気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

十六話 おまわりさん、こいつです

 一人で廊下を歩いている時だった。
 私は、壁際に立つ一人の少女を見つけた。
 少女というよりも幼女だ。
 綺麗な長い白髪の女の子。
 明らかに、この学園に入学できる年齢には見えない。
 そんな彼女を三人の男子生徒が囲んでいた。

「おい、何か言ってみろよ」

 男子生徒は少女に対して、高圧的な声で恫喝する。
 女の子はその男子生徒の顔を半ば睨みつけるように見上げ返していた。
 それでも内心は恐ろしいのか、スカートの裾を両手で握りしめている。

 何あれ?
 事案かな?

 しっかし、何でああいうろくでもなさそうな輩《やから》はスリーマンセルなんだろう。
 実は忍者なのか?
 先生から鈴を取る試験とか受けてるのか?

 じゃあ、こっちもその流儀に則ってやろうか。

「どーも、クロエ・ビッテンフェルトです」
「うお?」

 後ろから声をかけられ、男子生徒達は驚いてこちらへ向いた。
 そんな彼らに続けて言葉を投げる。

「誰だ、貴様らは?」
「それはこっちの台詞だ!」

 いや、さっき名乗ったじゃん。

「で、あなた達は何をしているんですか?」

 イタズラとかだったら色々な所を潰しちゃうよ。

「お前には関係ないだろ! どっか行けよ」
「ちいさな女の子一人に男が三人でかかる正当性を教えてもらえるまでは離れませんよ」

 どうしてそうなったのか?
 私、気になります。

「平民のガキが入り込んでたんだ。貴族としては注意する物だろ?」

 私は少女を見る。
 少女と目が合う。
 彼女の眼差しからは警戒心が見て取れた。私を敵か味方か、見定めようとしているようだ。

 多分そうなんだろうな、と思っていたけどやっぱりこの子はそうなのか。
 にっこりと笑いかけると、少女の警戒が少し薄れた。

「この子は貴族でしょう」
「あん?」
「だって、この子はティグリス先生のお子さんなのですから」

 この子はアルエット・グラン。
 ティグリス先生の一人娘だ。

「だからだ。あのような品位の欠片もない男が貴族だと? ただの成り上がった平民だ。そんな奴と我々が同格だなどと、思い上がりも甚だしい。俺達はその間違いを正そうとしていただけだ」

 ああ、こいつら男爵家の子息共か。騎士公は男爵位と同格だからね。
 要は、ティグリス先生への不満をその子供にぶつけているだけでしょ?

「そんなもの、お門違いでしょう? そんな自分勝手な不満を子供相手にぶつけるものじゃない。あなた達の行いの方が、貴族としての品位を貶めていると何故気付かないのです?」
「ぐ、これは男の矜持の話だ! 女がしゃしゃり出てくるな!」

 矜持とか、その言葉ちゃんと理解して使ってる?
 ちゃんちゃらおかしいんだけど。
 どう言えば、追っ払えるだろうか?

「あ、こいつ、思い出した」

 男の一人が、急に声を上げる。

「こいつは、家では「パ――」」

 鼻っ柱にバーン! アトミックフレア(拳)を食らえ!

「ぐびゅうっ!」

 男子生徒の一人が倒れる。そのまま気を失ったようだ。

「な、なんて奴だ! 急に殴りやがったぞ!」
「信じられねぇ! 酷い有様だ!」

 うう、つい手が出ちゃった。
 今回は話し合いで追っ払うつもりだったんだけどな。

「くそぉ、こいつめ」
「女だからって容赦しねぇぞ」

 おまえら本当に貴族か?
 本当はチンピラとかとちゃうか?
 もう、こうなったら仕方ないか。
 あっちもやる気だし。

 貴族、倒すべし。慈悲は無い。
 命がけで獲りにこい。物理的に天誅を食らわせてやる。

 私は「ジョイヤー」と腹を殴り、「ドリャー」と顎を殴り上げて残った二人の男を片付けた。
 一発で止めた事を感謝するがいい。
 一応、手加減もしたし。

「「お、おぼえてろよー」」

 男二人は捨て台詞を残し、気を失ったままの仲間に肩を貸して逃げていった。
 他愛無い。
 さて……。

「大丈夫?」

 アルエットちゃんへ声をかける。

「うん、大丈夫! お姉ちゃん、ありがとう!」

 もう彼女の目に警戒の色は無かった。
 笑みを向けると、今度は笑い返してくれた。

 あ、可愛い。
 ハスハスしたい。
 と、ダメだダメだ。
 1フレームパンチの餌食にされてしまう。

 でも、先生とはちょっと戦ってみたい……。
 いや、ダメだってば。

 でも、見るも無残な暴力行為を見たと言うのに、この子はえらく落ち着いているな。

「お嬢ちゃん、私の事怖くない?」
「どうして?」
「いや、すぐに人を殴っちゃう所とか……」
「全然。お姉ちゃん、お父さんみたいでカッコよかった!」

 先生、普段何してるんですか?
 やっぱり町でよく絡まれて返り討ちにしたりしているんですか?

「どうしてこんな所にいたの?」
「お父さんがお弁当忘れたから、届けに来たの」

 背中に隠していたらしく、アルエットちゃんは後ろからバスケットを取り出す。

「ふーん、そう。じゃあ、一緒に届けに行こうか」
「一緒に来てくれるの?」
「またあいつらみたいなのに絡まれたら危ないからね」

 私はアルエットちゃんと手を繋いで、職員室までエスコートした。

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