気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE
八話 悪役令嬢・THE・悪役令嬢
それから数日後。
場所は校舎内。
廊下の真ん中で人だかりができていた。
人の流れが完全に止まっている。
どうやら彼らはギャラリーのようで、人だかりの中心にいる何かを見ているようだ。
怒鳴る女性の声が聞こえる。
お、喧嘩かい? いいねぇ、俺も俺も、というつもりで私は人垣を掻き分けていったわけなのだが、そこにいたのはカナリオともう一人の令嬢だった。
そのもう一人なのだが、実は私が一番好きな悪役令嬢だったのである。
イメージカラーの赤をそのままに映した真紅のドレス。
切れ長の怜悧な瞳。そして先端の鋭利な黒髪の立派なドリル。
彼女こそ、ゲーム中で一番悪役令嬢らしい悪役令嬢、アードラー・フェルディウスその人である。
彼女はファンの間でテンプレートな悪役令嬢と呼ばれている。
主人公につっかかり意地悪な事を言って、悪質な嫌がらせをする。
足を引っ掛ける事に始まり、教科書をため池に投棄、実技服(体操服みたいなもの)を切り刻む、おめーの席ねーから、とさまざまな嫌がらせを主人公に加えるのだ。
まさに、王道を行く悪役令嬢である。
「どうして? どうしていつも私にそんな意地悪をするんですか!」
普段、余程の事がないと怒鳴る事のないカナリオが声を荒らげて激怒していた。
「あなたは、自分自身を顧みる事があって?」
対してアードラーは、あくまでも静かな口調で返す。
ああ、思い出した。
このシーンは、度重なるアードラーの嫌がらせにカナリオが怒りを爆発させるシーンだ。
という事は、私の出る幕じゃないな。
「っ……! どういう意味です?」
「わからない?」
「わからないから聞いているんです!」
「この場に相応しくない大声ね。本当に、相応しくないわ」
アードラーは冷笑する。
「わかりやすく言ってあげるなら、似つかわしくないのよ。あなた」
「何に似つかわしくないと言うんです?」
「……さぁ、何かしらね。真っ当な考えを持つ人間なら、自分で気付けるのではなくて? 自分自身が恥ずかしい人間だと」
「私は何にも恥ずかしい生き方はしていません!」
アードラーはカナリオに一歩近寄った。
身長差の関係で若干カナリオの顔を見上げながら、アードラーは睨みつける。
「本来なら貴族の学び舎であるこの場所に、あなたのような平民が恥ずかしげもなくいる事が問題なのよ!」
アードラーはカナリオを突き飛ばした。カナリオはその場で尻餅を着く形で倒れる。
今度はカナリオが見上げる形となり、それでも怯む事無く彼女はアードラーと睨み合う。
「自分がこの場に相応しくないと認識なさい。そして、この場から去るがいいわ」
冷ややかに言い放つアードラー。
そんな時、ギャラリーが割れた。
割れてできた人垣の道を通り、一人の男性が登場する。
リオン王子だ。
この国の第一王子様。
そして私は、彼が今この場に登場する事を予見していた。
何故なら今行われているイベントは、カナリオとリオン王子のイベントなのだから。
そして彼はアードラーの婚約者であり、作中のメイン攻略対象でもある。
彼のルートこそが、このゲームの本筋となるシナリオなのである。
だって「君は我が女神だ」という台詞は彼しか言わないしね。
カナリオの出自がわかるのも彼のルートだけ。
つまりゲームのタイトルを反映しているのは彼のシナリオぐらいだ。
それに名前からして百獣の王とスペシャルだ。
イメージカラーもゴールドで、とてもゴージャスだ。
キラキラツヤツヤした金髪に、空の青を映したような爽やかな青い瞳。
立ち居振る舞いも王族らしい堂々としたものだ。
うちの子リスちゃんとはえらい違いである。
「アードラー。何をしているんだ?」
リオンは場を見て、すぐに状況を察したらしい。
アードラーを咎めるように詰問する。
問われた彼女はリオンに背を向ける。
「わたくしは道理を弁えない平民に、身分によった渡世という物を説いただけですわ」
「暴力に訴える事が、高い身分の者のする事か?」
「少し押しただけではありませんか。それくらいで尻餅をつくなんて、思いもしなかったわ。それより……」
アードラーは首と視線を巡らせて、リオンに目を向ける。
「リオン様こそ、えらくその平民にご執心ではございませんか」
「……私は、王になる身として、民一人一人を大事にしていきたいと思っているだけだ」
「そう……。ならそれもいいでしょう。ただし、自分に相応しき立場と行いは、何もその平民だけに限った話だけではないのですよ。あなたも次代の王となる方なのですから、身分に見合った振舞いをなさいませ。では、ごきげんよう」
その言葉を残して、アードラーは去って行った。
彼女の行く先で、ギャラリーが割れる。
彼女はその道を悠然と歩いていく。
「あの、よかったのですか?」
「構わない」
「でも……私は……」
「あれは王としての私しか見ていない。嫉妬ではないさ」
このイベントが起きるという事は、ある程度リオンのフラグが成立しているという事だ。
まだルートには入っていないが、心は通い合っている。
ただ、身分に邪魔されて二人とも恋の相手になる覚悟ができていない状態だ。
ま、シナリオが進めばそんな物ポンと放り投げてしまうが。
おほっ、もしかしてもう私の死亡ルート回避できたんじゃねぇ?
リオンのルートに入れば、戦争は起きないのだから。
と、それよりも今は気になる事がある。
せっかく、アードラーを見つけたのだ。
好きなキャラクターと会えたのだから、お近づきになっておきたい。
私は彼女の背中を追って歩き出した。
ストーキングとちゃうで?
