追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

シスターは見た(:紺)


View.シアン


 私の名はシアン・シアーズ。何処にでも居るクリア教のシスターである。
 辺境ではあるけど国境近くではないため、のどかであるシキという土地の教会に勤めている。
 しかしそんなのどかな土地であるとはいえ、基本的に私達教会関係者の仕事がなくなる事は無い。

 聖具・聖遺物の管理、回収。
 討伐業務(主に霊方面)。
 呪術の解呪。
 週に一度の集会《せっきょう》・聖歌現在四名で順に週ごとに歌うかピアノを弾く
 希望者を募っての学術・魔法指南。
 懺悔室業務。
 薬配布、治療など慈善活動(本業のヒトの本分を奪わない範囲)

 この他にも別の教会だと孤児院も兼ねているので、孤児を育てたりする事もある。シキでは孤児は現在居ないので、今の所この業務はないが(偶に子供を預かる事もある)。
 さらにはここに大きな教会の掃除などの維持も含まれるし、最近は少ないけど神父様への嫌がらせで緊急依頼を差し込まれもする。
 他の土地と比べて忙しくはなく、強制的な物が無いとしてもお勤めは多岐に渡るため、私達の余暇は意外と少ないのである。

「シスター・シアンー。礼拝堂の掃除終わりました」
「ありがとー、スイ君。じゃあ次は――」

 しかしながら最近は頼れる後輩も出来たので、業務も大分楽にはなっている。名前はヴァイス君。私は親しみを込めてスイ君と呼んでいる頼れる子だ。
 とても綺麗な男の子で、線は細いけど、彼に流れる吸血鬼の血を上手く扱う事で私よりも遥かに強い力を発揮する頼れる子だ。

「じゃ、次は魔物除けがちゃんと機能しているか見に行くから、スイ君は――」
「あ、僕も行きます!」
「大丈夫? 無理せず休んでいても良いけど……」
「このくらい平気ですし、二人の方が安心して見回れますから!」
「ありがと。よーし、じゃあ一緒に行こうか!」
「はい!」

 そしてなんと言っても素直で良い子だ。
 最初に来た頃は塞ぎ込みがちだったけど、今ではすっかり明るく頼れる我がシキ教会の一員である。彼が来たお陰でシキの教会は大分賑やかに、そしてお勤めも楽になったのである。
 そして彼とは別に、もう一名教会にはシスターが居るのだけれど、先程私に

『む、愛しい娘の気配を感じる。悪いけど今日のお勤めは無しでお願いしますシアン先輩!』

 と、言って何処かへ行ってしまった。
 これが別の後輩シスターであれば捕まえるのだけど、マゼンタちゃんことマーちゃんの場合は普段からお勤めに貢献し過ぎているので、抜け出した所で問題無い。むしろあのような期待に満ちた表情をされては止める方が野暮というものである。……というかあの時はスルーしたけど、娘の気配ってなんだろう。親子だからこそ分かる絆というやつなのだろうか。

――あれ、そういえば娘が来たって事は、スイ君に……

 マーちゃんが何処かへ行く時にスイ君は居なかったので、スイ君にとってマーちゃんは「後輩が用事で何処かへ行って、今日は休みらしい」という感想なのだけど……あれ、なにかこのままだとスイ君にマズい事が起きる気がする。……なんだろう、喉まで出かかった居るのに、言葉が上手く出て来ない。

「ところでスイ君、シキには慣れた?」
「はい、まだまだ修行中の身ですが、大分慣れて来ました」
「そっか、それは良かったよ」

 ともかく、スイ君と話して私の感じたマズい事のヒントが無いかを考えてみよう。スイ君に関わる事なのだから、話していればなにかに気付くはずだ。

「でもゴメンね、見習いだって言うのに、色んな仕事をさせちゃって」
「いえいえ、色々やった方が経験を積めますし、シスター・シアンや神父様達の助けになるのならば嬉しいです!」

