気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
六十五話 孤独じゃないグルメ
舞踏会が終わった翌日、私はアードラーとアルディリアと三人でサハスラータの町を観光する事にした。
サハスラータへの滞在期間は三日間で、明日の朝に帰る予定である。
なので、二日目の今日は初めから観光に当てる予定だった。
本当はアルディリアと二人で行く予定だったが、アードラーが暇そうにしていたから三人で行く事になった。
王子?
カナリオとデートだってさ。
ゲームでもあったイベントだけどね。
ゲームをしていた時は、意地悪な悪役令嬢から守ってくれたり、今日みたいに婚約者の意地悪な悪役令嬢よりも自分を選んでくれる事に心がキュンキュンしたものだが……。
こうして身近にいて、客観的にその姿を見ているとなんとも無責任で奔放な感じがする。
フリーダムな王子である。
いつか「誰も傷付けたくないんだ」とか言い出しそうだ。
いや、むしろマックスター?
で、意地悪な悪役令嬢である所のアードラーは今、とても楽しそうな様子で私の隣を歩いていた。
私を挟んだ反対側にはアルディリアがいて、三人で並んで街路を歩いていた。
お目付け役をつけられるかな? と思ったが、どういうわけかなかった。
護衛の騎士も断った。
物々しい騎士達を連れ歩き、王都の人間に注目されたくなかったのだ。
私とアルディリアが武家である事もあって、わりとあっさり聞き入れてもらえた。
だから、今日はスリーマンセルである。
念のため、カバン代わりも兼ねて変身セットは持ってきている。
サハスラータの王都は、レンガの家屋が多く建ち並ぶ街並みが広がっていた。
まるで、シチリアを思わせる街並みである。
この風景だけでも、異国に来たんだなという気分になる。
「ねぇ、どこに行きましょうか?」
アードラーが楽しげに訊ねてくる。
「サハスラータといえば、市場を外せないわよね。綺麗な海岸もあるわ。どこが良い? 案内してあげるわ」
アードラーは何度かこちらへ来ているので、地理には詳しいのだ。
この王都にはいろいろな見所がありそうだな。
どこに行こう。
でもその前に……。
腹が……減った……。
「ねぇどこに行く?」
アルディリアが訊ねてくる。
「とりあえず、どこかで食事にしようか」
私が言うと、アルディリアとアードラーが「えー」という顔をした。
悪いね。
燃費が悪いんだよ、この体。
でも、お昼前だから丁度いいんじゃないかな。
そうして、私達は食事所を探す事にした。
私達が入ったのは、酒場とレストランを合わせたような店だった。
広めの店内には十数程度のテーブル席があり、奥にはカウンター席があった。
カウンターの内側には、多くの酒が並んだ酒棚が見える。
客はそれなりに入っている。
昼間だというのに、客達はみんな酒を飲んでいるようだ。
空いたテーブルへ向かう際に他の客のそばを通ったのだが、酒臭かった。
覗きこむと、客の持つジョッキの中身は表面が泡立っていた。
ビールだろうか。
テーブル席に着くと、店員が品書きを持って来る。
「アールネスでは見られない料理ばかりね」
「この国の料理なんだろうね」
ステーキとかもあるけれど、基本的に魚介系の煮込み料理が多いようだ。
私達はそれぞれ料理を注文する。
しばらく三人で雑談を楽しんでいると、店員の女の子が料理を運んできた。
「あの? お飲み物はよろしいのでしょうか?」
訊ねてくる。
そういえば、頼んでなかったな。
未知のメニューで頭がいっぱいだったよ。
「私はワインをお願いするわ」
「僕も。水割りでお願いします」
アールネスには未成年の飲酒を禁止する法律がない。
多分、この世界そのものにまだそういった法律がない気がする。
「私はオレンジジュースをお願い」
でも、私はお酒があまり好きじゃないので頼まなかった。
体質の問題か、酔い難い上に飲むと頭が痛くなるのだ。
私達は飲み物が来る間、料理へ取り掛かる事にした。
私が頼んだのは、ミートボールのトマトソース煮込みとフライドポテトだ。
