女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件
岐路
「なあ。リリン」
「なんじゃ」
すでに夕日は沈んでいた。残照が空を鈍色に染めていた。不気味な色の空だった。こんな時間に帰るのは、はじめてかもしれない。
部活動で残っていた生徒たちといっしょになった。だからと言って、べつに話しかけられるようなことはない。部活動をやっている連中にくらべると、オレは不健全な存在である気がして、迂闊に近づくことが出来なかった。
そのなかにはオレがチャームをかけた猫山先輩の姿があった。猫山先輩の画像はすでに削除済みである。よって、すでにチャームの効果はうしなわれている。猫山先輩はオレのことなど意に介する様子もなかった。
「灰都山端区」まで、電車で揺られた。
プラットホームに降り立ったときには、残照すらもうしなわれて当たりは暗くなっていた。そんな夜道を帰っているときだった。あたりに人の姿はなく、また、あったとしても別に構わないか、という捨て鉢な気分になっていた。
「君がオレに憑いたのは、オレが警視総監の息子だからなのか?」
と、スマホに投影されているリリンに向かって問いかけた。
「うむ」
「そっか」
と、オレは肩を落とした。
リリンとカチューシャさんのヤリトリのなかで聞こえてきた。それからずっと気にかかっていたのだ。
「厭なのかえ?」
「厭っていうか、期待外れって言うか。結局、父さんの影響であって、オレ自身になにかしら特別な存在だったからとか、そういうことじゃないんだろ」
魔王の器。そう言われてビックリはしたけれど、すこしうれしかったのだ。オレみたいなヤツにだって、何か才能が秘められているのかと期待した。自分が特別な存在かもしれないと勘違いしてしまった。
「なんじゃ、そんなことで落ち込んでおるのか。カチューシャにも言うたが、オヌシ自身の問題もある。オヌシは弱く、非常につけ込みやすかった。悪魔にとってはカッコウの餌食じゃ」
「それ、べつになんのフォローにもなってないよ」
フォローしようとは思っとらんわ、とリリンはつづけた。
「それに特別な存在というのは、待っていてもなれるもんではない。何かを成し遂げてはじめて、特別になれるもんじゃ」
悪魔のくせに、アツシゲみたいなことを言う。
「ハリー・ポッターは何も成し遂げてないけど、特別な存在だったよ」
「残念なことに、オヌシの額に傷はないゆえな」
「知ってるんだ? ハリー・ポッター?」
この悪魔が、現実世界の文学について見識があるというのは意外だった。
「ネットに転がっている情報なら、ワシにも知りうることが出来るゆえな」
「へぇ」
と、オレは生返事をして、歩みを進めた。
オレの住んでいるタワーマンションの姿が見えてくる。
「オヌシは特別じゃ。警視総監の息子でありながら、チャームを使えるんじゃからな」
「まあ、そうなんだろうけどさ。でも――」
「でも?」
「カチューシャさんに魔王の器だとか言われてたのに、なんの変哲もない、ただのクズだって幻滅されたら、なんか厭な気持にはなるよ」
この不快感をどう説明すれば良いのかわからなかった。自分がカチューシャさんにとって期待外れの人間だった。それが妙にモヤモヤする。
「要するにオヌシは、チヤホヤされたかったんじゃろう。まるで物語の主人公のように、周囲から必要とされたかったんじゃろう。オヌシの言っている、特別、というのはそういうことじゃ」
「そう――かもしれない」
それを見透かされるのは、とても恥ずかしいことのように感じられて、オレは赤面をおぼえた。
「チヤホヤされたいと言うのならば、事を起こすことじゃな」
「事って、警察の護送車を襲うってヤツか?」
「うむ」
「バカバカしい」
盗撮なんかよりも、もっとずっと重い犯罪だ。 そんなものに手を染める勇気はない。必要性も感じない。
そんなことするぐらいならば、べつに特別じゃなくたっても良い。
特務課に狙われるって言うのならば、いっそのことリリンとの縁を切っても良いと考えているぐらいだ。
「チャームをうしなえば、オヌシはいよいよただのコワッパになるぞ。それで生きていけるのかえ?」
オレの心理を、この悪魔を察知している。
「わかってるよ」
チャームを失えば、オレはいよいよただのクズに成り下がる。成り下がるというか、逆戻りだ。しかしだからと言って、特務課と呼ばれる警察を相手に戦う覚悟があるのかと問われると、答えは「NO」だ。
「ふぅぅ」
と、クジラが潮を吹くように、息を吐きだした。
迷いどころである。
このままチャームのことを保持して、特務課に怯えながら生きていくか。
それとも。
チャームという特別なチカラを捨てて、なんの取り柄もないクズになるか。
ふつうの人なら――どっちを選ぶんだろうか?
