追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

綺麗な観察_3(:透明)


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 私があのちょっと不思議な魂とそれに伴う特殊な魔力を持つフューシャ君と共通している魂の形がある、とクロ君に告げると何故かクロ君は固まり、少し経つと表面上は何事もないかのように振舞いながら思い悩んでいた。
 私の発言が原因だろうが理由はよく分からない。あまり仲が良くない子であり、似ていると言われて複雑だったのだろうか。
 しかしクロ君は気にしにないで良いと言いすぐに持ち直したので、私は気になりつつも今は気にしない事にした。

「さて、許可も出た事だし、早速行くか!」

 そして私は姿を消しながら元気よく外に出る事にした。折角の機会だし、色々と観察するとしよう。なにやら花火なる催しで盛り上がるそうだし、人々が楽しむ姿を見たいからな!

――って、あれは……

 私が意気込むと、早速私の愛すべき人々が見えて来た。
 あの子達は……私の裸体を見ても一切の不純な視線を感じないザ・純情少年ことグレイ君(なおクロ君とかは若干感じる)と、よく分からない事を言うが発言が格好良いとも思える少女ことアプリコット君か。なにやら仲良く二人で話し合っているようである。

「良いか、我らは花火の事を気付かれぬようにスカイさん達を外に連れ出すのであるぞ」
「はい、誘導してロマンティックな雰囲気を作り、私め達は目指せロマンティック大統領ですね!」
「そうである!」

 違わないだろうか。
 そう言いたいが、子供達がなにやら微笑ましい事を画策しているので、大人はあまり横やりを入れるべきではないだろう。あまり干渉し過ぎると成長の妨げにもなるからな。

――しかしこの子達、相変わらず魔力が高いな……

 グレイ君とアプリコット君。グレイ君は全属性、アプリコット君は火と闇に優れた魔術師……えっと、魔法使いだ。
 そして血は繋がっていないが、クロ君とヴァイオレット君の子供だそうだ。……ヴァイオレット君にとっては一歳下と四歳下の息子か。……なんか色々起きそうな予感がする響きだな!

――よし、またヴァイオレット君に怒られそうだからこれ以上の想像は止めておこう。

 ともかく、グレイ君は純粋であるが偶に毒も吐く少年だ。
 魔法適性は全属性に秀でており、剛法や堅法なども教えればみるみるうちに成長していくだろうという素養がある。根も素直だしまさに教え甲斐がある子といえよう。
 外見は少年よりの中性的な美形。その性格と外見も相まって恐らく多くの男女を惑わしているだろう。身近な所だと今彼の隣に居るアプリコット君と、なんか少年愛を叫んでいた渋い鍛冶師のおじさんだ。あのように男女問わず魅了するなど、グレイ君も罪な男である。

「はっ!?」
「どうされましたか、アプリコット様?」
「いや、なにやら並べて欲しくない相手と我が同列に扱われた気がしたのであるが……気のせいか」

 ううむ、しかしそういう意味では彼はクロ君の息子と言えるな。グレイ君は純粋無垢な性格と外見で男女を惑わし慕われる。そしてクロ君も多くの女性を惑わせているようであるし、やはり親子になると何処か似てしまうのだろうか。

「アプリコット様、父上は多くの女性に言い寄られますが、恋愛的に言い寄られる事はほとんど無いですよね」
「急にどうしたグレイ。確かに恋愛感情は少なく……妙に肉体で迫られる事が多いな」
「恋愛感情の無い据え膳が多いのですよね」
「何処で覚えたその言葉」

 ともかく、グレイ君は成長を見守ってあげたくなる男の子だ。大人の我が儘かもしれないが、こういった子が純粋に育っていって欲しいと思う物である。

――そうすれば目を逸らしているモノを見ないでも済むし……

 ……いや、これこそ大人の我が儘エゴか。
 彼が無意識に目を逸らしている部分は、いずれ彼は向き合わねばならない。
 その時魔力が今と同じで高いまま純粋で居られるかは微妙だが、向き合ってなお、意識的に目を逸らさずにいる事が出来れば、彼は成長できる。成長し、ようやくアプリコット君を女性として好きでいられるのだろう。
 例えそれが過去のトラウマに起因し、“自身の性関連を拒絶している”という事だとしても、向き合う事で彼は少年から一歩成長する事が出来るだろう。……ただその成長の一歩はどの方向に行くかは不明ではあるのだが。

