追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

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幕間的なモノ:監禁生活中に送られてくる妻の謎レター


幕間的なモノ:監禁生活中に送られてくる妻の謎レター


 我が王国の第二王子であるカーマイン・ランドルフこと、俺/私ぼくは性格が破綻はしているが、それなりに人間らしい感情も有しており、家族は大切だとは思っている。

 父の事は尊敬している。
 王という統治者としては素晴らしく、私達姉弟の得意分野の最高値を合わせた能力を全て有しているような父だ。素直に一番尊敬している相手として最初に思い浮かぶほどには尊敬している。
 性欲に二回ほど負けて不貞をしたが、まぁアレは相手が悪かったと思うとしよう。多分でかいやつだけじゃなくて、小さい奴も堪能したかったとかそういうのだろう。

 母には愛情を感じている。
 オレの上と下の姉弟が父の不貞結果の子であったので、反動で愛情を受ける様な歪んだ愛ではあったが、愛であった事には変わりないし、ワタシも母を敬愛している。まぁ歪みを正すつもりはなかったが。その方が都合が良かったし。

 兄と姉達の事は慕っている。
 なにせ兄と姉達優秀だ。自分に無い優秀さを兼ね備えている。だから慕っている。
 あと、鋭さと優秀さのお陰でボクの計画(クロ・ハートフィールドを愛するための破滅計画!)に緊張感を持たせてくれた。彼らにバレないように計画していくのがどんなに楽しかった事か。ありがとう、兄様、姉様!
 ……まぁローズ姉様だけはとても怖いのだが。なんだろう、あれ。説教の時のローズ姉様の瞳は深淵を覗き込んだように深く暗いのでとても怖い。

 弟と妹達の事は可愛いと思っている。
 精神的未熟、真っ直ぐかつ素直、引っ込み思案。誰も彼も見ていて可愛いったらありゃしない。
 あのそれぞれが読み易くて思った通りに動く幼稚さ。自分は出来る事を、懸命に失敗しながらやっているのを見守る微笑ましさ。自分はヒトとは違うとか思ってそうな、予想しやすい単純さ。それらを上から見ていたお陰で拙は兄としての自覚を持てたぞ! ありがとう可愛い弟達! もし恋人が出来たら盛大に兄として祝ってやるからな!

 クロ・ハートフィールドの事は愛している。
 え、家族じゃない? なにを言っている。私/僕おれが愛し、愛の気持ちを伝え、激情に任せた魂の叫びを受け取った。ならば既にクロ・ハートフィールドは魂の家族だ。だから家族に僕/俺わたしは何度でも愛を伝えるぞ。愛しているぞ、クロ・ハートフィールド!

「……さて」

 一通り愛を心の中で叫んでスッキリした所で、僕は愛を語る事となった原因である手に持っている手紙に目をやる。
 差出人はオール・ランドルフ。
 金髪や姿が美しく、よく宝石などに例えられる僕の妻だ。
 その妻から僕は手紙を受け取り、先程まで読んでいた訳なのだが。

――オールについてはそれなりに情はある。

 家族と同様に、オールの事は大切だと思っている。
 気難しく、つまらない。ご機嫌取りをしていればそれなりに働いてくれるが、しなければ全方位に迷惑をかける拗ね方をする面倒な女。
 それでも契りを交わした仲であるし、当時僕の知らなかった感覚を教えてくれたし……まぁ危機と分かれば率先して助けるくらいには情はあるにはある。無理ならどうしようもないが。

――シキに行ったのは知っていたが。

 そんな情がある妻は、シキに行ったというのは知っている。大方僕が愛しているクロ・ハートフィールドに会いに行って、なにか知りえれば僕の興味を引けるのかもしれないなどと思っていたのだろう。
 そして手紙を出すか、直接会いに来る、というのは予想はしていた。いたが……その予想通りに手紙を送って来た、情はあるがつまらない妻からの手紙は……一度読んだ程度では理解が追い付かず、家族の事を思いだすような事態に陥った。
 ……ともかく、もう一度読んでみるか。


『ヘイ、愛する夫であるカーマインさん、見てますかー!
 私は現在貴方の愛するクロ・ハートフィールド様が治めるシキに居ます。
 ここは開放的で良い所ですね。
 ここなら私も自分らしくいる事が出来ます。

 だから手始めに最近シキに来た、常時全裸の女性の背中に乗り空中を散歩しました。
 そして誰も見えない上空で彼女のように己が肉体を晒してみました。
 外だというのに開放的になれるというのは素晴らしいなと思ってます!
 ですがご安心を。
 素晴らしいと思ったからと言って他者には進んで見せません。愛する貴方以外にはね!

 それと黒魔術師の男性に頼んで、亜空間を旅してみました。
 なんでも煉獄という名の空間だそうです。
 時間や空間の概念があやふやになってただ揺られるというのは素晴らしく、とてもスッキリしました。今度帰ったらスッキリした私を見せに行きますね!

 あと、特別に古代技術の機械なるモノを身に纏わせて頂きました。
 大いなる力を身に纏い、なんかすごい魔法を魔力消費無しで放てるってすごいですね。癖になりそうです。
 ですが癖になると困るので、癖を治すために今度帰ったら貴方を自身の力で殴りに行きますのでよろしくお願いします!

 他にも医療を学んだのですが、その御方の熱に当てられて怪我を治す快感に目覚めそうになりました。
 これはいけないと思い、それ以上は学びませんでしたが……もし目覚めていてはいけないので、貴方で試してみても良いですか? 大丈夫、痛くしません。本当です。本当ですってば。

 ……なんて、冗談です。貴方を傷付ける事なんてしませんよ。愛する貴方が怪我をしたら悲しいですから。
 ですがそれはそれとして殴る時は殴るので、よろしくです。
 怪我をしたら治しますからご安心を。

 そんな感じで私はシキで楽しく生活をしています。
 クロ様とも仲良くなりましたし、ヴァイオレット様とも仲良くなりました。
 あまり息子達や政務を放置して長い事居るのも良くは無いですが、もう少し居たいと思います。
 そして次帰ってくる頃には新しい私を見せてあげますね。
 では、またお会いしましょう!
 
 追伸
 機械で撮った写真を同封しましたので、楽しそうにする私を見てくださいね!』

 そこまで見た所で、僕は同封されていた写真を見る。
 写真に写っているのは、マゼンタ叔母様と謎の裸マント女と一緒にポーズをとっている妻の姿。
 なんとなくだが「ハーハハハハ!」という笑い声が聞こえて来そうな、今までに見た事無いノリノリの妻である。ちなみに格好はスリットを大胆に入れたシスター服の上からマントを羽織っている。

 …………。
 …………。
 ……大丈夫だろうか、僕の妻。

 あと、シキにまだ居ると言うが、大丈夫だろうか。
 もう少しでアレが来るんだがな。

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