追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

黒のとある仕事_11(:黄金)


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 というか少し意外なのは、アンバーさんもこう言った感じのが好きなのか。

「アンバーさんも花火がお好きで?」
「ええ。子供の頃、沈んでいた時に兄と見た花火が綺麗で……それ以降大好きになりました」
「そもそも花火を提案したのはアンバーさんですしね」
「え、そうなのですか?」
「はい、私は花火が打ちあがるシチュエーションで告白したいので、悪いですけれど将来の下見も兼ねてどうなるかと思い、私的利用しました!」

 私的利用して良いのだろうか。というかお相手は居るのだろか――というのは失礼だからやめておこう。彼女はエルフの血が濃いから若く見えるが私より年上だろうし、あまり言わない方が良いだろう。

「まぁ俺も見たかったですし、それは良いんです」
「良いんですね。……しかし、よく用意出来ましたね。花火職人がおられたので?」

 魔法の花火は魔力の込め方が難しく、専門家でないと綺麗にならないと聞く。下手な花火であればむしろ盛り下げるだろう。

「いえ、居ないです。初めはロボが極大花火を自前の能力で連発できるので頼もうかとも思ったんですが……」
「出来るんですね……」

 あのロボという少女は本当に何者なんだろう。

「黒魔術で作れるオーキッドとかに頼んだんですよ。それにロボだけに任せると、ロボの負担が大きいですし、ロボが見れませんからね、花火」
「クロ様はお優しいのですね。皆が楽しめるように気を使うなんて」
「優しい……というよりは、一人に負担をかけるのが良くないと思うと言いますか。一人が居なくなって回らなくなる、なんてのは組織として駄目ですからね」
「……なるほど」
「ですが、優しいと言って頂きありがとうございます。貴女様にそう言って頂けると、俺も嬉しいですよ」

 ……クロ様はどうやら、思ったよりも組織を管理する作業に向いており、皆で楽しむ事を是としているようだ。

「ええと、これ最初の花火で、並びはこうで……安全性を配慮するため確保する距離は……うん、問題なさそうだな。アンバーさん、すみませんが二重チェックお願いします」
「承りました。……しかし、楽しみですね花火。私がこうして計画する立場になるとは思いませんでしたが」
「はは、そうですね。俺もまさかですよ。ですがこれはこれで楽しいですし、良い経験です」
「ですね。すー……はー……うん、問題なさそうな香りですが、目視点検も大切ですからやります」
「なんか確認方法に言いたい事は有りましたが、アンバーさんだと大丈夫だと思ってしまうのが悔しいです」
「それほどでもです」
「褒めてな――いや、うん、褒めてますね、はい。ええとこっちは発射角度と速度の――オール様、こちらの花火の順番に関してなんですが」
「なんでしょう。……ああ、こちらはですね――」

 そして恐らくだが他者に負担をかけるからには、自分も相応の働きをするべきだと考えている。先程していた連絡事項や自ら動いている辺りもそうと言える。更にはそれでいて自分もその過程を楽しむ事が出来るタイプだ。
 当然辛い時もあるだろうが、地味な作業が多くとも先にある楽しみを想像して今の作業の糧とする。または目の前の事を経験として捕え、ただ考えずにやる事を“勿体ない”と思っているのだろう。
 重要なのがそれらが独りよがりになっていない事。自分が嬉しいから相手も嬉しい、なんて事は考えずに、他者の気持ちを考えた上での相手に応じた対応をする。
 決まった対応を最善としてするのではなく、状況と相手を見て行動する。だからこそこのシキで慕われるような男になり――

――ああ、なるほど。これは踏み躙りたくなる。

 ……夫が――カーマインさんが。クロ様に執着した理由はこれか。
 優れてはいるが、周囲には多くのさらに優秀な者達が居て。
 彼らが優れた事をする事を手伝い、成功すれば己が事のように喜び。
 なによりも己が幸福と相手の幸福を両立する行動が出来る。
 故に貴族というよりは友として慕われる。

――それでいて“外れて”いるのなら、踏み躙りたくなるものだ。

 …………。
 ……外れていなければ、カーマインさんも興味を持たなかっただろうに。
 本当に、難儀なモノを抱えているようだ。

――……あと、なんというか、死を恐れている気がする。

 当然と言えば当然の事だが、彼は人々が感じる普遍の死への恐怖ではなく……生のありがたみを身を持って知っている。まるで一度経験したから二度と味わいたくはなく、生きる事は特別だと思っている。何故だか、そう思うのだ。

「よし、最終確認も済んだ事ですし、行くぜシキの花火!」
「わー、行くますぜー!」
「楽しい夜の始まりだ! さぁオール様も一緒に」
「え? え? ……こう、ですか?」
「はい。せーの、成功させるぞ、」
『オー!』
「お、オー!」

 ……いや、気のせいか。単に今まで居なかった性格の貴族で、夫が愛した男だから変な視点で見ているだけだ。彼は子供の価値観のまま大人の視点を持っている男性だ。参考にするべきではない男性への感想など、それで充分である。

「時にクロ様。花火が見えて人通りが少ない木々がある場所とかあります?」
「もしかしなくても、そこで行われる男女の秘め事を覗きに行こうとかしてません?」
「何故分かったのです!?」
「まぁ……そういったのは定番のシチュだったんで……花火で皆が夢中になっている間に、抜け出して、終わってから戻ってくる的な」

 いや、もしかしたらクロ様は私と同じ趣味を持つ同志かもしれない。
 ……なんだか興味が湧いて来た!

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