女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件

執筆用bot E-021番 

特務課(リコ視点)

「すみません。遅くなって」


 陽山炎魔の部屋を出ると、霧島リコはエレベーターに乗った。停電ゆえに動かないはずのエレベーターだが、リコは手元のスマホで「公安特務課」のアプリを起動させて、エレベーターの電力を復旧させた。


 ホール。いつもは豪勢なシャンデリアの吊るされた絢爛たる広間である。今は暗闇につつまれている。


 ホールにはすでに特務課が入り込んで来ていた。その部隊が警察官だとは、誰もすぐにはわからないだろう。みんな黒いスーツを身にまとっていて、手には「S&W」の拳銃がにぎられている。


「大丈夫よ。そんなに遅れてないから」
 と、公安特務課の主任である柊エマコが言った。漢字で書くと絵馬子になる。本人はその名前をあまり気に入ってないらしい。特に名前の語尾に「子」がつくのが古めかしくて厭だと気にしている。リコは漢字で書くと、莉湖になるので、羨ましいとも言っていた。


 髪はブロンドに染めていて、ショートボブにしている。警察官なのに染めてても大丈夫なんだろうか――と気にはなるが、失礼かと思って尋ねたことはない。


 おっとりとした雰囲気を持っているのに、それに反して特務課の主任をつとめている。


 リコの憧れの人だった。リコの父親の線香をあげに良く来てくれるのも、エマコだった。


「見つかったんですか? 『No.3414』が」


「いいえ。例のあれかどうかは、まだわからないの。だけど、憑人がこのマンションにいることは間違いないわ」


「どうしてわかったんですか?」


 ちっちっちっ……と、エマコは舌を鳴らして、人差し指を振ってみせた。


「特務課の情報網を甘く見ちゃいけないわ。ネットの口コミや掲示板はもちろん、そしてリコちゃんみたいな協力者だって各地に潜んでるんだからね」


「それはそうですけど……」


 特務課が間違えることはほとんどない。エマコが居ると言うのならば、ヤツらは居るのだ。まさか自分の住んでいるマンションに、憑人がいるなんて信じられなかった。いや。信じたくなかった。


 この世の常から外れた異能を用いて、それを悪用する連中――。


(許せない)
 と、リコは義憤を感じる。


 リコの父親は特務課の主任だったのだ。悪魔付きとの戦闘によって殉職に陥った。その後に主任に就いたのが、エマコだった。


「もちろんリコちゃんは、ただの協力者って言葉で済ませる気はないけれどね」


「いえ私はまだ、協力者止まりですよ。現役の警察官でもないんですから」


 だからこそ、
(いっこくもはやく警察官になりたい)
 という気持ちが、リコにはあるのだった。


「現役の警察官でも、こっち側に適合する人間はそういないのよ。怪異を怪異と認められない人間には、向いていないから」


「私は――向いてるんですか?」
 と、なかば恐れる気持ちもあったけれど、そう尋ねてみた。


「向いてるわよ。だって、リコちゃんはあの《特務のカラス》と呼ばれた伝説のエクソシスト霧島璧元主任の娘なんだもの」


 リコの父親――霧島璧。


 もともと捜査一課として血なまぐさい殺人を担当していた。
 初代特務課の主任に抜擢されることになった。


 その抜擢をしたのが、カゲロウの父親である陽山雄蔵だった。カゲロウやリコが生まれるよりも前の話だ。


 異例の人事だったのだろうとは思う。そんなことを言い出せば、特務課そのものがかなり異質なのだ。間違えた抜擢ではなかった。霧島璧は、100人近い悪魔を駆除してきた。通称《特務のカラス》。痺れる。亡き父は、リコに尊敬の火をあたえてくれた。


「でも、私は私ですから」


 父のことをホめられるのはうれしい。
 だが、父の七光りに照らしてもらおうとは思っていなかった。


「お世辞じゃないわよ。リコちゃんはすでに、こっち側の人間よ。親子なだけあって、霧島璧元主任のフラグメントをイチバン上手にあつかえるのも、リコちゃんだし」


「私もフラグメントの準備をしておいたほうが良いですか?」


 ええ。お願い――と、エマコは深刻な表情でうなずいた。


「そろそろ上の階に向かうわよ」


 歩きはじめたエマコを、あわてて追いかけた。


「あの、憑人がいるのって何階なんですか?」


「どうして?」


「このマンションの最上階に私の部屋があるんです」


「知ってるわよ。私も何度か線香あげに来てるじゃない」


「それから、あの……カゲロウもいますから、巻き込むようなことはしたくないので」


「カゲロウって、たしか幼馴染の陽山くんだっけ? 警視総監の息子さん」


「ええ」


「ははぁ。なるほど。なるほど」
 と、エマコはなぜか嬉しそうにうなずいていた。


「何が、なるほど、なんですか」


「気になってるんだ?」


「気になっているって言うか……いちおう幼馴染なんで」
 と、リコはわずかな含羞を隠してそう応えた。


 異性として好きかと問われると、ハッキリとは応えられない。なにせずっと疎遠だったのだ。リコがカゲロウに向ける心理を、しいてたとえるならば姉が弟を見るような気持ちが近いかもしれない。


「大丈夫よ。憑人がいるって連絡を受けてるのは、最上階より2つ下。48階だから」


 良かった、と安堵した。
 エマコが急にその声音をひきしめて言い放つ。


「クジラ班は下で待機して、イルカ班は非常階段のほうを抑えて置いてちょうだい。イタチ班は私といっしょにエレベーターで」
 と、指示を出してゆく。


 クジラ班、イルカ班、イタチ班というのはコードネームか何かのように聞こえるのだが、実際には、班長たちの名前だった。世良鯨、斑鳩入鹿、野原鼬。3人ともエマコの部下たちだった。もちろん憑人を退治するために選ばれた特務の構成員だ。
 

 そうやって指示を出してゆくエマコは、いつもの嫋やかな雰囲気とは違って、引き締まっている。


(カッコウ良い)
 と、リコは惚れぼれする。


 大きくなったら、こういう女性になりたいなと思うのだった。

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