トマトソース煮込みは、スペイン風ミートボールみたいだ。
ソースにはみじん切りの玉葱と何かのキノコが入っている。
ミートボールの一つ一つが大きく、食べがいがありそうだ。
フライドポテトは、皮がついたタイプだ。
果汁をかけるためのレモンと付け合せにトマトソースがついている。
私はミートボールを一つ齧った。
思った以上に柔らかく、簡単に歯が通った。
「美味しい。でも、これはどこまでいってもミートボールだ」
「そりゃあ、ミートボールだもの。当たり前でしょう」
アードラーからツッコミを受けながら、私はフライドポテトへ手を伸ばす。
一口食べると、さっくりとした歯ざわりの後に、ホクホクとしたジャガイモの食感が口に広がる。
うん、美味い。
レモンもかけてみよう。
フライドポテトにレモンって組み合わせは、初めてだ。
レモンをかけたポテトを食べる。
咀嚼すると、ポテトの熱で爽やかなレモンの風味が口いっぱいに広がった。
これもなかなか悪くない。
「このわざとらしいレモン味」
「食べ物にわざとらしいとかわざとらしくないとかあるの?」
アルディリアにツッコミを入れられる。
私はポテトに付け合せのトマトソースをつけてみた。
これも美味しい。
もっと酸っぱいかと思ったけど、思った以上に甘くてフルーティだ。
「この付け合せも嬉しい」
「ねぇクロエ。食事中に喋るのはマナー違反よ?」
「うん、僕もそう思う」
二人からダメ出しされた。
確かに、うちはそういうの厳しくないから食事中に喋る事もあるけど、一般的なアールネス貴族のマナーとしてはよくない。
でも……。
「そうなんだけどさ。ここは、アールネスでも自分の家でもないからさ。たまには、こういうのもいいと思わない?」
私が言うと、二人はキョトン、と呆気にとられたような表情で私を見ていた。
「……それもそうね。そっちの方が楽しそうだわ」
「そうだね。ここに来てまで、堅苦しく考える事もないのかもしれないね」
「他の国まで来て、自分の国の作法を遵守する必要もないわね」
アードラーは笑って言う。
「そうそう、他のお客さんも食べながら話とかしているでしょ? 「郷に入っては郷に従え」だよ」
「何? その言葉?」
「他国の言葉だよ」
それから先、私達は料理を適度に摘みながら楽しくお喋りした。
食事を終えた私達は、それから市場を周り色々な品を見て楽しんだ。
アールネスでは見られない珍しい物もいくつかお土産として買ったりもした。
その後、海岸へ向かう。
季節柄もあって、海には泳ぐ人の姿が少なくなかった。
気持ちよく泳いでいる人々のそんな姿を見ていると私も泳ぎたくなったが、水着もないし下着で泳ぐ勇気もなかったので足だけつけてその冷たさを堪能した。
もし、次に機会があれば水着を持ってきたい所だ。
そうしてサハスラータを満喫している内に、気付けば辺りは夕陽の赤に染まり始めていた。
王城への帰り道、ふと振り返ると地平線へ沈む赤い夕陽が見えた。
「綺麗ね……」
アードラーが夕陽を見て呟く。
「そうだね」
「今度は二人で見たいね」
アルディリアが私に対してそんな事を言う。
「そうね。二人で見たいわね、クロエ」
アードラーが賛同する。
が、やっぱり対象は私だけだった。
三人じゃダメなの?
でも、本当にまた来たいな。
最初は、私の命を奪うかもしれない国というのもあって、不安ではあったけれど……。
来てよかったな……。
そんな時だった。
「我が国を存分に楽しんでいただけたようで、俺も喜ばしい限りだよ」
私達に声がかかった。
声のした方を見ると、ヴァール王子がいた。
彼は家屋の塀に上へ座り、私達を見下ろしていた。
「ヴァール殿下?」
「クロエ・ビッテンフェルト。お前に用があって来た」
そういうと、ヴァール王子は不敵な笑みを浮かべた。
サハスラータへの滞在期間は三日間で、明日の朝に帰る予定である。
なので、二日目の今日は初めから観光に当てる予定だった。
本当はアルディリアと二人で行く予定だったが、アードラーが暇そうにしていたから三人で行く事になった。
王子?
