気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
三十二話 関係の始まり
「クロエさん」
調理実習の時間。
マリノーが声をかけてきた。
「何?」
「改めて、ありがとうございます」
どうしてお礼を言われたのかよくわからなかった。
「この前の事? でも、あれはむしゃくしゃしてやったって所もあるから別にお礼なんていらないけど」
「それもあるのですけど、今のお礼は今まで私のためにしてくださった事へのお礼ですよ」
「たとえば?」
「私と先生の仲を取り持ってくださったじゃありませんか」
「あー、でも私はそんなに役に立たなかったと思うんだけど」
マリノーはまだ、先生の心を射止めていない。
私がした事なんて、告白させたぐらいだ。
むしろ、計画はこれから。
これから、先生に対する攻略計画が本格的に始動する予定なのである。
お礼を言われるのはまだ早い。
「いいえ、そんな事ありません。あれから、先生と少し話をしまして」
「え、そうなの?」
「はい」
彼女はにっこりと微笑んだ。
「私の気持ちを受け取ってくれたわけじゃないのですけど。少しだけ、先生の私に対する接し方が柔らかくなった気がします。受け入れてくれるようになった気がします」
「それはよかった。じゃあ、このまま押しちゃいなよ。恋は押しの一手とも言うし」
「いや、そんな事は流石に……」
マリノーは慌てて、両手を小さく上げた。
「確かに、あの人の心は欲しいです。でも、ゆっくりでいいんですよ。今の私はあの人のそばにいるだけで、幸せですからね。でも、そのままでいいというわけでもないのですけど。いずれは、あの人の唯一になりたいですね」
まぁ、彼女らしい選択かな。
「じゃあ、これからも頑張らなくちゃね」
「はい」
授業が終わり、昼食に作った料理を食べて解散となった時だ。
私はティグリス先生から声をかけられた。
「ビッテンフェルト」
「はい。何ですか?」
「フカールエルの気持ちをお前は知っていたのか?」
「ええ。協力していましたからね」
「やっぱりな」
先生は溜息を吐いた。
「まぁ、そうだろうとは思っていたが」
「彼女は本気です。できるなら、良い様にしてあげてほしいんですけどね」
「それは、難しいな。いろいろな問題がある」
「教師と教え子ですし、年齢も問題がありますね。先生、ロリコンって言われちゃいますね」
「ロリ? 何だそれは? どこの言葉だ」
ああ、そういえばあれは前世の世界での文学作品が語源になっているんだったか。
伝わるわけないね。
「お前はたまに、よくわからない言葉を使うな。この前も「ソクシトフクジョウシ」とかなんとか言っていたが。どこの言葉なんだ、あれは?」
ああ、流石にこっちの言葉で言うのは恥ずかしかったから日本語で言ったんだよね。
たまたま聞いていたマリノーが小さく悲鳴を上げていた。
謎の直感で察してしまい、死のイメージを覚えたのだろう。
悪い事をした。
「遠い国の言語ですよ」
「お前は意外と博学なんだな」
本当に意外そうな声で言われた。
私、先生にも脳筋だと思われていたっぽい?
まぁ勉強は苦手だから、間違いなくインテリとは言えないけどね。
「だが、色々な問題はあっても、一番重要なのは一つだ」
「何ですか?」
「気持ちだ。俺はまだ、コトヴィアを……妻を愛しているからな」
「それは……仕方ない事ですね」
マリノーの気持ちは応援したいけれど、だからと言って先生に気持ちを捨てろとは言えない。
「でも、揺れているのは確かだ。あいつは情が深い。いい女になるだろうとは思っている。それにアルエットも、あいつの事は気に入っているようだしな」
「そうなんですか」
「アルエットには寂しい思いをさせてきた。母親を恋しがっているのも知っていた。だから、それも悪くないと今は思っている。まだ妻への想いが強いから、その気にはなれないけどな」
「真剣に考えてくれているって事でしょう? だったら、いいんじゃないでしょうか。いい加減な気持ちで接する男に、マリノーはあげられません」
私が言うと、先生は苦笑した。
「ちゃんと、本気で接していくつもりだ」
「はい、お願いします」
二人の関係はまだ始まったばかりだ。
でも、悪くない始まり方ではないだろうか?
