気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
百四話 耳がぁ……
息抜きに外へ出たら、ヴァール王子が木の上にいた。
王子は木の上から、私の目の前へ下り立つ。
「王子、どうしてここに?」
「なぁに、リオン王子も俺の国に来たではないか。それと同じだ」
そういえばそうだ。
親善の証として、互いの国の王子を互いの国の行事へ参加させる事になっているのだ。
前に、リオン王子がサハスラータの舞踏会へ行ったが、それと同じという事だ。
そういえばゲームでもこの時期に来ていたな。
カナリオへちょっかいをかけに……。
ゲームだったら今頃のカナリオは、アードラーにイジメられたり、王子とくっつきそうでくっつかなかったり、とプレイヤーをやきもきさせていたはずだ。
今までどういうわけかそんな事もなかったが、ついにカナリオを狙って動き出したか。
まぁ、もう遅いわけだが。
本来なら一年かけて関係を構築するのだが、いろいろと前倒しになって二人は婚約している。
その関係は誰も割り込めないくらいに強固な物になっているのだ。
「王子、不法侵入ですよ」
とりあえず、まだ文化祭の始まっていない学園内にいた事を指摘しておく。
「どうでもよかろう」
よくないよ。
ここはアールネスなのだから、王子様的行動を控えてほしい。
「しかし、どうしたのだ? その格好は」
ヴァール王子は私の姿を見て訊ねる。
誤魔化すふうでもなく、自然体で言う所がなんとも王子様らしい。
何も悪い事はしていないという風情だ。
今の私は黒いジャケットと白いシャツ、黒いスラックスのスーツ姿だ。
きっちりと着込んでいるので、へそは出ていない。
髪は後ろでポニーテールになっている。
「それに、その目……。お前に手傷を負わせる相手がいたのか?」
私の右目は、ヴォルフラムくんの血の影響で金色になっている。
それを隠すための眼帯がなされていた。
「この格好はクラスの出し物で着る衣装です。眼帯は、ちょっと物貰いでして……」
「まるで男のようだな」
「まぁ、そう見えるように着ているわけでして……」
「面白い趣だな」
でしょう?
「で、だ。こうして足を運んでみたのだが、護衛とはぐれてしまってな。せっかくだから、この国で一番信用できる人間に案内を頼みたいと思ったのだが」
ここで待ち合わせしていたのかな?
でも、一人で物騒だな。
「では、その方が来るまで一緒にいましょうか」
「いや、もう良い」
「どうしてです?」
「もう来たからだ」
そう言って、王子が私を指差す。
私の後ろから来ているのだろうか? と体を捻って後ろを見る。
誰もいない。
王子に向き直ると、指は相変わらず私を指している。
指先から逃れようと体を動かすと、やはり指は私を向く。
「……私、ですか?」
「ああ。その通りだ」
「何で私なんです?」
「お前ならば安心だ」
何だかよくわからんがすごい信頼を感じる。
うーん、どうしよう?
他国の王子様と一緒っていうのは少し不安だ。
案内する分には構わないのだが……。
ヴァール王子に何かあったら国際問題に発展するかもしれない。
その時に私が一緒にいたとなれば、私の責任になってしまいそうだ。
恐ろしい。
「何を迷う?」
不意に王子は私に近づき、耳元へ口を寄せる。
「あの名高きビッテンフェルト家の令嬢ともあろう者が、これくらいの事で怖気づいているのか?」
何で耳元で囁いたし?
それはいいとして、挑発のつもりですか?
でも男の子じゃあるまいし、そんな事を言われても私は「何をーっ!」と挑発に乗るような事はしないからね。
「そんな所ですね」
平然とした調子で答える。
実際怖いし。
面白く無さそうな顔をするヴァール王子。
が、すぐにその顔は嗜虐的な笑みを作り出した。
「ふむ。そういえば、面白い噂を聞いたのだが。この国のある侯爵令嬢は今でも父親と風呂を共にしているという……。他国の情報ゆえ、まだ王族しか知らぬ情報だが……」
ニヤニヤと笑いつつ、惚けた口調で言う。
「わかりました。喜んで案内役をさせていただきます」
あっさりと私は屈した。
「そう言ってくれると信じていたぞ」
というより、そんな噂が広まっているなんて初耳なんですが!?
