気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

時の女神編 後日談 いろいろとあって

 私は時の女神、トキを倒すために未来へ向かった。
 そしてシュエットの力を借りる事で、時の女神トキを封印する事に成功した。

 それから少し休み、私はクロノストーンで過去へ帰った。



 自宅に帰るとアルディリアとアードラーが待っていて、私が急にいなくなって心配していたという。
 どうやら私は、丸一日分未来に居たそうだ。
 倒した後の居眠りがそれくらい長かったという事なんだろう。

 過去ではまだ、謎の襲撃者について警戒が行なわれているようだった。
 二人は私がその襲撃者にやられてしまったのではないか、気が気じゃなかったらしい。

 私は襲撃者の件が解決した事を告げ、我が家に滞在していたリオン王子とカナリオは王都の住まいへ帰っていった。

 その後、自宅へイノス先輩が訪れ、私への説明を要求した。
 リオン王子とカナリオの警護としてつけられていた国衛院の隊員から、話を聞いたそうだ。

 彼女の話を聞いて初めて知ったのだが、どうやら後から未来に帰ってきた四天王二人は、それぞれ自分の親に勝負を挑んで負けたそうだ。

 二人共捕らえられ、留置場に寝かされていたのだが。
 白い闘技者に留置場が襲撃され、二人共連れ去られたそうだ。

 その事も含めて説明を要求された。

 知らんがな……。

 と言いたい所だが、私はある程度の事情を把握している。
 イノス先輩には絶対誰にも言わないよう口止めしてから、情報を出しすぎないよう事情を説明した。

「それでは、あの子は私の娘だと?」
「はい」
「本気で言っているのですか?」
「はい」
「……」

 懐疑的な目で見られた。
 結局、彼女は納得しない様子のまま帰っていった。
 多分、私の言葉を信用していない。

 誤魔化しているとでも思っているのだろう。
 まぁ、後々私が本当の事を言っているとわかってくれるだろうから、別に構わないのだが。

 具体的に、十五年後ぐらいに。

 でも、あの様子なら誰にも話さないと思われるので、都合がよかったかもしれない。


 それから襲撃者が再び現れる事は無く、事件の全貌を知る者が私以外にいない中、事態は収束していった。

 そして思う所があり、医院に行ってみると……。

 私の妊娠が発覚した。

 そして、十月十日ほどが経ち、私は女の子を産んだ。
 名前はヤタである。

 彼女の名前を決める際、私は本当に未来を変えられないのか? と思い立ち、彼女の名前を別の物に変えてみようと試みた。
 が……。

「子供の名前、ヤタがいいと思うんだ」

 とアルディリア。

「あら、私の考えていた名前と同じよ。奇遇ね。ヤタにしましょう」

 とアードラー。

「クロエ。孫の名前だが、ヤタにしないか?」
「私もお父さんも、二人共思いついた名前がそれでした。運命的な偶然だから、それが良いと思います」

 と両親。
 一度に四人が思い浮かぶなんて、運命なんて言葉が生ぬるく感じられる偶然だ。

 わかっている。

 これは歴史の強制力だ。
 未来が確定してしまっている結果だろう。
 抗う事は不可能らしい。

 できない事もないが、今度は陛下自らが家に来訪し「ヤタにするがよい」と下知を賜る未来が見えたので試さないでおいた。
 流石にそれ以上は抗えない。
 それに抗ったら幽閉されそうだ。

 そして、十数年ほど行方不明になるのだ。
 とばっちりを受けたアードラーと一緒に。

 そしてこの子は、私の可愛いヤタになったのである。



 ヤタが三歳の時、私は訳があってアールネスから出て行く事になった。
 それから十五年。
 具体的には割愛するが、いろいろとあって私はその間行方不明になった。
 そして、ようやく帰ってきた。

 ヤタを置いていく時。
 三歳までのヤタと過ごしていた私は、正直カナリオに未来の事を告げなかった事を激しく後悔していた。

 歴史を変えないとは決めたが、そのために彼女と離れる事が辛くてならなかった。
 けれど後悔した時には遅く、カナリオが行方不明になっていたので未来が変えられなくなっていたのである。

 それでも何とか抗ってやろうと思ったのだが、努力も虚しく私は行方不明になった。
 それからいろいろあって、長い年月をかけてアールネスへ帰って来たのである。

 長い冒険だった。
 ちなみに道中で私と同じく行方不明になっていたリオン王子とカナリオとも合流した。
 なので、二人も一緒にアールネスへ帰って来ている。
 二人の間には、双子の子供ができていた。
 二人共赤毛である。

 子供と言えば、一緒に旅をしていたアードラーも子供を産んだ。
 もちろん、アルディリアの子供である。
 道中で産気づき、女の子を出産したのだ。

 その子も大きくなり、今では元気に奇声を上げながら毎日踊っている。
 この世界ではまだ前衛的で受け入れがたい物だが、その子は自分の確立した新しい歌と踊りを広めていきたいという夢を持っていた。

 きっとできるよ。
 目指せ、クイーン・オブ・ポップ!