『ツイッター』でアンケートを取ってから、身の振り方を考えようか……なんて思った。まあ、オレのフォロワーなんていないし、アンケートを取ったところで、誰も投票してくれないかもしれないが。
「チャームがあれば、オヌシはいつだってチヤホヤされる。どんな女も抱けるし、チャームは同性にだって通用する。どんな男にだって頭を下げさせることができる。な? じゃからワラワを捨てようとか思わんじゃろう? チャームがあるかぎりオヌシは特別な存在なんじゃからな?」
オレの動揺を嗅ぎ取って、さすがにリリンも焦りはじめたようだ。言葉数が多い。
「すこし黙っててくれ。不審に思われるから」
「う、うむ」
と、リリンは黙った。
いつも上から目線のこの悪魔を動揺させることが出来たことだけは、すこしだけオレのふさいでいた気持ちを愉快にさせてくれた。
「なんじゃ」
すでに夕日は沈んでいた。残照が空を鈍色に染めていた。不気味な色の空だった。こんな時間に帰るのは、はじめてかもしれない。
部活動で残っていた生徒たちといっしょになった。だからと言って、べつに話しかけられるようなことはない。部活動をやっている連中にくらべると、オレは不健全な存在である気がして、迂闊に近づくことが出来なかった。
そのなかにはオレがチャームをかけた猫山先輩の姿があった。猫山先輩の画像はすでに削除済みである。よって、すでにチャームの効果はうしなわれている。猫山先輩はオレのことなど意に介する様子もなかった。
「灰都山端区」まで、電車で揺られた。
プラットホームに降り立ったときには、残照すらもうしなわれて当たりは暗くなっていた。そんな夜道を帰っているときだった。あたりに人の姿はなく、また、あったとしても別に構わないか、という捨て鉢な気分になっていた。
「君がオレに憑いたのは、オレが警視総監の息子だからなのか?」
と、スマホに投影されているリリンに向かって問いかけた。
「うむ」
「そっか」
と、オレは肩を落とした。
リリンとカチューシャさんのヤリトリのなかで聞こえてきた。それからずっと気にかかっていたのだ。
「厭なのかえ?」
「厭っていうか、期待外れって言うか。結局、父さんの影響であって、オレ自身になにかしら特別な存在だったからとか、そういうことじゃないんだろ」
魔王の器。そう言われてビックリはしたけれど、すこしうれしかったのだ。オレみたいなヤツにだって、何か才能が秘められているのかと期待した。自分が特別な存在かもしれないと勘違いしてしまった。
「なんじゃ、そんなことで落ち込んでおるのか。カチューシャにも言うたが、オヌシ自身の問題もある。オヌシは弱く、非常につけ込みやすかった。悪魔にとってはカッコウの餌食じゃ」
「それ、べつになんのフォローにもなってないよ」
フォローしようとは思っとらんわ、とリリンはつづけた。
「それに特別な存在というのは、待っていてもなれるもんではない。何かを成し遂げてはじめて、特別になれるもんじゃ」
悪魔のくせに、アツシゲみたいなことを言う。
「ハリー・ポッターは何も成し遂げてないけど、特別な存在だったよ」
「残念なことに、オヌシの額に傷はないゆえな」
「知ってるんだ? ハリー・ポッター?」
この悪魔が、現実世界の文学について見識があるというのは意外だった。
「ネットに転がっている情報なら、ワシにも知りうることが出来るゆえな」
「へぇ」
と、オレは生返事をして、歩みを進めた。
オレの住んでいるタワーマンションの姿が見えてくる。
「オヌシは特別じゃ。警視総監の息子でありながら、チャームを使えるんじゃからな」
「まあ、そうなんだろうけどさ。でも――」
「でも?」
「カチューシャさんに魔王の器だとか言われてたのに、なんの変哲もない、ただのクズだって幻滅されたら、なんか厭な気持にはなるよ」
この不快感をどう説明すれば良いのかわからなかった。自分がカチューシャさんにとって期待外れの人間だった。それが妙にモヤモヤする。
「要するにオヌシは、チヤホヤされたかったんじゃろう。まるで物語の主人公のように、周囲から必要とされたかったんじゃろう。オヌシの言っている、特別、というのはそういうことじゃ」
「そう――かもしれない」
それを見透かされるのは、とても恥ずかしいことのように感じられて、オレは赤面をおぼえた。
「チヤホヤされたいと言うのならば、事を起こすことじゃな」
「事って、警察の護送車を襲うってヤツか?」
「うむ」
「バカバカしい」
盗撮なんかよりも、もっとずっと重い犯罪だ。 そんなものに手を染める勇気はない。必要性も感じない。
そんなことするぐらいならば、べつに特別じゃなくたっても良い。
特務課に狙われるって言うのならば、いっそのことリリンとの縁を切っても良いと考えているぐらいだ。
「チャームをうしなえば、オヌシはいよいよただのコワッパになるぞ。それで生きていけるのかえ?」
オレの心理を、この悪魔を察知している。
「わかってるよ」
チャームを失えば、オレはいよいよただのクズに成り下がる。成り下がるというか、逆戻りだ。しかしだからと言って、特務課と呼ばれる警察を相手に戦う覚悟があるのかと問われると、答えは「NO」だ。
「ふぅぅ」
と、クジラが潮を吹くように、息を吐きだした。
迷いどころである。
このままチャームのことを保持して、特務課に怯えながら生きていくか。
それとも。
チャームという特別なチカラを捨てて、なんの取り柄もないクズになるか。
ふつうの人なら――どっちを選ぶんだろうか?
『ツイッター』でアンケートを取ってから、身の振り方を考えようか……なんて思った。まあ、オレのフォロワーなんていないし、アンケートを取ったところで、誰も投票してくれないかもしれないが。
「チャームがあれば、オヌシはいつだってチヤホヤされる。どんな女も抱けるし、チャームは同性にだって通用する。どんな男にだって頭を下げさせることができる。な? じゃからワラワを捨てようとか思わんじゃろう? チャームがあるかぎりオヌシは特別な存在なんじゃからな?」
オレの動揺を嗅ぎ取って、さすがにリリンも焦りはじめたようだ。言葉数が多い。
「すこし黙っててくれ。不審に思われるから」
「う、うむ」
と、リリンは黙った。
いつも上から目線のこの悪魔を動揺させることが出来たことだけは、すこしだけオレのふさいでいた気持ちを愉快にさせてくれた。
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