サハスラータにまで情報が渡っているという事は、当然アールネスにも噂は蔓延しているはずだ。
ちくしょうっ!
どこの誰がそんな噂を広めやがった!
……父上だな……。
どうしてくれようか……。
それは後で考えるとして、今はヴァール王子の事だ。
このまま独断で王子を案内するのは恐ろしいので、一度ムルシエラ先輩に判断を仰ごう。
外交官でもある先輩に話を通しておけば、何かあった時にも対処はしやすいはずだ。
私はヴァール王子と一緒にムルシエラ先輩の教室へ向かう事にした。
ヴァール王子を連れてムルシエラ先輩の教室へ向かう途中、文化祭は始まったらしい。
校舎の窓から校門を見ると、まばらではあるが生徒関係者らしき人々が学園内へ入り始めていた。
先輩の教室に着く。
どうやら先輩のクラスでは、魔術具の展示を行なっているようだった。
それぞれの生徒が、個人もしくは合作で作った物を展示しているらしい。
もう文化祭は始まっているので、お客として教室内に入る。
「ふむ。あまり目新しい物はないな。うちの国とそう大差ない」
展示物を見ながらヴァール王子が言う。
けれど、ある展示物を見て好奇心をあらわにする。
「お、これは凄いな」
その展示物は、先輩が出展したらしき音響装置だ。
劇で使われる予定の物よりもやや簡素なので、試作品か何かかもしれない。
というより、ここに他国の王子を連れてきてよかったんだろうか?
技術の流出とかしないだろうか?
そんな心配をしている時、私はムルシエラ先輩を見つけた。
向こうもこちらに気付いており、近付いてきてくれる。
「どうかしましたか?」
「はい。実は……」
私はヴァール王子を示す。
「なるほど」
それだけで先輩は察してくれたようだ。
「私に案内役を頼みたいという事なのですが……。どうしましょうか?」
「あなたなら問題ないと思いますね」
ええ?
マジで?
うわっ…私の信頼、高過ぎ……?
「でも、一応一緒について行きましょうか」
私の不安顔に気付いて、先輩は笑顔でそう提案してくれた。
「ありがとうございます」
いろいろと問題もあるけれど、何だかんだで先輩は頼りがいのある男。
頼りGUYである。
「それで、大丈夫なんでしょうか? 他国の人間をここへ連れてきて……。技術の流出とかしませんか?」
「それは大丈夫です。だいたいは既存技術で作られた物ですし、あの音響装置だって知られた所で使用の場は限られていますからね。ヴァール王子が来る事は把握していましたので、出す物は事前にちゃんと吟味していますよ」
先輩がそう言ってくれるなら安心か。
「そういう関係で、私も何を出せばいいか悩んでいたのですが……。あなたが音響装置の案を出してくれて助かりました。あまり先進技術を出してはならないといえ、ヴェルデイド家の者としてはあまり無難過ぎる物も出せませんからね」
「変身装置を出せばよかったのではありませんか?」
先輩は私の耳へ顔を近づけた。
「あれは軍事転用できるじゃないですか。サハスラータに持って行ったあれは、その完成形でしょう?」
私の耳元で、囁くように告げる。
ヴァール王子に聞こえないよう言ったのだろうが、色気のある美声に顔が火照る。
カナリオの気持ちがわかった。
これは別に好きじゃなくても赤くなるわ。
もう何なんだ、この人達は……。
何で耳元で囁きたがる?
