追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

   な名前(:淡黄)


View.クリームヒルト


「コホン。ともかく、私をあの扉から出してくれて感謝するぞ、若人達よ。そう猛らずとも私は強く無いから急いで抑えずとも良い」

 私とメアリーちゃんで変態全裸痴女を挟み撃ちにしつつ警戒していると、変態全裸痴女は今更厳かな雰囲気の言葉遣いで私達に落ち着くように言ってくる。
 確かに言う通りに強そうな気配は無いのだが……先程の魔法陣の事もあり、警戒はしておいて損はないだろう。それに……

「あの、女しかいないとはいえ、隠したらどうですか? 服をお貸ししましょうか?」
「気持ちはありがたいが、警戒を解くまではこうさせて貰う。君達に対してのなにも持たず、隠さない無抵抗という敬意だと思って欲しい」
「は、はぁ、そうですか」

 それに、この相手は全裸で隠す所を一切隠さず、堂々としている。ある意味での警戒を緩める事が出来ないのである。

「まぁ、私は美しさを称えられた存在だ。むしろこうして私の肉体を見る事が出来る幸運に感謝すると良いぞ!」

 そしてなんだか面倒くさい。シュバルツさんも美しさを誇示してよく脱いだりしていたけど、なんかそれとは違って面倒だ。
 確かに美しいかどうかと言われれば、美しいと言わざるを得ない。
 背が高く、赤みが帯びた金色に近いという色合いだけは私に似た綺麗な髪に、同じく似た特徴を持つ透明と言える透き通った同じく綺麗な瞳。
 顔、肌、目、髪、体型。どれをとっても一度見ればこの美しさから忘れる事の無いだろう、という女性ではある。

――あれ、でも何処かで……?

 一度見れば忘れられない美しい女性だけど、何処かで見た事がある気がする。
 見た事はあるのだけど印象は違うと言うか、見ても話した事は無いと言うか、話しかける事自体出来ないと言うか……ええと、何処だっけ……?

「それで、貴女の若返りの件ですが」

 と、何処かで見た件や魔法陣の件も気になるが、今はその件が重要だ。
 変態全裸痴女……彼女が他者を若返らせる事ができ、扉から出てきた事を踏まえると、件の若返りと彼女は無関係ではないだろう。そこの所を詰めなくては。

「ふむ、その件だが……君達は妙な内面もある気がするが、まだ若いだろう? 若さに固執するのは早くないだろうか?」
「私達の事ではありません。此処には居ない皆さんの話です」
「皆?」

 彼女は疑問顔でメアリーちゃんの質問に言葉を返す。しらばっくれているようではなく、なんの話かよく分かっていないようだ。
 私達は彼女の様子に不信感を抱きつつも、ここに来た経緯を説明した。

「なるほど、若返り状態が起きた訳か……私が表に出てきた事を踏まえると、封印が弱まって漏れ出た魔力が変質して、影響を受けた感じかな……?」

 メアリーちゃんの説明を聞いた彼女は、顎に手を当てながら若返りの件についての予想を立てる。どうやら彼女自身に心当たりはあれど、悪意を持ってあの事態を引き起こした訳では無いようだ。

「……状況が予想に過ぎないとなると、貴女では治せないんですか?」
「ん? ああ、治せるよ」
「断言できるんですね」
「まぁ、久々の外で力は弱まっているけど、弱まってもその程度は造作もないさ。現にさっき魔法陣を消したり、君達がつけた魔法封印の魔法陣も消しただろう?」

 そう言いつつ、メアリーちゃんが引っ張り上げる際に彼女の手につけていた魔法陣(専門家が準備をして施すレベル)が合った場所を示す。しかしそこにはあったはずの魔法陣は無く、綺麗な手があるだけだ。
 ……先程の魔法陣を消した事と言い、なにかを打ち消す力に優れた女性なのだろうか。そしてハクのように眠っている災害を封印うちけするために過去に扉の中に入れられた、という感じかもしれない。その場合あの扉の中が不安になる。
 “封印のためにお前が犠牲になれ”と言うつもりはないが、不安を無視するのも良くないからね……

「そちらの小柄な女の子。扉の事が気になるのは分かるけど、心配は御無用だ」
「そうなの?」
「私がこうして出て来られるのは、“封印の力が弱まった”というよりは“封印する必要が無いくらい弱まった”という感じだからな」

 ナチュラルに私の心を読んでくるのはともかくとして、彼女の発言を信じるとこうだろうか。
 封印の力が弱まって封印対象が抑えきれなくなり、彼女が出て来た、のではなく。
 封印の対象が弱くなり、彼女が必要無いほどになったから出て来た、という事か。
 ……信じすぎも良くはないけど、今は彼女の言葉を信じるとしよう。

