追放された悪役令嬢と転生男爵のスローで不思議な結婚生活

ヒーター

関係性の変化(:朱)


View.ヴァーミリオン


 家族というのは厄介なものだ。

 先に言わせて頂くと、厄介ではあるが嫌ってはいない。むしろ今では好いていると言えるほどだ。
 かつて俺は親兄弟は自身の生まれなども有り、甘い汁を啜ろうとすり寄ってくる権力者、王族の血を目当てとして取り入ろうとする女達と同じで敵として見なしていた。いつかは俺を脅かす存在になる存在である、と。
 例え好意的に接しているように見えても裏ではなにを考えているかは分からず、俺が“ヴァーミリオン・ランドルフ”としてあるためには敵として見なければならないと思っていた。味方と呼べる存在は同じ血である精々スカーレット姉さんくらいである、と。

――そう思うと、この一年で俺も変わったな。

 しかし最近では俺の心情も変わり、心に余裕ができると家族への感情は良い方向へと変移したと言える。
 カーマイン兄さんとは上手くやれてはいないモノの、両親も含め以前と比べると互いが互いに通じ合い、分かり合っている。仲良しこよしが必ずしも良いと言うわけではないのだが、王国……我らランドルフ王族は善い方向へと変わりつつあると言えるだろう。
 ならば何故厄介と言うのか。
 それは単純に仲良くやれている事は嬉しくとも、そう思わずにはいられない事が多くあるからである。

「愚弟ヴァーミリオン!」
「なんですスカーレット姉さん。やけに良い笑顔ですが」
「うん、今日エメラルドから手紙が来たんだけど、見事に素っ気無くて短い文章だったの!」
「おかしいですね、聞いた内容と笑顔が結びつきません」
「この素っ気無さからにじみ出る私への愛……愚弟には分からない!?」
「分かりません」
「そんなんだから最近メアリーに素っ気無い態度を取られてしまうの。乙女心を理解出来なきゃ初恋こじらせて、いつまで経ってもお母さんと一緒にお風呂に入る独身こじらせおじさんになるよ?」
「やかましいぞこの愚姉! ヒトの事を言う前に自分の事どうにかしろ、未成年の同性相手やハクに興奮しては自棄に至る変態愚姉!」
「なんだとこの! 事実は時に相手を傷付けるんだよ!」
「……自覚はあるのか」

 スカーレット姉さんはかつてと比べると本当に明るくなった。
 自身の血を除いても、何処か陰を持つ性格だったのだが、今では女性に素っ気無い態度を取られては「ああ、なんか心がキュンキュン来る……!」と興奮するようになった。
 ……弟として心配ではあるが、良い方向なのだろう。そうに違いない。

「ヴァーミリオン。先日の学園の中間成績の件はとても良い結果と言えるでしょう」
「ありがとうございますローズ姉さん。ですがまだメアリーやクリームヒルトに負けている部分がありますので、負けじと主席を目指す所存です」
「はい、その気持ちで精進なさい。期待していますよ。……ところで愛する弟よ。貴方が婚約破棄をしてからそろそろ一年ですね」
「……はい」
「一年ですね?」
「……はい。精進させて頂きます……!」
「よろしい」

 ローズ姉さんとは以前は業務的な内容の会話だけであったのだが、今では姉弟仲良く……うん、仲良く会話をしている。怖いが。
 相変わらず怒鳴りもしないし、暴力にも訴えないのだが、圧が本当に怖いのである。だが以前よりは会話も弾み、仲良くやれているのである。……本当だ。