「気付いていたんですね」
先輩からちょっと距離を取って返す。
「ええ。もちろん。だから、他では漏らさぬようにお願いします」
「はい」
こうして、ヴァール王子の案内をする事になった私は、ムルシエラ先輩をお目付け役として文化祭を見て回る事になった。
王子は木の上から、私の目の前へ下り立つ。
「王子、どうしてここに?」
「なぁに、リオン王子も俺の国に来たではないか。それと同じだ」
そういえばそうだ。
親善の証として、互いの国の王子を互いの国の行事へ参加させる事になっているのだ。
前に、リオン王子がサハスラータの舞踏会へ行ったが、それと同じという事だ。
そういえばゲームでもこの時期に来ていたな。
カナリオへちょっかいをかけに……。
ゲームだったら今頃のカナリオは、アードラーにイジメられたり、王子とくっつきそうでくっつかなかったり、とプレイヤーをやきもきさせていたはずだ。
今までどういうわけかそんな事もなかったが、ついにカナリオを狙って動き出したか。
まぁ、もう遅いわけだが。
本来なら一年かけて関係を構築するのだが、いろいろと前倒しになって二人は婚約している。
その関係は誰も割り込めないくらいに強固な物になっているのだ。
「王子、不法侵入ですよ」
とりあえず、まだ文化祭の始まっていない学園内にいた事を指摘しておく。
「どうでもよかろう」
よくないよ。
ここはアールネスなのだから、王子様的行動を控えてほしい。
「しかし、どうしたのだ? その格好は」
ヴァール王子は私の姿を見て訊ねる。
誤魔化すふうでもなく、自然体で言う所がなんとも王子様らしい。
何も悪い事はしていないという風情だ。
今の私は黒いジャケットと白いシャツ、黒いスラックスのスーツ姿だ。
きっちりと着込んでいるので、へそは出ていない。
髪は後ろでポニーテールになっている。
「それに、その目……。お前に手傷を負わせる相手がいたのか?」
私の右目は、ヴォルフラムくんの血の影響で金色になっている。
それを隠すための眼帯がなされていた。
「この格好はクラスの出し物で着る衣装です。眼帯は、ちょっと物貰いでして……」
「まるで男のようだな」
「まぁ、そう見えるように着ているわけでして……」
「面白い趣だな」
でしょう?
「で、だ。こうして足を運んでみたのだが、護衛とはぐれてしまってな。せっかくだから、この国で一番信用できる人間に案内を頼みたいと思ったのだが」
ここで待ち合わせしていたのかな?
でも、一人で物騒だな。
「では、その方が来るまで一緒にいましょうか」
「いや、もう良い」
「どうしてです?」
「もう来たからだ」
そう言って、王子が私を指差す。
私の後ろから来ているのだろうか? と体を捻って後ろを見る。
誰もいない。
王子に向き直ると、指は相変わらず私を指している。
指先から逃れようと体を動かすと、やはり指は私を向く。
「……私、ですか?」
「ああ。その通りだ」
「何で私なんです?」
「お前ならば安心だ」
何だかよくわからんがすごい信頼を感じる。
うーん、どうしよう?
他国の王子様と一緒っていうのは少し不安だ。
案内する分には構わないのだが……。
ヴァール王子に何かあったら国際問題に発展するかもしれない。
その時に私が一緒にいたとなれば、私の責任になってしまいそうだ。
恐ろしい。
「何を迷う?」
不意に王子は私に近づき、耳元へ口を寄せる。
「あの名高きビッテンフェルト家の令嬢ともあろう者が、これくらいの事で怖気づいているのか?」
何で耳元で囁いたし?
それはいいとして、挑発のつもりですか?
でも男の子じゃあるまいし、そんな事を言われても私は「何をーっ!」と挑発に乗るような事はしないからね。
「そんな所ですね」
平然とした調子で答える。
実際怖いし。
面白く無さそうな顔をするヴァール王子。
が、すぐにその顔は嗜虐的な笑みを作り出した。
「ふむ。そういえば、面白い噂を聞いたのだが。この国のある侯爵令嬢は今でも父親と風呂を共にしているという……。他国の情報ゆえ、まだ王族しか知らぬ情報だが……」
ニヤニヤと笑いつつ、惚けた口調で言う。
「わかりました。喜んで案内役をさせていただきます」
あっさりと私は屈した。
「そう言ってくれると信じていたぞ」
というより、そんな噂が広まっているなんて初耳なんですが!?
