女の子を撮影したら、惚れされることができる能力をてにいれた件

執筆用bot E-021番 

幼馴染み

「カゲロウくん。ほら。あーんして」
「それより、こっちのお弁当を食べてくださいよー」


 昼休み。屋上。運動場をヘイゲイすることができる。体育会系の連中がサッカーをしているのが見て取れる。快活な声が屋上まで聞こえてくる。オレはふたりの女性にはさまれて、フェンス越しにその様子を見下ろしていた。


 以前までは体育会系の連中には、嫉妬と軽蔑の目を向けていた。自分の運動神経の悪さから来る嫉妬と、球なんか必死に追いかけていったい何になるんだという蔑み。今はそんな暗澹とした気持ちなど微塵も抱くことはなかった。結局、余裕がなかっただけなんだな、と過去の自分をかえりみた。


 今のオレは神さまにでもなった気分だった。
オレの左隣に座っているのが3年の先輩だ。弓道部の美少女。ツンテールの猫山先輩。


 右隣に座っているのは剣道部の美少女。狸丘後輩。


 麗しい猫と狸にはさまれていた。そんなふたりに挟まれていたら、気持ちもおおらかになるというものだ。


 わかってしまったのだ。
 チャームの魔法の使い方、を。


 最初はクラスの地味な女子で実験をしてみたが、失敗に終わった。何度か試みて、ようやく成功させることができた。


 ただただスマホで撮影するだけじゃ、チャームは発動しないのだ。


 肝は、顔だ。


 対象の顔を撮影することで、チャームは発動するようだった。リリンの言っていたことはウソなんかじゃなかった。その証明が、これだ。このふたりの女子生徒の顔を撮影してみた結果だった。


「ねぇ。カゲロウっちは、誰かと付き合ったこととかあるの?」


 左隣の猫山先輩がそう言って、耳元にささやきかけてくる。
 名前のとおり猫目が魅力的な先輩だった。わずかに汗ばんでいるようで、その全身から花の香りが発散されている。香りが鼻腔へともぐりこんでくる。


「いや。ないけど」
「ってことは、童貞?」
 その率直な言葉に、顔が熱くなる感触をおぼえた。
「う、うん。まぁ」
「じゃあ私と付き合おうよー」
 と、猫山先輩はカラダをさらに近づけてきた。


 もっとやわらかいカラダの感触が右隣から押し付けられることになった。狸山先輩のおおきな胸が、オレの右腕に押し付けられていた。その未知なる感触に、心臓が節操なくあらぶっていた。


「それよりカゲロウ先輩、私と付き合いましょうよ。私すっごくエッチなカラダしてるんですよ」


 狸山後輩も汗ばんでいる。白いブラウスがわずかに透けており、白いブラジャーが透けて見えていた。


「その……当たってるんだけども……」
「えー。何が当たってるんですかー? 言ってくれないと私わかりません」
 と、狸山後輩は間延びしたような声で首をかしげた。


 狸山後輩の行動は、うら若き乙女のそれとはトウテイ思えないものだった。チャームの影響なのか、魔法にかけられた相手はやや積極的になる傾向があるのかもしれない。断定はできない。もしかするとこれが狸山後輩の性格なのかもしれないし、本性なのかもしれない。


 なにしろオレはチャームにかけられる前の狸山後輩をたいして知らないのだ。チャームにかかる前との性格の差異については検証できなかった。
猫山先輩にしてもそうだ。名前ぐらいしか聞いたことがない相手だった。


「私だって、多少は胸があるんだから。ほら、触ってみてよ」
 と、手に持っていたお弁当をかたわらに置いて、オレの手に触れてきた。


 女性の手が触れたというだけでも感動的なことだったが、そのオレの手のひらはさらに、猫山先輩の胸元へと誘導された。たしかに小高い丘の感触があった。おっぱいって、こんなにやわらかいものなんだ、と感心してしまう。軽くチカラを込めてみると、
「ひゃん」
 と、猫山先輩は顔をあからめてカラダを痙攣させた。


「ご、ゴメン。痛かった?」


「ううん。大丈夫。もっと続けても良いんだよ?」


 猫山先輩はうるんだ目を向けてきた。黒々とした瞳の奥には、投影されているオレ自身の姿が見て取れるほどの距離だった。


 これ以上はヤバい。もうやめたほうが良い。まだそんな自制心がオレのなかには生きていた。しかし、そんな良心は棄却した。
 これは検証だ。
 チャームのチカラがどこまで通用するのかという検証だ。仕方ないことなんだ。


