追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

フゥーハハハ!


「さて、お二人は忙しいようなので、邪魔者は退散しますか」
「して良いのだろうか、クロ殿」
「下手に手を出すと拗れかねませんし、なんだかんだで楽しんでるようですし」
「……そうだな」

 やけに手つきが怪しいマゼンタさんと、それを嫌がりつつも拒絶をしないレットさん。
 可愛くむくれるロボと、なにが悪いのか分からず戸惑うルシさん。
 どちらの二人も手助けはあった方が良いのかもしれないが、ここは放っておいても良いだろう。
 なにせ二組共――

「時に愛しい娘スカーレット。成長を確かめたいから、一緒にお風呂に入るか殴り合うかを選んで!」
「その二択なら殴り合うけど。今までの鬱憤も含めて容赦しない」
「よし、裸の付き合いだね!」
「話を聞いて!」
「うん、だから裸で殴り合うんだよ!」
「混ぜるな!!」

「ロボさん。オレも男である以上女性の裸に興味を持つ事は否定しない。トウメイ氏の裸体に劣情を抱いてしまう事もあるだろう」
「……ハイ」
「だが、ロボさんへの気持ちはその劣情を遥かに超える気持ちの大きさがある。その愛しさ一つでオレは何年も宛てのない旅をするほどには大きいつもりだ」
「……ハイ、分かってイマス。ただ不安にはナルノデ……」
「なるので?」
「……少しだけ、手を握って貰っても良いデスカ」
「もちろんだ。貴女が望む限り、いくらでも握ろう」

 ……うん、二組とも大丈夫だな。
 ロボ達は上手くいっているし、レットさんも……うん、上手くいっているな。そうに違いない。間違いないとも。
 なんかマゼンタさんの手つきがなおさら怪しく……妖しくなっている気がするが、気のせいだな。気のせいだとも。

――よし、去ろう。

 ここで去ると後でレットさんに文句を言われそうであるが、大人しく去るとしよう。
 ロボ達の方もなんか自分たちの世界に入っているし、お邪魔虫は退散、という事にして、酒場を――

「領主、なんの騒ぎだ?」

 そしてヴァイオレットさんと共に酒場を出ようとした所で、エメラルドと出会った。手元には袋を持っている辺り、薬の納品にでも来た、という所なようである。

「ああ、ちょっとルシさんとレットさんが来ていてな」
「ルシ……レット……ルシにレット……?」
「……ルーシュ殿下にスカーレット殿下な」
「ああ、そうだった。アイツ来ているのか。それで、アイツがなにかやって騒いでいるのか?」
「正確にはマゼンタさんと一緒にな。このまま行くと近親相姦が起きそうだから、王子様っぽく助けてやってくれ」
「なにが起きようとしているんだ。そして私になにを求めているんだ。……はぁ、だが行ってくる。情報助かる、領主」
「おう。じゃあな」

 エメラルドはレットさんの方を見てから溜息を吐くと、俺達に軽く手を振ってからレットさん達の方へと向かって行く。表情はともかく、足取り自体には迷いはない。

「……迷わずに助けに行ったな。あのエメラルドが」
「ですね」

 そしてその様子を見てヴァイオレットさんが小さく呟く。
 言い方としては酷いかもしれないが、普段のエメラルドの様子を見ていれば面倒とは言わずに、相手を率先して助けに行くというのが珍しいと思えるのも無理はない。

「まぁ、以前の首都観光で色々あったようですから」
「好意か厚意か分からないが、少なからず友とは思っている、という所か」
「でしょうね」

 エメラルドは未だに同性同士の恋愛については探り探りではあるが、スカーレット、という女性に対しては悪くは思っておらず、好感触であるように見える。……互いが互いにいい影響を与え、良い関係性を築けているようでなによりである。

「ようーし、じゃあ親子プラス娘の彼女でレッツ裸の付き合い!」
「エメラルドを巻き込まないで!」
「私は別に構わんぞ」
「え、良いの!?」
「私の右腕を変な目で見なければ別に良い」
「性的に身体を見るのは?」
「……見るだけなら好きにしろ。触れたらぶっ飛ばす」
「わーい、じゃあ温泉にでも行って、馬鹿母は縛り上げよう!」
「おお、私が早速邪魔者扱いされている!?」

 ……うん、良い関係性……良い関係性であろう。ああやって気軽に話せる関係は良いモノだろうからな。

――しかし、余暇か。

 ルシさんもレットさんも、どちらも仕事は少し有れど基本は余暇と言っていた。
 先日来たソルフェリノ義兄さんやムラサキ義姉さんも、話し合いは大方終わって余暇を楽しんでいる。
 他にもこの朝から酒を飲みに酒場に居るシキの領民連中は、仕事は大丈夫かと思う程に余暇をエンジョイしている。

――この光景が見られて嬉しいのは、領主特権だな。

 この俺が治めているシキで、余暇を楽しめるような環境が整えられているのならば、領主として嬉しい限りではある。それを思うと普段の忙しさも報われるとは思うのだが……

「ヴァイオレットさん」
「どうした、クロ殿。屋敷に戻るのだろう? それともなにか用事が――」
「お姫様抱っこで屋敷に戻っても良いですか」
「……はい?」

 だが、今日もこれから仕事だというのに、目の前で余暇を楽しまれると俺だって余暇を味わいたくなるものだ。だが、仕事をサボる訳にもいかないので、雰囲気を少しでも堪能できるようにしておくとしよう。そのためにヴァイオレットさんをお姫様抱っこして仕事に戻るぞ!

「というわけで問答無用でお姫様抱っこです!」
「どういう訳だ、クロ殿!?」
「触れ合いたいからです!」
「それは私もだが、だからと言って――ひゃぅ!?」
「よし、では行きましょう。フゥーハハハ!!」
「アプリコットのような笑い方を――いや、まさかアプリコットの笑い方の元はクロ殿なのか!?」
「ははは、どうでしょうね、あはははははー!」 
「テンション高いなクロ殿!」
「愛しの妻をお姫様抱っこしているのでね!」


「あの夫婦は相変わらずだなぁ」
「まったくだ。何度もイチャイチャしてやがる」
「飽きる所か毎回初々しいよな、あの夫婦は」
「だが、若い者はああじゃなきゃな!」
「馬鹿言うな。年寄りだってああなってみせるさ」
「そうだな。儂も嫁とイチャイチャしたいぞ」
「そりゃ俺だって」
『…………。よし、帰ってイチャつくか! お勘定!』


「……クロ達のアレはオレ達とは違った影響を与えるのだな」
「マァ、扱いは雑だったりシマスけど、慕われていマスカラネ」
「慕われるとああなるのだろうか」
「ナルノデス」

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