女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件

執筆用bot E-021番 

停電

 ミオンが風呂から出たあと、リコが風呂に入った。リコの部屋はすぐ隣なんだし、いっかい自分の家に帰れば良いものを、わざわざオレの部屋の風呂に入っていた。「覗くんじゃないわよ」と指摘してきた。


 そんなことを疑うんなら、なおさら自分の部屋に戻れば良いのに。ミオンならともかく、リコの裸を覗くような命知らずではない。


 リコが風呂から出てきたころには、ポトフもいい感じに煮えていた。


「うわぁ。すごく美味しいですね」
「へー。意外とやるものね」
 と、ふたりはオレのポトフを食べて、おのおのの感想を述べていた。


 ジャガイモもやわらかく、キャベツもトロトロだった。
 我ながらうまく出来たものだ。


 お世辞抜きでリコの持ってきてくれたワインが上質だったのかもしれない。ふたりともホントウに美味しそうに食べてくれていたからホッとした。


「こう見えても、料理は得意なんでな」


「バカのくせに意外と、なんでも器用にこなすのよね」


「バカは余計だ」


「でも、バカじゃない」


「自覚はしているが、他人から言われるとさすがにオレも腹が立つ」


「でも、ポトフつくるなら、カレーでも良かったんじゃない?」


「カレーは料理じゃないだろ」


 具材がなんでも、ルーを入れたら美味しくなる。スパイスで作るという手もあるが、癖が強すぎて、ミオンさんに提供できるかわからない。


「こだわりがあるのね」


 あ、そうだ――と、リコが何か思い立ったのか、溌剌とした調子で切り出した。


「今晩、泊まるんなら、みんなで勉強会やりましょうよ」


「じょ、冗談じゃない。なんで家に帰ってまで勉強なんかしなくちゃならないんだ」


「家にいるから勉強するんでしょうが」


 顔を突きあわせているオレとリコを、「まあまあ」とミオンがおさめてくれた。


「それにしてもミオンさんってば、とってもキレイな髪をしてるのね」


「あら? そうですか」


「私なんて髪を伸ばしたら、癖毛になってしまうものだから、こうして短くしておかなくちゃならないって言うのに」


 羨ましげにリコが言う。


 たしかにミオンの髪は艶やかに伸びており、対照的にリコの髪は少年と見紛うほどに短くしてあった。見慣れているせいかして、リコにはその髪型がよく似合っていると思う。


「それならお風呂場に置いてある、私のリンスを使うと良いですよ。驚くほど真っ直ぐになりますから」


「もうリンスなんて、ここに置いてるの?」


「ええ。しばらく泊まらせていただこうと考えていますから」


 リコがまるで咎めるような目をオレに向けてきたのだが、何か言ってくることはなかった。


 オレの家に泊まると言い出したのも、準備をしたのも、ミオンの自発的行為であって、オレがそれを強制したわけじゃないのだし、なにもオレが責められるようなことはない……と思う。


 まぁ、その自発的に見える行為の根本には、チャームという能力が悪さをしているのだろう。が、表向きにはオレは何も強制しちゃいない。表向きには。


 ミオンの説得もあって、なんとか勉強会の提案は棄却されることになった。


 良かった。
 オレは食後に風呂に入ることにした。


 ミオンとリコというふたりの女性の残り湯なのだと思うと、すぐにノボせてしまった。オマケに妙に甘い匂いが立ち込めているものだから、5分と入っていられなかった。


 酩酊から逃れるようにすぐに出た。


 もうチョット残り湯を感じておくべきだった、と出たあとに悔いることになった。でもまぁ、ミオンはしばらく泊まるつもりだろうし、チャンスは後日にもあるだろう。


 そして就寝――。


 ミオンには前日と同じようにオレの寝室を使ってもらうことにした。リコには大部屋を使ってもらうことにして、オレは父の寝室を使うことにした。


 父の寝室。
 酷く簡素だ。


 机とベッド。書斎に入りきらなかった書籍の詰まった本棚。
 衣装のひとつも置かれていないし、文房具や小物の類もない。家を出るときに片付けて行ったのだろう。
 この部屋の簡素さが、オレにたいする興味の薄さであるようにも感じて、すこし寂しくなった。