「じゃあさ――」
「なぁに?」
 と、ふたりが異口同音に甘ったるい疑問符をなげかけてくる。


「パンツ、見せてよ」


 口にするだけでも恥ずかしいセリフだったので、オレの声は消え入りそうなほど小さいものだった。女性を前にしたときに生じる動揺は、我ながら情けないものだと思う。


「いいよ。ほら、私のここ持ち上げて見てよ」
 と、猫山先輩はスカートのスソに、オレの手をみちびいてきた。


 マジか。
 まさか受諾されるとは思っていなかった。虚を突かれてしまった。
 頼んでおいてなんだが、そのスソをまくりあげる度胸がなかったために、オレの手は猫山先輩のスカートのスソをつまんだまま硬直することになった。


「どうしたの? 見たくないの? 私のパンツ」 と、猫山先輩はオレを煽るような物言いをした。


 短めのスカートのスソ。白くてやわらかそうなフトモモが伸びている。布一枚めくりあげることで、内側を見ることが出来るのだ。


 良いのか?
 躊躇が生じる。


 やめたほうが良い――と、オレのなかの良心が息をふきかえした。


 これはチャームと言う特殊なチカラによって引き起こされた事態である。強制的に他人の心を捻じ曲げて、スカートを覗くなんて悪魔の所業である。


 しかし一方では、オレのなかの悪魔がささやく。


 お前はどうせロクでもない人間なんだ。そうだろう? 盗撮なんてしてるぐらいだ。これだってその延長線上じゃないか。いまさらなにを躊躇することがあるんだ。


 葛藤。
 そして悪魔が勝った。


 猫山先輩のスカートのスソをつまみあげる。白いフトモモがさらに露わになる。付け根のほうまで見ようとした。


 瞬間。
「チョットなにしてんの!」
 と、声が闖入してきた。


 ヤマシイことをしているという自覚はあった。あわててその手を引っ込めた。猫山先輩のスカートがふわりとやわらかく、ふたたび閉ざされることになった。


 セッカク良いところだったのに。さっきの躊躇が仇となってしまった。絶好のチャンスを邪魔するなんて、いったい誰だ――とオレはなかば怒りをにじませて、振り返った。


 屋上入口にて、ニオウダチになっていたのは、霧島リコ。
 オレの――幼馴染だ。


「なんだ。リコか」


「なんだじゃないわよ。いったい何やってたの?」


「べつに何でもないよ」


 猫山先輩と狸丘後輩には去ってもらうことにした。ふたりは名残惜しそうだったが、素直に言うことを聞いてくれた。ふたりが立ち去ると屋上には、オレとリコのふたりになった。立ち去った2人の後ろ姿を、リコは怪訝そうな表情で見送っていた。


「じゃあオレも行くから」
 と、センサクされないうちにその場から逃れようとした。
 オレの進路にリコが立ちはだかった。立ちはだかると言っても、リコはカラダが小さい。そのためオレはリコを見下ろすカッコウになる。


「待ちなさいよ。ここで何してたのかって聞いてるのよ」


「べつになんでもないよ。昼食を食べてただけだ」


 ウソじゃない。
 いまは昼休みだし、ふたりからお弁当をもらっていた。
 どことなく後ろめたさがあったから、リコの目を見返せなかった。


「さっきの猫山先輩と狸丘ちゃんよね」


「ああ」


「知り合いだったの?」


「知り合いとか、そういうのじゃないけど、たまたまいっしょに昼食を取ろうってなっただけ」


 チャームのことを言うつもりはない。ゼッタイ他人に漏らしちゃいけないことだと、なんとなく本能的にそう勘付いている。


「あんたが女子と食事なんて珍しいじゃない」
 と、鋭い目を向けてくる。


 リコは髪をベリーショートにしている。目つきが鋭いため、余計なものをすべてそぎ落としたような魅力があった。可愛げはないけれど、将来はきっと美人になるだろうという予感はある。


