追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

意気込みはしたけれど(:空)


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 元々、幸せな結婚生活を出来るとは思っていない。

 父と母は無理な婚姻は望まない性格とは言えども、どうしても貴族であるが故に政治的な結婚をしなければならない、という事もある。
 だがそれよりも、送る事が出来ないと思う理由の一番は、私の夢と結婚して家庭的な生活を送る、という事は両立出来ないという事にある。
 私の夢、護衛騎士として生涯を通し殿下を守り抜く事。
 それは幼い頃、裕福でないが故に娯楽の本が少なかった時に読んだ、子供向けの騎士の物語の本。そして、私の住んでいた所で王妃が聖鎧を身に纏いながら先頭に立ち、モンスターの群れを騎士団と共に薙ぎ払ったのを見て、私は騎士に憧れた。
 救って頂いたこの命を王族のために使い、王族の護衛騎士として生涯を尽くそう、と。
 そんな夢を叶えるためには、結婚したとしても家に居る事は少なくなるだろうし、子供を産んでも成長や面倒を間近で見る機会も減る。
 例え理解のある夫や子供に恵まれたとしても、夢と家庭の両立は困難であり、どちらかを犠牲にするしかない。そうしなければ私の性格や能力上、必ず何処かでどちらかが破綻してしまう。私はそこまで器用ではないのだから。

――それに、私は貴族の妻として務めを果たせるかというと……正直悩みますし。

 性格は面白みがなく。表情も乏しい。
 書類仕事は苦手ではないが身体を動かす方が好きであり。
 貴族の政治的手腕はお父さん譲りで下手。
 外見は……殿下達の護衛騎士として恥じぬように気を使ってはいるが、間違いなく可愛げが無い。あるのは今はドレスで隠せている、腹筋が割れる程の筋肉である。
 クリームヒルトのように可愛らしくてフワフワとした外見でも無い。
 メアリーのように美しさと可愛らしさを両立した外見でも無い。
 フォーン会長のように儚さと可憐さを兼ね備えた外見でも無い。
 ヴァイオレットのように凛とした美しさを持ち合わせても居ない。
 フューシャ殿下のような庇護欲を煽る守りたくなるな可憐さも無い。

――……私には男性が女性に求める様な、世間一般で言う女性的な可愛さが無いです。

 というか生徒会に居ると周囲の女性陣の可愛さにわりと居辛かったりするんですよね。男性陣もそうですが、なんですかあの生徒会室の女性陣の顔の良さ。学園長先生、顔で生徒会メンバー選んでませんかね。そして私は引き立て役として選んだりしていて。
 ……ともかく、貴族の妻や母として向いていないのならば、性格上向いている、騎士としての夢を追った方が良いのではないかと思っている訳である。

――だけど、夢よりは育てて貰った家族のために。

 貴族としての政治が下手で、貴族としては裕福では無かったけれど、確実に愛を感じる程には大切に育ててくれたお父さんとお母さん。
 両親のために夢は捨ててでも、シニストラ家の存続を目指す。私の身一つでそれが叶うのなら、喜んで私の身を捧げるとしよう。
 例え私は貴族の妻として相応しく無くとも。
 女性として求められるような事に優れているとは言えなくとも。
 今回のお見合いを成功させて見せる。……いざとなれば、責任を取らせる形で身を捧ぐのも良い。いつかはクロお兄ちゃんに断られたが、あの時の反省を活かし、もっと慎重にかつ毒のように、繋がりを持たせて見せる。

――そのはずだったんですが。

 ……ええ、そのはずでしたとも。本当です。
 お腹を大きくして幸せそうにしていた、尊敬するホリゾンブルー先輩や、何故かシキに居られたマゼンタ様にアドバイスも頂き、付け焼刃とはいえ誘惑を覚えたんです。
 過去に会った事があるとは言え、実質初めて会うスマルト君を見た時に、こんな小さな子を誘惑するなど良いのか、私の勝手にこんな子を巻き込んで良いのかと悩みはしましたが、家族のためにやってやると思ったんです。

――いきなり告白……?

