気付いたら、豪傑系悪役令嬢になっていた SE

8D

三話 父上に遊んでもらいました

 父上から虐待寸前の訓練を受け続けてきた人生だが、それも悪い事ばかりではなかった。
 何より、その厳しさがあったからこそもたらされた物もあるわけで……。

 私は今、裏庭で丸太を相手に剣の稽古をしていた。

「ヘイ!」

 叫び、剣で丸太を切り上げる。丸太は易々と宙に浮く。
 私は飛び上がり、空中で丸太を乱れ切りにする。
 この間、魔力を駆使して滞空時間を延ばす事も忘れない。

 途中で手を指鉄砲の形にして、指先から魔力の火弾を連射。
 最後に剣で叩き落す。

「クレイズィッ!」

 着地と同時に叫びを上げる。

「OKッ!」

 これは違ったかな?

 地獄の特訓によって、私の体は前世ではありえない程の身体能力を有していた。
 体が軽く、思い描いた通りに動く。

 もう何も怖くない。

 なんて、丸太に片足をかけたポーズで思ってみたくなるほどの万能感がある。

 その上、魔力を使う事もできるのでさらにやりたい放題できた。
 まるでアクションゲームで見る事ができるようなトンデモアクションが現実に、しかも自分の体でできるようになったのだ。

 そして今の私は、スタイリッシュアクションごっこをしている。
 正直、超楽しい。
 お父様ありがとう! ろくでもないなんて思ってごめんね。

 と、私はここ最近、父との稽古の後に毎日アクションゲームの主人公ゴッコをして遊んでいる。
 今日はスタイリッシュ。明日はヤクザ。明後日はニンジャかなぁ。
 などと毎日楽しく過ごしていた。

 のだが……。
 ある日、父上からの呼び出しがあった。

「クロエ。お前は最近、稽古の後で自己流の鍛錬をしているようだな」
「はい。もっと強くなりたかったので!」

 ごめんなさい。普通に遊んでただけです。
 叱られたくなくて、ちょっとカッコイイ事を言ってみました。
 偽りのストイックさを褒めてください。

「馬鹿者!」
「え?」

 叱られたし。
 何で?

「私が教えるならまだしも、自分で考えた鍛錬をするなど何事だ! 馬鹿者め!」

 何事で怒っておるのかわからんのですが?

「何故、いけないのですか?」
「そんな事もわからんのか! 馬鹿者め! その性根を叩き直してやる。外へ出ろ!」

 お父様、ちょっと言葉が足りません。
 考えるに、成長しきっていない体で素人考えの鍛錬をすれば、体を痛めるとかそういった意味だろうか。
 それか、自分を蔑ろにされたと思って怒っているだけだったりして。

 私は父上に連れられて、庭に出た。
 木剣を渡される。

「さぁ、かかってこい。お前の浅知恵がどれ程に愚かな事か証明してやろう」

 考えようによっては、いい機会なのかもしれない。
 この父上は脳筋ではあるが、その実力だけは確かだ。
 アルディリアのルートでも彼は戦争中に大活躍している。
 二、三行程度の表記で立ち絵も台詞もないが、敵の兵士を千切っては投げ千切っては投げしていたようだ。

 正直、設定上は作中最強の存在かもしれない。
 だったら、私の愛するトンデモアクションが現実にどれだけ通用するのか試せるかもしれない。

「わかりました。いきます!」

 私が構えると、父も同じく木剣を構えた。
 おっと、父の教えで戦っては試せない。
 あくまでも私は、私が培ってきた動きが通用するのかを確かめたいのだ。
 私は構えを解いて、ぶらりと剣を持った。

「構えろ」
「必要ありません」

 答えると、父上は表情を一層険しくした。
 剣を振り上げて迫ってくる。
 さぁ父上、たまには私の遊びに付き合ってもらいましょう。



 かいつまんで話せば、結果的に私は父上に勝利した。
 あまりにも見せ場のない泥仕合だったので、特筆すべき事があまりない戦いだった。

 基本に忠実で愚直なまでに正攻法の父上に対し、私はゲームキャラクターをトレースしたトリッキーな動きで対応した。
 指鉄砲をガードさせて固めたり、突進突きで奇襲してみたり、魔力の足場を作って二段ジャンプしてみたり、離れて挑発してみたり。

 そのどれにも父上は驚いていたが、それでもちゃんと対応していた。
 あ、挑発だけはすごく有効だった。びっくりするぐらい怒ってた。
 攻撃を避けながら「無駄でしたのー」なんて言ったら、当たったら死んじゃうんじゃないのってくらいの強い斬撃が飛んできた。

 その攻撃はもちろん、私は父上の通常攻撃すら防いでも受けきれないので、まともに打ち合わず逃げながら戦った。

 決して動きを読まれないようパターンを変えながら、それでいて相手のパターンを読みながら慎重に攻め立てた。

 幸い、私は長年の稽古で父上のパターンをある程度理解していたので、それほど動きを読む事に苦労しなかった。

 ここらあたりは、前世での格ゲー経験が役立ってもいたのだろう。
 最終的に、父上は私の振った剣を受けきれず、自分の剣を叩き飛ばされてしまった。

「参った」

 剣の切っ先を突きつけると、父上はあっさりと降参した。

「強くなったな。間違っていたのは、私だったようだ」

 プライドの高い父上の事。
 てっきり、とても怒られるのではないかと思っていたが、意外な事に父上は素直に自分の非を詫びた。

「ありがとうございました」

 父上はそれ以上何も言わず、私に背を向けて屋敷の方へ歩いていった。
 その背中には、哀愁が漂っているように見えた。
 やっぱり、プライドは傷ついてしまっているのかもしれない。

 悪い事をしたな。
 あとで、慰めてあげようかな。
 パパ、だーい好き! なんて可愛らしい愛娘から慰められれば、きっとプライドなんて一瞬で回復するよ。

 しかし父上に勝てたという事は、今の私はこのゲーム内で最強の存在になってしまったという事なのだろうか?



 その日の夜の事である。
 私は昼間の「パパ、だーい好き」作戦を決行するために、父の部屋へ向かった。

「お邪魔しまーす」

 ノックと一緒にドアを開ける。
 しかし、そこには誰もいなかった。

 えーいないのー?
 いつもこの時間は部屋にいるのにな。

 娘に負けて傷ついたプライドを癒すために、どっかで黄昏てたりするんかね。
 そんな事を思いつつ屋敷の中を探してみると、食堂のドアが開いていた。
 つまみ食いですかねぇ。

 中に入ってみるが、やっぱり父上の姿は無い。
 ここでもないのか?

 ふと、テーブルの上に一枚の紙が置かれているのが目に入った。
 紙に書かれた一文が目に入る。

「旅に出る」

 父の字だった。
 え、マジ?
 もしかしていい歳こいて家出ですか?
 やめてよパパ!

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