追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
身近な存在にはとことん甘くなる男
この世界に生を受けた俺、クロ・ハートフィールドはハッキリ言って褒められた男ではない。
前世の小学生の頃は色々反発していて勉強をほとんどしなかったし、中学では喧嘩もしていた。中学後半と卒業後には白の面倒と服飾の勉強もあったので喧嘩はあまりしなかったが、慣れない服飾や平和な暮らしに慣れようと色んな人に迷惑をかけた。そして服飾学校卒業後には友人の設立した会社に入社。社会人として世間の荒波に飲まれて二十五まで生き、一度目の人生を終えた(白は明言しなかったけど、事故死したようである)。
さて、前世の事を軽く話したが、お分かり頂けただろうか。
そう――俺は前世で勉強をほとんどしていないのである。
前世で読んだ転生物の作品だと「二十一世紀日本の知識を利用する!」なんて事があったりしたのだが、生憎と俺の学力は割と酷いのでそんな事は出来ない。
歴史の勉強から治世に活かせもしないし、理科や物理の授業から生活の発展にも繋ぐ事は出来ない。
ようはチョコは食べる物である(原材料と作る工程が分からない)し、エアコンとか文明の利器は使うものである(何故そういう結果が出来るか仕組みが分からない)し、その他にわか知識で失敗する事も多々あった。精々ダイエットするスリッパ的な存在や、マツイさんの掃除棒的な物は作れはしたけど……そのくらいである。こうして振り返るとああいう知識って、やっぱりキチンと学ぶか先代の試行錯誤の結果なんだな、としみじみと思った物である。
まぁ、魔法という便利な代物があるお陰で、俺でも使えるレベルの風魔法でも掃除で埃を掃うのが簡単だったり、そういった前世の知識は割と不要ではあるので助かっているのだが。
――それでもグレイより勉強出来ないのは親としてどうかと思うがな……
……とはいえ、グレイより学力が低いのは自分でもどうかと思う。
なんとか今世の貴族教育のお陰でそれなりに学ぶ機会があったため、去年までは教える事は出来た。けれど学園に入学を決めた辺りからは国語と社会以外はグレイに教えるのが厳しくなり、大抵ヴァイオレットさんに任せもした。正直十歳近く下の息子に教えられないのは情けないとは思う。
――とはいえ、教えるために頑張りもしたが。
しかし俺にもプライドは有るので、教えるのが厳しくともどうにか教えようと頑張った。これはグレイに対してだけでなく、アプリコットやカナリアに対してでもある。勉強は出来ずとも、年上の者(カナリアは気にしないモノとする)としての妙なプライドが、学問を学び“年上のお兄さんぶる”という自分を成り立たせていた。
そのプライドを披露する相手が居なければ、俺はひどく駄目な人間だ。
前世では白。
今世の幼少期から成人まではカナリア。
シキに来てからはグレイ、そしてアプリコット。
そういった守りたい大切な存在が身近に居たから、褒められる存在ではない俺は、今では愛する妻と共に領主として仕事が出来ているのである。
もし彼、彼女らが居なければどうなっていたかはあまり想像したくない。なにせ俺は自分が「どうでも良い」からと、後先考えずに第二王子を殺そうとして親兄弟に多大な迷惑をかけたし、前世でも妹の面倒を放棄しようとする男だ。もし誰か欠けていたら、俺は同情の余地が無い屑に成り下がっていただろう。
……そもそも、第二王子相手を殺そうとした事自体には躊躇いも後悔も無い辺り、今の俺も既に駄目な男な気もする。コーラル王妃にも言ったが、あの状況で殺そうとする俺が正当化される事は無いのだから。
「カナリア……大丈夫か、カナリア……シロガネさんを家に誘ったが、大丈夫なのかカナリア……!」
「……クロ殿。完全に不審者だぞ」
ともかく、そんな駄目な俺ではあるが、今違った意味で駄目な男になっているという自覚がある。
結局カナリアが心配でこっそり後をつけて来た俺であり、そんな俺を「今のクロ殿はなにを仕出かすか分からない」という理由で一緒について来たヴァイオレットさんが、カナリアの様子を観察していた。
だって不安になるのだもの。
ドジをよくしているカナリアが。
男性が怖くても明るく気丈に振舞っているカナリアが。
姉のようで、身近に居る大切な存在であるカナリアが。
あの、気が付けば詐欺にあってそうなカナリアが、誰かと恋愛関係になるかもしれないというのだ!
