家の子と結婚した。
名前は知らないが、父上の知り合いの家の子でもあるらしい。
結婚してすぐにアドルフくんが生まれ、歳はヤタの一歳下だ。
今現在、シュエット魔法学園では二年生である。
私もアドルフくんとは幼い頃から面識があった。
アルディリアとヴォルフラムくんが友達であるためたまに遊びに来ていたのだが、その時父親と一緒に当家へ遊びに来る事が多かった。
ヤタとアドルフくんは仲が良く、彼が来た時は私にべったりのヤタも離れて二人で遊んでいた。
それが少しばかり寂しかったのを憶えている。
あれから十五年。
アドルフくんは立派な青年に成長していた。
アドルフくんは私と同じぐらいの身長で、ヤタよりも身長は高かった。
その右目には眼帯をしている。
そして……。
「久し振りだな、ヤタ」
「貴様か……」
挨拶するアドルフくんに、ヤタは硬質な声で返した。
仁王立ちになり、表情も険しい。
アドルフくんに会うと、ヤタの様子がおかしくなる。
口調がおかしい。
態度もおかしい。
まるで、カナリオに対する私のようだ。
「何をしに来た?」
「親父の付き添いだ。商談が済めば、すぐに帰るさ」
アドルフくんはヴォルフラムくんについて我が家へ訪れた。
今日のヴォルフラムくんはアルディリアに個人的な要件があったらしく、今は二人応接室で話をしている。
「……茶ぐらいは出してやろう」
「構わない。すぐに帰るだろうからな」
「もてなしもできないとなれば、我が家の名折れとなる」
ヤタはアドルフくんにつんけんした態度のまま、リビングへ案内した。
子供の頃はこんな感じじゃなかったのに、どうしてこうなったんだろう?
ヤタは「仕方ないな」という様子でお茶を淹れに向かう。
そんなヤタを私は引き止める。
「私が淹れてこようか?」
「いえ、母上の手を煩わせるなんて……。これは、私がやります」
「ああ、そう……?」
にべもなく断られた。
ちょっと慌てた様子だ。
「淹れてきてやったぞ」
「ああ」
「茶菓子もあるぞ」
「ああ」
テーブル越しに、向かい合わせの形でソファに座る。
二人とも、それきり黙りこむ。
そんな二人を、私は少し離れた所からお茶を飲みながら眺めていた。
お茶はヤタが淹れてくれたものだ。
何だろう?
この空気。
しかし、アドルフくん。
いい声だな。
多分、プレイアブルキャラクターなんだろうな。
気だるげな感じで……。
かと思えば「粉砕! 玉砕! 大喝采!」とか猛々しく叫びだしそうな声だ。
「最近、調子はどうだ?」
ヤタが訊ねる。
「変わらんよ」
「そうか……」
会話が途切れた。
終わり?
「少しは愛想よくしたらだどうだ?」
ヤタが今の自分の事を棚上げしてそんな事を言った。
「そんなだから、人が寄ってこないんだ」
「お前こそ」
「我には友がいる」
「俺にだっているさ」
「そうなのか? 我は知らぬぞ」
「何でお前に言わなきゃならない?」
「ぬぅ……」
ヤタが唸る。
「とはいえ、その様子では女など寄ってくるまいな」
「そうでもないさ。むしろ、寄ってくるのは男より女の方が多い」
へぇ、モテるんだ。
カッコイイもんね。
眼帯とかして、厨二くさいし。
たまに封印した何かが暴れたりするんでしょう?
「何だと? 初耳だぞ」
「だから、何でお前に言わなきゃならない?」
「ぬぅ……」
ヤタが渋い顔で唸った。
ああ、わかっちゃったね。
母の勘がピンピン冴えてる。
多分、ヤタはアドルフくんの事が好きなんだ。
でも、素直になれなくてあんな態度になっているんだ。
ツンデレかっ!
もしかしてヤタは私の子じゃなくてアードラーの子じゃないのか?
いや、態度はもろカナリオに対する私だけど……。
じゃあ、もしかして私……。
カナリオの事を……。
ふん。
あんな虎のマスクを被ってガーガー言っている子なんて、なんとも思ってないんだからね!