 ヤタは、その見た目奇抜な妹にまだ馴染めないようだ。
 根はいい子だから、すぐに仲良くなれると思うけど。

 そんなこんなで、私はヤタと再会した。

 どういうわけか、久し振りに実家の自室に行くと机の上に私とアードラーの同人誌が置いてあった。
 それはとても恥ずかしかったが、そんな事はどうでもいい。
 これから愛しい娘と一緒にいられるなら、そんな事は些細な事である。



 帰って来てから、チヅルちゃんにも会った。
 町を散歩している時に、たまたま遭遇したのだ。

「ドーモ、チヅル・カカシ=サン。クロエ・ビッテンフェルトです」
「ドーモ、クロエ・ビッテンフェルト=サン。チヅル・カカシです」

 丁寧に挨拶を交わす。
 でなければ、スゴイシツレイにあたるのだ。

「思ったより老けてないですね」

 過去で会った時から思っていたけれど、チヅルちゃんって言葉に遠慮がないよね。

「第五の力……じゃなくて、魔法の力だよ。闘技者ならわかると思うけれど、全身の筋肉繊維を魔力で補う技術って体の部位ならどこにでも応用できるんだよね」
「マジですか?」
「マジですのん。父上……ヤタのお爺ちゃんも思っていたほど老けてなかったからね。魔力の筋肉繊維で補強していると、体が弛《たる》み難《にく》くなるんだよ。多分」

 久し振りに会ったパパは思ったほど老けていなかった。
 白髪が増えた程度だ。
 それも髪の色が灰色なので、あんまり目立たない。

 でも、何故か母上の見た目にも変化が感じられないんだよね。
 相変わらず幸薄そうな顔をしたほっそり母上である。
 髪は今でも黒々としているし。
 あれは何故かわからない。

 もしかしたら、魔力持ちならみんな老けにくい?

 まぁ、筋肉が関係しない肌の衰えだけは誤魔化せないんだが……。

「これなら、お姉様とお呼びしてもいいかもしれませんね」
「呼ぶがいいさ。……そういえば私が帰ってきたのって、過去の私がトキを倒しに行った直後なんだって?」
「そうですわね。お姉様。ヤタが目を覚ました頃ですと、そのぐらいではないかしら」

 あら、さっそくお姉様扱いしてくれているわ。
 可愛い子ね。

 私もお上品に対応しましょうかしら。

「そう、同じ時期の近い場所に私が二人存在したわけですのね。もしかして、それってお危なかったのかしら? 別の時代の同じ人間同士が触れ合うとお消滅するなんて話も聞きますし」

 昔見たSF映画では融合して、ドロドロになって消滅していた。
 あんな死に方はしたくない。

「それは大丈夫だと思いますよ、クロエさん」

 姉妹ごっこは終わりか。
 話しにくいからいいけど。

「どうして?」
「過去で、アルエット先生が道を歩いている時に子供とぶつかったらしいんですけれど。その相手が子供の頃の自分だったそうです」

 あの映画の法則が適応されていたら即死だったね。

「そもそも、その法則そのものが怪しいのですが……」

 そう前置きして、チヅルちゃんは自分の考察を語りだす。

「たとえその法則が正しくても過去へ私達が向かった時点で、私達が未来で存在している事は確定されています。
 そして、人間に歴史を変える事はできません。
 つまり、アルエット先生同士が接触しても消滅したとしても、そうなると歴史が変わってしまうので消滅しないと思うんです」
「じゃあ、運命も時も変えられるカナリオがぶつかり合うと消滅するかもしれないって事?」
「いえ、そうならないと思いますよ。
 もし消滅するような事があったなら、アルエット先生には過去の自分と出会わないように歴史の強制力が働くと思うんです。
 でも接触する事ができたという事は、そもそも消滅するという法則は無いのだと思います」

 ややこしいな。
 まぁつまり、同一存在がぶつかり合って消えるような事があるならば、そもそも出会う事ができない。
 でも、出会えたという事は消滅するという法則が最初から存在しない。
 そういう事か。