「言ってくれるじゃないか。オレだって女子と食事することもある。昔のオレのままじゃないんだからな」


「よく言うわよ。クラスではあんなに陰が薄いくせに」


「酷いこと言うなぁ」


 リコとは幼馴染だけれど、その関係以上に深い意味はない。
 オレの親父は警視総監で、その部下がリコの父親だった。


 中学に入ったころだろうか。その頃、リコの父親がなにか事件にまきこまれて殉職した。小さいころは一緒に遊んだりもしたのだけれど、事件がキッカケで、疎遠になってしまった。


 こうして会話をしたのも、たぶん、4、5年ぶりだ。
 徒花の幼馴染である。


「何か変な薬とか持ってないでしょうね?」


「なんだよ、変な薬って」


「麻薬とか。覚せい剤とか」


「そんなわけないだろ。そんなものどこから手に入れるんだよ」


「いちおう調べさせてもらうわ」


「調べるって、なんの権利があって、そんな……」


 オレの言葉をさえぎってリコはつづける。


「私は風紀委員の副会長よ。生徒の不審な行動を調べる権利があるのよ」
 と、リコは腕にかけられている腕章を見せつけてきた。「風紀委員副会長」という黄金の刺繍がほどこされている。


 うちの灰都山高校では生徒会も風紀委員も3年が会長をやって、2年が副会長をつとめることになっている。3年になると腕章からは「副」の文字が消えるのだろう。


「わかったよ」
 と、オレは肩をすくめた。


 父親が警察だからなのか、それとも殉職したことが原因なのか、リコはやたらと風紀に厳しい。鬼の副委員長の名は、学生たちを脅かしているのだ。


「それじゃあ失礼するわよ」
 と、リコはオレのカラダに手で触れてきた。胸ポケットから、ズボンのポケットの中身を確認してくる。


「まるで警察の取り調べでも受けてる気分だ」


「私は警察官の娘だもの」


「それはご立派なことだ。天国の親父さんも鼻が高いだろうよ」


 オレがそう言うと、リコは何か物言いたげな表情を向けてきた。
 さすがに無神経だったかもしれない。


「昔はそんな言い方しなかった」


「そりゃそうだ。オレだって成長するんだから、いつまでも昔のままじゃないよ。もう良いだろ。何も怪しいものなんてない」


「スマホも確認させなさい」
 と、手のひらを突き出してくる。


「バカ言うなよ。なんでスマホまで見せなくちゃならないんだよ。さすがにそんな権限は、風紀委員にだってないだろ」


「……そうね」
 と、リコは諦めたように手を引っ込めた。


 さすがに冷や汗をおぼえた。
 諦めてくれたようで、オレはホッと内心で胸をナでおろした。


 それと同時にスマホのなかで、リリンが笑っているような気がして仕方がなかった。


「じゃあオレはもう行くから」


「待ってよ。猫山先輩と狸丘ちゃんとは、どういう関係なの? それにあの転校してきたミオンとも」


「なに?」


「私、見たんだから。あんたの部屋にあのアイドルが入っていたところ」


 咎めるというよりも、なんだか拗ねたような表情でオレのことを見上げてきた。


 見られてトウゼンと言えばトウゼンだった。
 リコの住んでいる部屋は、オレの隣なのだ。
 まさかミオンのことまで言及されるとは思わなかったので、冷や汗をおぼえた。咄嗟にデマカセを吐くことにした。


「ミオンって、NONOってアイドルやってるらしくて、ストーカーに困ってるんだとさ。それでうちならセキュリティがしっかりしてるから、泊めてくれって言われたんだよ。それだけだ」


「泊めたの?」


「しょうがないだろ。困ってたんだから」


 デマカセではあるが、まったくのウソというわけではない。ストーカーがどうこうという話は、たしかにしていた。


「ストーカーに困っているのなら、警察に相談するべきよ」


「警察に言うほど深刻じゃないんだろ、きっと。それに学校外のことなんだから、放っておいてくれよ。風紀委員の副委員長も、さすがにそこまで注意する権利はないだろ」


「……そうね」
 と、リコは不服そうだがうなずいていた。


 左の目のしたにある泣きボクロに目を奪われた。その泣きボクロがリコの自慢だった。今でもそう思ってるのだろうか――と、どうでも良いことが気になった。


「じゃあな」
 と、オレは逃げるようにその場から立ち去ることにした。


 チャームのこと、嗅ぎつけられては困る。


 リコという邪魔が入ったけれど、これでハッキリとした。
 チャームは実在するのだ。 

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