気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

五十五話 スタントマンを使いません!

 ルクスと私がスラムの悪党狩りを始めてから一週間ほどが経過した。

 毎夜、道端での軽犯罪や家屋盗聴による襲撃などを行い、多くの悪党達を検挙した。

 最初の内、見つける事のできた悪党は十人ちょっと程度だったが、続けていれば次第に慣れていくものだ。
 今や私達は、一晩の内に三十人以上の悪党を発見、襲撃、関節を折るという作業をこなせるようになっていた。
 今や総数では、百五十人以上の悪党を国衛院に引き渡している。

 ルクスからの情報だが。
 大多数が罪状定かでなく、壁のメッセージだけでとりあえず確保した連中なのでちょっと尋問して数日拘留、後に釈放しているらしい。
 盗賊団がらみの人間は拘束して尋問を続けているらしいが。

 盗賊団の人員確保を阻止するために、できるなら全員を拘留し続けている方がいいのだが、拘留し続ける場所と費用の問題でそれは難しいようだった。

 そんなある日の事だ。

「なぁ、知ってるか?」
「何を?」
「最近俺ら、犯罪者の間で「妖怪・関節外し」とか呼ばれているらしいぜ」

 前世の言葉で言うと「関節を外す悪魔」とかそんな感じの意味だったのだが「サブミッションデーモン」とか訳すよりも「妖怪・関節外し」の方がしっくりするのでそう訳してみた。

 妖怪のせいなのね、そうなのね。

「今何時?」
「何だよ、突然? 九時前ぐらいだと思うぜ」
「そう……ありがとう」
「なんで残念そうなんだよ?」

 一応、この世界にも時計はある。
 柱時計や置時計などだ。
 腕時計とかはない。

「何か用事か? ちょっと早いけど、次で最後にするか?」
「用事では無いけど……。そうだね。次で終わりにしようか」

 そうして私達は、石造りの大きな時計塔へ来た。
 王都の各所にある、公共の時計塔だ。
 しかし、ここの時計塔は管理する人間がおらず、時計の針は三時二十五分で止まっている。

 手を当てて、中を探る。

「うわ、すごい人数だ。三十人ぐらいいる」
「中の様子は?」
「今、調べてみる」

 私は中の音を探った。

「「今日はいったい、どこを狙うんだろうな?」」
「「さぁな、北区の歓楽街にある「淫魔の囁き」とかがいいな」」
「「そいつはいい。金も女も酒も、全部揃ってやがるからな」」
「「毎晩溜め込んでる金を掻っ攫ってやったら、あの強欲ババァの女店主がどんな顔をするか見物だぜ」」
「「ちげぇねぇや、ハハハ」」

 私はルクスに声をかける。

「当たりだ。多分、ここに居るのは盗賊団の連中。それも、これから仕事をする予定の連中みたいだ
「本当か? おい、聞かせろよ」

 ルクスが手を差し出してくる。

「いい加減、自分でやってよ。やり方は教えたでしょ?」
「そんなに簡単にできるかよ。かなり難しいぞ、これ」
「そう?」
「お前、見かけに寄らず魔力の扱いが器用だよな」
「褒め言葉だよね?」

 仕方ないので、いつもと同じく手を繋いでから中の様子を探る。

「「まぁ、今にわかる。奴はもう上にいるからな。連絡を待ってるらしいぜ」」
「「連絡?」」
「「矢文か何かで連絡を取り合ってるらしい」」

 上にいる?
 時計塔の上に、盗賊団の誰かがいるという事か。
 それも口ぶりからすると、いるのは臨時じゃない幹部の誰か、か……。

「「それにしてもよぉ。あいつら、何者なんだろうな?」」
「「さぁな。でも、俺達に稼ぐ機会をくれるんだ。正体なんてどうでもいいだろ?」」
「「まぁ、そうだけどな」」
「「そういえばよう、前に連中が話していたのを聞いたんだけどな。ビッテンフェルト家の話をしてたぜ」」

 え、うち?

「「何だ? 次の標的か?」」
「「貴族かよ! しかも、あのビッテンフェルトだぜ? 生きて帰れねぇんじゃねぇか?」」
「「あれだろ? 戦場で三百の兵を一人で足止めしたり、敵の兵士を素手で引き裂いたりしたって聞いたぜ」」
「「馬鹿馬鹿しい。そんな人間がいるもんか。どうせ、盛ってるんだろうよ」」
「「娘も強いらしいが、父親離れができない甘ったれらしいからな。何でも、毎晩父親に「ぱぱ、だーい好き」とか言って甘えてるらしいぜ」」

 なん……だと……?
 みみみ、民間にまでその噂が流れている!?
 ぐ……っ!

