追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

黒のとある仕事_7(:黄金)


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 お医者さんが診察をし、状態を判断して薬師さんが薬を調合した。初めは先程の痺れた様子の少女を見て飲むのが不安だったが、手際は良かったので飲むと、気分がとても良くなった。自覚が無かっただけで体調はあまり良くなかったようである。

「気分はどうだ? 嘘偽りを述べ場合お前を愚かと見做しベッドに拘束する。――気分はどうだ?」
「だ、大丈夫ですよ。気分は優れてます」
「よし」
「変態医者。お前は脅してんのか心配してんのかどっちだ」
「両方だ変態薬師め。調合助かった」
「私の腕もそうだが、お前の見立てが良かったから効いただけだ」

 どうやらこの両名はなんか……アレな所もあるが、腕は良いようである。そして仲は悪いが互いの能力を認めているようである。
 ……なんとなく、羨ましく思うのは何故だろうか。

「ともかく今日一日は安静にしていろ。良いな?」
「……はい」

 私の返事を聞くや否や、お医者さんはクロ様になにか言ってから去っていった。……今更だが、彼はどうやってここに来たのだろうか。クロ様達が呼んだ訳でもなさそうであるし、そもそも屋敷の部屋に来たのも予想外のようであったが……なにか感じ取ってここまで侵入してきた、とかなのだろうか。

「ああ。アイツは怪我を感じ取って来たのでしょう。治すためなら公爵家相手だろうとぶん殴って治す様な……医者として優れた技能を持つヤツなので」

 私がその事を小さくクロ様に聞いてみると、彼はいつもの事と言うように言っていた。困ったように、だが「それがアイツらしい」のだと、彼のその性格を好いているように見えた。出る前に見た会話からなんとなく察しはついていたが、どうやらクロ様と彼とは仲の良い間柄のようである。……ただ、医者としての腕前を褒めはしたが、性格のフォローをしていなかったあたりは、クロ様も思う所がありそうである。

「エメラルドもありがとう。最初の処置や薬が無かったら大変だったよ」
「……気にするなヴァイオレット」
「なにか不服そうだな」
「ふん、アイツの指示で、効果のある薬が出来たのが気に喰わないだけだ」
「だが今までよりも薬が作れて良かった、という様子だな」
「……そうだな。だから気に喰わん。……じゃあな、私は行く」
「ああ、またな」

 そして薬師の女の子も、ヴァイオレット様と会話をして去っていった。元とは言え公爵家のお嬢様、現領主相手というのに言葉遣いが荒いが……ヴァイオレット様は気にしている様子はない。いつものような形で、親しき友を相手しているかのようである。
 ……やはり、ヴァイオレット様は変わったようだ。以前の彼女なら有り得ない行動である。

「デハ、私モコレニテ」
「ありがとうな、ロボ。次は空の神に近しき不死鳥フェニックスと対話するんだっけ?」
「む、対話でなく模擬戦をするのではなかったのか?」
「イエ、毛並ミヲ整エニイクノデス」
「そっかー。忙しい所悪かったな。助かったよ」
「イエイエ、ドウイタシマシテ」

 …………。うん、彼女(?)と普通に会話をしている時点で私の知っているヴァイオレット様じゃないし、有り得ない光景だ。
 というか今窓から空へと飛び立ったが、何故誰もなにも言わないのだろう。領主夫婦だけでなく、先程私を運んだと紹介していた女性の従者もなにも言わな――

「…………(コクリ)」
「…………(コク)」

 ……いや、彼女と目が合ったらなんだか「同意見ですよ」というような表情をして頷かれた。従者である彼女がわざわざその反応をするとは、私は余程理解不能そうな表情をしていたのかと思うと同時に、頷き返しておいた。……やっぱりおかしいよね、あの謎の女性。興味はあるけど。

――ハッ!? 私もあの外装(?)を纏えばカーマインさんに興味を持たれる!?

 ……よし、やめよう。落ち着くんだ私。多分そういう事じゃない。

「オール様。本日はゆっくりお休みになられてください。なにかありましたらそちらに居る彼女、アンバーさんになにか言って頂ければ」

 私が妙な葛藤をしていると、クロ様は私に対して礼儀正しく振舞う。
 突然アポイントも無しに来た私であるが、あくまでも貴族のお客様として扱うようである。そして言われたように今日一日は安静にして置いた方が良いだろう。

「ありがとうございます、クロ様、ヴァイオレット様。……ですがその前にお時間を頂いてもよろしいでしょうか」
「はい、構いません」

 けどそれよりも謝罪をしないといけない。なんだか色んな事が起こり伸びてしまったが、謝罪をする。そう、するぞ。

「この身を自由にして構いません。さぁ、どうぞ獣欲といった欲望をぶつけてください!」
「オール様!?」

 間違えた。そうじゃないだろう。

「失礼、欲望が前に出て言い間違いました」
「は、はぁ、言い間違いは誰にでも――欲望?」
「クロ様、ヴァイオレット様。どうぞこの身を好きなようになさってください。どのような責め苦、羞恥にも耐えてみせますので」
「ヴァイオレットさん、オール嬢って普段からこのように?」
「私の記憶では無いな。というか、クロ殿と同級生では……」
「こう言ってはなんですが、俺の記憶にあればもう少し対応出来ると思うんです」
「……そうだな」

 何故お二人は不思議そうな表情をするのだろう。
 従者のアンバーとやらは何故「同類か……」みたいな表情をするのだろう。……本当に、何故だろう。

――しかし、どちらにしろ……

 相手の表情は気にはなるが、この謝罪を私は貫き通さなければならない。いくら私に立場やプライドがあっても、それを全てかなぐり捨ててでもこれは行うべき事なのだ。
 ……それをしなければ、私は王族や貴族云々以前に、人間としてただの屑のままなのだから。

――それに私の目的を達成するためには、まずこのすべき事が完遂してからでないと。

 そして万が一許される、あるいは保留に出来た場合に私は屑ではなくなった私個人としてのシキに来た目的を始める事が出来るのだ。
 目的。そう、それは――

――クロ・ハートフィールド様を徹底的に知ってやる……!

 クロ様の事を知る事。愛する夫が愛した男は、一体どのような男なのか。
 私は愛する男が愛している存在を知りたい。
 知りたい。
 知りたい。
 知りたい……!
 クロ様。私と私の夫がした事は許される事ではありません。
 一生背負っていく罪でありますし、仮に許されても贖罪を続けましょう。
 ですが贖罪を行うためにも。貴方達をもっと知りたいのです。
 愛する夫が愛した姿を私に見せてくださいね……!

「……悪寒がする」





備考1
オールの自己紹介などは、アイボリーの診断の際に行われました。

備考2 別名サブタイ
「破れ鍋に綴じ蓋_似た者夫婦(:黄金)」

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