追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

綺麗な観察_4(:透明)


View.クリア


――上手くいってたなぁ……

 私が不安に思ったグレイ君とアプリコット君の作戦は、見事に成功に終わった。
 どうやら事情を知っている一部周囲の協力もあったようだが、演出、対応共に見事と言わざるを得ない行動で成し遂げたのである。というか全体的に「ま、なんとかなるだろう!」というような行き当たりばったりアドリブではなく、対応策フローチャートを元々組み立てたかのように対応していた。ようは成功するべくして成功した、と評価せざるを得ない。

――思ったよりしっかりとした子達みたいだなぁ……

 別に出来ない子と思っていた訳では無いが、私は彼らを過小評価していたと言えるだろう。それほどまでに彼らはしっかりとしていた。あの辺りは彼らが元々キチンと出来ていたのか、クロ君辺りがそういう風に教育をしていたのか。あるいは両方合わさって今の彼らのようになっているのかもしれない。

――そういえば、スカイ君も“シキの皆さんは無法に見えて、キチンと弁えています”言っていたっけか。

 ふと、彼らの一連の行為を見終わって、シキに来るまでの馬車の中でスカイ君が話していた事を思い出す。
 シキの領民は、

・己を貫く!
・テンション高めに性癖を発露する!
・変態? ありがとう、褒め言葉だ!

 という性格の者が多く(もちろん変態ではない善良な領民が大半だが)、そんな彼らが居るシキに居ると、ある程度の悩みがどうでも良くなるほどに彼らにあてられるそうだ。しかし己が道を貫く彼らだが、分は弁えているそうだ。むしろ弁えていなければシキには居られないとも言えるとスカイ君は言っていた。
 クロ君とスノーホワイト君達の尽力で昔の無法であったシキから、今のシキに落ち着いているそうである。
 なんでも、

『変態は良いんだよ。けど、迷惑をかける変態が駄目なんだよ』

 というモットーの元に、自分らしさを貫ける環境を作る事を頑張っているそうである。そこを勘違いした輩は問答無用の話し合いが行われるそうだ。
 結果的に『己が道を貫くけれど、貫くための環境作りを皆が協力して作る』というシキの空気が出来ているようである。
 ……そう考えると、シキという地は結構良い場所かもしれないと思うな――

「ごめんなさいごめんなさい! ちょっとやりたい事があっただけでお医者さんの言葉を忘れたつもりは無かったんだけど意識的に無視しただけなのです!」
「余計悪いわこの愚患者めが! 医者の言う事を聞けない患者は無理矢理にでも言う事聞かせるぞ! 場合によっては殴る!」
「い、イヤ-! 無理やり連れていかれて、“言う事を聞けない身体は分からせないと駄目だな……”的な感じに身体を隅々まで調べられるんだー!」
「貴様、俺の医療行為をそういう風に評価するのは誰であろうと許さんぞ」
「ごめんなさい。ですが私はお医者さんである貴方が怖いです。そして私が悪いので言う事を聞かねばなりません。なのでエロ妄想をして恐怖を和らげることで己が精神性を保っているのです。エロという生存本能を高めるのです」
「まさかそのように言い返されるとは思わなかった。……今後の医療行為の参考までに聞くが、精神を保てるのか、それは」
「世の中の技術と精神の進化の元なんて、大抵戦いかエロが関与しているのです。そのくらいエロは偉大なのです」
「否定出来ないのが若干腹立つな。……だが俺は医療行為にそういった行為は一切せんから、妄想だけにしておけ」
「触られる……優しく触ってビクッとする……それを見て獲物を見つけたような眼光を………………お医者さんと領主さんが合わさって……」
「おい最後は妄想でも待て」

 ……うん、ちょっとああいうのを見ると良い場所と言うのが躊躇われるが、ああやって元気にやっているんだから良い土地に違いない、うん。医者の方が女の子を肩に担いで荷物のように運んでいったが、気にしないでおこう。
 というか片方の女の子はシキの領民じゃないらしいけど、あの調子だとシキでもやっていけそうである。

――ん、今、医者の子がこっちを見たような……?

 今医者の子が去る間際に私と目があった。しかし首をかしげてすぐに女の子を部屋まで運んでいったので、目があった事自体は偶然だろう。もしかしてあの子もクロ君までとは言わずとも見えたりするのだろうか。あるいはシアン君のように敬虔でありなにかを感じ取ったのかもしれない。

「ハッハー! なんだか美しき透き通った女性の気配を感じ取ってクロの屋敷に来てみたが、誰も居ないぜ! 俺の愛する運命の相手は何処に居るんだぜ!」

 あるいはこの子のように女好きで、私の美しさを感じ取ったのかもしれない。というかここって領主であるクロ君の屋敷なのに、なんで医者の子もこの子も普通に来ているのだろう。大丈夫か、セキュリティ。

「ううむ、周囲を見渡しても居ないな。俺の感覚も鈍ったんだろうか。しかし! 今会えないという事は、これから会う運命という機会に再び恵まれたという事だ! さぁ、花火のように美しく華やかに運命を咲かせて見せるぜハッハー!」

 そしてこの子は色々凄いなぁ。一年中物事を前向きに考えて生きていき、年老いてもこのテンションを維持しそうである。

――しかし、不思議な魔力の持ち主だ。

 シキに来た時に案内をして貰ったので彼の魔力についてもある程度知っているのだが、彼の魔力は不思議である。
 なにせ彼の魔力は“M”だ。マゾヒストのМだ。……ふざけている訳では無い。
 身体がいくら傷付いても魔力が「もっと痛みを!」的な感じに身体を回復させる。よって驚異的な回復能力を有しているのだ。
 そのお陰で彼はいくら殴られても時間経過ですぐに回復する。だからみんな安心して殴れるのである。……まぁシキの皆はそういう事を気にせずに彼を殴っているけど。

「しっかし、そういう意味では才能に溢れている子が多いよなぁ、シキって」

 特殊、特異、特別。種類はどうあれ、シキには才能が溢れている子が多い。
 先程の医者の子も、屋敷の上から観察した時に見たのだが医者としての腕前は、あの子が昔に居れば、私の戦いは大分楽になったと思う程には相当なものだ。
 他にも鍛冶職人は包丁を見ただけでも腕が良いと分かるし、アンバー君は香り、バーント君は音で姿を消した私の気配を辿ってくるし(香りも音も消しているのだが、消しているからこそ分かるらしい)、クロ君も純粋な身体能力は私が見て来た中でもトップクラスである。
 これらは偶然集まっているのか、あるいは環境作りが功を奏しているのか。どちらにしろ皆が良い環境を作ろうとしているからこそ、こうして今もシキに居るのだとは思う。

「――さて」

 シキの皆はこれから観察していくのにあたり退屈せずに済むので楽しみではあるのだが、今は別の対象を観察しに行くとしよう。
 ある意味では、今回の観察をするにあたっての目的とも言える場所に。

「確か花火を打ち上げているんだっけか。……どうなっているか、観察するとしますか」

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