追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

紺、周囲の様子に惑う_3(:紺)


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「詳細は知らん。が、怪我の気配を追ってクロの屋敷に行ったら、そのような話を聞いたと言うだけだ」

 怪我の気配ってなんだろう。気になるけれど、聞いた所で理解不能な回答が返って来るだけな気がする。
 ともかく、そのような話を聞いたというのは前者をクロから、後者をレイ君から聞いたようである。なんでも全裸の女というのは最近来てクロの屋敷に泊っている女性らしい。服を着れないのは痴女と言う訳では無くそういう性質とのことだ。

「ああ、トウメイって子の事か……」
「知ってるのか?」
「一応はね。アイ君は聞いてないの?」
「なんか性質とかは聞いたが、怪我をしていないので興味は無かった」

 アイ君の相変わらずさはともかくとして、その女性の話はクロから聞いている。
 服を着ようとすると何故か弾け飛ぶとか、王城の地下空間の扉の中から出てきた事とか。今はお見合いの件があるからまだ出会えてないけど、後でキチンと出会って彼女の状態を調べる事にはなっている。
 それは別に良いんだけど……なんで神父様が土下座を……?

「アイツはお前の無駄に露出した脚が好きだからな。足が綺麗で惑わされたのだろうよ」
「無駄って言うな、可愛いって言って。でも惑わされたとしたら……」

 とても困る。私に頼んでいない事を神父様が頼んだという事は、抑えきれずに頼むほど魅力的であったという事だ。あの神父様がそんな事を頼むほど魅力的となると、神父様の妻(約束された未来)である私の身が危うい。神父様の妻(予定だった)になってしまう……!

「……というかお前、頼まれたら踏むのか?」
「ス、スノー君が望むのなら頑張る……!」

 愛しの相手を踏む事など有り得ない事であるが、スノー君が望むのなら頑張って踏んで……踏んで……無茶だ、踏めない。
 それでもどうしてもと言うなら彼のために踏むかもしれないが、あのお優しきスノー君を踏んだら自己嫌悪に至るだろう。頑張っても後悔で押し潰されそうだ。
 でもどうしようか。アイ君に言ったように彼が欲求が抑えきれない程に望むのなら、私のそれに応じられるように頑張るべきだ。そうしなければトウメイというまだ見ぬ女性に負けてしまう……!

「踏む……踏む……くっ、お優しき神父様にそのような事を望ませるなど、一体どんな女性だと言うの……ハッ!? まぁかやっぱり裸体!? シューちゃんのように己が美しさを誇示して裸になれと言うの!?」
「落ち着けシスター。お前はプロポーズを成功させたと自慢していただろう。であれば愛されている妻として、無理をせずにドンと構えてれば良いだろうが」
「告白や結婚はゴールじゃないから……!」

 告白して結婚して、夫婦になれば永遠にハッピーエンドなんて事はあり得ない。もしそうなら私は捨てられてなんていないだろうし、神父様だって養子に出ていない。
 相応の努力をし、かつ幸運に恵まれて初めて互いに好きで居続けさせる事が出来る。幸福を感受出来る。好きな相手を喜ばせるために行動する事も重要なのだと私は思うのだから。

「……そうか。だが、らしくない事をするのは逆効果だとも分かるだろう。お前が惚れた男はそういう男だろう」
「う。……まぁそうだけど」

 ……まぁ確かに、ドンと構えて相手を信じるのも重要なのは分かる。愛があるのかと疑って、今に満足せずに試してばかりいては愛想が付かされる可能性だってある。事実、昨日の“男性であるから仕様がない”と言った発言も、相手に理解を示している発言であると同時に、場合によっては“本当は分からないのに分かったような気になるな”的な風に取られて嫌われる可能性だって大いにあるのだから。

「怪我にも種類によって治療の仕方が違うように、恋愛にも様々な方法がある。お前達の場合は無理をする事よりも、自分らしくする相手を見た方が良いと思うタイプだろうが」
「……誰とも付き合った事ないくせに偉そう」
「だからこそ見えるものがあるという事だ。童貞を侮るな」
「いや侮ってはいないけど……ま、ありがとう。お陰で冷静になった」

 そもそも冷静になれなくなった理由はアイ君の発言が起因しているのだけど、今落ち着けたのもアイ君のお陰ではある。
 それに当たり前で忘れかけた事を思い出させてくれた。自分らしくする姿を好きになった、という事。確かに私は神父様が“自分らしくある”という事が大好きだ。もし神父様も同じように思ってくれているのなら、私も自分らしくあるべきだろう。
 つまり今の私がするべき事は。

「とりあえずトウメイという女性に会いに行って、宣戦布告に行くとしよう」
「俺の話を聞いていたのか」

 もちろん聞いていたとも。
 自分らしくあるためには、私が好きな神父様がなんであれ土下座をしては踏んで欲しいという発言をしたんだ。その事実確認をまずレイ君などにした後、事実であればトウメイという女性を調べて場合によっては宣戦布告をする。私が私らしくあるために、まずは行動をして神父様を勝ち取ってみせる!
 なにせ私は神父様が大好きだ。その大好きな神父様が今までにない行動をしたと言うのならば、知りたいと思うのが私らしいからである!

「あとマーちゃんと一緒にクロを誘惑しようとしたならば、神父様やイオちゃんが心配だし。ついでにクロも」
「ついでなんだな」
「うん。と言う訳私はクロの屋敷に行って来る! そしてトウメイとか言う私の神父様を取ろうとする女を倒してくる!」
「倒すな倒すな」

 ふふふ、どんな女性かは知らないが、神父様を誘惑するのなら容赦はしない。絶対に倒して私の神父様への愛を思い知らせてやる……!
 そして私の勘違いだったっら誠心誠意謝った後、許されれば神父様を誘惑したであろう裸体の維持の仕方を教わってやる……! ふふふ、会うのが楽しみだ……!

「クリア神よ、今から会う女性に勝てるように、見守っていてくださいね!」
「クリア神に祈るな。……まぁ俺も祈っておく。アイツが変な女……トウメイだったか? そいつにかどわかされていないようにな」

 おお、信心深いアイ君が祈るのならクリア神も救ったり手助けたりはしないだろうが、見守ってはくれるだろう。
 ではいざ行こう。クリア神に見守られつつ、トウメイという敵(仮)の元へ!

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