追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活
つんでれ(:朱)
View.ヴァーミリオン
家族というのは厄介で、親というのは特に厄介だ。
兄弟同様厄介ではあるが嫌いではない、というのは共通しているのだが、どうしてもそう思わずにはいられないのである。
「ヴァーミリオン。成長を見せてくれ――何故警戒態勢になる!」
「つい先日スカーレット姉さんと共に嫌がる私をお風呂に入れたからですよ母上」
「うむ、線はまだ細いが良い身体であった!」
「母上と言えどぶっ飛ばしますよ。なんです、息子の身体に興奮してるんですか。痴女ですか」
「違う、あのまま成長すればレッドの若い頃のようになるだろうという意味だ! 息子が愛する夫に近付き喜ばぬ母がいるものか!」
「はぁ、そういう事にしておきますが……それで、成長を見せるとはなんです? 模擬戦ならば、私も聖槍を持つ母上を相手するのは良い鍛錬に――」
「一緒のベッドで寝て子守唄を歌わせて貰えないか?」
「アンタの中で俺は幾つ扱いなんだ! 流石にせん!」
例えば育ての親とも言える母上ことコーラル王妃。
母上の中では俺の扱いがどうなっているかが純粋に気になってしようがない。距離感がどうとか、世間知らずがどうとかそういう話ではない気がする。
年頃の息子をなんだと思っていると問い質したいが……父上の件があって子供への接し方を分からず親として過ごしたのか、俺が攻めると申し訳なさそうにシュンとなるので困りもする。
……若い頃の父上に似ているから、実は興奮している――という事だけは無い事を願おう。
「ヴァーミリオン、ヴァーミリオン! 今日という今日は一緒にお風呂か、子守唄か絵本を読んで一緒なベッドで寝るという事をやろう!」
「アンタもか母さん! 俺は成人済みの男だ、そんな事はしないし、もっと別の母親らしさを目指せ!」
「じゃあ吸う? 頑張れば出るように出来るよ?」
「なにをだ――脱ぐなこの痴女母!」
「えー、でも父親に出来なくて、母親に出来る最たるものかな、って」
「そういうのは良いから、頼むからやめてくれ……」
「じゃあ目の力を使ってメアリーちゃんとエッチィ事をする夢見せてあげようか? ビバ若さの暴発!」
「絶対にするな。夢であろうと、同意の無い姦淫行為、しかもメアリー相手には絶対しない」
「おお、鉄の意志だね……じゃあ同意のある――」
「せん」
「えー」
例えば生みの親である母さんことマゼンタ・モリアーティ。
彼女はなんというか、もう少し羞恥心とかを持って欲しい。そして油断したら、朝目が覚めて隣で寝ているのはやめて欲しい。心臓に悪い。ちなみにスカーレット姉さんの方でも似たような事をやってるらしいが。
とはいえ、純粋に子供に対して不器用ながらも接そうとしている事は分かるし、共和国での扱いを考えれば、追い詰められる事無く過ごせている、という点に関しては素直に喜ばしいのだが。
……だがクロ子爵の手紙だとシアン嬢のようなスリットシスターになったらしいので、息子としては本当に頭が痛い。
「父上。もしかして父上は直接的な身体の誘惑に弱いのですか? 大きかろうと小さかろうと、押し当てられたら見境なく興奮するのですか?」
「お前にとっては僅かしかないだろう父親としての名誉のために言っておくが、違う」
「正直におっしゃってください。興奮するから身体接触に積極的な母さんと母上に負けたんですよね」
「違う。……俺としても今のお前達に対するあのようなコーラルは初めて見るし、マゼンタに関してもそうだ。アイツらは普段は毅然とするか、優雅であり――」
「そして淫靡なギャップにやられたんですよね」
「……否定はせん。マゼンタの方は目の力だと最近知ったがな」
「だとしても興奮するあまり妹と初めてを外でするのはどうかと思います」
「何故知ってる。……というかアタリ強くないか、ヴァーミリオン。折角の親子模擬戦の後なのだ。もっと爽やかな会話を――」