――……だから、見守るしかないか。

 ……さて、グレイ君が正しく成長するためには彼女の力が必要だ。
 グレイ君が好きな相手であり、同時にグレイ君の事が好きなアプリコット君。
 闇と火の魔術が得意であり、その才覚は私の感覚での【魔法使い】に到達出来るレベルの少女だ。
 私と同じように自信家で、言動はよく分からなかったりするが、意外とマメで気配り上手。料理も上手くて花が好きな可愛い所もある、整頓は出来ても整理が出来ないタイプの女の子。
 グレイ君の事好きだと言うのは誰の目から見ても明らかで、グレイ君も好きだと言ってるのに照れが先行して上手く攻めれない乙女状態になっている子である。もういっそ押し倒せば良いのに。法律? 身体が出来ていない? 私の頃には男女は十二歳で結婚していたからどうという事は無い! グチグチと言い訳をしている暇が有ったら早く行動に移すんだ、若人!

「アプリコット様、何故虚空を見つめて杖を構えるのです?」
「いや、なにか攻撃したいほどの言葉を向けられた気がしたのだが……どうも調子がおかしいようであるな、我」
「私めはなにやら励まされている気がしましたがね」

 いや、押し倒したらグレイ君のトラウマが出てきてしまうか。ならやめておいた方が良いか。
 見守ってあげた方が良いし、現代には現代の恋愛観があるから私が口を出すべきではないだろう。なにせ現代は好き同士であったのに、結婚してから半年以上男女の関係が進展しなかった領主夫婦もいるらしいからな。現代の人々は奥手なのだろう。
 ゆっくりイチャイチャを楽しむんだ若人。大人として見守っているぞ!

「子供にとやかく言う暇が有ったら、まず自身の事をどうにかした方が良いのではないか?」

 …………。うん、そうだね。

「どうかされましたか?」
「……いや、すまない。なにやら今日の僕は妙な感じがしているようだ。なんだか言わずにいられなかった」
「調子が悪いようであれば、休んでいられた方がよろしいのでは……」
「大丈夫だ。僕……我はいつも通りであるぞ、フゥーハハハ!」

 というかもしかしてだが、こうして姿を消している時に思考すると、周囲に思考が漏れ出たりするのだろうか。なんか神のお告げ的な感じで。
 ……まぁ私の事は置いておくとして、私はそろそろ屋敷の外にでも出て人々を観察しに行くとしよう。子供達の健やかな会話を邪魔するべきではない。

「それより、これからスカイさん達を連れ出す作戦を再確認するぞ」
「はい。ええと、台詞は“予言書エンペラーに書かれし、帝国の威光も及ばぬこの未開の大地にて、悪を打ち払いしサバトが始まる……!”と私めが言った後に、アプリコット様が」
「“我らは闇より深き貴公らを歓迎しよう。さぁ、空へと思いを馳せる時だ!”と言うのである」
「そして私めが全ての照明の魔法を操作して明かりを消し、アプリコット様が闇より出でて暗黒より昏き魔法で外へと誘導するのですね」
「うむ、バッチリであるな!」

 どうしよう、止めた方が良いかな、これ。
 い、いや、子供達が頑張ろうとしているんだ。変に邪魔をせずに見送った方が良いはずだ。……うん、良いはずだ。それにこの子達は気配りは出来るし、多くの修正案も出せるから大丈夫だろう。
 …………。うん。

――一応様子を見よう……

 見た所で私がなにか出来る訳でも無いが、姿を消して確認くらいはしておこう。いざとなったら演出を手伝ってあげるとしよう。
 私はそう思いつつ、お見合いの二人に花火が良く見える場所へと連れて行く二人を見守るのであった。

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