追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
おのれシロガネ(:紫)
View.ムラサキ
でぇと。ようは逢引である。
愛し合う男女が外で逢瀬をし、食事などを楽しむ行為。
故郷では室内で詩を嗜んだりする事で外での逢引は少ないのだが、この王国では外に行く事が多かったりする。
私もソルフェリノ様と何度か経験があり、慣れずとも楽しむ事が出来た過去がある。
我が子が生まれてからはほとんど無かった逢引であるが……
「……私のご機嫌を取って誤魔化すつもりでしょうか、ソルフェリノ様」
楽しかったとはいえ、それはあくまで私が子を持たぬ女子であったが故の事だ。貴族、かつ母としてはあまり好ましいものではない。家と家族の事を忘れ享楽に耽るなど、良くない事なのだから。
「もしそうであれば、お前は“貴方はその程度でご機嫌をとるような、程度の知れた男ではないだろう”と言うだろう」
「言いませんよ。ただ、思考は別でしょうが」
「ふむ、そうか。だがそういった思考はあったとしても、着いては来るのだな」
「……そうしなければ、貴方は話すらしないでしょう」
今現在、誘われた事により私達はクロ義弟ちゃんの屋敷から出て、シキを周ろうとしている。初めは大事な時になにを馬鹿な事を言っているのだと言いたかったが、共に逢引をしなければ話すらマトモに出来なさそうだったので仕方なく外に出る事にした。
なんの考えがあるかは分からないが、警戒しつつ、こうして外で話をした方が早いと思ったからである。
「そうだな。だが、私はムラサキが望んでデートをしたかったように見えたが――」
「ソルフェリノ様、なにか仰いまして? まさか今後の私達家族の事よりも、私情に流されたとでも仰るおつもりで?」
「……そうだな、私の我が儘に付き従っただけだな」
「その通りでございます」
私が母直伝の“笑顔だが有無を言わせず夫を諫める”笑顔を見せつつソルフェリノ様に言うと、ソルフェリノ様は引き下がってくださった。
まったく、ソルフェリノ様はなにを言うのか。私が我が愛し子の将来について重要な話をしているのに、私情に流されて逢引をするかだなんて、なにを言っているのか。
――そんなもの、したかったに決まっています……!
ええ、好んでする事でない、かつ良くない事とはいえ、逢引を出来ると言うなら喜んでしますよ。しかも向こうから誘って下さるなんてこんなに嬉しい事では無いですし、私情に流されますよやったー!
ただでさえここ数年はソルフェリノ様と外で共に歩く時はなにか宴(※パーティーなど)の時くらいだ。しかも宴とはいえ仕事の話となるとシロガネが傍に居る事の方が多い。そのせいでシロガネがソルフェリノ様の隣に相応しくみられがちだ。おのれシロガネ、許すまじ。
――……いや、落ち着くのです私。
ただでさえ仕事でお忙しいソルフェリノ様と逢引が出来るのならば私はする。そして向こうから誘われたとなれば、妻として断る訳にはいかないだろう。これは我が故郷の「夫の言葉には可能な限り頷き従うべし」という教えによるものだ。ええ、そうですとも。私情ではなく、妻としての在り方だ。そうに違いない、多分。
「では何故私とでぇとをしようと思われたのです。まさかご機嫌取りではなく、誤魔化すためだと仰りませんよね」
「そちらの方が私の評価は下がりそうだな。私には怖くてできそうにない」
「……ソルフェリノ様」
「冗談だ。誤魔化すつもりは無いから安心しろ。キチンと話はする」
「ならば良いのですが」
しかし私情にしろ妻としての在り方にしろ、逢引を楽しむとしても、一番の目的は教育方針についての話し合いだ。
ソルフェリノ様はある時を境に妙な雰囲気を漂わせるようになったが、ついにあのような「私のようになって欲しくない」などと言いだしたのだ。私はその理由を知らなくてはならない。
――もし、その変わった理由が誰か、想い人が出来た故としたら……
……ソルフェリノ様が変わった理由として考えられる事として私の中に何度過っているのは、この思考である。
私はソルフェリノ様を慕っている。だが、ソルフェリノ様は私を寵愛くださっているかには不安を覚える。ならば私のようなみっともない女ではなく、別の美しき痩身……あるいはヴァイオレット様のような程よい大きさのお胸の女性をお好きになられ、その影響で変わられた可能性が大いにある。だとすれば私は……
――それでも私は、お家のために尽くしましょう。
側室を愛すると言うならばそれで良い。
そもそも私のような女を正室で迎え入れられた事自体幸せな事なのだ。それでソルフェリノ様が幸せというのならば、耐え忍び幸せを祈るとしよう。
「では、デートを始めるぞ」
「……はい」
だが、それでも教育方針に関して譲る事は出来ない。我が家でもあるバレンタイン家のためにも、私はこの譲れない部分を貫き通さなくてはならない。
それがあの時私を選んでくださった貴方への、妻としての在り方なのだから。
「……あの、ヴァイオレットさん。なんで俺達此処に居るんでしょうね」
「……兄様がデートに家族以外の部外者を連れて行きたくない、と言ったからではないか?」
「……だとしても、ええと……うん、これ以上言うのは止めておきます」
「……そうだな」
……あと、やや後方で義理の妹夫婦がソルフェリノ様の言葉により護衛として着いて来ているのだが、流石に私も可愛そうだと思っている。私だったら嫌である。シロガネ居れば彼が付いて来ていたのだろうが、居ないので彼らが代わりなのである。おのれシロガネ。
「とはいえ、ダブルデートでも思いましょう」
「そうだな。こういった時にしか味わえないデートというのもあるから、楽しみに思うとしよう」
「ですね!」
あの夫婦、良い性格をしているなぁ。
……しかしヴァイオレット様はなんというか、先程の言葉といい、本当に変わられたな。
備考 あるいはヴァイオレット様のような程よい大きさのお胸の女性
あくまでもムラサキ基準であり、ヴァイオレットは平均と比べとても大きい方である。コーラル(バストサイズ三桁でカップも大きい)で、ムラサキ基準の巨乳である。
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