「……先日の母上とのお風呂の際や、最近よく絡んでくる母さんから父上との馴れ初めと言う名の子として聞きたくない内容まで聞かされる恨み節とでも思って下さい」
「ああ、うん……そうか。……お前は気をつけろよ、ヴァーミリオン。血の繋がっている父のように、弱味を握られ尻に敷かれる事の無いようにな……」
例えば父上ことレッド国王。
元々国王としては尊敬するが恨みもあった父上であるが、以前と比べると会話をしようと心がけているように思える。
そして最近の会話で分かった事なのだが、父上はひどく不器用だという事が分かった。父親や個人として思った事を、国王としての矜持で封殺するから今までのような事になったのだろう。目に見えない形で俺やスカーレット姉さんにも便宜を図り父親として遠回りでも愛を与えていたのだと、知る事が出来たのである。
それはそれとして、国王としては目指すモノの、父親としては反面教師で居させてもらう。
「――という感じだ。交流を計ってくれるのは嬉しく、幸福なのだろうが……厄介思わずにいられない」
「……苦労しているみたいだね」
「我のあの親とは別種の面倒さではあるな……」
「以前と比べて仲が良く話せているようで良かったです!」
そして過去の事を思い出しながらの俺の説明に、フォーン会長だけでなく途中から聞いていたアプリコットは同情の念を示してくれた。グレイの方は妙な感想ではあるが。
今までのを考えると贅沢な悩みという事は俺とて理解している。しかしだからといってありのままを受け入れれば俺の身が持たない。
無碍に出来ないので対応に悩むのだが……ただでさえ以前入った事に関してメアリーに「お母さんと一緒にお風呂に入って楽しそうですね」と無表情で言われて心に来ているんだ。早くどうにかしたいものである。
「それにしてもやはり一緒にお風呂は良いですよね。私め達もそれが家族のきずなを深める一つのキッカケでしたし」
「……グレイ、お前はヴァイオレットやクロ子爵と入ったのか?」
「はい。ちなみに一緒に入るまで母上は私めを女性だと思っていたらしく、ようやく息子として認知してもらえました」
「……そうなのか」
「グレイよ。間違ってはおらぬが、その言い方はやめた方が良いぞ」
「? はい」
ヴァイオレットのやつ、そんな勘違いをしていたのか……確かにアイツはなにかと視野の狭い所はあったが、性別を間違えるなど――いや、その時は精神状態が良くなかったのかもしれない。なにせあの決闘の後だったからな。
「ともかく、親というのは厄介……面倒な事も多い。そういう意味では良き親に出会えてよかったな、グレイ、アプリコット」
「はい!」
「うむ」
俺がそろそろ王城の前であるからと、話を打ち切るために結論のような形で言葉を継げると、告げられた二人は否定する事無く素直に頷いた。
……両者共実の両親に捨てられているとはいえ、こういった反応をされる辺りは親として認めているのだろうな。俺もこのような反応が出来るようになれば良いのだが。
「ところでアプリコット様」
「なんだグレイ」
「本当は嬉しいけど素直になれない、というのを“つんでれ”であるとクリームヒルトちゃんに聞いたのですが、ヴァーミリオン様のような事を言うのでしょうか」
「そうであろうな」
「違う」
「そうだと思うよー」
「会長!?」
なんだかよく分からないが、俺は“つんでれ”などではない。それを認めると俺のなにかが崩れる。
恐らくだが“つんでれ”というのは、もっと別種の者達を言うのだろう。
例えば、王城の門の近くで騒いでいる――
「ええい、だから僕にベタベタするな!」
「照れるな我が息子ことシルバよ! 母である私に甘えるのは、子の特権なのだぞ!」
「母じゃないし例えそうだとしても成人した僕が人前で甘えるか!」
「素直になれ、一緒にお風呂に入った仲だろう!」
「ハクが勝手に乱入してきたんだろうが、変な誤解を生む発言をするな!!」
……いや、あれも違うか。
というか、世の中の母は息子とそんなにもお風呂に入りたがるものなのだろうか。
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