女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件

執筆用bot E-021番 

白ワイン

「はぁ。ワイン買えなかったなー」
 帰宅。


 もしかして父さんが帰って来ているかも――なんて思っていたのは、ずっと前のことだ。もう帰ってきても誰もいないことが当たり前になっている。暗い部屋の明かりをつけた。買ってきた食材をアイランドキッチンのテーブルに並べてゆく。


「私は構いません。カゲロウの作った料理は、きっとどんな物でも美味しいはずですから。今朝の出汁巻き卵でわかります」


「ありがとう」


 買ってきた食材を、ミオンもいっしょに取り出してくれていた。


 ピンポーン。インターフォンが鳴った。珍しい。こんな時間に誰だろうか。ミオンを待たせて、オレは居間についているセキュリティカメラを確認しに行った。


 映っているのは、リコだ。
 手に何か持っているようだが、それまでは見て取れなかった。


 なんだろう。
 こんな時間に。


 正直、いまはあまりリコに会いたい気分ではなかった。オレがモテていることを、リコは不審がっている。チャームのことが露見してしまうかもしれない。そしてリコの性格からして、ゼッタイにそれを許さないだろう。スマホは破壊されて、オレのことを警察に突き出すぐらいのことはやりそうだ。


 だからと言って、居留守を使うわけにはいかない。部屋が隣なのだ。オレがいることはわかっているはずだ。


「はぁ」
 ため息を吐いて、玄関のトビラを開けることにした。


「どうした?」


「これ」
 リコが抱きかかえていたのは、白ワインだった。かなり大きなボトルのものだ。差し出してくる。


「どうしたんだよ、こんなの」


 ずいぶんと高級そうなもので、オレがスーパーで買おうとしていたものとは、ぜんぜん違ったものだった。


「店で買うのはダメだけど、料理に使うんだったら大丈夫だと思って、家にあったものを持ってきたの」


「わざわざ、こんなの?」


「貰い物なんだけど、家にあっても使わないから、セッカクだから使ってもらおうと思って。お父さんが殉職してから、警察のお友達だった人がね、お線香をあげるさいに、いろんなものを持ってきてくれるのよ」


「まぁ、貰って良いんなら、貰っておくけど……。しかし料理に使うのがモッタイナイようなお酒だなぁ。いくらぐらいするんだろ?」


 受け取ろうとしたワインを、リコが引っ込めた。


「料理に使わないのなら、あげないわよ。飲むのは18歳になってからなんだから」


「わかってるよ。ちゃんと料理に使うから」


「キッチンまで持って行くわ」


「へ?」


 油断していた。リコはオレの脇を通過して、家のなかに上がりこんで来た。


「ちょ、ちょっとッ」


「焦らなくても良いわよ。事情は聞いてるから。ストーカーに困ってるミオンさんのこと、家にあげてるんでしょ。私も何か手伝えると思うから」


「あ、いや、まぁ……」


 リコは好意で言ってくれたのだろうが、ハッキリ言って邪魔である。
 困った。追い返すわけにもいかない。


 玄関のカギを閉めて、オレはリコのあとを追いかけた。
 リコとミオンは軽く挨拶をかわしていた。


 そしてリコは部屋を見渡して言った。


「ユウゾウさんは、まだ帰って来てないの?」


 陽山雄蔵。リコの殉職した父親の上司であり、警視総監。
 いちおうオレの父親でもある。


「父さんは帰って来ないよ。もう2、3年近く帰って来てないし」


「なんで?」
 と、リコは目を大きく開いていた。


「そりゃオレが中学受験に失敗したからだろ。醜いアヒルの子に幻滅しちゃったんだろうさ」


「そうだったんだ……幼馴染なのに、ぜんぜん知らなかった」


「まあ、しばらく疎遠になってたしな」


「ってことは、カゲロウはいつもどうしてるわけ?」


「ふつうに生活してるよ。公共料金とか携帯料金とか、そういうのは全部父さんが払ってくれてるし」


 親の愛情には恵まれなかったけれど、金銭面では恵まれていた。


 親の愛情に恵まれていないなんて言うのは贅沢だろうと思う。今はどこも共働きだし、家に親がいないなんて当たり前の時代だ。


 世間一般的に見れば、オレは恵まれているのだ。


「ごめんなさい。ぜんぜん気づいてあげられなくて」
 と、リコは心底申し訳なさそうな顔をしていた。
 なんだか同情されているみたいで厭だった。


「べつに謝ることないだろ。そっちはそっちで大変だったわけだし」


 父親を殉職で亡くしている。同情されるべきなのはリコのほうだろうと思う。


「私のほうは大丈夫よ。私のことを気にかけて、よく顔を出してくれる刑事さんがいるの。それに家にはお母さんもいるし」


「もう帰れよ。お母さん心配するだろうから、ワインのお返しはできないけど」


「大丈夫。今日はこっちで泊まるって言ってくるから」


「は? 泊まる?」


「ユウゾウさんが帰って来ないんでしょ。なのに、ミオンさんを家に泊めるつもりなんでしょ。男と女が同じ屋根の下にいるなんて、不健全よ。私がいてあげなくちゃ」


「いや、マジで、大丈夫だから」
 と、止めたのだが、リコは一歩もゆずらなかった。


 お母さんに言ってくると言い残して、部屋を出て行った。
 頑固なのは昔から変わりないようだ。


 男と女がひとつ屋根の下にいるよりも、男ひとりと女ふたりが一緒にいるほうが、どちらかというと不健全な気がする。
 自分がいれば大丈夫だろうという自信があるのだろう。


「面白い人ですね。リコさんって」
 と、ミオンは楽観的に言っていた。


 リコが準備をしてくる前に、オレはスマホを隠しておくことにした。父さんの寝室のカギ付きテーブルに仕舞いこんだ。
 盗撮のことに関しても、チャームのことに関しても、リコにたいするヤマシサがあったのだ。

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