「最近ロボさんが冷たい気がするんだ」
「なにかやらかしたんですか? 内なる姿ではなく、外見の格好良さのみ褒めて拗ねられたとか」
「ロボさんとしての外見も、ブロンドさんとしての外見も素晴らしいと褒めている。どちらも女性として魅力的だし、何度も惚れ直している」
「そ、そうですか。……以前の地下での戦いで、ロボ嬢の外装が崩れましたよね? その事で照れている、とかでしょうか?」
「裸が見えた後に、その後の短いデートでオレは素晴らしく美しいものだったと褒め称えたから違うと思うが」
「それですよ。なにやってんですか」
「女性の外見を褒めるのは紳士として当然だろう!」
「彼女が極度の恥ずかしがり屋という事を失念していませんか兄さん。そんな彼女の裸体を褒めるとか嬉しい前に羞恥で悶えると思いますよ」
「はっ!? ……恋は盲目、か。オレとした事が……」
「格好つけている暇が有ったらフォローする方法を考えましょう。……ちなみに直接会いに行くというのはローズ姉さんに怒られますからね」
「うぐ。……よく分かったな。ところでそちらはどうなんだ? 上手くいっているのか?」
「……フォローするにもなにをフォローすれば良いか分からない状況なんです」
「……相談に乗るぞ?」

 ルーシュ兄さんとは互いに恋愛相談するようになった。
 以前であれば俺自身が一方的に「正当な血を引く長兄の癖に、奔放で無責任な」と恨み、業務的な内容の会話のみであったので、一般的な兄弟らしい会話を出来ていると言えるだろう。……ただロボ嬢の姿は少年心をくすぐるのは俺にも分かるのだが、あの姿に女性として惚れるのはなにか違うと思うんだ、兄さん。

「精が出るな、バーガンティー。王族魔法の練習か?」
「ヴァーミリオン兄様。ええ、いずれはクリームヒルトさんに最高の王族魔法を見せるために、精進しております!」
「それは良い事だな。だが以前の戦いのように無理はしないように。良ければコツを教えるが」
「ありがとうございます。ですが私は私の力で好きな相手に最高の魔法を見せたいのです」
「心意気は結構。だが下手にアドバイスを聞かずにまた失敗しても本末転倒だ。特に王族魔法は威力が大きい分反動も大きい。好きな相手を思うのなら、周囲の意見も聞くようにな?」
「う。……そうですね。以前のように失敗して心配をかけてはいけませんね……好きな相手を愛するようになるためにも、まずは自分の身を大切にします!」
「…………そうだな」
「あ、兄様。よければ模擬戦をやりませんか? 王族魔法もですが、私は強くなりたいので!」
「ああ、良いぞ。俺も強くなる必要があるからな」

 バーガンティーとは以前よりも距離が近くなり、学園の先輩後輩ということもあって互いに切磋琢磨しあっている。
 元々裏表の少ない素直性格で、俺にも以前から明るく接してはくれてはいたが、俺の事情により壁を作っていた。
 しかし今はこうして、羨ましいほどに真っ直ぐ好意をぶつける性格に眩しさを感じつつも、仲良くやれている。……バーガンティーほどに好きな相手に真っ直ぐ気持ちを伝えられたら、俺も今のような感じにはなっていないのかもしれないな。

「ヴァーミリオン兄様……最近……大丈夫……?」
「大丈夫とはなにがだ、フューシャ?」
「メアリーさんに……避けられているような……気がして……」
「……その件か。心配されずとも、俺はこの程度で折れる事は無い。必ずこの恋を成就させてみせるから、兄の雄姿を見ていると良い」
「いざとなったら……私が二人を……部屋に呼んで……運を発揮して……服を乱れさせた後……密室で閉じ込めて……ラッキースケベイさせようか……?」
「兄を思ってのその気持ちは嬉しいが、早まるなフューシャ」
「大丈夫……最近……ヴェールさんに……私の魔力が……ラッキースケベイの効果を持つと……仮定付けられたし……利用できるのなら……利用する……ふふ……むしろコントロールするんだよ……!」
「早まるな妹よ」

 フューシャは以前より積極的に会話するようになった。
 フューシャはスカーレット姉さんとは違った意味で、同情の念を意味を含めて接してはいたのだが……最近のフューシャはクリームヒルトなどの助けにより俺とも進んで接するようになった。同時に他兄弟とも接し、恋も応援している。喜ばしい事ではあるのだが、接する際には服の心配をしないといけないのはどうにかしたい。

