気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

閑話 せっかくなので転生モノらしい事をしてみる 応用編

 季節は、夏まっさかり。
 夏至はとうに過ぎているのに、暑さは依然として私の体を火照らせ続けていた。
 最近では暑さに羞恥心を溶かされ、自宅では来客が無い限り下着姿で過ごしている。

 母上に見つかると叱られてしまうが、それでも止められない。
 今は、学園での服装もパンツからホットパンツにマイナーチェンジしてしまおうかと真剣に検討中である。
 私の鍛え抜かれた脚線美を披露しても惜しくないと思える程に、夏の暑さは過酷だった。

 そんな時期に、アルエットちゃんは生まれたらしい。
 あと一週間弱で、彼女は八歳の誕生日を迎えるそうなのだ。
 そんな彼女のために、私は何か贈り物をするつもりである。
 そうして何を贈るか考えた結果、ある夢のアイテムを思いついた。

 前世の世界で女の子に大人気だった物だ。
 きっと、女の子なら一度は憧れ夢見るだろう代物だ。
 こちらにそういう文化はないが、それでも気に入ってくれるはずだ。

 私は彼女の喜ぶ顔見たさに、私はそのアイテムを製作するための構想を練った。

 そして、挫折した。

 私の力だけでは、実現する事が不可能だとわかったからである。
 私は設計案を纏めた紙の前で、頭を抱えた。
 これでは、アルエットちゃんを喜ばせる事ができない。

 いや、きっと何かしら無難な物をプレゼントしても、アルエットちゃんは目をキラキラと輝かせ、純真な心で素直な喜びを見せてくれるだろう。
 だが、きっと私はその喜びに満足できない。

 一度、素晴しいアイディアを思いつきながら、妥協してしまった事実が負い目として私の心に付き纏うだろう。
 私はもっとすごい物を渡してあげたかったんだ、というやりきれない後悔が心に残るだろう。

 そして私は、ある二人の人物に協力を仰ぐ事にした。
 マリノーとムルシエラ先輩である。

 私が贈り物の詳細を説明すると、二人は快く了承してくれた。

 マリノーには、製作物の全体的なデザインをお願いした。
 私には残念ながらデザインの才能がなく、アルエットちゃんが喜びそうな可愛らしいデザインが思い浮かばなかったのである。

 その点、マリノーにはデザインの才能があった。
 親しい友人にデザインをお願いしていった所、彼女が一番可愛らしいデザインを描き出したのである。
 次いで可愛らしいデザインを描いたのは、アルディリアだった。
 他の女子達は、可愛らしいとはちょっと違うデザインを描いていた。
 誰と誰、とは言わないが。

 イノス先輩が描き出したのはゴスロリチックだった。
 それも可愛いのだが、私の作りたい物とは少し違ったので見合わせた。

 ムルシエラ先輩には、技術的な面でサポートしてもらう事になった。
 私が作りたい物はマジックアイテムで、ちょっと特殊な術式を組み込まなければならなかったのだ。
 私の知識と技術では、再現不可能だったのでお願いした。

「クロエさん。ここはもう少しフリフリした方がいいですか?」
「フリフリはさせたいけど、容量が足りないかもしれない。布地を少なくして、それでもボリューム感を出す事ってできないかな?」
「やってみます」

「なかなか難しいですね。形状記憶・再現の術式という物は今までになかったものですからね。一から、組まなければなりません。不可能では無いでしょうけどね」
「お手間かけます。お願いします」
「いえいえ。あなたの考えは独創的で面白いですからね。形にするだけでも楽しい。やりがいはありますよ」

