追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

どうするべきか


「……どうします?」
「……どうしようか」

 帰れと大声で言ったモノの、このまま本当に帰らせるのもなんとなく居心地が悪いので、ソルフェリノ義兄さんには一先ず屋敷には泊まって貰う事にした。部屋は無駄に多いので従者の方々も別の部屋とはいえ、屋敷に泊るという所は一緒だ。
 なのでまずは部屋をルオさん(オールさんの偽名)に案内をさせて、俺はヴァイオレットさんと一緒に待機しながら今後についてを考えていた。

「とりあえず、ソルフェリノ御義兄さんがとても愉快な方だとは分かりました」
「言葉を大分選んだな」
「ヴァイオレットさんは?」
「今までと違って楽しそうに自分を表現出来ていて喜ばしいよ」
「言葉を大分選びましたね」

 と、俺達はそんな複雑な感情を混ぜながら、ソルフェリノ義兄さんについて考えていた。
 ソルフェリノ義兄さんが語った事は何処まで本音で、何処までが素なのか。
 何処までが嘘で、何処までが演技なのか。
 俺やヴァイオレットさんを管理するために弱さを演じているのかもしれない。
 実際に喧嘩をして家出をし、居場所を得るため親しみを持たせようと過剰な演出をしているのかもしれない。……そのどちらにしろ、気になる所はある。

「ソルフェリノ御義兄さん、ヴァイオレットさんが変わった事をキチンと把握していましたね」
「……ああ、少なくとも兄様の前では変わった所は見せていないのにな」

 ソルフェリノ義兄さんは何故弱さを見せて来たのか。
 真っ正直にシキに来た理由を“喧嘩”などと言い、バレンタイン家の教育を批判のか。
 それは兄と会う事に緊張と僅かな怯えが有り、【シキに来て様々な事が変わったヴァイオレットさん】の様子を見せていないにも関わらず、ヴァイオレットさんが変わったと理解していたからだ。
 “弱さを見せても問題無い”と、分かっていなければあのように弱さを見せない。今までのヴァイオレットさん相手なら強く恐ろしい兄を見せれば良い。それで怯えて従うならよし。怯えなくても強く凛々しい兄を見せれば、兄を正しいのだと思い込ませる事が出来る。
 だが、今のヴァイオレットさんにとっては“弱さを見せて親しませる”が効果的だから迷わずに弱さを見せた。

「……私はあくまでも噂は参考までに留めておく。それは教育と兄様達を参考に、“自分の目で見て自分で判断するべきだ”と考えているからだ」
「つまり、ソルフェリノ義兄さんもそうなのにも関わらず、ヴァイオレットさんや俺達にあのように振舞ったというのは……」
「シロガネのような余程信用できる相手からの情報を得たのか、首都などでの噂を総合して判断したのか……あるいは、参考を確信出来るほど、私の変化を見抜いたか」

 ヴァイオレットさんが以前と変わっているという事前情報を聞き、ソルフェリノ義兄さんはシキに来た。そしてヴァイオレットさんがその情報通りであると、出会って挨拶してからここまでの行動で確信に変えた。だから行動した。
 もしそうならやはり油断は出来ないが……

「まぁ、考えても埒があきません。それこそ参考までに留めておいて、油断せずに家族として接していく、という事にしましょうか」
「……そうだな」

 どちらにしろ俺達は今の会話では分からないというのが分かっただけだ。仮に見抜かれていたとしても、なにかしようとしていたとしても。今の状態の俺達は未来を語れるほど現状を把握できていない。
 シアンのように相手の機微に聡い訳でも、メアリーさんのようにすぐに好かれるような行動が出来る訳でも無いんだ。
 俺達に出来る事は精々油断せずに、しかし家族である事を理解して相手を理解する事を諦めない事だ。ソルフェリノ義兄さん達を理解して、彼らが少しでも良い方向に進む様に頑張るとしよう。
 それがシキに来た彼らに対する、領主としての役目であり、望みなのだから。

「……でも、アレが素として、言った事が事実だとしたら……俺達痴話喧嘩に巻き込まれる、って事になるのでしょうか」
「教育方針の違いは根深いからな……下手したら痴話喧嘩どころか他家の騒動に巻き込まれるぞ」
「確かに。前世いぜんの親友もそうでしたし」
前世いぜんの……社長、とやらの親友の事か?」
「ええ。その親友の実家が割と立派な家系だったんですけど、教育方針でもめにもめて親友は母に連れられ家を逃走したそうです」
「……苦労したんだな、その親友は」
「ですね。ちなみにその後は、後継者を逃がすまい追手がかけられ、常にあらゆる敵がやって来ていたそうで、お陰で幼少期は逃げ続ける生活を送っていたそうです」 
「……クロ殿居た所は貴族制度の無い平和な国だった……と聞いたが」
「どこでもそういうのはあるようです」

 そんな波乱万丈な人生を送って来たくせに、その親友は会った時から「素晴らしい服を作って、それを着て喜ぶ皆が見たい!」なんて子供のように語っていた。……本当、今の俺が居るのはアイツのお陰だよなぁ。

「ともかく、そんな未来もある訳です。ヴァイオレットさんの甥っ子のためにも、頑張るとしましょうか」
「そうだな。私の実家もムラサキ義姉様の実家も後継者の確保に追手を駆けて抗争が起きる可能性は充分にあるからな。そうならないように頑張るとしよう、クロ殿」

 ……確かに、親友の時はあまり想像できなかったが、ヴァイオレットさんの実家って普通にそういう事出来る様な力を持っているんだよな。……うん、頑張るとしよう。

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