追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
共通点(:黄褐)
View.エクル
「探ろうとしている? それとも挑発している感じかなエクル兄?」
「分かっていて煽っているだろうね」
「あはは、だろうねぇ」
フォーンの言葉に対し何処かお気楽に、だが真剣みを帯びた様子でクリームヒルトは私に聞き、私なりの答えを返した。
前者、探ろうとしているというのも分からなくはない。
第二王子が軟禁状態であったり、多くの封印に関しての解明が進んだり、自称クリア神も復活した。この一年近くで起きている王国の出来事は、長い歴史を見ても激動と言っても過言ではない。だが、歴史を振り返ればこの激動は、「少々色んな出来事が重なった」程度の感想を抱くだろう。何故ならそう思う程に、歴史として残せる表に出ている情報はあまりにも少ない。
それは混乱を避けるため、というのもあるが、ひとえに“出来事”を動かしている者達が特殊であり、大事になる前に封殺してしまっているからだ。
だがその封殺理由が転生、乙女ゲーム、世界の行く末を事前に知る。大なり小なり違えど、一致している部分も多い未来の情報をそれらを使って先回りしてどうにかしているなど、公表できる物でも無いし、信じられるものでも無い。いくら証拠のような物を見せても、信じない者は必ず現れる。だから、表には出せないので必要最小限の者達にしか開示はしないようにしている。
だが、いくら開示はせず、誤魔化してもそれらの動き違和感を抱く輩は少なからずいる。そういった者達は探って来る事は多い。そして探りは生徒会メンバーや殿下達に入れる事が大いのだが……
「明確に“分かってますよ”みたいな名前をあげて来たよね」
「メアリー先輩達はともかく、クロさんの名が挙がっている時点でな」
「クロもシキの領主で多くの出来事の渦中にいる事が多いから、というのもあるかもしれませんが……」
「何処まで掴んでいるかは知らないと駄目そうですね……」
「あはは、私を旧姓で呼ぶのは敢えてかな」
だが、今回は今までのとは違うものだ。
これは先程言ったように、なにが起きているか探りを入れているというよりは、分かっていて挑発をしている。メアリー様の言うように、何処まで掴んでいるかをこちらから探る必要があるものだ。
「ライラック・バレンタイン、か。ヴァイオレットちゃんの……お父さん!」
「お兄さんですよ」
「いや、もしくはお母さんかもしれないね!」
「お兄さんですって。確か長兄であったはずです」
さらには要請者がライラック・バレンタイン。次期公爵と名高い男が、わざわざ名出して指名しているのだ。
偽書の可能性もあるにはあるが……フォーンに見せて貰う限り、押してある印はバレンタイン家のものであるし、ここに来るまでに一応仕事をしている教師が偽造チェックくらいしているだろう。
「エクルさん、スカイ、フォーン会長。彼にはお会いした事はありますか?」
「私は無いね」
「私も無いですね」
「私は一応あるけど……ほとんどなにも分からないよ」
「あれ、公爵家の長兄なのに、貴族の皆はほとんど会った事無いんだね?」
「申し訳ない。ただ聞いた情報だと――」
ライラック・バレンタインという男は、かなり優秀だとは聞いている。
父であるウィスタリア公爵に引けを取らぬ才覚を有し、文武魔法共に優れ、公爵家という立場を利用して多くの事業に関わり成功させ、それでいて公共事業など社会貢献、福祉活動にも通ずる倫理・人道に厚い人格者。
ただ優しいという訳では無く、堕落する者に対しては容赦はなく厳しい性格とされるが、他者だけでなく自分にも厳しい。振る舞いも何処か高圧的ながらも、平民に対しても対等的。
故に多くの領民からも好かれ、忠心に対して相応の事を応えてくれる次期公爵として評判の、王国の発展にも大いに貢献している美丈夫だそうである。
「――と、いう感じだね。優秀なバレンタイン家の中でもとりわけ優秀と聞くよ」
「へぇ、そうなんだ。……メアリーちゃんってさ、よくそんなバレンタイン家に喧嘩を売れたよね」
「た、確かに私はヴァイオレットから奪った女という扱いかもしれませんが、バレンタイン家に喧嘩をうった訳じゃありませんからね!?」
「そうだよ、メアリー様は喧嘩をうったんじゃない。吹っかけたけど気付けば有耶無耶になっていただけさ!」
「エクルさん!?」
ヴァイオレットの一件は全体的にヴァイオレット自身が悪いという事と、学園での動きを見て(他にシキでの暗殺未遂があったせいもあるが)、大事を避けるためにバレンタイン家が動いて大きくはしなかったが、メアリー様があの時バレンタイン家に喧嘩を吹っかけたと思われてもおかしくはなかったのは確かである。今は色々あって有耶無耶になっているのだがね。
「そういえばアプリコットちゃん。ヴァイオレットちゃんからお兄さんについてはなにか聞いてる?」
「つい最近次兄の方は聞いたが、長兄は聞いてはおらぬな。冷たい男、というのは聞いてはおるが……一応なにか知らないか手紙を出しておいた方が良いだろうか?」
「どうしよっか、エクル兄?」
「そうだね……必要ならお願いするから、今はまだ良いかな?」
「心得た」
相手を知るためには情報が必要だが、まずはなんの情報が必要かを把握しなくてはいけない。それに手紙を通して聞く事を見越している可能性もあるし、そこも注意を払わないとね。
「うーん、もしかしてですけど……」
「どうしたのだ、スカイ先輩?」
「この選ばれたメンバーの共通点ですけど、前世持ちという他に別の共通点があるから選ばれた可能性もある、という事です」
「つまり、その条件が偶然前世持ちになっただけかもしれぬ、と? それはなんであろうか」
「そうですね……ヒトタラシとか」
「む?」
ん?
「メアリーは言わずもがなですし、クリームヒルトも色々と多くの相手に接して来ていますし、エクルさんは距離感近めに色々勘違いさせますし、クロは……個性的な方々に好かれます」
「なるほど、可能性は大いにあるな!」
『ないよ!』
「私は皆の役に立ちたいと頑張っているだけで、人タラシなんてしてません!」
「あはは、嫌われやすい私がそんな事出来る訳ないよ!」
「私は自分の顔の良さなら距離感近めでイケるから、それを狙って色々やっているだけだ。人タラシなんてとんでもない!」
なにせこの顔と声なら、前世の感覚を活かして色々出来るからね!
「……エクル先輩が一番質悪いのではなかろうか」
「……どうでしょうね。天然と計算に優劣は無いと思います」
「……彼、一年の時からああだったからねぇ」
……まぁ、正直質が悪いのは否定しないけどね。
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