 誕生日までそんなに時間は無い。
 その限られた時間の中、私達三人は一生懸命にマジックアイテム製作に励み……。
 そして、それを完成させた。



 誕生日当日。
 中庭で遊びに来ていたアルエットちゃんを見つけた。

「アールエットちゃーん」
「あ、おねーちゃーん」

 条件反射のように走り寄り、アルエットちゃんは私に抱きついた。

「私もいますよー」

 一緒にいたマリノーがささやかに主張する。

「マリノーおねーちゃんもーぎゅー」

 私から離れて、マリノーにもぎゅーをするアルエットちゃん。
 離れる時、ちょっと名残惜しかった。

 次に、優しげに微笑んでいたムルシエラ先輩にもアルエットちゃんは抱きついた。

「お姉ちゃんぎゅー。……あれ?」

 ムルシエラ先輩に抱きついたアルエットちゃんが不思議そうな顔をする。
 そんな彼女の頭を先輩は撫でた。

「アルエットちゃん、今日誕生日だよね」
「ん、そうだよ? 知ってたの?」
「うん。そうなんだ。それでね、私達三人からアルエットちゃんに贈り物があるんだ」
「え、そうなの?」

 アルエットちゃんは嬉しそうに目を輝かせた。

「うん。だからね、アルエットちゃん。私と契約して魔法少女になってよ」
「え?」



 今、アルエットちゃんの後ろ腰には、大き目のウエストポーチが巻かれていた。
 全体的に薄いピンク色で、白系の服をよく着るアルエットちゃんにはよく似合っていた。

「はい、じゃあさっき教えた通りに唱えてみて」
「わかったー」

 アルエットちゃんは元気に手を上げて返事をする。
 そして一度息を吸い、思い切り呪文を唱えた。

「プティ・ティーグル。ティーガー・チャージ!」

 アルエットちゃんが呪文を唱えると、ウエストポーチに組み込まれた術式がキーワードを認識して魔術を発動する。
 ウエストポーチは一度バラバラに細かなパーツに分解されると、魔力の光を帯びながらアルエットちゃんの体に予め形状を記憶された服の形となって纏われた。
 この間、一秒ちょっと。

 一瞬にして、私達の前には魔法少女プティ・ティーグルが立っていた。

 呪文と共に自分の服装が変った事で、アルエットちゃんは驚いて目をぱちくりとさせている。
 そして一拍置き、大きな声を上げた。

「すごーいっ!」

 歓喜の声である。
 その上、全身で喜びを表現するようにぴょんぴょんと跳ねる。
 一しきり跳ねると、今度は自分の格好を確かめるように服を見回し始めた。

 私の考えは正しかった。
 私は、アルエットちゃんを喜ばせる事ができたんだ!
 歓喜が私の体を打ち振るわせた。

 魔法少女プティ・ティーグルの服装は、薄いピンク色が主体のフリフリドレスである。
 ウエストポーチの布地がそのまま置き換わるので、色合いはウエストポーチと同じである。
 胸には、シンボルとしてグラン家のエンブレムが付けられている。
 虎に似た猛獣が口を開けたデザインの物だ。
 ちなみに、服一着分の布を確保するためにウエストポーチ内にはぎっしりと布が詰まっており、あのウエストポーチはカバンとしての用途を果たせなかったりする。
 あくまでも、変身のためのアイテムである。

「アルエットちゃん、腰に棒がついてるでしょ? それとってみて」

 アルエットちゃんは細いウエスト周りを探ると、後ろ腰の布に引っ掛かるようについていた棒を手に取った。
 これは、ウエストポーチのベルト部分がらせん状になって硬質化した物である。

「で、胸のエンブレムを外してその棒の先に差し込んで」

 エンブレムの下には、丁度棒が入る大きさの穴が空いていた。

「こう?」

 棒が差し込まれると同時にエンブレムの中央が開き、左右から羽根のような装飾が飛び出した。
 そして開いたエンブレムの中央には、雲雀の彫刻が施された、燐光を放つ赤い大きな石がはめ込まれていた。

 これが魔法少女プティ・ティーグルの武器となる魔法のステッキ、アロンドラロッドである。

「何これ! かわいい!」
「可愛いだけじゃないよ。ステッキに小さな鉄板が埋め込まれているでしょ? 棒を握りこむように親指を付けてみて」
「うん」

 次は何があるんだろう?
 そんな好奇心に満ちた表情で頷き、アルエットちゃんはステッキの鉄板に親指をつけた。
 その瞬間、ステッキからキラキラとした光の小玉と虹の光線が発射された。

