追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

幕間的なモノ:兄妹仲良く?_2


幕間的なモノ:兄妹仲良く?_2


「ええと、まずは材料を細かく……つまりクラッシュ。どぅおりやぁ!!」
「食材を拳で砕いてどうするんですか!!」

「細かくした材料を丸めて……丸め……丸……おらぁ!!」
「圧をかければ良いからって、握り飯のように無理矢理握ってどうするんです!」

「そして砂糖を……やけに多いな。デコレーションで甘くなっても仕様がないし、減らすか」
「レシピ通りにして下さい」
「いや、だが砂糖を多くすると太る事を心配――」
「レシピ通りに、して、くだ、さい」
「……分かった。分かったからその圧力をやめてくれ」

「なんだか水分が足りないような……足すなら酢だろうか」
「何故です」
「美容に良いと貴族女性の間では話題で、好んで飲む者も居るのだろう?」
「否定はしませんが、デザートのデコレーションに酢という疑問を抱いてください」

「形を整え……余分を削って……削りすぎたな。足すよりはこっちを削って……整えて……よし、良い感じだな」
「兄様。そちら、私が持たせてください」
「む? 構わないが……あ」
「削りすぎですね。一方向から見るとこうなるのでご注意を」





「料理とは……難しいのだな」
「それはまぁ、デコレーション人形とか本職でも難しい事柄を選べば、難しく感じるでしょうね……」

 一通り、中途半端な知識を得た料理人が失敗するような失敗をソルフェリノ兄様がし続けて二時間。なんでもそつなくこなすソルフェリノ兄様であるので、意外と料理もすんなりとこなすかと思ったのだが、そんな事は無かった。
 出来上がるのは事前に用意した完成イメージ図とはかけ離れたもの。この絵と実物を見比べれば「面影はある」といった感想を抱く事は出来る、というようなものだ。微笑ましさは感じるが、兄様が期待しているような驚きを与える凄さは感じない。

「ちょっとした一品の方も、なんか……なんだか、違うな」
「形を整える。……これが難しいんですよ」
「……なるほど、誰しもが通る道か」

 デコレーションだけでなく一品を作ろう、という話もあって簡単な料理も作りはしたのだが、これもまたなにかが違う。味の方は問題無いのだが、見た目がやや歪だ。なんというか“ふんわりとせずに平べったい”というような感想を抱く。クロ殿風に言えば「ザ・一人暮らしの男料理!」と言った感じである。

「包丁の使い方も学び、それなりに扱えていたつもりだが……ヴァイオレットと比べると、稚拙だと分かるな」
「いえ、初めてならば上出来なものでしたよ。私とて最初はこのような感じでしたし、その後時間をかけて夫や息子に教わりながら少しずつ学んだ身、というだけです」
「足りないのは経験、という事か」
「そういう事です」

 私も初めは扱い方がよく分からずにいたものだ。
 野菜を切っても形は歪になるし、皮を剥いたら食べられる量がかなり減る。最初はグレイと私が剥いたジャガイモの大きさにショックを受けていたものである。

「だが、こうしていると上手くいく道が見えないな。……ヴァイオレットはなにか、失敗しても続けられる気力を保つ方法はあったのだろうか」
「食べてくれるヒトが美味しいと言ってくれた、という事でしょうか」

 しかしながら作った料理をクロ殿は美味しそうに笑顔で食べてくれたので、この笑顔を本物にしたいという気持ちが今の料理の腕に繋がっているのだろう。もちろん道はまだまだであるし、あの時の美味しいという言葉と笑顔は本物ではあったのだろうが……まぁ、そこは意地というものである。

「なるほどな、食べてくれる相手を思って、か。……ヴァイオレット」
「なんでしょう」
「すまないが、夕食ギリギリまで作りたいと思うのだが」
「はい、付き合いますよ。好きな相手に喜んで貰いたい、という気持ちはよく分かりますから」
「経験則、か」
「それもありますが、同じ血が流れている兄ですから。所詮同じ穴の狢です」
「……ふ、確かにそうかもしれんな。では料理を作るぞ、ヴァイオレット。愛する妻のために協力をして欲しい!」
「はい、ソルフェリノ兄様!」

 教会の調理場であるので、片付けと移動を考えればあと一時間半程度使えるだろう。少しでもソルフェリノ兄様が納得できるような物が仕上がるように、妹として兄をフォローするとしよう。

――本当に、兄様とこんな風に過ごす時が来るとはな。

 父には見捨てられ。母にも愛想をつかされた。
 厳しい我がバレンタイン家の一族に、家族の情は無いモノだと思っていた。
 しかし、以前まではソルフェリノ兄様が私に興味を持った様子はなかったが、今ではこうして隣で料理を一緒に作っている。ほんの一週間前であれば考えられなかった事であり、ゲン義兄様やスミ義姉様と会った時に羨ましいと思っていた事と似たような事が、今の私が出来ている。
 ……これがいつまで続くのか分からないし、実は今もソルフェリノ兄様の術中なのかもしれない。
 それでもこうして一緒の料理をする事を嬉しく思う気持ちと、ソルフェリノ兄様が妻のために頑張っている事自体は事実であるので、今を楽しんでいきたいと思う。

――ライラック兄様とも、こういう風に過ごせれば良いのだがな。

 ……例えそれが淡い希望であったとしても、願わずにはいられなかった。

「時にヴァイオレット」
「なんでしょう」
「なにもしていないのに細工が崩れた」
「……なにかしなければ崩れはしないのですよ」

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