追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
黒のとある仕事_1
「クロ殿、これは今日のお昼ご飯の山菜を使ったサンドイッチだ」
「おお、ありがとうございます。美味しく味合わせて頂きます。これでお昼からも頑張れそうですよ」
「ちなみに四種類あるのだが……私とアプリコット以外の物を一番美味しかったと言うと、全裸の女性がクロ殿に迫るから気を付けてくれ」
「なんでお昼ご飯でそんな危機的状況を味合わなければならないんです」
という、お昼前に嬉しい情報と共に自身の謎の危機が愛する妻から提供された。
詳細を聞くと、作ったメンバーの内の二人がシュバルツさんとマゼンタさんらしく、美味しいというと勝ち誇ったかのように俺にポージングを決めると宣言したそうだ。うん、詳細を聞いた所でよく分からん。
まぁアプリコットとマゼンタさんは料理が上手いので、その両名のどちらかとヴァイオレットさんの誰を選ぶかによってこれからの俺の未来が決まるという事は分かった。
「というか、右から二つ目がヴァイオレットさんのやつですよね?」
「!? ……見ただけで分かるのか?」
「ええ。それだけは確実だと分かります」
とはいえ、ヴァイオレットさんが作った料理はよく分かる。
なんというか癖と言うか、整え方と言うか……今回は作り方を変えたのか少々いつもと違う感じはしたが、これはヴァイオレットさんだというのは分かる。
だがこうなると一番美味しいのはヴァイオレットさんと言わざるを得なくなる。忖度とかそういうのではなく、食べる際の俺の感情が変わっていくからな……
「ともかく、ありがとうございます。俺は出かけますので、出先で食べさせて頂きますね。感想はその後にでも――どうされました?」
「い、いや、なんでもない。留守は任せてくれ、クロ殿」
「? はい、お願いします」
ヴァイオレットさんの反応は気になったが、俺は少々出る用事がある味の感想はそれが終わったら言うとしよう。
お見合いで外に出ているスカイさん達の様子を確認するのと、温泉とサウナの施設確認と、宿屋への資料を確認と、夜の仕込み確認と――あ、それと。
「実は今、シアンがトウメイさんと会っているんですが」
「そういえば私と入れ違いに出るとが言っていたな。……例の神父様の件でも話しているのだろうか」
「その可能性もありますが、アンバーさんからの情報によりますと、シアンが土出座をして踏んでくださいという精神状態になっているらしく……なにかあったらお願いします」
「……よく分からないが、分かった」
シアンはよく分からない状態に陥ったままトウメイさんと会っているので、悪いがヴァイオレットさんに任せるとしよう。俺が報告を受けて確認に行った時は妙な感じはしなかったんだが、それでも不安だからな……
しかし、全裸マント分析トウメイさんに、相変わらず奔放なマゼンタさんに、決闘を挑みスカイさんに即告白したスマルト君といい……
「なんだか最近シキに来たメンバーに振り回されている気がしますね」
「ある意味シキらしいと言えばシキらしいのだがな」
◆
「なんか最近シキに全裸の女が現れたと聞くんだが、どう思うカナリア?」
「ああ、私もクロから聞いたね。それがどうしたのエメラルドちゃん」
「全裸で健康体を保持する毒とは無縁の女……血液とか採取できると思うか?」
「やめた方が良いと思うよ。というか採取してどうするの」
「無論、毒との反応を見てエリクサーを作る足がかりをだな」
「場合によっては毒を育てる足がかりにしようと思ってない?」
「思ってる!」
「思ってるんだね、流石エメラルドちゃん!」
「ニャー、ニャニャニャ、ニャー?」
「ククク……大丈夫だよウツブシ。最近不思議な所から聖なる力を感じて亜空間の蟲が騒いでいるが、大丈夫さ」
「ニャー?」
「え。今は見逃されているだけで、彼女は亜空間ごと討伐・消滅させる力を持った存在だって? ……ちょっと影に潜って蟲と会話してくる」
「Gob、gob……?」
「ハッハー、大丈夫だぜアップルグリーン。あの冒険者は俺の口撃で反省はした。そんな事よりも愛する妻を大事にしてやるんだな!」
「Gob……」
「そうだ、いくら気丈に振舞っても彼女だけの身体じゃなくなっている。そういう時こそ愛する夫の助けが必要なんだぜ!」
「Gob! ……Gobb?」
「ん? ああ、冒険者は今俺の口撃で骨抜きになった。今は身を清めたいと宿屋に戻っているぜ! 予約もとったし、今夜は楽しみだぜ!」
「G……あい、かわらず、すごいね、カーキー……」
「愛する女性のために頑張るお前の方が凄いんだ。己を誇るんだぜハッハー!」
「若い子達がお見合いで結ばれようとしているようだけど、どうします我が愛する夫」
「決まっているだろう我が愛する妻。家に戻って愛し合おうじゃないか」
「ふふふ、そうですね。その前に一度貴方を殺したいのですが良いですか?」
「ははは、良いぞ愛する妻。じゃあ互いに心臓に一刺しするか死ねぇい!」
「その程度で刺せると思うな死ねぇい!」
まぁ、だからといっていつものメンバーに振り回されないかとそんな事は無い。
実家のような安心感というのをコイツらに感じたら良くないとは思うのだが、コイツらに振り回されているお陰で新しいメンバーへの対処も比較的どうにか出来ているので、ある意味鍛えられて良かったと言えなくもない。
――……いや、この思考は危うくないだろうか。
……気のせいだと思っておこう。
「ベージュさん。そしてベージュさん。ここで愛し合おうすんな」
「ひっ、クロ!?」
「ごめんなさい、帰って愛し合いますので!」
しかしとりあえず、いつも通りのメンバーの中でコイツらだけは止めておこう。他のやつらの変態性は良いが、コイツらは教育に悪いからな!
――……あれ、この思考も良くない気がする。
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