気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

四十五話 挑戦の動機

 最近、ちょこざいにもルクスが私の行動パターンを先読みしてくるようになった。

 行く先々で待ち伏せている事はもちろん、咄嗟に隠れた場所すらすぐに探し当てられる。

 となると、必然的に私は挑戦を受けざるを得なくなった。
 今日も彼に捕まり、勝負を受ける事になった。

 行動パターンを読むようになった彼だが、それは何も逃走経路だけというわけではない。


 校舎裏。
 ルクスとの勝負は、いつもここである。

「ハァッ!」

 ルクスは私へ向けて跳び蹴りを放った。
 その攻撃に余程の自信があるのか、ルクスはここぞという時の技に跳び蹴りを選ぶ。
 私も彼のそういったパターンは理解しているので、その攻撃にすぐさま対処する。

 蹴り足を腕でがっちりとロックし、そのままスープレックスの要領で後ろへ投げる。
 これで決まりだ。

 そう思った。

 けれど、地面へぶつかる際に起こるインパクトが、腕に伝わってこなかった。
 見ると、ルクスは両手を地面について、地面に激突するのを防いでいた。
 次いで、ロックされた右足から魔法の電撃を放ち、私の腕から逃れる。
 その際に、私は地面へ仰向けに倒れた。

「勝機!」

 叫び、ルクスは自由になった右足で私の顔へ蹴りを落とした。

 咄嗟に顔をそらして避け、すぐに立ち上がる。
 振り返ると、ルクスも同じように立ち上がっていた。
 その顔には、不敵な笑みがあった。
 指で自分の頬を指す。

 その仕草で私は察し、自分の頬を撫でた。
 指先に、赤い物が着いた。
 血だ。
 今のルクスの蹴りが掠り、頬に傷がついたのだ。

 ペロッと舐めてみる。

「うわ、何してんだお前!」
「なんとなく」

 考えるな、感じろ!

 今回はアクションスターを意識しつつ戦ってみようかな。
 クイクイと手招きし、おもむろにステップを踏みつつ相手を翻弄するのだ。

 と少し思ったけど、やっぱりやめた。

 父上以外との戦いで傷を負ったのは初めてだった。
 言わば、父上以外に出会った初めての強敵だ。

 だから私は、本気を出す事にした。
 手加減なしで、ふざけた真似もせず、私の本来の戦い方でルクスの相手をする事に決めた。

 体は半身、左手を前へ、右手を顎の前へ配置する。足は肩幅に開き、少し落とす。
 ビッテンフェルト流闘技の基本的な構えだ。
 ゲームにおける、クロエの構えでもある。

「初めて構えを取ったな。ようやく本気になったって事か?」
「察しがいいね。……行くよ」

 一言告げ、私はルクスに全力でぶつかった。



 で、結果として、目の周りに青あざを作ったルクスが私の足元で伸びているわけである。
 多分、今の彼は顔だけじゃなくて体中の見えない部分が青あざだらけであろう。

 決め手となった顎への膝蹴りがカウンター気味にクリーンヒットし、気を失った時は「やっちまったか?」と不安になったが……。
 息があったのでホッとした。

 色々と障害が残ってもまずいので、効果があるかはわからないが白色の魔力を使った。

 すると、目の青あざが綺麗に消えた。
 ついでに、自分の頬の傷も治しておく。
 浅かったので痕《あと》も残らず綺麗に治ったはずだ。

 彼の頬をぺちぺちと叩く。

「ん……んぅ……」

 妙に色っぽい声を漏らし、ルクスが意識を取り戻した。
 目が合う。

「おはよ」
「……ビッテンフェルト……? ……勝負しろ」

 起こすんじゃなかった……。

 あんないい様にされてもまだ勝負する気があるのか。
 思った以上にガッツがあるね。

「何でそんなに勝負したいの?」
「……自分より強い奴がいるなら、男として挑みたくなるものだろ?」

 ルクスはにやりと笑って答える。とても嘘くさい笑顔だ。

 あんた、そんなキャラとちゃうやろ。

 明らかに嘘だ。
 本心なら父上にでも挑めばいい。
 優しく指導してくれるはずだ。

「で、本当は? 正直に言うと、かなり迷惑なんだよ。事あるごとに挑まれるの。だから、納得できる理由があるのなら話してほしいんだけど」
「……お前は強い。だから倒したい。それは本心だぜ」
「アルマール家のためとかじゃなく?」
「はっ、俺が? あんな家のために俺が何かすると思っているのか?」

 そうだ。
 彼ならそんな理由で私に挑むとは思えない。
 何せ彼は父親と折り合いが悪く、アルマール家でありながら国衛院の務めを放棄しているからだ。

 一応所属はしているが、務めは果たしていない。

 イノスの所属する第三部隊の隊長。
 今は空席になっているその役職は、ルクスのためにある物だ。

 なら、どうして私を打ち負かそうとするのだろう?
 国衛院のためではないのなら、どうしてそんな事をするのだろう。
 何のために……。
 誰のために……?

 ふぅ。

 私は溜息を吐く。
 そして、ゲームをプレイしていた時から感じていた事を思い出し、口を開く。

「じゃあさ。もしかして、私を倒したいのってイノスのため?」
「はぁ? 何で俺があいつのために何かしなくちゃならないんだよ? ばっかじゃねぇの?」

 そう答えるルクスは、先ほどの問いと違って明らかに動揺していた。
 やっぱりそういう事なのか。

「だって、ルクスはイノスの事好きでしょ?」

 私が言うとルクスは目を見開いて私を凝視し、その顔はみるみる内に赤く染まっていった。

「はぁっ? 全然違うし! 俺があいつの好きとか、ばっかじゃねぇの? ちげーし! 違げーからっ! そんなわけねぇだろっ!」

 何やらまくし立てながら、そのままルクスは走り去っていった。

 えーと、これは私の考えが合っていたって事だよね?

 イノスは私の情報を求めているから、ルクスはそんなイノスのために私に挑んでいる。
 という事だよね?

 何だ、簡単じゃん。
 謎が解けちゃった。

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