好きな子の事はなんでも知りたいだけなんや、ゲヘゲヘ。
場所は校舎内。
廊下の真ん中で人だかりができていた。
人の流れが完全に止まっている。
どうやら彼らはギャラリーのようで、人だかりの中心にいる何かを見ているようだ。
怒鳴る女性の声が聞こえる。
お、喧嘩かい? いいねぇ、俺も俺も、というつもりで私は人垣を掻き分けていったわけなのだが、そこにいたのはカナリオともう一人の令嬢だった。
そのもう一人なのだが、実は私が一番好きな悪役令嬢だったのである。
イメージカラーの赤をそのままに映した真紅のドレス。
切れ長の怜悧な瞳。そして先端の鋭利な黒髪の立派なドリル。
彼女こそ、ゲーム中で一番悪役令嬢らしい悪役令嬢、アードラー・フェルディウスその人である。
彼女はファンの間でテンプレートな悪役令嬢と呼ばれている。
主人公につっかかり意地悪な事を言って、悪質な嫌がらせをする。
足を引っ掛ける事に始まり、教科書をため池に投棄、実技服(体操服みたいなもの)を切り刻む、おめーの席ねーから、とさまざまな嫌がらせを主人公に加えるのだ。
まさに、王道を行く悪役令嬢である。
「どうして? どうしていつも私にそんな意地悪をするんですか!」
普段、余程の事がないと怒鳴る事のないカナリオが声を荒らげて激怒していた。
「あなたは、自分自身を顧みる事があって?」
対してアードラーは、あくまでも静かな口調で返す。
ああ、思い出した。
このシーンは、度重なるアードラーの嫌がらせにカナリオが怒りを爆発させるシーンだ。
という事は、私の出る幕じゃないな。
「っ……! どういう意味です?」
「わからない?」
「わからないから聞いているんです!」
「この場に相応しくない大声ね。本当に、相応しくないわ」
アードラーは冷笑する。
「わかりやすく言ってあげるなら、似つかわしくないのよ。あなた」
「何に似つかわしくないと言うんです?」
「……さぁ、何かしらね。真っ当な考えを持つ人間なら、自分で気付けるのではなくて? 自分自身が恥ずかしい人間だと」
「私は何にも恥ずかしい生き方はしていません!」
アードラーはカナリオに一歩近寄った。
身長差の関係で若干カナリオの顔を見上げながら、アードラーは睨みつける。
「本来なら貴族の学び舎であるこの場所に、あなたのような平民が恥ずかしげもなくいる事が問題なのよ!」
アードラーはカナリオを突き飛ばした。カナリオはその場で尻餅を着く形で倒れる。
今度はカナリオが見上げる形となり、それでも怯む事無く彼女はアードラーと睨み合う。
「自分がこの場に相応しくないと認識なさい。そして、この場から去るがいいわ」
冷ややかに言い放つアードラー。
そんな時、ギャラリーが割れた。
割れてできた人垣の道を通り、一人の男性が登場する。
リオン王子だ。
この国の第一王子様。
そして私は、彼が今この場に登場する事を予見していた。
何故なら今行われているイベントは、カナリオとリオン王子のイベントなのだから。
そして彼はアードラーの婚約者であり、作中のメイン攻略対象でもある。
彼のルートこそが、このゲームの本筋となるシナリオなのである。
だって「君は我が女神だ」という台詞は彼しか言わないしね。
カナリオの出自がわかるのも彼のルートだけ。
つまりゲームのタイトルを反映しているのは彼のシナリオぐらいだ。
それに名前からして百獣の王とスペシャルだ。
イメージカラーもゴールドで、とてもゴージャスだ。
キラキラツヤツヤした金髪に、空の青を映したような爽やかな青い瞳。
立ち居振る舞いも王族らしい堂々としたものだ。
うちの子リスちゃんとはえらい違いである。
「アードラー。何をしているんだ?」
リオンは場を見て、すぐに状況を察したらしい。
アードラーを咎めるように詰問する。
問われた彼女はリオンに背を向ける。
「わたくしは道理を弁えない平民に、身分によった渡世という物を説いただけですわ」
「暴力に訴える事が、高い身分の者のする事か?」
「少し押しただけではありませんか。それくらいで尻餅をつくなんて、思いもしなかったわ。それより……」
アードラーは首と視線を巡らせて、リオンに目を向ける。
「リオン様こそ、えらくその平民にご執心ではございませんか」
「……私は、王になる身として、民一人一人を大事にしていきたいと思っているだけだ」
「そう……。ならそれもいいでしょう。ただし、自分に相応しき立場と行いは、何もその平民だけに限った話だけではないのですよ。あなたも次代の王となる方なのですから、身分に見合った振舞いをなさいませ。では、ごきげんよう」
その言葉を残して、アードラーは去って行った。
彼女の行く先で、ギャラリーが割れる。
彼女はその道を悠然と歩いていく。
「あの、よかったのですか?」
「構わない」
「でも……私は……」
「あれは王としての私しか見ていない。嫉妬ではないさ」
このイベントが起きるという事は、ある程度リオンのフラグが成立しているという事だ。
まだルートには入っていないが、心は通い合っている。
ただ、身分に邪魔されて二人とも恋の相手になる覚悟ができていない状態だ。
ま、シナリオが進めばそんな物ポンと放り投げてしまうが。
おほっ、もしかしてもう私の死亡ルート回避できたんじゃねぇ?
リオンのルートに入れば、戦争は起きないのだから。
と、それよりも今は気になる事がある。
せっかく、アードラーを見つけたのだ。
好きなキャラクターと会えたのだから、お近づきになっておきたい。
私は彼女の背中を追って歩き出した。
ストーキングとちゃうで?
好きな子の事はなんでも知りたいだけなんや、ゲヘゲヘ。
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