カナリオとデートだってさ。
ゲームでもあったイベントだけどね。
ゲームをしていた時は、意地悪な悪役令嬢から守ってくれたり、今日みたいに婚約者の意地悪な悪役令嬢よりも自分を選んでくれる事に心がキュンキュンしたものだが……。
こうして身近にいて、客観的にその姿を見ているとなんとも無責任で奔放な感じがする。
フリーダムな王子である。
いつか「誰も傷付けたくないんだ」とか言い出しそうだ。
いや、むしろマックスター?
で、意地悪な悪役令嬢である所のアードラーは今、とても楽しそうな様子で私の隣を歩いていた。
私を挟んだ反対側にはアルディリアがいて、三人で並んで街路を歩いていた。
お目付け役をつけられるかな? と思ったが、どういうわけかなかった。
護衛の騎士も断った。
物々しい騎士達を連れ歩き、王都の人間に注目されたくなかったのだ。
私とアルディリアが武家である事もあって、わりとあっさり聞き入れてもらえた。
だから、今日はスリーマンセルである。
念のため、カバン代わりも兼ねて変身セットは持ってきている。
サハスラータの王都は、レンガの家屋が多く建ち並ぶ街並みが広がっていた。
まるで、シチリアを思わせる街並みである。
この風景だけでも、異国に来たんだなという気分になる。
「ねぇ、どこに行きましょうか?」
アードラーが楽しげに訊ねてくる。
「サハスラータといえば、市場を外せないわよね。綺麗な海岸もあるわ。どこが良い? 案内してあげるわ」
アードラーは何度かこちらへ来ているので、地理には詳しいのだ。
この王都にはいろいろな見所がありそうだな。
どこに行こう。
でもその前に……。
腹が……減った……。
「ねぇどこに行く?」
アルディリアが訊ねてくる。
「とりあえず、どこかで食事にしようか」
私が言うと、アルディリアとアードラーが「えー」という顔をした。
悪いね。
燃費が悪いんだよ、この体。
でも、お昼前だから丁度いいんじゃないかな。
そうして、私達は食事所を探す事にした。
私達が入ったのは、酒場とレストランを合わせたような店だった。
広めの店内には十数程度のテーブル席があり、奥にはカウンター席があった。
カウンターの内側には、多くの酒が並んだ酒棚が見える。
客はそれなりに入っている。
昼間だというのに、客達はみんな酒を飲んでいるようだ。
空いたテーブルへ向かう際に他の客のそばを通ったのだが、酒臭かった。
覗きこむと、客の持つジョッキの中身は表面が泡立っていた。
ビールだろうか。
テーブル席に着くと、店員が品書きを持って来る。
「アールネスでは見られない料理ばかりね」
「この国の料理なんだろうね」
ステーキとかもあるけれど、基本的に魚介系の煮込み料理が多いようだ。
私達はそれぞれ料理を注文する。
しばらく三人で雑談を楽しんでいると、店員の女の子が料理を運んできた。
「あの? お飲み物はよろしいのでしょうか?」
訊ねてくる。
そういえば、頼んでなかったな。
未知のメニューで頭がいっぱいだったよ。
「私はワインをお願いするわ」
「僕も。水割りでお願いします」
アールネスには未成年の飲酒を禁止する法律がない。
多分、この世界そのものにまだそういった法律がない気がする。
「私はオレンジジュースをお願い」
でも、私はお酒があまり好きじゃないので頼まなかった。
体質の問題か、酔い難い上に飲むと頭が痛くなるのだ。
私達は飲み物が来る間、料理へ取り掛かる事にした。
私が頼んだのは、ミートボールのトマトソース煮込みとフライドポテトだ。
トマトソース煮込みは、スペイン風ミートボールみたいだ。
ソースにはみじん切りの玉葱と何かのキノコが入っている。
ミートボールの一つ一つが大きく、食べがいがありそうだ。
