追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
黒のとある仕事_9(:黄金)
View.オール
「という訳で、改めて頑張りましょうアンバーさん」
「……はい」
ヴァイオレット様に許可を得た後、私はアンバーさんを連れてクロ様の仕事ぶりを隠れて観察していた。アンバーさんはヴァイオレット様に対して「止めて下さい」的な視線を向けてはいたが、首を横に振られ「オール様を見ていてくれ」と言われて諦めて私のお目付け役となっている。
そのような感情を抱く者を連れて行くのは私も心苦しいのだが、独りでこっそりと知らない屋敷で監視をするというのは心細いので、悪いが一緒に来て貰っている。そもそも観察と言っても、私はこの屋敷のことさっぱり知らないから、観察する前に迷ってしまいますからね!
――とはいっても、クロ様は外に出られましたがね。
どうやらクロ様は“確認”のために外に出る用があったらしく、外に出る前にヴァイオレット様や子供二人に挨拶をする時に出くわしかけ(なんとか隠れられた)はしたものの、クロ様は丁度外に出られた。そしてこれ幸いと私はクロ様を追いかける事にしたのである
どちらにしても私は土地勘が無いので、アンバーさんにはついて来て貰った方がありがたいのには変わりないが。
「さて、慎重にいきましょう……大丈夫です、私は過去の反省からバレないように移動する事には他のヒトより経験がありますので……!」
「婆やさんのためにもそこは外に出るのをやめてあげた方がよろしかったのでは……」
「幼少期のエロへの探求は生半可と理屈じゃないんです」
「今妙な言葉を未知と仰りませんでした?」
「はは、なんの事やらですね」
ちなみにここ十年はそういった事はしていないので、あまりあてにならないと言えば当てにならない経験ではあるのだが、無いよりはマシだろう。
「さて、それはともかく私達はより慎重にならないと駄目です。クロ様は鋭いですからね……」
「そうですね。御主人様は観察や敵意と言った感情には敏感ですから」
クロ様は鈍そうではあるが、運動面においては現役騎士団のメンバーもまるで子供を相手するかのように圧倒して見せるほどには優れている。いくらあの時レッド国王陛下が用意した騎士団メンバーが地位に胡坐をかいた腐った連中を多く集めたとは言え、圧倒するのは彼が運動面に優れている証拠だ。
あと、私の最愛の夫を肉体強化だけで追い詰めるほどには優れている。……うん、殺す寸前に追い詰める程には優れている。……うん。
ともかく、そのような相手には全力で隠密してようやく気付かれないかどうかの相手、という気持ちで臨まなくてはいけないのである。
そして今の所気付かれた様子はない。なにやらご機嫌な様子でシキを歩かれるクロ様が見えるだけである。
「しかし、私は思うのです。覗きなどの犯罪は、スリリングさもありますが、相手の意識していない姿を見れるからこそ良いのだと。無防備を見る背徳感が良いと思うのです」
「仰りたい事は分かりますが、あまり良くないものかと」
「あら、分かるのですね」
「ええ、無防備に繰り広げられる香りというのは、その香りでしか得られない栄養がありますから……!」
この子はなにを言っているのだろう。香り?
まぁ今まで話した事が無かったので言うのがちょっと怖かったのだが、同意してくれるのなら良かった。ちょっと予想外だったが。
ともかく、見られることを意識していないクロ様を観察し、何故夫が彼を好いたのかを知らないと!