 しかしスマルト君はいきなり私に告白して来ました。
 なんですか、私を揶揄っているんですか。私は週二で告白されるという訳の分からない日常を送っているメアリーじゃないんです。ほぼ初対面の相手に告白される外見ではないんです。いえ、お父さんとお母さんに貰った大切な外見ではありますが……それでも有り得ません。
 なにか裏があるのでしょう。お見合いというのを、相手と婚姻を果たす場だと思い告白するモノだと思ったのか、御爺様がなにか裏で手を引いたのか。そうでなければあんな小さな子が告白などするはずが有りません。ほぼ初対面の私を好きで告白した、という事はないのですから。

「……ふぅ」

 そして謎の告白をされた私は、ハートフィールド家の庭を独りで散歩していました。
 以前の領主が金に任せて無理に建て、それを引き継いだので庭も立派なクロお兄ちゃん……クロの屋敷。その庭を、まだスマルト君を落ち着かせるためには時間がかかるだろうから、私も落ち着くために庭を散歩して来てはどうかとヴァイオレットが提案したため、私は外にいる訳ですが……

――やっぱり、ドレスは合わないですね。

 殿下の護衛の立場上、ドレスを着ての護衛も行うのでドレス自体は何度も来た事はあるのだが、やはり私には合わない。こういうのは他の生徒会女性陣や、ヴァイオレットのような女性が着るからこそ似合う代物だろう。
 ……それに、普通の令嬢であればドレスを着る事になにかしらの喜びの感情が湧くかもしれないが、私に湧く感情は「動きにくい」の時点でなにか違う気がする。それに今は護衛時のように武器も身に着けていないので、心許ない。剣か手甲か暗器が欲しい……!

「……ふ、こんな事を考える時点で、やっぱり私は……」

 クロを好きで、諦めきれなかった時であれば、クロに対して見せたい感情も沸いたかもしれないが、今の私は着飾った所で見せたい相手は居ない。そして自分のためにと着る感情は薄い。
 皮肉な事に、初恋を吹っ切れた事により、年頃の乙女らしき感情がさらに薄くなったのである。

「……こんな事ではスマルト君に……」

 そしてこんな女が無理に迫り、結ばされるとなるとスマルト君が可哀想だ。
 あのような小さな子であれば今後成長するにつれて好きな子が出来るだろうし、成長したらアッシュのように背が高くなり、多くの女性を選べる立場になるような外見になるだろう。

――……あんな小さな子に、お見合いは早かったんです。

 ……やはりこのお見合いは――

「私がどうかしましたか、スカイさん」
「……!?」

 そして私が否定的な感情に苛まれていると、ふと声をかけられた。
 気配を感じずに声をかけられる距離まで接近されていたとなると、大分油断していたかもしれない。しかも相手は先程声を聴いたスマルト君であるし、独り言も聞かれたようだ。
 これはマズいと思い、声がした方、私よりも上の方を見てみる。

「突然お声がけしてすみません。ですが私の名が聞こえたもので」

 見上げた先に居たのはスマルト君。
 身長が私よりも二十近く低い、彼を見上げる形で私が見ている理由は……

「……あの、何故木の上に居るんですか?」

 そう、スマルト君が何故か庭の木の、太い枝の上に座っていたのである。
 何故そこに居るのだろう。迷ってしまって辿り着く所ではないと思うのだが。

「これはですね。これは……ええと……」
「あの、差し出がましいかもしれませんが、降りられなくなったのなら降ろすのを手伝いましょうか?」
「そ、そんな事は無いよ! 決して本に出て来る王子のように、木の上から話しかけて、シュタッと着地を決めようとしたけど、思ったよりも高くて降りられないなんて事は無いから!」
「そ、そうですか」

 なるほど、つまりは本のように格好をつけようとしたら、怖くなった感じか。
 ……それは分かったが、何故格好つけようとしたのだろうか。男の子だからだろうか。

「ええと、では私は着地を待てばいいんでしょうか。結構高いと思いますが、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫! 大丈夫、大丈夫……両足と片手で着地する、スーパーヒーロー着地を今見せますから……!」
「無理しないでくださいね?」

 ……とりあえず、危険が無いように受け止める準備をしよう。
 しかしヒーローに憧れるなど、やっぱり男のなんですね、彼。可愛いです。





備考1 “私の住んでいた所で王妃が聖鎧を身に纏い、モンスターの群れを騎士団と共に薙ぎ払った”
コーラルが夫に二度の浮気をされ、浮気相手の子であるスカーレットが何処か浮気相手に似てき始めた事などで苛立ちが募り、適当な討伐部隊に無理矢理乗り込んだのをスカイが「王妃自ら戦闘をする! 格好良い!」と思った模様。

備考2 スカイの外見
スカイは顔が整っており、充分に美人と言えるのだが、トップクラスに顔の良い殿下達や生徒会の面々が幼少期から今まで近くに居たので、比べてしまいあまり自信が無い模様。

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