気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

九十話 追いつかれてはいけないシュエット学園

 学園の廊下を歩いている時。
 私は前方にある集団を発見した。

 向こうもこちらに気付いた。
 そして、すぐに踵を返して走り出した。

 私は追いかける。

 その集団と言うのは、前にアードラーを嵌めようとした令嬢集団の事である。
 私はそいつらを見かけると、追いかけ回すようにしていた。

「ヒャッハーッ!」
「キャアアアアアァッ!」
「食っちまうぞーっ!」
「ギャアアアアアアァッ!」

 令嬢達も慣れたもので、私が走り出すのとほぼ同時に逃走を始める。
 もう条件反射のようなものだ。

 私は令嬢達に追いつかないよう、なおかつ危機感を覚えさせる距離を維持して追いかける。
 そしてへとへとになるまで追いかけて、頃合を見て見逃すのだ。
 それが私なりの報復である。

 我が友の味わった苦しみを思い知るがいい!

 が、今日はいつもと違った。

 最後尾を走っていた令嬢が、前を走っていた令嬢から押されて転んだ。

 あ、囮作戦だ。

 私は転がされた令嬢の前で立ち止まった。

 令嬢は起き上がり、私を見て言葉を失った。
 表情に怯えを張り付かせ、ぺたりと座り込んだ。
 腰が抜けたようだ。

 さて、普段から「食っちまう」なんて事を言っているわけだが、実際に追いついてしまったらどうすればいいのだろうか?

 とりあえず張る?

 私は平手を上げる。
 令嬢の表情が怯えから絶望に変わる。

 ここまで恐がられると逆にかわいそうになってきた。

「何をしているのだ? クロエ嬢」

 そんな時に、声をかけられた。
 振り返ると、リオン王子が立っていた。
 王子の視線が、私からへたり込む令嬢へ向けられる。
 王子の表情が険しくなった。

「その者は、アードラーを貶めようとした者の一人だな?」

 王子は令嬢に迫り、見下ろした。

「そなたらは、何故あのような事をした? カナリオを害し、その罪をアードラーに擦り付ける。何故、あのような卑劣な事をしたのだ!」

 王子が怒鳴りつけると、令嬢は「ひぃ」と小さく悲鳴を上げた。

「お許しください! 仕方なかったのです!」
「仕方ない事な物があるか!」

 王子の怒りを爆発させ、令嬢に掴みかかろうとする。

「ダメです。王子。怒りを納めてください」

 王子は私を睨みつける。

「そなたは、この者を許せと言うのか?」
「許される事ではありませんよ。少なくとも、私は許せない。でも、陛下は言っていたでしょう? この方達の罪は、全て王子が背負うように、と」

 その事は、嘘を見抜けなかったリオン王子が悪いから、と陛下はそう言い渡したのだ。

 王子は押し黙る。

「陛下が決めたのなら、本来この子に罪は無いんです」
「それは、そうだ……。だが……」

 納得できない。
 その言葉を王子は飲み込んだのだろう。

 きっと、理解はしているのだろう。
 でも、心が許さないのだ。

 私は、令嬢の手をとって立たせた。
 自分を庇い、助け起こした私に令嬢は驚いているようだった。

「私だって納得できない。だから、個人的に報復しようと思っています。でも、与えられる罰なんてせいぜいこんなものですよ」

 私は令嬢の尻を「パシーンッ!」と派手に音が鳴る程度の強さでぶっ叩いた。

「〜〜〜〜ッッッ!(声にならない悲鳴)」

 令嬢A アウトー。

 令嬢は驚き怯え、そのまま走り去って行った。

 次から追いついた時はこれでいこう。
 お尻なら、後遺症とかも残らない。
 痛いだけだ。

 でも、次に悪さしたらタイキックだかんな。
 覚えとけよ。

「そなたは……」

 なんですか? その目は。
 何が言いたいんですかね?

「言っておきますけど、少し前までは王子の事も許せないと思っていたんですからね」
「今は、許してくれたのか?」
「陛下の与えた罰に感謝してください。あれと、あなたの謝罪があったから、私は王子を許せたんですから」
「そうか……ありがとう」

 笑顔を向けられてドキッとした。

 流石はメイン攻略対象。
 笑顔に魔力がある。

 あの子達がカナリオとアードラーを害そうと思ったのも、王子を巡る嫉妬だったんじゃないだろうか。

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