追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

千百話記念:あるいはこんなワンダーな学園世界


※このお話は千百話を記念した本編とはあまり関係のないお話です。
 キャラ崩壊もあるかもしれないのでご注意ください。
 読み飛ばしても問題ありません。



















「お前ら子供ならもっと純粋でいろよぉ!」

 俺は叫んだ。
 いつぞやの、少年狂いの鍛冶職人が変態男女錬金魔法使いの力を借りてシキの皆が子供に戻った夢と同じように、俺の知っている奴らが少年少女へと回帰した。
 多分あの時と同じで夢なんだろうが、前回と違って場所が学園だったため、俺は情報収集と共に興味本位で知っている奴らの子供時代を見ようとした。
 今は色々とアレなアイツらであるが、子供の頃は純粋で可愛かったのではないかと思ったのである。

「僕は……僕は……お母様の子じゃないの……? 国を背負っていくために頑張ったのに、僕にはその資格もないの……?」
「貴族は尊敬されるべき存在だ。なのに地位にかまけて義務を捨てちゃう貴族が多すぎるよ……オースティン家長子として、しゅくせいをせねば……!」
「剣の腕……魔法の腕……俺は父上にも母上にも遠く及ばぬ劣った才能だ……俺は……恥ずべき子なのか……?」
「僕は呪われた魔力を有する呪われた子! あははあははあはは! どうせ呪われてるなら、とことん呪われれば良いんだー!」
「身体が男……分かってはいた、分かってはいたのに、心は私はまだ女なんだ……うぅ、自分の身体が気持ち悪い……うぅ……」
「騎士……貧乏……男社会……女の私は、どうすればあこがれの騎士さまになれるんだろう……あこがれは結局あこがれなの……」
「うつくしくあらねば、強くなければ……弟をまもる私は、みにくさと弱さとむえんの女でなければならない……美しく……美、美、美……!」
「救う。救う。救う。ああ、私に健康な身体を与えられたのは、誰かを救うためなんですね。――絶対に救います。この身が例え朽ち果てようとも」

 そして結果がこれである。ある意味純粋と言えなくもないが、純粋過ぎて闇落ちとかしおうな奴らばかりだぞ。
 というか全員闇抱え過ぎなんだよ。何処の重い設定のゲーム世界のキャラだお前らは。……一部を除いて重い設定を持つ乙女ゲームキャラだったな。お手軽に闇を作られていたもんな、お前達。じゃなきゃカサスなんて物騒な略称付けられないもんな!

――とりあえず、この夢を作っただろう輩を探すか……

 重い設定はともかくとして、この世界が以前と同じなら誰かこの夢を望んだ輩が居るはずだ。以前と同じブライさんなら見つけ次第殴れば済むのだが……もし違うなら、結構マズい状況になるから早く見つけないとな。この世界で一生過ごすとか精神が持たなさそうだ。なにせヴァイオレットさんもグレイも居ないしな!
 と、いう訳で闇を抱えている皆には悪いが、俺は脱出するために頑張るぞ!

「こんにちはクロ。私だ、ゴルドだ。この世界はそこに居る子供達をキチンと面倒を見て寝かしつける事で脱出できる夢空間だ。学園の外は亜空間になっていて誰か独りでも抜け出せば夢から覚められなくなる。私も協力はするが、一日学園から逃げさせないようにするだけで精一杯で面倒は見きれん。だから独りで頑張れ!」
「ちなみにですが、この夢空間に俺を放り込んだ犯人は誰ですか」
「私だ。事故った」
「分かりました。後で殴ります」

 ……よし、面倒を頑張ろー。







「僕の血は王族としてふさわしくない……ないんだよ……!」
「ヴァーミリオン君。そんな事ないさ。君は誰よりも王族として相応しい“在り方”を示せる。血よりも強い意志を示せばいいんだよ」
「わかったような口をきかないでくれ! 血の繋がらない苦しみを分かってたまるか! 僕はこの血を――この血を、全て出してしまいたい……!」
「……俺はね。よく血液型が変わったんだ」
「え?」
「父と母の血液型の組み合わせで、生まれて来る血液型はある程度決まっている。……だから代わる代わる現れる俺の知らない父親に対してバレぬように、血液型が毎回変わっているんだよ。……はは、血縁ってなんだろうね」
「なにかよく分からないけど……元気出して、お兄ちゃん。ポトフを一緒に食べよう? 元気出るよ?」
「……うん、ありがとう」