 これが魔法少女プティ・ティーグルの必殺技スターライト・タイガー・レインボーである。

「すごーい!」

 夢中になってレインボーを連射するアルエットちゃん。
 大興奮だ。

 その時である。
 アルエットちゃんの放ったレインボーが、私に向かって発射された。
 直撃する。

「あっ!」

 アルエットちゃんが焦った声を出す。
 でも、大丈夫だ。

「お姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。その光線には威力がないから」

 子供が使う物なので、光線には威力が乗らないようにした。
 多少押される感覚はあるが、殺傷力は無い。
 ただ派手な光の光線が出るだけの機能である。

「あ、そうなんだ……」

 アルエットちゃんがちょっとがっかりする。
 攻撃能力があった方が嬉しかったんだろうか?

 アルエットちゃん……考え方が基本的に好戦的だよね。
 武器貰って喜ぶのは女の子としてちょっといけないかもしれないよ。

 光線に威力が無いのは、何も安全性の問題だけでは無い。
 アルエットちゃんは子供なので、魔力の容量も恐らく小さい。
 なので、この魔法少女セットはできるだけ低燃費で作動できるように作られているのだ。

 子供の頃は魔力枯渇によって気を失うという事もあるので、ある程度魔力が少なくなると光線が出ないようリミッターもつけられている。
 安心設計なのだ。

 これらは全て、かつて私が作った夢のアイテム。
 893脱ぎ……もとい、無糸服の技術を応用して作られた物である。

 これはその発展系で、布地をさらに細分化する事で素早く形状記憶させた服装へ変形するようにした物だ。
 つまり、変身ヒーローや魔法少女のような変身ができるという夢のアイテムなのである。

 ただ、細分化による難点もあった。
 糸による縫合を施されず魔力のみで接着されているので、細分化して接着部分が増えたため使用魔力も少し多くなってしまっていた。
 その上、形状記憶の術式でさらに魔力の使用量が上がってしまった。
 その欠点に私とムルシエラ先輩は頭を悩ませたが、魔力を貯蓄する機構を作る事で解決した。

 アロンドラロッドの中にはめ込まれた赤い石である。
 あれには私が魔力を込めており、使用者の魔力使用量を補って軽減するのである。
 なので、定期的に誰かが石に魔力を込める予定である。
 この変身セットは電池充電式なのだ。

 そしてさっきも説明したが、使用者の魔力を食いすぎないようにステッキにはリミッター機能もついている。

 だが、さっきから楽しそうにレインボーを連射している姿を見ると、アルエットちゃんの魔力量は結構多いのかもしれない。

 ちなみに「普通のアルエットにもーどれ」と唱えると変身は解ける。

「アルエットちゃん、楽しい?」
「うん、すっごく楽しい」

 顔を真っ赤にして言われると本当に嬉しい。
 それだけ、興奮するぐらい楽しんでもらっているという事だ。

「よかった。アルエットちゃん、改めて誕生日おめでとう」
「おめでとうございます」
「おめでとう」

 製作者一同で、もう一度祝辞を贈る。

「ありがとう!」

 アルエットちゃんは満面の笑みで感謝の言葉を口にした。



 後日、聞いた話なのだが。
 アルエットちゃんは魔法少女セットをティグリス先生に披露した。
 その時に先生が誤って呪文を呟いた所、衣装が反応してしまったらしい。

 はち切れんばかりの衣装を纏った魔法オッサンの誕生である。

 もうプティでもなんでもない。
 もはやただの虎《ティーグル》である。

 変身した姿を想像するのも楽しかったが、「普通のアルエットにもーどれ」と言って変身解除する姿を想像すると面白くて仕方が無かった。
 唱えた所でアルエットちゃんに戻るわけがない。

 その失敗を元に、変身機構を改良して使用者認識をつけた。

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