 机。カギのつけた引出から、スマホを取り出した。


「こんな場所に閉じ込めておくなんて、酷いヤツじゃなぁ。もっとワシを大切に扱わんかい」
 と、リリンがイキナリそう切り出してきた。 


「仕方ないだろ、幼馴染が来てるんだ。正義感のカタマリみたいなヤツだしな」


「厄介ならヤツにもチャームをかけてやれば良いじゃろう」


「それはダメだ」
 と、オレは断固として否定した。


 こんなクズみたいなオレにだって、いちおうの良心というのは残されているのだ。父を殉職で亡くした警察官の娘。その娘の心をチャームという悪意によって捻じ曲げてしまうことが、いかに罪深いことは自覚している。


 くわえてリコはオレにとっては幼馴染だ。両親と疎遠になった今では、オレの過去を知るゆいいつの人間だ。リコがオレに向ける感情は、本心から発せられる純粋なものであって欲しいとも思う。


 リコの心を歪曲してしまうのは、ホントウのオレを知る人間が消えてしまう気がして怖い。


「なんじゃ。惚れておるのか?」
 と、リリンは揶揄するように言ってくる。


「そんなんじゃない。あんなヤツ好きでもなんでもないよ。でも、異性としてではないけれど、大切な人だからさ。上手く説明できないんだけど」


「まあ良かろう。ワシの能力をどう使うかが、オヌシに任せる。悪魔に主体性はないゆえな」


 ただ覚えておけよ――と、リリンはその唇をニンマリと釣り上げた。二次元ゆえに整った顔をしているが、そうやって微笑むとホントウに悪魔なのだと実感させられる。ミオンの見せる「ピースマイル」とはわけが違う。


「なんだよ」
 と、オレは冷や汗を覚えつつも、挑戦的にそううながした。


「ワシが見限れば、オヌシからチャームというチカラは失われるということじゃ。オヌシならばワシを満たしてくれるであろうと見込んだから憑いているということを、忘れるでないぞ。ワシが消えれば、オヌシなんてただの盗撮魔じゃ」


 ただの盗撮魔と言われて、湯がいてではなかった。いかんせん反論することなんてできなかった。チャームというチカラを手に入れて、特別な存在になった気分でいる。本来のオレはなんの取り柄もないクズだ。


「わかった」


「しかし安心せい。ワシはオヌシを気に入っておるでな。それに、ワシの能力を永久的にオヌシのものにする方法もある」


「なに? チャームを自在に使えるということか?」


 それは聞き逃せない。


「しーっ。声が大きいわ。幼馴染に見つかりたくないのであろう」


「ごめん」


 あわてて聞き耳を立ててみたが、リコやミオンが動き出す気配はない。ふたりとももう寝ているか、寝る準備に入っているはずだ。


「それはな――」


 おや? とリリンは怪訝そうな表情であたりを見渡していた。あたりと言っても、リリンがいるのはスマホの中なので、どこを見ているのか良くわからない。
 その動きにつられて、オレも周囲を確認した。簡素な部屋に異常は見当たらない。


「どうした? べつに何もないが」


「電気をつけてみよ」


「電気って部屋のか?」


「部屋じゃなくとも良い。なんでも良いから電気をつけてみよ」


 どういう意図があるのかわからないが、言われた通りに部屋のスイッチを押してみた。つかない。何度か押し直してみた。反応がなかった。


「あれ。電気が切れたか?」


「いいや。停電じゃな。インターネットが使えんようになっておるじゃろう」


「マジか」


 地震はなかったし、天候も穏やかだ。このあたりは土砂崩れや水害が起こるような土地柄でもない。


 ちッ、とリリンは舌打ちをした。


「人為的なものじゃな。ヤツらが動き出したか。もう嗅ぎ付けて来おったか」


「ヤツらって?」


 公安警察特務課じゃ、とリリンは言った。

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