「俺と話したいのなら、お前から見たクロ・ハートフィールドの感想を言うとよく話せるぞ?」
「それを言ったら言ったで、表では興味があるように振舞いつつ、内心では“お前にはその程度にしか映らないのだな”程度で聞き流すでしょう?」
「よく分かったな。以前はお前も扱いやすい弟という認識しかなかったが……やはりクロ・ハートフィールドの影響で成長したんだな!」
「メアリーの影響です」
「最近避けられているのにか?」
「なんで知ってんだアンタ。……それはそうとカーマイン兄さん」
「なんだ? クロ・ハートフィールドの魅力を語って欲しいか?」
「なんかボロボロじゃありません? 軟禁とはいえボロボロになる要素はないはずですが、逃走でも?」
「……先程オールがやって来て、殴られた。そして甘やかされた後、蹴られた。……癇癪を起している訳でも無く、意識をもってやっているアイツが読めん」
「自業自得ですね」

 カーマイン兄さんは……うん、あのヒトは外に出ていないはずなのに、なんだか色んな事を知りすぎて怖いし、心情こうふんを表に出してもよく分からない。
 ちなみにオール義姉さんの方は王城での母上の一件の際に色々やって、最近まで自粛中だったのだが、カーマイン兄さんと仲良く(?)やっているようで良かったと思う。

「……はぁ」

 一部は妙な感じになってはいるが、我が王族は恋に浮かれているという状況の真っ只中である。
 他にも父上と母上と母さんの件もあるが、一旦それは置いておくとして。今の俺は生徒会室で独り、溜息を吐いていた。
 王族である以上は外で溜息を吐くのは良くは無いのだが、それをせざるを得ない程の心情を今の俺は抱いている。
 理由は他の兄弟達は相思相愛に近い中、俺の恋の相手である最近メアリーに避けられているというのもある。だが先程の出来事が俺の溜息の一番の原因だ。

――メアリー、インナーを見られて恥ずかしそうだったな……

 先程いつも以上にメアリーに避けられている事に落ち込み、追い駆けるかどうか迷っていると突然戻って来たメアリーに詰め寄られ、メアリーの制服の上の内部からインナー……ブラが落ちたのである。
 恐らく壊れたかなにかだろうが、薄桃色のそれを俺に見られた後に自身の胸元を抑えたメアリーは、顔を真っ赤にして震えていたのである。
 その後は俺は黙って出て行き、中で錬金魔法を使って新しいインナーを作ったメアリーが出て来るまで待ち、その後メアリーは小さく「忘れてください……」と言ってから去っていった。
 流石に今度は追い駆ける気にはならず、今こうして生徒会室の自身の机の場所で溜息を吐いているのである。

――軽蔑されていないだろうか。

 俺は自制を働かせたつもりだが、気付かぬ内に胸に視線をやるといった野獣のような視線を向けたかもしれない。それを感じたメアリーに軽蔑されていなければ良いのだが……

――しかしメアリーが珍しいほどに顔が赤かったな……

 女性として身に着けている肌着の類を見られるのが恥ずかしいのは分かるのだが、メアリーにしては珍しいほどに恥ずかしそうにしていたように思う。
 今までであれば頬を染めつつも申し訳なさそうに、華麗に対応するにも関わらず、メアリーはどうしていいか分からない程に顔を赤くしつつ恥ずかしそうにして動けずにいた。可愛らしいとは思うのだが、珍しい姿でもあった。

「やはり、俺はなにかしたのだろうか……」

 アッシュにも以前相談したように、俺がなにかしたからあのようにいつもとは違う反応をされているのだとは思う。
 そしてなにかと言えば王城や母さんの夢魔法の件が考えられるが……ここまでされる事に覚えが無い。
 ……うじうじと同じ事ばかりを考えるのは良くないのは分かるのだが、こうも続くと流石に落ち込むし、さらに嫌われるだろう事が今ほど起きたのだ。溜息も吐きたくなる。

「兄弟の事を言える立場ではないな……」
「どうされたのです?」

 俺が独り悩んでいると、声をかけられた。
 声をかけて来たのは――

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