「おい、大丈夫か? そんな気にする事ねぇよ。誰だって親は好きなもんだろ? 何も恥ずかしがる事なんてないって」

 こんな時だけ気遣いするな。
 余計に辛い。

 それにおどれは父親嫌いだろうが。
 説得力ないよ。

 気を取り直して中の様子に耳を立てる。

「もういい。やっちまおう」
「お、おう。やりすぎるなよ?」

 それにしても、何でビッテンフェルト家の話が出たんだろうか?
 本当に狙われているのかもしれないな。
 無謀だと思うけど。

 私は塔の構造を把握する。

 塔の中は三層構造の部屋になっていて、塔の内壁を巡るらせん状の階段で塔内の上り下りができるようになっていた。
 部屋にはそれぞれ、何人かのグループが集まっている。
 階段は、塔の上の時計の機関部まで続いている。

 機関部を探ってみると、確かに人の反応があった。
 一人の人間が、機関部にいる。

 その時だ。

「「魔力が流れている?」」

 その人物の声が聞こえた。

 気付かれた?
 声からして男だ。
 そしてその男は、魔力を使える人間らしかった。

「ルクス! 気付かれた、すぐに踏み込もう!」
「何だと? わかった!」

 私は塔の入り口、大きな木の門に向けて拳を振りかぶった。

「アーンチパーンチッ!」

 門が派手に粉砕される。

「なんだ!?」

 扉が粉砕され、戸惑う男達。
 私とルクスは、その男達に襲い掛かった。


 最初の奇襲で五人ほどを叩きのめすと、そこでようやく他の連中が襲撃されている事実に気付いた。
 私達を見つけて、襲い掛かってくる。
 上の階からも、異常に気付いた男達が下りてくる。
 私とルクスは、そんな奴らを来る端から相手していった。
 時折、ルクスと連携しつつ男達を無力化していく。

 最近の私は二度手間を避けるために、関節技を多用して相手を倒す事を心がけていた。

 殴りかかってきた腕を取ってそのまま肩を外し、膝の横を押し込むように蹴って関節を外す。
 蹴り技も掴んで捻って外してしまう。
 ジャイアントスイングで多数の人間を巻き込んでから、掴んでいた相手の両足を外す。
 ルクスが蹴り飛ばした相手を空中で掴み、五所蹂躙絡みを仕掛けて股関節を外す。

 と、さまざまな関節技で撃退していった。

 あと、誓って殺しはやってません。

 襲い来る連中の関節を外しながら、私は上の階へ続く階段を上っていく。

 そして、機関部の前。
 最後の相手らしき男の足を両足で挟み、そのまま捻って関節を外した。

「象はどこだ!」
「ゾウってなんだよ?」

 この世界には象がいないのか……。
 いや、この地域にいないだけかもしれないな。
 他の地域ならいるかもしれない。

 氷山の中とか……。
 餌をあげたらウメーウメーと嬉しそうに食べてくれるかもしれない。

「お前、たまにわけわからん事を言うよな」
「まぁ、そうだね……」

 前世の知識なんて知らないもんね……。


 私とルクスは、最上階の機関部へ足を踏み入れた。
 ドアを開けた、瞬間。
 投げナイフが私の顔目掛けて飛来した。

 私は人差し指と中指でナイフを挟んで掴むと、相手に向けて投げ返した。
 相手は驚きながらも投げ返されたナイフを避ける。

「ビッテンフェルト!」
「大丈夫。ここは任せて」

 その男は、黒いフードで身を包んでいた。
 顔は見えない。

「……貴様は、ビッテンフェルト家の娘か」

 男は言うと、私に向かって突っ込んできた。
 細かく、隙のない動きで切りつけてくる。
 あまりにも隙がないので、手を掴む事もできない。
 そしてその攻撃のどれもが、的確に急所を狙ってきていた。

 その動きは、下にいたようなチンピラとは違う。
 人を殺す事に特化し、慣れきったプロの動きだった。

 切りつけられるナイフ。
 私はその動きに合わせて、男の顔へ左ジャブを見舞った。
 カウンターだ。
 一瞬、怯む男。
 その一瞬を私は見逃さない。
 右ストレートを次いで顔へ当て、そこから右ローキックのコンボで膝の関節を狙う。
 関節を外すのではなく、破壊するつもりで蹴り抜いた。
 手早く積極的にやらなければ、命を取られると思ったからだ。

 最後にナイフを持った相手の右手首を自分の右手で掴み、左拳でその肘を破壊した。

 男は足を引きずりながら、私から距離を取った。

「もう無駄だよ。今のあなたじゃ、私には勝てない。大人しく、捕まるんだね」
「どうかな?」

 男はニヤリと笑う。
 そして、ナイフを無事な左手に持ち替えた。
 私は構える。

 が、男はそのナイフを自分の胸に刺した。

「捕まらんよ……俺は……」

 その言葉を残し、男はその場で倒れた。

 私は警戒しつつ男に近付き、白色を使う。
 そうしながら、ナイフを胸から抜いた。

 息も絶え絶えな男。
 白色をかけ続けても、彼の体は一向に回復する気配がなかった。

 毒だ……。
 白色は治癒力を高める事しかできない。
 治癒力を高めても意味のない、強力な毒をナイフに塗っていたのだろう。

 私も危なかった。
 少しでもかすれば、私は死んでいたかもしれない。

「おい、大丈夫か?」
「無傷だよ」

 答えると、ルクスは見るからにホッとする。
 それから、事切れた男を見下ろした。

「多分、盗賊団の幹部だよ。でも、それもちょっと怪しいかな」
「チッ、話も聞けねぇな……」

 ルクスは悪態を吐いた。



 男をその場に残し、私達は塔を下りた。
 後は、壁にメッセージを残して国衛院を呼ぶだけだ。

 そして、塔の一階へ戻った時。
 私達は多くの国衛院実行部隊の隊員達に囲まれていた。

「ここ最近、スラムで犯罪者を狩っている人物がいると思えば……。あなた達でしたか」

 溜息交じりの言葉を私達に告げたのは、青い制服に身を包み、杖をついて歩く少女。

 イノス先輩がそこにいた。

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