「~♪」
「ご機嫌ですね」
「恐らくこの後最愛の御令室様と、お坊ちゃまとお嬢様の料理が食べられるからでしょうね」
「家族愛に溢れていますね。……ところでお嬢様の方は、正式には養子ではないと聞いておりますが……」
「いずれなる事が実質確定なので。三年程度は差異です」
「それは差異なのですか……? おや、シスターが近付いて……え、なんですあの女の子。服装が……」
「あははは、クロ君、お昼ご飯はどうだった? どれが一番美味しかった!?」
「数字の3が刻印されていたヤツですよ、マゼンタさん」
「そっかー残念。4番だったら嬉しさのあまりキッスをしてあげたのに!」
「こう言ってはなんですが、キッスだけでよろしいので?」
「? うん。あらゆるところをキッスですったりつけたりするよ」
「なにするつもりだったんだアンタ」
「アンバーさん。あの謎のシスターは破戒僧かなにかで? 太腿とか、大事な所がその……見えてますが」
「敬虔なシスター様です」
「え、でも……」
「敬虔なシスター様です」
「……そうですか。おや、今度はお綺麗な黒髪の女性が……」
「クロ君、1番を選ばなかったのは残念だ。だが、私の美しさを拝む権利は差し上げよう!」
「なにが“だが”だシュバルツさん! ええい、半脱ぎするな、ポージング決めるな!」
「あははは、ダブルで行くよ!」
「行くなやマゼンタさん!」
「くっ、敵ではあるが、私にはない美しさを持つ魔性の女め……だが、私は美しさでは負ける訳にはいかないし、負ける事は無いのだ――美、美、美!」
「イエーイ、美しさを見せて幸福になろう!」
「アンタら少しは恥じらえや!」
「……アンバーさん。クロ様はもしや女性から性的に誘われるフェロモンでも有しているのかな?」
「私も御主人様の香りが大好きなので、否定しきれないのが残念です」
「しきれませんかー」
「しきれませんねー。今も慌てる御主人様の香りが良いと思っていますし」
「え、香るんですか。ともかく、クロ様も難儀ですね。……おや、いつの間にか女性二人を追い払ったようですね。次に来たのは……」
「ニャー」
「猫ちゃん! しかも警戒心も無くあんなに近付いています! ……もしや、動物にも好かれやすいと言う感じなのでしょうか……!」
「猫、お好きなので?」
「はい。何故か逃げられるのですが。ああ、クロ様もあのように愛らしい姿を見せられたら、わしゃわしゃと抱きしめたくなるに決まって……!」
「ああ、ウツブシさん。資料ありがとうございます」
「ニャー、ニャニャニャ」
「ああ、こっちの方は順調ですよ。オーキッドの方にもそのままで良いと伝えてください」
「ニャー。ニャニャー」
「はい、またお会いしましょうね」
「…………。クロ様、もしや動物に癒しを求めすぎて、あのように……?」
「いえ、あの御方は、その……違うのです。他の方々の対応に疲れて会話した気になっているとかそんな感じでは無いのです」
「では何故モフらないのです! 猫ちゃんと触れ合えるのなら、身体をまさぐったり吸ったりするものでしょう!」
「猫にするかはともかく、彼女にそれをすると変態か不貞になりますからね……」
「なにを言っているのです」
「なにを言っているのでしょうね……」
「? おや、次は茶髪の男性……確か辺境伯家の御方であった……」
「クロ、今夜は燃え盛る夜になるからそのまま俺達も熱くならないかハッハー!」
「お前冒険者の男を誘ったって聞いたけど」
「もう終えた後だぜ。とても素晴らしく夢のような時間だった!」
「……凄いな、お前」
「そうだろう! だから同じく夢のような体験をしようぜ、クロ!」
「せん!」
「やはりクロ様は男性を引き寄せるナニカがあると言うのですか……! 女性だけでなく、同性も惹き付ける抗い難いナニカが……!」
「いえ、あの御方は王族以外は誰でも誘われる男性なので、そういうのはないかと……」
「じゃあなんですか。私の夫はナニカが無しに愛したと仰るのです? クロ様が男を誘うムワッとしたナニカを持っていないにも関わらず、クロ様を愛したと?」
「返答に困るのでおやめください」
「クロさーん!」
「ん? ああ、ヴァイス君、今日は案内ありがとね。急なお願いだったのに……」
「大丈夫ですよ、楽しかったですし」
「それは良かった。グレイとも仲良くしてくれたようで嬉しいよ。ああ、それとこれ神父様に渡してくれるかな。ヴァイス君も読んでね?」
「はい、分かりました!」
「元気の良い返事だね」
「うん、クロさんとこうやって話せるのが楽しいので!」
「そう言って貰えると嬉しいな」
「えへへー」
「やはりナニカ持ってませんか? クロ様って。少年すらあの様子ですよ」
「ええと、慕われているだけかと……御主人様、何故今回に限って……」
「やはりクロ様は男性を引き寄せるナニカを持っています。だから私の夫も――」
そう、ナニカ持っているからこそ夫をあそこまで狂わせたに違いない。
そのナニカを私は突き止めて――
「人に対して勝手に変な物をつけないでもらえます?」
「え。……あ、クロ様」
突き止めようとしていると、クロ様が私に対してツッコミを入れていた。
…………いつからバレていたのだろうか。それはともかく、これだけは聞いておこう。
「クロ様、私以外にも脳を破壊した方々が多く居る様な、脳破壊者なのですか」
「違います。というか脳が破壊って誰から聞きましたか」
「コーラルお義母様です」
「王妃様が!?」
「はい、将来の娘候補から聞かれたと仰ってました」
「どっちだ……!?」
備考 単語を聞いた将来の娘候補
あははとよく笑うらしい
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