協力するつもりでいたけれど、もしかしたらもう私は何もしなくていいのかもしれない。
そう思える程度に、二人の気持ちは繋がりつつある気がした。
調理実習の時間。
マリノーが声をかけてきた。
「何?」
「改めて、ありがとうございます」
どうしてお礼を言われたのかよくわからなかった。
「この前の事? でも、あれはむしゃくしゃしてやったって所もあるから別にお礼なんていらないけど」
「それもあるのですけど、今のお礼は今まで私のためにしてくださった事へのお礼ですよ」
「たとえば?」
「私と先生の仲を取り持ってくださったじゃありませんか」
「あー、でも私はそんなに役に立たなかったと思うんだけど」
マリノーはまだ、先生の心を射止めていない。
私がした事なんて、告白させたぐらいだ。
むしろ、計画はこれから。
これから、先生に対する攻略計画が本格的に始動する予定なのである。
お礼を言われるのはまだ早い。
「いいえ、そんな事ありません。あれから、先生と少し話をしまして」
「え、そうなの?」
「はい」
彼女はにっこりと微笑んだ。
「私の気持ちを受け取ってくれたわけじゃないのですけど。少しだけ、先生の私に対する接し方が柔らかくなった気がします。受け入れてくれるようになった気がします」
「それはよかった。じゃあ、このまま押しちゃいなよ。恋は押しの一手とも言うし」
「いや、そんな事は流石に……」
マリノーは慌てて、両手を小さく上げた。
「確かに、あの人の心は欲しいです。でも、ゆっくりでいいんですよ。今の私はあの人のそばにいるだけで、幸せですからね。でも、そのままでいいというわけでもないのですけど。いずれは、あの人の唯一になりたいですね」
まぁ、彼女らしい選択かな。
「じゃあ、これからも頑張らなくちゃね」
「はい」
授業が終わり、昼食に作った料理を食べて解散となった時だ。
私はティグリス先生から声をかけられた。
「ビッテンフェルト」
「はい。何ですか?」
「フカールエルの気持ちをお前は知っていたのか?」
「ええ。協力していましたからね」
「やっぱりな」
先生は溜息を吐いた。
「まぁ、そうだろうとは思っていたが」
「彼女は本気です。できるなら、良い様にしてあげてほしいんですけどね」
「それは、難しいな。いろいろな問題がある」
「教師と教え子ですし、年齢も問題がありますね。先生、ロリコンって言われちゃいますね」
「ロリ? 何だそれは? どこの言葉だ」
ああ、そういえばあれは前世の世界での文学作品が語源になっているんだったか。
伝わるわけないね。
「お前はたまに、よくわからない言葉を使うな。この前も「ソクシトフクジョウシ」とかなんとか言っていたが。どこの言葉なんだ、あれは?」
ああ、流石にこっちの言葉で言うのは恥ずかしかったから日本語で言ったんだよね。
たまたま聞いていたマリノーが小さく悲鳴を上げていた。
謎の直感で察してしまい、死のイメージを覚えたのだろう。
悪い事をした。
「遠い国の言語ですよ」
「お前は意外と博学なんだな」
本当に意外そうな声で言われた。
私、先生にも脳筋だと思われていたっぽい?
まぁ勉強は苦手だから、間違いなくインテリとは言えないけどね。
「だが、色々な問題はあっても、一番重要なのは一つだ」
「何ですか?」
「気持ちだ。俺はまだ、コトヴィアを……妻を愛しているからな」
「それは……仕方ない事ですね」
マリノーの気持ちは応援したいけれど、だからと言って先生に気持ちを捨てろとは言えない。
「でも、揺れているのは確かだ。あいつは情が深い。いい女になるだろうとは思っている。それにアルエットも、あいつの事は気に入っているようだしな」
「そうなんですか」
「アルエットには寂しい思いをさせてきた。母親を恋しがっているのも知っていた。だから、それも悪くないと今は思っている。まだ妻への想いが強いから、その気にはなれないけどな」
「真剣に考えてくれているって事でしょう? だったら、いいんじゃないでしょうか。いい加減な気持ちで接する男に、マリノーはあげられません」
私が言うと、先生は苦笑した。
「ちゃんと、本気で接していくつもりだ」
「はい、お願いします」
二人の関係はまだ始まったばかりだ。
でも、悪くない始まり方ではないだろうか?
協力するつもりでいたけれど、もしかしたらもう私は何もしなくていいのかもしれない。
そう思える程度に、二人の気持ちは繋がりつつある気がした。
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