追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
あべこべ(:金糸雀)
View.カナリア
「……そうかもしれません」
ルーシュ・ランドルフの言葉に対し、私は少し間をおいてから肯定の意を示した。
ロボはなにか言いたそうだったけれど、私はロボに小さく笑顔を見せる事で「大丈夫」と、ルーシュ・ランドルフの気遣いはあるけど冷徹な言葉を遮らないように表情で語った。
「……私は素の自分を見せた上で、初めて女性として好いて頂きました」
私はシロガネ・V・スチュアートに好意を抱かれた。
初めはこのような立派な子が私を好いているなど勘違いだと思ったのだが、ここ数日の彼の魔力はそうだと言わざるを得ないものであった。
私、カナリア・ハートフィールドは異性に女として好かれた事は無い。一応混血が進む現代において私は純粋な森妖精族であるため、外見の評価が高いエルフの中でも私は外見で評価を受けた事は何度かある。しかし外見と中身の能力が一致しない事からすぐに愛想をつかされた。
けれど彼は、彼と出会った次の日に素で接し。ここ数日で私の低能力を見た上でも私に変わらず好意を抱いてくれている。……むしろ何故かさらに好かれているような気もする。
「私は、私を好いてくれた男性に喜んで貰いたく思っております」
私は、相手を不幸にするよりは幸せになって貰いたい。
私は、私が嫌われるよりは相手に私を好いて貰いたい。
「なら、失恋は……喜んでもらえず、好意に応えない相手は嫌われると、思います」
私は失恋をよく分からない。
よく分からないから理解しようとして、自分の事に当てはめて理解しようとし、嬉しいのなら喜んで振るけど、そんなはず無いからと答えを見つけられずにいた。
……もし失恋に悲しいという感情を見つけ、証明出来たのならば……受け入れた方が良いはずだ。
「本意ではないのに、情けで受け入れてもらうのはさらに嫌われるとは思わないのか」
「ですが、受け入れて貰える方が嬉しいですよね。……シキに居る、他では追い出された領民達がそうであるように。貴方様達がそうであるように」
シキの皆は受け入れて貰えたから、今のように楽しそうにしている。なんでも受け入れて貰えた方が嬉しいはずだ。目の前に居る二人が互いが互いを受け入れて貰えたからこそ、今の幸福がある様に。
「なにより私は――」
我慢は、慣れている。
要領の悪い私は周囲に迷惑をかけ、迷惑をかけると言葉だけではない叱責も何度も受けた。だから我慢は慣れている。
「それに、私が、クロ様と出会い、見捨てないで、いてくれた、上に、優し、く、接してくれたのは、私の、至、上の幸運だったよう、に。過ごす、内に、段々と、好き、に」
「カ、カナリアクン? お、落ち着いて深呼吸をしてクダサイ!」
「だ、大丈夫、です。エルフ、ですから。過呼吸なんて、しないのです、よ」
「エルフは関係――アア、もう、とにかくゆっくり落ち着いてクダサイ!」
ああ、もう。頭の中ではスラスラと色んな事を思い浮かべる事が出来ても、それを上手く外に出す事が出来ない。あ、そうだ。この姿を見せればシロガネ・V・スチュアートも失恋せずに済むかもしれない。いや、恋を失う事が失恋なら、幻滅させる事も失恋に定義されるのではないか。だが、好いている相手から拒絶されるよりはマシなはずだ。……私がかつて、クロ・ハートフィールドから拒絶された時は、とても悲しかったのだから。
「ミズ・カナリア」
ああ、私の様子を見てルーシュ・ランドルフが険しい顔をしている。
恐らく私のグルグル周ってなにが言いたいかも分からない、支離滅裂で筋の通らない言葉に不快感を表しているのだろう。
あるいは王族らしく私を導いてくれるだろうか。悩みを吹き飛ばしてくれるような、言葉を投げかけてくれるだろうか。ああ、でもそれを私が受けるのは――
「どうやら貴女は初めての好意に戸惑っているようだ。だから――」
「えっ?」
ルーシュ・ランドルフは何故か、私の肩を掴みながら険しい表情を笑顔に変える。
元々百獣の王であるネメアの獅子かのような豪快な風貌が、良い笑顔をしている。
……え、なんで?
「ロボさん。フライハイしよう。一度スッキリさせた方が良い」
「ソウデスネ」
……え。
◆
「失恋を証明するためには、恋とはなにかを定義付けねばなりません」
ああ、スッキリした!
私はエルフだからどちらかというと森の種族だけれど、空を飛ぶのも偶には悪くないね!
「いえ、我々様々な種族が数千年かけても定義付けられなかった事からして、定義する事自体が間違っているのかもしません」
ふふふ、スッキリした所で色々な事を答えられるうようになったよ!
色々考えて行動しないなんて私らしくなかったんだ! だからまず、私は行動を起こして色々な話を聞き、行動しておくべきだったんだよ!
「もしくはそれぞれの恋の答えがそれぞれにある、という事が定義の可能性もありますが」
大丈夫。皆私より頭良いし、要領も良い。私よりは良い答えを言ってくれるはずだよ!
ようし、そうと決まれば早速話を聞きに行って、答えを見つけ出そう!
あ、その前にスッキリさせてくれた二人に感謝の言葉を言わないとね!
「では、私は色々な定義を参考するために、親しき皆様の所に赴こうと思います。私のためにお手数をおかけいたしました。ありがとうございました、ルーシュ・ランドルフ様。ロボ様」
よし、言った所で早速行くとしよう! なんと言っても私はエルフだから、すぐ行動できるんだもんね!
「……アレは大丈夫と思うか、ロボさん?」
「カナリアクンは、内心ではあんな感じですよ。ただ表に出ないダケデス」
「それが今出ているのがマズいのではないか?」
「……ソウカモシレマセンネ」
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