「まぁ、今は興味がないからな。付き合おうなんて事は考えないか」
「そうか……」
ヤタは態度を崩さないように心がけているようだが、明らかにホッとした様子だった。
うーん、知らなかったなぁ。
ヤタがアドルフくんにねぇ……。
アドルフくんはどう思ってるんだろう?
「お前こそ、どうなんだ? 男が寄ってくる事はないのか?」
「ふん、くだらん。……寄ってくるのは女の方が多い」
アドルフくんが帰った後。
「ねぇヤタ。アドルフくんの事好きだよね」
聞いてみていいのか少し迷ったが、ヤタにダイレクトアタックしてみた。
「……!」
すごく驚かれた。
隠し通せてると思ったの?
「何の事でしょう?」
あんな驚愕の表情をとっておいてなお、しらばっくれようとするヤタ。
「そう……」
まぁ、知られたくないんだろうな。
本人を前にしても素直になれなくて、面白おかしくなっているようだし。
なら、母親としてあまりその部分には触れない様にしておこうか。
「ねぇねぇ、アドルフくんはヤタの事どう思ってるんだろう?」
「わかりません」
「ヤタの胸を見て「おっぱいぷるんぷるん!」とか思ってるのかな?」
「私のアドルフはそんな事言いません!」
そう。
アドルフくんは「ヤタの」なんだ。
その後。
ヴォルフラムくんが帰ってから、アルディリアと話をした。
「ねぇ、アルディリア」
「何?」
「ヤタって、アドルフくんの事が好きだよね」
「そうだねぇ。昔から、好きみたいだね」
アルディリアも知っていたらしい。
「成長するにつれて、ちょっとおかしな事になっていってるみたいだけど」
アルディリアは苦笑する。
「まるで、君とは逆だね」
「どういう意味?」
「昔の君は、今のアドルフくんに対するヤタみたいだった。僕はそれが怖かった。でも、成長するにつれて段々態度が柔らかくなっていったでしょ?」
それは、私が前世の記憶を取り戻したからだ。
それまでの私は、アルディリアへ厳しい態度をとり続けていた。
そっか……。
ヤタがその時の私みたいだったって事は、もしかしてもう一人の私《クロエ》もアルディリアが好きで、それでも素直になれなかったって事なのかな?
「アドルフくんはヤタの事どう思ってるんだろう?」
「多分、両想いじゃないかな?」
「根拠は?」
「好きじゃなければ、そう頻繁に会いに来ないと思うけど」
結構、この家に来てるって事か。
父親の付き添いと称して。
「そうなんだ……。婚約者にしようとは思わなかったの?」
アルディリアはまた苦笑した。
「そこは、僕のわがままみたいなものかな。……昔、いろいろあったからさ。僕としては、婚約者っていう関係に縛られずに、想いを伝え合ってそういう関係になってほしいんだ」
そういう事か。
確かにいろいろあった。
アルディリアは私の婚約者だったけれど、私に気持ちを伝えるために婚約を解消した。
それで、まぁややこしい事になっちゃったんだよね。
ヤタには、そういう苦労をさせたくないんだろう。
なら、私もその気持ちを尊重しよう。
私も、可愛い娘の恋愛を黙って見守る事にしようか。
まぁ、私達のケースはレアだし、そうそうそんな事にはならないとも思うけどね。
そういえば、アドルフくんは変身とかするのかな?
私がアールネスを出るまでは、まだヴォルフラムくんも変身能力を取り戻せていなかった。
でも、今はどうなんだろう?
後日。
「ねぇ、チヅルちゃん」
「何ですか?」
「アドルフくんってプレイアブルキャラクターじゃないよね」
「今の所は違いますね」
そう。
チヅルちゃんの記憶によって再現されたヴィーナスファンタジアセカンドエクストリームにおいて、アドルフくんはプレイアブルキャラクターではないのだ。
でも、確かアドルフは高貴な狼という意味があったはず。
「獣の名前がついているという事は、もしかしたら次回作のキャラクターなのかもしれないね」
「夢が広がりますねー」
私達二人は、今やプレイ不可能であろうヴィーナスファンタジアの続編に想いを馳せた。
やってみたいなぁ……。
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