追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
感動の母娘再会?
「シキの影響という冗談はさておいてね」
「冗談なんですね、レットさん」
本気なのを茶化している気もするが、あまり追及はしないでおこう。そもそも影響だって悪い方向に捕えるからいけないんだ。領主である俺は良い影響のはずであると信じるとしよう。
「私達が来たのは余暇と言ったけど、実は数点確認事項もあるの」
「確認事項?」
「うん、それが終われば晴れてロイヤルな私はエメラルドとラブラブな余暇を過ごせるの」
ラブラブかどうかはともかく、確認事項か。
まぁオールさんの件も考えると、一つはまずトウメイさんの件だろう。
王城の地下空間から出て来たという彼女は、王族にとっても大昔を知る重要参考人だ。一応話せる事は話してからシキには来てはいるが、重要には変わりない。そして詳細はぼかしているが、どうも彼女の扱いは首都でも数少ない相手しか知らないらしい。ので、キチンと話せて確認出来るという意味で殿下達が確認に来ている、という事か。
――あと考えられる事と言えば……
もう一つ、彼らがわざわざ確認するような事と言えば、恐らく――
「で、確認したいんだけど、トウメ――」
「王族な勘がここに娘の存在を感じたよ!!」
「イ゛ッ!!?」
……わざわざ彼らが確認する相手と言えば、もう一人の重要人物であるマゼンタさんだろう。と、思っていると、確認する前に向こうからこの酒場にやってきた。勢いよく扉を開け、マゼンタさんの登場である。
「うわ、バレないように来たっていうのになんで……!?」
そしてレットさんは露骨に嫌な顔をした。レットさんは嫌な顔はするが、今まで見た事の無いタイプの嫌そうな表情である。
「あははは、居たよ居たよ。我が愛しの可愛い娘! お母さんに会いに来るとはなんて可愛い子なんだろう、さぁ、王族抱擁を受けるが良いよ!」
対してマゼンタさんはとても嬉しそうな表情だ。実の娘であるレットさんに会えた事が相当嬉しいようである。
「ええい近付くな抱き着こうとするなこの馬鹿母め!」
「照れない照れない愛しの娘! 私がちゃんとやれているか心配で来たんだよね。大丈夫、私はこの通り元気にやっているよ! でも心配して来てくれてありがとうね!」
「誰がアンタの心配なんてするか! どうせ何処いってものらりくらりと自分の欲求に素直に生きるでしょうがアンタは!」
「あははは、そりゃそうだよ! あ、でも心配せずとも私に会いに来てくれている、って事はお母さんが愛しくて来てくれたって事なんだね。お母さん、嬉しい!」
「アンタは本当に自己解決の世界に閉じているな! 私の何処にアンタに対する愛しさを感じた!?」
「だってスカーレットが私を母って呼んでくれたから!」
「その前に馬鹿ってつけてるけど!」
「でも母って認めてくれた! それだけでも嬉しいんだよ!」
「ああ、はいはい母、母、母! これで満足!?」
「うん、満足!」
「この……!」
……ううん、なんというか凄い光景だ。マゼンタさんが強いのは知っているが、スカーレット殿下がここまで押されているのは初めて見た。エメラルドに対してはなにかと弱かったりするが、基本攻めのスカーレット殿下が押されているので、ここまで相手を責め崩せずにいるスカーレット殿下は意外な光景という他ない。それに身長差的にもマゼンタさんの方が年下に見えるので、その意外さがより際立っていると言うか……しかし、なんでここまで押されているのだろうか。やはり母には弱いのだろううか?
「なんでそんなに照れるのスカーレット!」
「実の母が下着無しスリット深めの修道服着て私より年下みたいにはしゃいでいるとか、そんな親を持つ娘の気持ちも考えてよ!」
……ああ、うん。仮に似合っていても複雑だな。
今まで抑圧されていた分はしゃぐのは嬉しくとも、それはそれとして思う所は間違いなくあるな。
「私はこの服は似合っているという自負がある。そして誇っている。なら誇っている母をスカーレットは誇って!」
そしてマゼンタさんは相変わらず強い。
スカーレット殿下は「誇れるか!」とツッコんでいるが、マゼンタさんの中では“自分がどう思うか”を重要視しているという事だ。以前はそれが完全に自己完結した自己都合解釈だったが、今は客観視した上での自己判断だから成長を若干感じる。
――そしてそれを分かっているから、スカーレット殿下も母と呼んでいるんだろうな。
以前チラッと見た限りでは、スカーレット殿下のマゼンタさんへの態度は母と思わない態度であった。けれど今はこうしてじゃれあっている(?)辺り、俺の知らない所でなにか仲を深めるキッカケがあったのかもしれないな。
「以前と比べると、仲がよろしくなったのですね、あの御二人は」
俺が二人を眺めていると、ヴァイオレットさんが呟くようにルシさん……もとい、ルーシュ殿下に感想を言った。やはりヴァイオレットさんも二人の様子に何処か感じる者があったようである。
「スカーレットのやつも、分かり合ったんだ」
「分かり合った、ですか」
「ああ。以前は両者共、違った意味で自己の世界に閉じていた。だがそれが以前の王城での一件以降、少しだけだが分かり合い……それがキッカケで周囲を見るようになったんだ」
「……確かに、以前とは違ってそう思えますね」
……ヴァイオレットさんとルーシュ殿下は分かり合っているようだが、どういう事だろうか。なんとなくだけど、俺の感想の「分かり合えているようで良かった」とは違う感想な気がする。
というかスカーレット殿下が閉じた世界ってどういう事だろう。そういえば以前エメラルドとの会話で、スカーレット殿下は虚無主義だとか言っていたが、そういう類だろうか。…………。うん、分からん。
「それではルシさん。レットさんはあのように親子交流を楽しんでいるようなので、私達だけでも確認事項を確認しますか?」
分からない事は後で分かっているっぽいヴァイオレットさんに聞くとして、今は話を戻すとしよう。
「そうだな。……だが、それとは別に一つ気になる事があるのだが」
「なんです?」
「周囲の反応についてだ」
俺はそう言われてルシさんに倣い、周囲を確かめる。
一体周囲、つまり朝から酒場に居る周囲の反応になにか不審な点でもあったのだろうか。
「ああ、マゼンタちゃんはやっぱりあのマゼンタ様であったか」
「けどレットちゃんを娘扱いしているな。なんでだろう」
「レットちゃんの親は確か儂の友達である現国王陛下と女王陛下であるし……」
「友達は嘘だろう。……まぁ、よくわからんけど元気そうだから良いか」
「そうだな。若い子は元気が一番だ。あの子達自身が自分たちは親子だと言っている。ならそれはもう親子だ。とやかく言う必要はねぇ」
「だな。しかしマゼンタちゃんは相変わらず絶妙にサービスしてくれるねぇ」
「ああ、俺達にとってはその事実さえあれば十分だな」
「そうだな。……では美少女と美女がキャッキャウフフしている光景を見た事だし、まずは――」
『今日も一日頑張ろう、乾杯!』
……うん、色々ツッコみたい所はあるが。
「これがシキの領民です」
「クロ。お前それを言えば大抵説明が許されると思ってはいまいか?」
バレたか。
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