「貴族らしからぬ高貴に振舞わぬ存在を、はいじょ、そしてしゅくせいをしないと駄目なんです!」
「うーん、心意気は素晴らしいけど、それだと俺も粛清対象になっちゃうから困るな、アッシュ君」
「なんでそう思うんですか?」
「シキという地の領主をやっているとね。高貴に振舞おうとても――というか、貴族って平民に尊敬されるもんなんだってよく忘れるんだよ。……アイツら、貴族なんていう立場程度で止まらないからなぁ……」
「なにかよく分からないけど……頑張ってくださいお兄さん。いつかきっとわかってくれますよ」
「……うん、ありがとう」


「俺の才能はちゅーとはんぱだ。父上と母上の、それぞれの剣と魔法の才能を足して割った様な……ちゅーとはんぱな才能。優れてはいても、突出はしていない」
「そんな事ないさシャトルーズ君。両方とも優れているのは、御両親には無い才能。両方活かせば、優れた騎士になれるさ」
「だけど俺は、空間をきりさきながら分身したり、魔法で地形を変えるだいきぼはかいも出来ない!」
「それは出来る方がおかしいんだよ」
「おかしくなければ、父上達に追い付けない!」
「否定はしないけど」
「そうだ、おかしいことをするためには、もっと性格きわめて変態になるほどのたんれんを……! 変態になるのが極める第一歩なんだ……!」
「お願いだから真面目で優れた騎士になってくれ。技術は変態であっても、性格を変態になるのは周囲が困るんだ。……とても困るんだよ……!」
「なにかよく分からないけど……頑張ってくれ兄君。貴方はなにかを極めるには変態である事が大切と理解している。なら貴方が常識と変態に負けないでくれ」
「……うん、ありがとう」


「ははは、良いのですか。僕に近寄ると呪われますよ! そう、呪われた子なんだ、僕は。一生誰にも触れる事無く、孤独に過ごしていくんだ……!」
「大丈夫、俺は味方だよシルバ君」
「ふ、そう言って気味悪がって去っていくのを何人も――って、なんで抱き着く!」
「味方だという証明のためだ」
「こ、怖くないのか! 呪われているんだぞ!」
「刃物を百本ぶら下げた挙句体内に飲み込む女がいたり、暗黒太陽を出現させて神になろうとする男がいたり、亜空間という訳分からん空間に見ると正気が削られそうなペットを飼っている奴らと比べたら呪いなんて可愛いもんなんだよ!」
「なにかよく分からないけど……頑張ってくださいお兄ちゃん。大変だったんだね」
「……うん、ありがとう」


「うう、身体が男……なんだこれ、意識し始めると違和感が……」
「大丈夫か、エクルさん。やはり違和感が?」
「うん、とてもね。初めの頃は“お、これ大人になれば筋肉もアレも見放題じゃんやっふぅ!”って感じだったんだけど……」
「そんな感じだったんだな」
「やっぱり違和感があるなぁ……貴方は同じ性別で?」
「うん、大体は一緒。運動能力とかも似てるから、割と動きやすいな」
「羨ましい。私は前世の弟に喧嘩の旅に股間を蹴り上げようと狙った事を謝罪するくらいだというのに」
「出来れば弟さんも前世で謝罪してほしかっただろうな。謝罪は大切だからな」
「なにかそれを感じる事でも?」
「謝罪はしても反省はしない。後悔もしない。ちょっとやりすぎたかもしれないけど、まぁ良いよね! って感じの輩が多くてね。纏めるの大変なんだ」
「なにかよく分からないけど……頑張ってくださいお兄さん。いつかは分かってくれる日も来るさ」
「……うん、ありがとう」


「クロお兄ちゃん。私とけっこんしません?」
「急だねスカイちゃん。だけどゴメンね。俺には愛する妻が居るから」
「第二夫人でかまいません。むしろその方が自由も聞きますし、ぼつらくも避けられて騎士にも……!」
「そんな風に夫を利用する女性は騎士らしい?」
「……らしくないですのぉ
「そうだね。よく分かって偉いねぇ」
「……クロお兄ちゃんて、こういう風にてがるに異性の頭をなでるあたり、相手をかんちがいさせそうだですよね」
「子供相手にそれを言われるとは……だけど最近は相手からなんか近寄って来るんだ。このままだと愛する妻に愛を紡いでも“ああ、そうだな”と素っ気なく返されそうなくらいに……!」
「なにかよく分からないけど……頑張ってくださいクロお兄ちゃん。あいする妻も分かってくれますよ。だめなら私がもらってあげます」
「……うん、ありがとう」