フライドポテトは、皮がついたタイプだ。
果汁をかけるためのレモンと付け合せにトマトソースがついている。
私はミートボールを一つ齧った。
思った以上に柔らかく、簡単に歯が通った。
「美味しい。でも、これはどこまでいってもミートボールだ」
「そりゃあ、ミートボールだもの。当たり前でしょう」
アードラーからツッコミを受けながら、私はフライドポテトへ手を伸ばす。
一口食べると、さっくりとした歯ざわりの後に、ホクホクとしたジャガイモの食感が口に広がる。
うん、美味い。
レモンもかけてみよう。
フライドポテトにレモンって組み合わせは、初めてだ。
レモンをかけたポテトを食べる。
咀嚼すると、ポテトの熱で爽やかなレモンの風味が口いっぱいに広がった。
これもなかなか悪くない。
「このわざとらしいレモン味」
「食べ物にわざとらしいとかわざとらしくないとかあるの?」
アルディリアにツッコミを入れられる。
私はポテトに付け合せのトマトソースをつけてみた。
これも美味しい。
もっと酸っぱいかと思ったけど、思った以上に甘くてフルーティだ。
「この付け合せも嬉しい」
「ねぇクロエ。食事中に喋るのはマナー違反よ?」
「うん、僕もそう思う」
二人からダメ出しされた。
確かに、うちはそういうの厳しくないから食事中に喋る事もあるけど、一般的なアールネス貴族のマナーとしてはよくない。
でも……。
「そうなんだけどさ。ここは、アールネスでも自分の家でもないからさ。たまには、こういうのもいいと思わない?」
私が言うと、二人はキョトン、と呆気にとられたような表情で私を見ていた。
「……それもそうね。そっちの方が楽しそうだわ」
「そうだね。ここに来てまで、堅苦しく考える事もないのかもしれないね」
「他の国まで来て、自分の国の作法を遵守する必要もないわね」
アードラーは笑って言う。
「そうそう、他のお客さんも食べながら話とかしているでしょ? 「郷に入っては郷に従え」だよ」
「何? その言葉?」
「他国の言葉だよ」
それから先、私達は料理を適度に摘みながら楽しくお喋りした。
食事を終えた私達は、それから市場を周り色々な品を見て楽しんだ。
アールネスでは見られない珍しい物もいくつかお土産として買ったりもした。
その後、海岸へ向かう。
季節柄もあって、海には泳ぐ人の姿が少なくなかった。
気持ちよく泳いでいる人々のそんな姿を見ていると私も泳ぎたくなったが、水着もないし下着で泳ぐ勇気もなかったので足だけつけてその冷たさを堪能した。
もし、次に機会があれば水着を持ってきたい所だ。
そうしてサハスラータを満喫している内に、気付けば辺りは夕陽の赤に染まり始めていた。
王城への帰り道、ふと振り返ると地平線へ沈む赤い夕陽が見えた。
「綺麗ね……」
アードラーが夕陽を見て呟く。
「そうだね」
「今度は二人で見たいね」
アルディリアが私に対してそんな事を言う。
「そうね。二人で見たいわね、クロエ」
アードラーが賛同する。
が、やっぱり対象は私だけだった。
三人じゃダメなの?
でも、本当にまた来たいな。
最初は、私の命を奪うかもしれない国というのもあって、不安ではあったけれど……。
来てよかったな……。
そんな時だった。
「我が国を存分に楽しんでいただけたようで、俺も喜ばしい限りだよ」
私達に声がかかった。
声のした方を見ると、ヴァール王子がいた。
彼は家屋の塀に上へ座り、私達を見下ろしていた。
「ヴァール殿下?」
「クロエ・ビッテンフェルト。お前に用があって来た」
そういうと、ヴァール王子は不敵な笑みを浮かべた。
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