女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件

執筆用bot E-021番 

魔王の器

 リリンは前に、二階堂万桜という男に憑いていた。二階堂万桜が特務課に殺されたから、リリンは別の人間に憑くことにした。
 それが――オレ。
 理解は出来た。だが、納得はできない。

 ヒューッ

 と、カチューシャさんの細長い脚が、風を切って飛んできた。オレは屈んで、それを躱した。どういうわけかリングの上にて、キックボクシングの相手をさせられている。


「そうよ。いい感じよ。カラダを鍛えておくに越したことはないんだから。特務課から目をつけられたら、チョットは戦えるようにしなくちゃね」


「はぁ……はぁ……。オレ運動とか、苦手、なんですけど……」


 小学生のころから、カラダを動かすのが苦手だった。運動場で遊ぶ意味がわからなかった。


 体育だって苦手だった。マラソンなんて必ず病欠していた。自分がどうしてそんな捻くれた人間に育ったのかはわからないが、英才教育の弊害なんじゃないかと自分では思ってる。


 しかし今、その価値観がひっくり返った。


 警察に襲われたときに対処できるように、カラダを動かしておくべきだった。もしも過去に戻ることが出来るなら、幼き自分に注意してやりたい。お前はいずれ警察に追いかけられる身になるから、今の内に運動しておけ――と。


「弱音はダメよ。ボーイはいずれ魔王になる男なんだから」


「ンなこと言われても……」


 ヒュ。
 風を切って、また足が飛んできた。今度は上手く避けきれずに、脇腹にもらうことになった。


「ぐへぇ」
 と、オレはその場に倒れこんだ。


「二階堂万桜はもっと強い男だったんだけどね」 と、カチューシャさんはあきれたように言う。


「オレはその二階堂万桜って男じゃないですし」


 そもそも強い男ならば、悪魔になんかに憑かれることはないのだ。弱いから、付けいれられたのだ。オレにだってそれぐらい自覚はある。


「でもまだ、ボーイは若いんだし、これから強くなれば良いだけの話よ」


 ほら立って、と手を差し出してきた。
 その手をかりて立ち上がる。


「って言うか、そもそも魔王になるつもりもないんですけど」


「じゃあ、どうしたいの?」


「オレはただ、チャームを適度に使って、それなりに平々凡々と生きてゆければ、それで良いですよ」


「チャームを使っている時点で、平々凡々ではないでしょ」


「それはそうですけど」


「いずれにせよ、チャームを使っていくうちに、特務課に目をつけられることになるわ。さっきも言ったけど、セッカクの能力も、特務課がいては、自由に使うことが出来ないのよ」


「理屈は、わかるんですけどね」


「二階堂万桜は、憑人たちをまとめて、組織化しようとしていたわ。この喫茶店もその一環として造られたものよ」


「オレにはその人の代わりはムリですよ」


「はぁい、リリン、いるんでしょ」
 と、カチューシャさんが声を張り上げた。


「なんじゃ。そんなでかい声を出さんでも聞こえておるわ」
 と、パイプイスの上に置いてあったオレのスマホから、リリンがそう返答した。


「どうしてこのボーイに憑いたの? あなたはこのボーイが次なる魔王の器だと見込んだんじゃないの?」


 オレへの見込みのなさからか、カチューシャさんはリリンに話を振ることにしたようだ。


「カゲロウはワシが気に入ったから、憑いたというだけじゃ。憑人を率いる器かどうかは、そっちの都合じゃろうが」


「このボーイのどこを見込んだの?」


「まずひとつは親が警視総監ということじゃな。警視総監の息子ならば、憑人だったとしても、そうそう怪しまれることもない」


「わお。警視総監の息子さんなんだ」
 と、カチューシャさんはわざとらしく両手をあげて、あらためてオレのほうを見てきた。


「世界にたいして鬱屈としたものも抱えている。簡単に犯罪者になる心の弱さを持っておる。なにせワシが憑く前から、盗撮なんかやっておったぐらいじゃからな。憑きやすいうえに、バレにくい。こんな良い人材は他におらんじゃろう」


 さんざんな言われようである。盗撮をやっていたこともバラされて、赤面をおぼえた。人に胸を張って言えるようなことじゃない。不謹慎にも、カチューシャさんの視力が失われていて良かったと思った。きっと軽蔑するような目を、向けられていたことだろう。


「リリンが憑くからには、魔王の器があると思ったんだけどねぇ」
 と、カチューシャさんは、あからさまに落胆した様子だった。
 なんだか居たたまれなくなってきた。


「オレ、もう帰りますよ」
 と、オレはリングを下りることにした。


「待って。カゲロウボーイ」


「なんですか? オレはクズなんですよ。魔王になんてなれませんよ」


「でも、チャームを使える」


「ええ」


「1週間後。憑人たちにとって大切な日になる」


「大切な日?」


「警察の護送車を襲う」


「……ッ」
 言葉をうしなった。
 それは、もはやテロだ。


「もっと正確に言うならば、公安特務課の護送車から、ひとりの憑人を救い出す。その作戦には、あなたのチカラが必要になる」


「考えときますよ」
 と返したけれど、そんな重犯罪に参加する気はなかった。良いですね、やりましょうーーなんて、乗り気になるヤツがいるわけがない。


 オレは逃げるようにその場から立ち去った。

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