「分かりました。それなら今すぐにでも――」
「メアリーちゃん。その前に」
「あ。……ええ、確認はしておきましょうか。治すにしてもそれからです」

 警戒はしつつも、一応私とメアリーちゃんで扉が大丈夫かの確認はする。
 私自身なにが出来る訳でも無いけれどダブルチェックは基本である。

「ふーん、君達は若いけど封印については詳しいのだな。先程の魔法陣大量展開といい、優れた魔術師のようだ。それともこれが普通なのか?」
「あはは、私はともかくメアリーちゃん……彼女は凄いからね。封印も魔法陣も、彼女はこの世界でもトップクラスだよ」
「ほう、なるほど」

 メアリーちゃんがいつの間にか閉まっていた扉を確認している最中、私は彼女を見張りつつ会話をする。
 とはいえ見張っている彼女はメアリーちゃんが扉を調べる様子を興味深そうに眺めるだけで、なにかしようとする様子はない。なにかすれば再び扉の中に戻されると思っているのか、あるいは先程言った通り私達に対する強く無いので無抵抗を貫いている、という事なのだろうか。

「大丈夫そうです。では、いきましょうか」

 ……彼女の事も気にはなるけど、メアリーちゃんの事も気になる。 
 先程からどうも焦っているように見えると言うか、早く若返りの件を解決したいと思っていると言うか。
 まるで若返った状態の彼らは、メアリーちゃんにとって不都合しかないから早くどうにかしたい、と思っているように見える。……何故だろうか。

「と、出る前に。とりあえず服を錬金しつくります。外に出るのはそれからですね」

 ああ、そういえばそうだった。
 この出る所が出て、締まる所は締まって、なんか色々と綺麗な彼女は全裸であった。流石にこのまま連れ回す訳にもいかないので、服を着せないと駄目だ。
 錬金の材料は……この地下空間の地面でも使おうかな。後で使った事に対する謝罪はしておこう。

「ああ、すまないが、私は服を着るのは遠慮させて貰おう」
「え、やっぱり痴女なんですか。見られる事に興奮する痴女なんですねそうなんですね納得です」
「納得しないでくれ金髪の少女」
「メアリーです」

 納得しないでもなにも、痴女以外の何物でもない。
 先程までは封印の最中で服が無くなったから着るものが無く、そしてそのままでいる事で無抵抗の意志を示すという状況であったので服を着ないのも分かるが、服を着る事を拒否したら私も彼女に対する感想は痴女という感想になる。

「じゃあ何故着ないんです?」

 メアリーちゃんはもっともな疑問を投げかける。
 彼女が服を着ないなど、一体どんな理由があるのか。出来ればこんな痴女をティー君達の所に連れて行きたくないので、納得できる理由が欲しい。……まぁ、納得できてもティー君が彼女に見惚れられたら困るのではあるのだが。

「……私、服を着るとはじけ飛ぶんだ」
『はい?』

 ……なにを言っているのだろう。そう思い、私達は同時に素っ頓狂な声をあげた。

「わ、私だってね。本当はオシャレしたいんだよ! 可愛い服を着てコーデしたり、ビシッと決まった服で格好良く振舞ったり! けど、私が服を着るとはじけ飛んで全裸になるんだよ!」
「お、落ち着いてください!」
「分かるかい、この気持ち! なんか周囲は“清廉潔白さをその身一つで示している!”とか言われたけど、そんなんじゃないんだよ!! 結局は流されるがまま認めちゃったけどね!」

 認めたのか。それがイケなかったんじゃなかろうか。
 それが無ければ周囲も別に――ん? 清廉潔白さをその身一つで示している? 何処かで聞いた話のような気がするが、何処だっただろう。

「と、ともかく。服を着れないのならどうしましょう。このまま連れて歩く訳にもいきませんし……」
「あはは、私達が変な目で見られそうだからね!」
「ですよね。シキならばともかく、ここは王都ですし」
「シキとやらだと変な目で見られないのか……しかし王都。へぇ、ここ、王都になったんだ」

 彼女は私達の王都という言葉に興味深そうに反応した。
 この場所が王都となったのはもう大分前の話なのだが、彼女はいったいどれだけの間封印の扉の中に居たのだろうか。
 ……あ、そうだ。彼女の名前を聞くのを忘れていた。というか名乗りを邪魔しちゃった気がする。

「私の名前かい? そういえば言ってなかったね。私の名前はな」

 私が彼女の名前を聞くと、彼女も先程中断された事を思い出しつつ、名前を――

「ま、かつては“クリア”と呼ばれていたしがない女だ。当時は少しは有名だったけど、大昔だろうから知らないかもしれないね。気軽に呼び捨てで良いよ」

 その名前を、名乗ったのだった。

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