追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

可愛らしくむくれて


「シキの領民だから説明なしでも許されるという冗談はさておいてですね」
「冗談なのだな、クロ」

 半分冗談だが、半分本気である。という本音はさておくとして、やれる事はやっておくとしよう。
 殿下達の話を纏めると、“殿下”としての表立っての仕事というよりは、あくまで“冒険者”としてシキに来ている。ようは下手な干渉は望まれない自己責任で来ているのであるから、殿下達からの接触をするなど必要な時にこちらが対応すれば良いだけで、基本受け身で大丈夫であろう。
 しかし現状のシキの状況(ソルフェリノ義兄さん達が来ているなど)の情報は共有しておくべきであろうし、件の確認する対象についても報告はしておくべきだろう。
 対象の内の一人であろうマゼンタさんに関しても報告をすべきなのだろうが……まぁ、そっちは現在進行形で親子交流を図っているスカーレット殿下、もといレットさんがよく分かるだろうから、軽めで良いか。

「報告ですが、マゼンタさんに関してはシスターとして問題無くやっており、シキの領民にも愛されています。故に問題無いかと」
「そうか。元気にやっているのは……まぁ、見れば分かるな。問題無いのならば、甥として喜ばしい事だ」
「ですね。ちょっと修道士見習いの子に手を出そうとはしてますが、問題無いですよ」
「それを問題と言うんだ」
「ははは、大丈夫ですよね、ヴァイオレットさん?」
「……そうだな。あくまでも同意。多大な誘惑をしつつ同意でやろうとはしているからな……」
「ヴァイオレット。目を逸らすな。問題だと思っているんだろう」
「思っておりません!」
「くっ、目を逸らさず言い切っただと……!?」
「個人的には私の夫を誘う方に問題があると思っているので、同意があるなら未婚同士ですし別に良いのではと思い始めています」
「思い始めるな。……よし、この諸々の件はマゼンタ叔母様とじっくり話し合うべきだな」

 止めないとマズいと思った事は何度もあるが、まぁ割と無理には……無理には……あまりしない。あくまでもそういう兆しが相手にも見られるからグイグイ行くだけである。俺に来るのは正直困るのだが。

「マゼンタ叔母様に関しては後で話し合うとして」
「話し合いで解決できれば領主として本当に嬉しいです」
「……苦労しているようだな。だが、どちらかというとオレ達の目的は彼女……トウメイさんの方だ」
「彼女ですか」

 トウメイさんの方が目的、か。先程も思った通り、彼女に関して状況を確認するのはおかしくないが……

――やっぱり“大昔に戦い、封印をし続けた女性”ってだけじゃなさそうだよな。

 “扉”に関しての重要参考人ではあるが、それとは別の……彼女に対するを感じられる。それも長年間封印を独りでしていた事に対する敬意だと思えば納得は出来るが、もっと別の……根本的な物に対する敬意な気がする。それはシアン達が抱いている物と同種の敬意なように思える。

――そういえば彼女って、あの乙女ゲームカサス一枚絵スチルで……

 セピア色の過去回想のような、世界観を説明する時の曖昧な絵で、似たような――

「いや、正確にはオレが個人的に知りたい」
「ルシさんが個人的に、ですか」

 ……なにか気が付かない方が良い事に気付きそうになったが、ヴァイオレットさんとルシさんの会話に遮られた。……気付きかけた事は気になるが、気付かなくて良いという直感を信じるとして、考えないようにしよう。

「しかし、彼女について詳細を知りたい。ですか。……失礼ながら、トウメイさんをどのように思われているのでしょうか?」

 だが、ヴァイオレットさんの言うように、ルシさんはトウメイさんをどう思っているのだろう。ロボが居るのに、まさかトウメイさんの事を、なんて……

「言葉にするのは難しいが……慕っている、というべきだろう」

 ……え、本当に?

「慕っている、ですか」
「そうだ。彼女を見た瞬間に言葉に出来ぬ衝撃が走ったと言うべきか、今までとは違う感覚に支配されたと言うべきか……ともかく、衝撃的だった。語彙が少なくてすまないが、オレはそう感じたんだ」

 確かに彼女を見た瞬間は俺も衝撃的であった。あったが、その言い方だと語弊が生まれる気がする
 多分この衝撃的って言うのは俺と同じ衝撃か、あるいはシアンが抱いている衝撃と同種のモノだろう。だがこの言い方をすると傍から聞けば誤解が生まれる可能性が大いにある。その事をルシさんに伝えるべきで――

「ホホウ、トウメイクンを、慕っている、デスカ……」
「む、ロボさん?」

 あ、ロボ(ヘッドギアモード)だ。

「久しぶりだな、ロボさん! 手紙でのやり取りはしていたが、やはり直接相まみえる方が――」
「露出が好きなんデスカ?」
「む?」

 ……時は既に遅し、というところかもしれない。

「女の子の露出を見れば、興奮するのデスカ?」
「ど、どうしたロボさん。なにやら怖い――」
「綺麗デスものね、トウメイクンは。あの露出で堂々としているのは格好良いデスものね」

 いや、あの露出で堂々としているのはある意味では格好良いかもしれないが……いや、ロボの言う事はそういう事じゃないんだろうな。
 露出が苦手なロボにとっては、ルシさんが露出が多い女性に興味を持っているという事が気になるという事なんだろう。

「大丈夫デス、ワタシは気にしていませんから。綺麗な身体に惹かれるのは男性のサガと聞きますから、どうぞごゆっくりシキを観光なさってクダサイ。ワタシはちょっと海の神を討伐して来マスノデ」
「ロボさん、なにを言っているんだ。オレはロボさん以外――」

 ……というか、ロボってちゃんと嫉妬するんだな。
 いや、おかしくない事かもしれないのだが、別の女性に惹かれるルシさんを見てあのようにむくれて嫉妬するのは、相手が好きでないとまずしない事だろう。……なんだかんだ、上手くいっているんだな。

「おうおう、酒のつまみに痴話喧嘩が追加されたぞ」
「こりゃ楽しめる酒の席になりそうだ」
「二人が喧嘩したら、酒場ごと吹っ飛ぶが……まぁ大丈夫か」
「ああ、痴話喧嘩はそのくらい激しくやらねぇとな!」
「というわけで、カンパーイ!」
『カンパーイ!』

 そして周囲の領民は本当になんなんだ。なんでも楽しみすぎやしないか。仮にも両方とも王族のいざこざいなんだがな。

「……まぁ、シキの領民だからな。仕様が無いか」
「クロ殿、説明が面倒な事をそうやって自分に言い聞かせようとしていないか?」

 バレたか。

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