 くっ、なんて良い子だ。何処か一癖あるシキの中で、この真っ直ぐさは眩しいほどである。こんなに良い子が昔は何故か腫れ物扱いだったらしいけど……今からその昔居た所に行って説教をかましたいほどである。やらないけど。

「でも、もっと休みも欲しいんじゃない? 遊んだりして休みを満喫したいんじゃない」
「休みは隙を見てとっていますし、誠心誠意務めを果たす事が修道士見習いとしての役割ですよ。それに、シスター・シアンのような素晴らしい方々が居るお陰で日々が充実していますから、日々をいつも満喫していますよ」

 本当に良い子だ。良い子良い子と撫でてあげたくなる。けどスイ君にやろうとすると照れて逃げるんだよね。……そこをマーちゃんと協力して逃がさずに撫でると可愛いんだけどね。

「それに、今日は本当だったらもっと忙しかったはずですけど、こうしてシスター・シアンと一緒にゆっくり話しながら歩けています。このゆったりとした時間があるだけでも、休みといえますし、充実していますよ」
「ま、確かに本当だったら今も忙しかったはずだからね」

 先日来たイオちゃんの兄であるソル君とラッキーちゃん夫婦。この夫婦や彼らの従者がシキでなにかするのではないかという事で、彼らが帰るまでクロ達が監視できない間は油断をせずに監視する必要があったんだけど、色々あってそれが無くなった。彼らは今ではシキを普通に観光している一行なのである。
 そのお陰で今は本来するはずだった監視が無くなり、こうしてゆっくりお勤めをしているのである。

「……まぁ、代わりというように今の教会にはとんでもない御方がいる訳なんだけどね」
「……ええ、それは、その……そうですねとしか言いようがないですね」

 あの御方に関しては……まぁ色々言いたい事はあるけど、ともかく恐れ多いとしか言いようがない。
 ちなみにあの御方に関してはスイ君にとっては格好が格好なので男の子には刺激が強いかなとも思ったけど、スイ君もあの御方の正体にすぐ気付いたし、敬意を除けばあの御方を見る目が私やマーちゃんを見る目と大体一緒なので、スイ君はそのような目で見られないようだ。神々しいから仕様がないとも言える。

「しかし、クロ達は気付いていないんだよね、あの御方の正体」
「やはり教会関係者は気付きやすいという事なんですかね?」
「かもね。知っていたらクロ達もあんな態度はとらないだろうし」

 ……いや、イオちゃんはともかく、クロは微妙かな? クロ達前世持ちって何処となく信仰の在り方が私達と違う気がするんだよね。なんというか、信仰が割と大雑把な気がする。だから知った上であのように接している可能性もあるのである。

「ク――トウメイ様って、まだしばらく居られるんですよね?」
「まぁ、もうちょっと居るだろうね」
「ですよね……」

 スイ君は複雑そうな表情をする。多分信仰的にはありがたいのだけど、だからと言ってあの御方と共に過ごすのは複雑、という所か。

「クロ達も忙しいだろうし、私達も頑張らないとね」
「……そうですね。クロさん達も、義理のお兄さん達の相手も含め、通常の領主としての仕事もある訳ですから、僕達も――」

「よーし、このまま屋敷までかけていきますよ、あははー!」
「クロ殿、クロ殿! 嬉しいのは私もだが、早いぞクロ殿ー!」

『…………』

 …………なんか、お姫様抱っこして駆けて行った謎の男女が居た。
 見間違いでなければ、アレは両方とも私の友達であろう。
 …………うん。

「さっさと結婚しないかな」
「してますよね?」
「なんか夫婦っていうより付き合いたてカップルって感じだし」
「……ええ、それは、その……そうですねとしか言いようがないですね」





備考 敬意を除けばあの御方を見る目が私やマーちゃんを見る目と大体一緒
ようするにヴァイスにとって現在の教会には性癖を歪ませる美女トリオが居て、目のやり場に困るという事である。

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