サハスラータにまで情報が渡っているという事は、当然アールネスにも噂は蔓延しているはずだ。
ちくしょうっ!
どこの誰がそんな噂を広めやがった!
……父上だな……。
どうしてくれようか……。
それは後で考えるとして、今はヴァール王子の事だ。
このまま独断で王子を案内するのは恐ろしいので、一度ムルシエラ先輩に判断を仰ごう。
外交官でもある先輩に話を通しておけば、何かあった時にも対処はしやすいはずだ。
私はヴァール王子と一緒にムルシエラ先輩の教室へ向かう事にした。
ヴァール王子を連れてムルシエラ先輩の教室へ向かう途中、文化祭は始まったらしい。
校舎の窓から校門を見ると、まばらではあるが生徒関係者らしき人々が学園内へ入り始めていた。
先輩の教室に着く。
どうやら先輩のクラスでは、魔術具の展示を行なっているようだった。
それぞれの生徒が、個人もしくは合作で作った物を展示しているらしい。
もう文化祭は始まっているので、お客として教室内に入る。
「ふむ。あまり目新しい物はないな。うちの国とそう大差ない」
展示物を見ながらヴァール王子が言う。
けれど、ある展示物を見て好奇心をあらわにする。
「お、これは凄いな」
その展示物は、先輩が出展したらしき音響装置だ。
劇で使われる予定の物よりもやや簡素なので、試作品か何かかもしれない。
というより、ここに他国の王子を連れてきてよかったんだろうか?
技術の流出とかしないだろうか?
そんな心配をしている時、私はムルシエラ先輩を見つけた。
向こうもこちらに気付いており、近付いてきてくれる。
「どうかしましたか?」
「はい。実は……」
私はヴァール王子を示す。
「なるほど」
それだけで先輩は察してくれたようだ。
「私に案内役を頼みたいという事なのですが……。どうしましょうか?」
「あなたなら問題ないと思いますね」
ええ?
マジで?
うわっ…私の信頼、高過ぎ……?
「でも、一応一緒について行きましょうか」
私の不安顔に気付いて、先輩は笑顔でそう提案してくれた。
「ありがとうございます」
いろいろと問題もあるけれど、何だかんだで先輩は頼りがいのある男。
頼りGUYである。
「それで、大丈夫なんでしょうか? 他国の人間をここへ連れてきて……。技術の流出とかしませんか?」
「それは大丈夫です。だいたいは既存技術で作られた物ですし、あの音響装置だって知られた所で使用の場は限られていますからね。ヴァール王子が来る事は把握していましたので、出す物は事前にちゃんと吟味していますよ」
先輩がそう言ってくれるなら安心か。
「そういう関係で、私も何を出せばいいか悩んでいたのですが……。あなたが音響装置の案を出してくれて助かりました。あまり先進技術を出してはならないといえ、ヴェルデイド家の者としてはあまり無難過ぎる物も出せませんからね」
「変身装置を出せばよかったのではありませんか?」
先輩は私の耳へ顔を近づけた。
「あれは軍事転用できるじゃないですか。サハスラータに持って行ったあれは、その完成形でしょう?」
私の耳元で、囁くように告げる。
ヴァール王子に聞こえないよう言ったのだろうが、色気のある美声に顔が火照る。
カナリオの気持ちがわかった。
これは別に好きじゃなくても赤くなるわ。
もう何なんだ、この人達は……。
何で耳元で囁きたがる?
「気付いていたんですね」
先輩からちょっと距離を取って返す。
「ええ。もちろん。だから、他では漏らさぬようにお願いします」
「はい」
こうして、ヴァール王子の案内をする事になった私は、ムルシエラ先輩をお目付け役として文化祭を見て回る事になった。
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