気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

閑話 怪盗大作戦 前編

 その日、私はある貴族の邸宅へ招かれていた。

 理由は、警備の協力をアルマール公より頼まれたからである。

 私はアルディリアとアードラーを伴って、その貴族の屋敷へと訪れた。

 みんな動きやすい服を着て、各々最低限の武装をしていた。
 私とアルディリアは手甲、アードラーは腰にダガーナイフを佩いている。
 それに加えて、アルディリアは鞄を持っていた。

「おう。待ってたぜ」

 貴族の邸宅に着くと、玄関ホールでルクスとイノス先輩が出迎えてくれた。

「ご協力ありがとうございます」

 イノス先輩が頭を下げてくれる。

「いえ、アルマール公にはいろいろとお世話になっていますから。少しでもそのご恩返しをできれば、と」

 私は先輩に答えた。

「お前らも一緒なんだな」
「悪いかしら?」

 ルクスの言葉にアードラーが刺々しく返す。

「うん。万全を期した方がいいんじゃないかと思って」

 まぁまぁ、とアードラーを制しながらアルディリアが答えた。

「とか言って、嫁さんが心配だっただけなんじゃないのか?」
「それもあるけれどね。クロエなら大丈夫だとは思うんだけど、それでも心配でね」

 嬉しい事言ってくれるじゃないの。

「しかしアルディリア……。お前、なんか痩せたな」
「そうかな?」

 ルクスの言いたい事はわかる。
 最近のアルディリアはちょっとやつれた感じがする。

 最近の彼は某世紀末病人のような佇まいをしており、儚さのあるほっこりとした笑い方をよくする。

 結婚してから寝る時は三人一緒なのだが……。

 多分それは関係ないだろう。
 事実関係は一切確認されていない。

「でも、お前らが来てくれたなら本当に万全だ。ビッテンフェルト家の三人が警護に着いていれば、あの暗黒の宿命へ反逆する闇よりもなお暗い黒の執行者もやすやすと取り逃がさなくて済むな」

 誰やねん!

 もうそれわざと間違ってるでしょ。
 ネタでしょ。

「漆黒の闇に囚われし黒の貴公子です」

 イノス先輩がルクスの間違いを訂正した。

 そう。
 この屋敷は今、漆黒の闇(略)に狙われているのだ。



 事の起こりは三日ほど前。
 ある貴族の家に、脅迫状が届いた。
 内容は――

「三日後の夜9時。
 あなたの家にあるアルトランの壷をいただきに上がります。
 漆黒の闇に囚われし黒の貴公子」

 という物だ。

 その脅迫状は国衛院にも届けられ、国衛院はすぐさま貴族の屋敷を警護するよう動いた。
 貴族自身は国衛院を家に入れる事を渋ったが、漆黒の闇(略)の話を聞くと渋々ながら警護を任せる事になった。
 ただ貴族は公爵位の者であり、彼の人脈は国の政治へ深く関わっていた。
 その壷も大層大事なものらしく、失敗すれば国衛院への重い処分が予想される。
 そのため失敗が許されない。
 なのでアルマール公は万全を期すために、私へ警護を頼んだわけである。



 私達は、二人に壷のある部屋へ案内された。

 部屋は美術品の展示するためのものらしく、目的の壷だけでなく様々な美術品が飾られていた。

 その部屋の中央には特別な台座があり、そこには壷が一つ置かれていた。

 丸みを帯びた何の変哲もない壷だった。
 大きな口には、蓋が被せられている。

 その壷が載った台座を四名の国衛院隊員が警護していた。
 ルクスとイノスに気付いて、隊員達が敬礼した。

「これが例の壷? これってそんないい物なの? 価値がわからないんだけど」
「アルトランは有名な芸術家よ。絵画や彫刻とその分野は幅広く、こういった壷なんかもいくつか作っているわ。ただ、変り種を好んでいたとも聞くわね。一見して普通の壷に見えても、何か工夫が成されているのではないかしら?」

 アードラーが説明してくれる。

「ほう、小娘の癖によく知っているじゃないか」

 ダミ声に振り返ると、小太りの老人が部屋に入ってくる所だった。
 多分、この家の貴族。
 公爵だろう。

「それが助っ人という奴か……」

 値踏みするように、公爵はジロジロと私達を見てくる。

「この女二人を侍らせた優男《やさおとこ》が頼りになるようとは思えんがな」

 吐き捨てるように言う。

 何か言おうとするイノス先輩だったが、それを止めてルクスが答える。

「お言葉ですが、この方々はビッテンフェルト家の者です。皆、武に秀でた者達です。少なくとも、私では相手にならない程の腕を持っています」
「ふん。親の七光りで隊を任されるような者のお墨付きに何の意味がある? そんな事よりも、命に代えても壷を守れよ。できなければ、責任を追及するからそのつもりでいろ。国衛院と言えどもただではおかんからな! いいな?」

 不機嫌そうにまくし立てると、公爵は部屋から出て行った。

「くそむかつくジジィだぜ……」

 ルクスは呟くように悪態を吐く。

「旦那様、あの方のお相手は私が……」
「隊長は俺だ。お前は副隊長として部隊と作戦の事だけ考えてろ」
「はい」

 ツンデレフィルター解除!

 お前に嫌な思いはさせたくねぇんだよ。

 って所かな?

「何をニヤついてるんだよテメェは?」
「別に……。それより、他の警備状況はどうなっているの?」

 私はルクスに訊ねた。

「あー、警備な。そうだな……」

 すると、イノス先輩が代わって答える。
 こういう時は素直に代わるんだね。

「屋敷の各所と屋敷の庭には人員を配置済みです。それに、屋根の上にも人員を割き、照明器具も配備しています。彼は空から来る事もあるので侵入は容易でしょうが、一度でも入ってしまえば出る事はできないでしょう」
「ずいぶん気合入ってるね」
「ええ。失敗できませんから。他の隊からも人員を回して貰えました。せっかくなので決着をつけるつもりですよ」

 なるほどねぇ。

 彼らと漆黒の闇(略)の戦いは、三年近く前から続いている。
 因縁はとても深いのだ。

 だから、今回はその因縁に終止符を打ついい機会なのだ。

 じゃあ漆黒の闇(略)として、私も気合を入れて行くとしようかな。

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