「なるほどねぇ。そういえば、ヤタの強化服に残っていた傷なんだけど、どうやらヤタが過去の私の胸を殴ってつけたものみたいなんだよ。つまりこれって、ヤタが過去へ行く事は歴史的な必然でもあったって事だよね」
「そんな事があったんですか? へぇ、面白いですね」

 チヅルちゃんは楽しそうに言う。
 もしかしたら彼女は、SFが好きなのかもしれないな。

「そういえば、イノス先輩の娘さんって無事なの?」
「エミユですか? 無事ですよ」

 よかった。
 過去に戻ってから具体的に何をしたのか聞いて、少し気になっていたのだ。
 後遺症とか残っていないか心配だった。

 あの技って、私が冗談で教えた技を先輩が改良したものだし……。

「治療を受けて一日で、そこには元気に走り回るエミユの姿がありました」

 先輩の娘も頑丈なんだね。

「元々母親嫌いの子だったんですが、何故か今は少しだけ仲が良くなったようですよ」
「ふぅん」

 エミユちゃんは過去の世界でイノス先輩と戦ったらしい。
 その際に、あの良い子が真似してはならない類の技をかけられた事は間違いない。
 それでも仲良くなったの?

 先輩の娘、ドMなのかな?

「そういえば、オルカくんだっけ? エミユちゃんと一緒に倒れてた男の子」
「はい。そうですね。彼が何か?」
「彼が最近、アルディリアに稽古をつけてもらいに来るようになったんだよ。その関係でたまに話をするけれど、勤勉ないい子だね。あの王子の子供だとは思えないよ」
「ああ、そうなんですか。そういえば最近、父親にも会いに行っているそうですね。生まれてから一度も会った事がなかったらしいのに」

 きっと過去の王子と何かあったんだろうな。

「それにしても、なんかますます強そうになりましたね」

 チヅルちゃんが話題を変える。
 私の身体を見ているので、私の事を言っているのだろう。

「脂肪が減って、筋肉量が増えたからね。いろいろな経験を積んで、見た目だけじゃなく中身も強くなってるよ」
「そこら中で喧嘩したり、珍しい物を飲み食いしたりして経験値を稼いだんですね?」

 どこの四代目だ。

「まぁ、私が言いたかったのはむしろこっちなんですけれどね」

 言いながら、チヅルちゃんは自分の鼻を指す。

 私の鼻には傷ができている。
 それを示しているのだろう。

「ま、いろいろあったからね」
「いったい、今まで何をしていたんですか?」
「普通に帰ろうとしていたよ。ただ、少し遠い場所まで行っていたから、帰るのが遅くなっただけだよ。長い旅路だったなぁ。本当にいろいろな事があったよ」
「とか言いつつ「旅の想い出がこれしかねぇ」ってカップ麺の写真を見せてくれるんでしょう?」
「?」

 どういう意味だろう?

 不思議そうな顔をすると、チヅルちゃんが少しがっかりとした表情になった。

「ああ、その時には死んでいたんですね」

 何だろう?
 多分、ネタか何かだったんだろうけど。

 新しいカップ麺のCMがネタになるくらい面白かったとか?

 応えられなくて残念だ。
 知っていたら、きっと楽しい会話になったんだろう。

「まぁ、いつか聞かせてくださいよ。ゲームのクロエさんもVF2(ヴィーナスファンタジアセカンド)の頃から行方不明だったので、気になっていたのですよ」

 そんな略し方をされると、まるで名作3D格闘ゲームみたいだね。

「わかった。でも、チヅルちゃんに話すのは、まだまだ先になると思うよ」
「どうしてですか?」
「今はヤタに話してあげているからだよ。とても長い話だからね。時間がかかるんだ。話すとしたら、その後になる」
「そうですか」

 チヅルちゃんは笑う。

「じゃあ、なるべく時間をかけて話してあげてください。今まで一緒に居られなかった分、ゆっくりと……」
「うん。そのつもりだよ」

 私達は笑い合い、その場で別れた。

 家に帰ると、ヤタが門の前で待っていた。
 私を見つけると、駆け寄ってくる。

「母上! おかえりなさい」
「ただいま。待っててくれたの?」
「はい。母上にお願いがありまして」
「何?」
「稽古をつけてくれませんか? 母上の技を教えてください」
「いいよ」

 私は一緒に門を通り、庭で組み手をした。
 日が沈むまで、ずっと。

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