シロガネさんは俺よりも遥かに立派な男性という事は理解しているし、カナリアが選んだとしたらとやかく言うべきではないのだが、それでも不安になるのである。だってカナリアには幸せになって欲しいのだもの。
「これが庇護欲というやつなんですね……!」
「そこはせめて兄心とでも――いや、クロ殿の場合はそれも違う気がするが……」
「え、何故です?」
「……多分クロ殿のカナリアに対する気持ちは、そういった物とは違うと感じるだけだ」
「どういう事でしょう?」
「さて、な。その気持ちが成り立つ前に、私がクロ殿に嫁げて良かったという話だ」
「そうですね?」
よく分からないが、俺もヴァイオレットさんと結婚出来たのはこれ以上にない幸福なので、納得するとしよう。なにせこんな風な俺でも一緒について来てくれる上に、幻滅したりしない女性だからな。本当に俺には勿体無いほどの素晴らしい女性である。
「それで、どうするんだクロ殿。流石に家の中まで付いて行ったり、家の外で監視をし続ける、という事はしないんだろう?」
なんだかヴァイオレットさんの言葉から「若干やりそう」という感情が見えるのは気のせいだろうか。
「トウメイさんに依頼して、監視をして貰おうと思うのですが」
「やめた方が良いと思うが」
「でも、間違いがあったらと思うと……」
二人共成人を迎えているので、間違いもなにもないかもしれないが、健康的な男女である。なにかの弾みがあるかもと思うと気が気では無いので、トウメイさんに透明化して貰ってなにか起こりそうだったら止めて貰おうかと思う。
「案ずるな。シロガネは親の事もありそういった事は嫌悪している男性だ。それに無理にやればソルフェリノ兄様達にも迷惑がかかるから、無理にはやらぬだろう。それにカナリアもそうだろう?」
「確かにそうですが……」
昔命令でカナリアに襲われそうになった俺ではあるが、カナリアはそういった事は好まない。むしろ苦手としている。
シロガネさんも生まれと育った環境からして自制心は強いとは思うが……心配は心配である。出過ぎた行動とは思うのだが、やはり落ち着かない。
「例え自制心が強くとも、男の性欲を舐めてはいけないというやつなのですよ……!」
「その理屈で言うと、初日に抱かれに来た私は相当魅力が無かったという事になるが」
おおっと、予想外の方向に飛び火したぞ。
あの時は色々混じったモノがあったとはいえ、確かにそうとも取れるかもしれない。
「そ、そういう事では無くてですね! 俺が言いたいのは――」
「分かっているが、そういう事では無いのなら二人を信じてやると良い。二人共クロ殿より年上の、自制が効いた恋愛初心者の二人なのだからな」
うぐ、俺の過去の行動について言われた上に、そう言われると言い返し辛くなる。確かに人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえとも言うし、あまり干渉も良くないか……
「……そうですね。心配ですが、ここは二人を信じるとします」
「そうすると良い。不安も心配も必要だが、信じる事も大切だからな」
ここでちゃんと俺の意見も尊重してフォローをしてくれる辺り、本当にヴァイオレットさんは出来た女性である。俺は三倍近く生きて本当に駄目な男だな、とつくづく思うな……
「まぁ、いざとなればカナリアが育てるキノコが大量増殖して、近隣一体がキノコまみれになるので、大丈夫だとは思いますがね」
「それはむしろシロガネを心配すべき事になるのではないか……?」
備考1 クロの学力
勉強をしてこなかったので基礎学力が無いだけで、勉強が出来ない訳では無いのだが、学ぶ時間が無いので現在の学力はグレイよりは下。ただ土地管理や納税、契約といった知識は豊富であるため貴族・社会適正は高い。
備考2 それぞれクロの身近に居た存在が居なかった場合のクロ
白→怪しい裏的な社会に行くか、目的も無く日々を過ごす。
カナリア→早めに家に見切りをつけて冒険者になるか、騎士になって騎士団長と一緒にやんちゃする。
カラスバ、クリ→カナリアと一緒に家出する。
グレイ→二,三ヶ月でスノーホワイトにシキを任せて冒険者になる。
備考3 とあるクロを愛する男の感想
「アイツらが傍に居たお陰でクロ・ハートフィールドは俺が愛する男になったんだ。だから大いに感謝しているぞ!」
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