「うつくしさをみがくために、まず裸になります」
「待てやシュバルツちゃん。なんでや」
「見られることで、視線をかんじることでうつくしくなるのです。というわけで見てください」
「それは色々とマズい状況だからやめてほしいかな。俺が捕まっちゃう」
「興奮して……手を出す?」
「違う。条例的なものだ。ただでさえ最近俺は裸の女性を侍らせているとか訳分からん噂をされているというのに……!」
「なにかよく分からないけど……頑張ってくださいお兄さん。私のうつくしさを見て元気出すんだ」
「……うん、ありがとう。けど脱がないでお願い」


「私の胸に飛び込んできなさいクロお兄ちゃん!」
「お前もかメアリーさん! 俺を捕まえたいのか!」
「違います、私は疲れているクロお兄ちゃんを救いたい! そして疲れている時によく見た事があるとっておきの言葉があるのです。それは――“大丈夫、おっぱい揉む?”です!」
「やめろや。子供の身体とはいえ触らせる事を恥じろ」
「恥じているに決まっているでしょう、触らせるなんて恥ずかしい事この上ない!」
「なにを言っているんだメアリーさんは!」
「だけど“恥じている表情が相手にとって最高のスパイス”とも聞いています! さぁ、胸に飛び込んで救わせなさい! そして感謝の言葉を!」
「ありがとう、そして説教だこの救い魔が!」







 途中まではなんか逆に子供達に励まされ、最後は将来最近俺の周囲に現れる痴女のようにならないように説教をしておいた。……意味がない事は分かっているのだが、やっておかないと今度彼女らに会う時困る気がした。

「というか、全員寝たよな。……なんで脱出できないんだ?」

 ともかく、俺は全員をどうにか寝かしつけた。しかし夢から脱出は出来ない。
 ……もしかして、俺ゴルドさんに騙されたりしたのだろうか。実は時間経過すると逆に脱出できなくなる仕組みで、一生このままこの空間暮らしという事は無いよな?

「まだ全員寝てないというだけだよ。後一名いる」
「うおっ! 急に現れないでくださいよ、ゴルドさん。というか後一名って……」

 急に現れたロリゴルドさんはおいておくとして、後一名というと……クリームヒルトだろうか。それなら色んな意味で骨が折れそうだが、昔懐かしい思いを抱きながら子供のクリームヒルトを面倒見られるかもしれない。

「違うよ。後一名は男だ」
「男……ローシェンナとか、バーガンティー殿下とか……?」
「違うよ。彼だ、彼。ほらあそこにいる」
「あそこ?」

 そう言われつつ俺はロリゴルドさんが指示した方を見る。
 そこに居たのは、赤い髪を靡かせるとある少年で――

「やぁ俺の愛するクロ・ハートフィールド! 面倒を見る姿は素晴らしかったぞ! さぁ、この少年の身体を持つ俺こと、カーマインの面倒を兄のように見てくれクロ・ハートフィールド! そして苦悶の表情を見せてくれ!」
「おらぁ!!」

 そして俺は少年を思い切り殴った。
 全員眠れば良いんだから、こうやっても良いはずなんだよ。ただしなかっただけで。
 そしてなんか元の記憶を有したままのコイツ相手なら殴るのに躊躇いが必要無いという事だ!

「ぐっ、良いパンチだ……ああ、少年の身体に響いて――気が遠く――だが俺は愛する男に殴られ幸福――だ――」

 ちくしょう、目的は達成できたが、コイツが幸せそうに気絶する様を見ていると腹が立つな!







「――はっ!?」
「どうした、クロ殿? 昨日のお見合いの疲れがたまって悪夢でも見たのか?」
「ある意味ではそうですね……今何時です?」
「朝の……三時だな」
「そうですか。……もう一度寝ます。すみません、起こしてしまったようで」
「構わないさ。次は良い夢を見れると良いな」
「そうですね。そして今日のお見合い二日目も頑張りましょう。おやすみなさい、ヴァイオレットさん」
「おやすみ」
「……服は着ていてくださいね」
「……なんの心配をしているんだ?」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品